妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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来訪者編㉑

 

 

そして授業に戻り、生徒会の仕事も終えて…ほのかちゃんのカラ元気が、ですね。

ごめんね屋上置いてって。クッキーで許してくれるとは思わないけれど、バレンタインまで待ってほしい。きっといいことあるから。

…たとえその先に待つ結末が、彼女にとって最良のモノでなかったとしても、女の子にとって初恋の相手からのプレゼントは永遠の宝物だから。

ほのかちゃんと三人で帰って、家までのコミューターの中。

珍しくお兄様と向い合せで座った。

隣に座らなかったことに、お兄様はちらっと視線を向けただけで何も言わなかった。私はそんなお兄様に微笑んで目を瞑る。

美月ちゃんはきっと今晩またも魘されるのだろう。

それだけパラサイトの存在は生理的に受け付けないものだったに違いない。

直接触れられることは無かったとしても想像だけでも気持ちが悪い。

エロ漫画は紙面や画面越しだから楽しめる。自分に降りかからないから。

だが、体験して思うのは、直面するだけでもアレは恐怖だ。そして激しい嫌悪感。体を掻きむしりたくなる。

…そんなことをして深雪ちゃんの玉体に傷なんてつけるわけにはいかない、というオタク思考が働いているからまだ心が助かっているけれど、結構ギリギリだったりする。

うーん、今後の対策どうしよう?これからパラサイトと関わらずに、というのはストーリー上難しい。

なら原作の深雪ちゃん並みにあまり感じないよう感応力を引き絞るか。

けれどそれでは鍛えた意味が無くなってしまう。

今回は察知することができたから対応も早くできていた。受信アンテナはそのままに感覚だけ鈍くすることはできないだろうか。

例えばリーナちゃんの時に使ったなんちゃって無下限的バリアを張れば分子ですら減速させられる。

そして精神干渉も混ぜればその力は精神体である彼らにも通じるはずだ。

ただし、この方法はかなりの集中力を必要とするし、長い時間全身隈なく張りっぱなしなんてできない。

それにバリアを張った時に感覚がまったくなくなっては意味がない。

何か当たってるな、こんな動きをしているから次はこういう行動に出るかも、とまでわかれば百点なのだけど…。

もし、ピクシーに憑いたら実験できないかな。アレをもう一度体験すると思うと気が引けるけど、有益な情報をむざむざ自分から捨てるというのももったいない。

…ああ悲しきかな、前世からの貧乏性。裕福な家庭に生まれてもなお骨身に染みついてしまっていた。

思わず零れる溜息に、お兄様がこちらに顔を向けた。

 

「すみません、ため息など」

「いや、深雪も今日は疲れただろう」

「それならお兄様だってお疲れでしょう?今日も守ってくださってありがとうございました」

 

お兄様には何度救われたか知れない。

微笑んで感謝を述べても、お兄様の表情は晴れない。うーん、ここまでお兄様が引きずるとは。

でも、そのことが嬉しかった。すぐに切り替えられるお兄様もすごいけれど、こうして藻掻き、苦しんでいる姿もとても人間味があっていい。

 

「お礼を言われて、お兄様は苦しいですか?」

 

あえて言葉にして言えば、お兄様はまたも「深雪には敵わないな」と零す。

 

「苦しめたのでしたら申し訳ございません。ですが、お兄様には不可な採点であっても、私には花丸満点のお仕事ぶりでした」

「…それは、随分甘すぎる採点だな」

「お兄様は私を守ってくださいました。エリカも守ってくださいましたし、リーナの心も守ってくださいました。彼女が折れないで自身の任務に戻れたのはお兄様の発破掛けのお陰です。そして美月が無事でいられたのも、お兄様が苦渋の決断をしてでも美月を優先してくださったから。――だから、百点満点。花丸も付くというものです」

 

お兄様には納得のいっていない結果でも、誰も傷ついてない。

そもそも奇襲をかけたのがこちらであろうとも捕獲する術も、攻撃する術もはじめから持っていなかった時点で、何も成功することはない。

お兄様はいつも完璧でいらしたから、高望みをし過ぎている。

だからできることはしたのだ、とそう説明したつもりなのだけど、お兄様の瞳が翳りを見せた。口元も自嘲で歪んでいる。

 

「…ダメだよ、深雪。その百点は不正だ」

「不正、ですか?」

 

ゆっくりとコミューターが止まる。家に着いたのだ。

扉が開き、お兄様が先に下りる。差し伸べられる手を取って、続いて下りるのだけれど、いつものように背中や腰に手を添えられることはない。

…今日はお兄様から触れられたのは昼までだったと、この差し伸べられた手だけだと気付いた。

………。

 

(…お兄様が気付かないはずが無かった)

 

私の変化に気付かないお兄様ではない。

考えればすぐに思い当たる。初めてアレに触れられた時、お兄様の目は据わっていた。私が何かを感じ取っていたことに気付いていたのだ。

家に入り、いつもならハグをするのだけれど、お兄様の繋がれた手はまだ離れない。

 

「こんなことを聞くのは、お前にも辛いことを思い出させることになるのだろうが――」

「…いえ、私がお兄様に隠すことなど…。ですが、知られたくなかったと言えば、そうです。今回のことはできることならば、知られずに済むのであれば、その方がよかったと」

 

そう思わずにはいられなかった。

けれど、今後のことも考えれば言わざるを得ないわけで。

 

「このまま、お話を聞いていただけますか?」

 

コートを脱ぐこともせず、靴も脱がず、玄関で手を繋いだまま向かい合い、話を聞いてほしい、との願いをお兄様は嫌がることなく頷いた。

繋いだ手を見つめて俯いたまま、私は重い口を開く。

 

「お兄様は、パラサイトの姿をご覧になりましたか?」

「美月ほどはっきりではないが」

 

なら、話は早い。

 

「私には、お兄様のように情報を眼で見ることはできません。ですが、代わりに感覚でとらえることはご存じでしょう。

昼休み、私は嫌な予感がして警戒度を上げておりました。だからはじめ、耳元で大きな虫の羽音が聞こえて身が竦んだのです。この時期に昆虫などいないので、すぐに魔法によるものだと思いました。すぐにお兄様に伝えようとしたのですが、続いて襲ったのはとても不快な音ではなく波動で、…長く、意思を持ったひも状の何かで背中を撫でられたような感覚を触覚で捉えたのです」

 

昆虫の羽音は聴覚で、触手は触覚で。今まで感じたことのない波動の捉え方に戸惑ったのだと伝えたけれど、うまく伝わったかはわからない。

顔を上げられないまま続ける。

 

「その場で感覚を一度遮断したのでしばらく感知できなくなったのですが、もしこの反応がパラサイトに対してのモノなのだとしたら見分けがつくかと思い、少しずつ感覚を解放していったのです。そしてパラサイトが魔法を使う直前にその…全身に長いモノがまとわりつかれる波動、とでも言うのでしょうか。締め付けられるのではなく擽られるような感覚がありまして」

 

…なぜかなるべくマイルドに伝えようとしている自分がいた。

はっきり言えば触手が体を撫でまわす感覚であり、痴漢や変態に触れられたような嫌な気分がした。

そして乗っ取ろうと触手を伸ばされた時はもっとヤバかった。

まさぐられるように触手が体の上を這ったのだ。…これをどうマイルドに…?というよりなぜ自分はマイルドに伝えようとしているのか――答えは簡単だ。

先ほどからお兄様から不穏な空気が漂っている。

こわひ。怖いですお兄様。思わず嫌悪していたパラサイトを庇いたくなる怖さ。

だってあの子はこの後ほのかちゃんの意思を継いだベイビーちゃんになるのでしょう?お兄様のお役に立つ子になるのよ。

そんな子を、このままだとお兄様は消滅させてしまうんじゃないかというほど、闘気が漲っております。

なんというか、何が何でもあの場で仕留めるべきだった的なオーラがひしひしと。

お兄様、そんな術お持ちじゃないでしょう?落ち着いてくださいませ。

そう思いながらも私も顔を上げられない。やましいことしたわけじゃないのに。

…ん?触手プレイってだけでやましい、か?いや、やましいじゃなくてやらしい、だね。でもそもそも不可抗力だし…ってそうじゃないから。プレイじゃないから!変態思考はハウス!!

 

「取り憑こうとする感触も、魔法を行使する時と違う動きもあり、うまくこの情報を活用できれば――」

「もういい」

 

有利になるはずだ、との言葉は紡ぐことができず、繋がった手を強引に引かれて息が止まるほど強い力で抱きしめられた。コート越しなのに、ものすごい圧だ。

 

「おに――」

「あれだけお前を守ると言ったのに、俺の力不足だ」

「そ、なこと」

 

否定をしたいのに、ぎゅう、と締め付けられてままならない。ちょっと待ってお兄様。本当に待って。それ以上締められちゃうと中身が出ちゃいそうなんですけども!

 

「、すまない」

 

気付いてくれたようで助かりました。腕の締め付けは弱まったけれど、離れはしませんね。

 

「…私は、大丈夫です。感覚的なモノであって、実際触れられたわけでも――、穢されたわけでもありません」

「――だが、震えている」

「そんな、はずは…」

 

意識を自身に向ければ――ほんのわずかに震えていて。

 

「これは、寒さで――」

 

後はお兄様からの締め付けが原因だ、と言いたかったけれど、――かち合ったお兄様の目がもう茶化して逃げることを許してはくれなかった。

静かに視線が絡み合う。

真直ぐに見つめるお兄様と、逃げ道を探す私の視線では折れるのはどちらかなんて明白で。

心をいくら誤魔化そうとしても、見透かす眼を持っているお兄様から逃れられるわけがないのに。

 

「……かった、です。気持ち、わるくて…ふれられた感触が、こびりついて離れなくて、」

 

確かに体を穢された事実はない。パラサイトが私自身に触れる前にお兄様が撃ち落としてくれたし、十文字先輩が防いでくれていたから。

ただ、優れた感知能力は私に確かに危機を察知させてくれていた。

思ってもいない形だったけれど、その情報は有益で、――結果、気色の悪い感触に心が耐え切れなくなった。

私には、うまく切り替えられなかったのだ。コントロールができなかった。

 

「ごめ、なさ、い。こんなことで、」

 

零れ落ちる涙を、お兄様が何度も、何度も指で拭い、その度にまた涙をこぼす。

こんな時でも顔が歪まないのが深雪ちゃんのすごい所だ。眉間に皺もよらない。ただただ大粒の涙が零れていく。

 

「俺の前で我慢しなくていい。もっと吐き出してくれ」

「…お兄様は、もっと事細かに情報を精査して、判別していらっしゃるのに、どうして、私にはできないの…」

 

それが悔しい。お兄様には優れた眼があるけれど、それを己で制御しているから有用に使いこなしている。

私にも超感覚と呼べる、情報を得る感覚が備わっているのに、いつまでも手に余らせて無用のものになってしまっている。

こんな重要な時でさえ、中途半端で使いこなせないなんて、ポンコツなのはリーナちゃんじゃない。私の方がポンコツだ。

 

「そうやって自分を追い詰めてくれるな。お前はよくやっている」

 

頬から涙を掬い上げ、お兄様の手もびしょぬれのはずなのに、と思ったけれどお兄様発散させていたのね。乾いた手で私の頭を撫でる。

 

「――忘れられないなら、別のことで頭を埋めたら、楽になるか?」

「べつのこと、ですか?」

 

オウム返しすると、お兄様は苦笑して。

 

「俺もな、今日は自分が情けなくて腹が立った。どうしようもなく、今は無力感でいっぱいなんだ。こうして、大事な妹を泣きやませてやることもできない」

「それは、」

 

お兄様のせいじゃないと否定をしたくても、お兄様の人差し指に唇を抑えられてしまった。

静かに、というように添えられたその指は、力が入っているわけでもないのに魔法の鍵のように私の口を閉ざした。

 

「だから、お互いの頭を占めている嫌なことを、塗り替えよう」

 

そう言って、お兄様の顔が近づいて。

いつの間にか人差し指の鍵は頬に添える手に変わっていて。

 

――ちゅ、と目元に柔らかな感触と共に小さなリップ音。

 

それが一度だけでなく、何度も、涙を吸い取るように。

そして涙の跡を辿るように眦から頬を辿って顎へ。右が終わると次は左へ。また上から下へと口付けが降り注ぐ。

…これは現実なのだろうか?

お兄様の綺麗なお顔が近づいては少し離れてまた触れて。それを何度も、何度も繰り返されて。

私は瞬きを忘れたのではないだろうか、とそれを凝視して動くこともできなくて。

 

「お前の涙は甘いね」

 

お兄様の吐息が頬を擽り、瞬いた拍子に零れ落ちる涙を、今度は舌で舐めとられた。

 

「うん、甘い」

 

(…ぺろりと自身の唇を舐めとるお兄様エロすぎやしないかな。発禁モノでは⁇)

 

なにより甘いのはお兄様の声だ。私をとろかすほど甘い声と瞳に、立っているのがやっとだった体から力が抜け落ちて、お兄様の腕に抱き寄せられて支えられてしまった。

 

「甘いものが疲れた心を癒すというけれど、本当だな」

 

そうだろうか?同じく甘いお兄様を摂取しすぎてこちらは息も絶え絶えなのだけども。

 

「深雪、また呼吸を忘れているよ」

 

…ああ、いつだったか。お兄様に呼吸の仕方を教わったことがあったっけ。そんなに昔じゃないはずなのに、思い出せない。

頬から流れるように滑る手に顎の下を擦られて、

 

「吸って」

 

そうだ。あの時もお兄様に息を止められたんだ。お兄様の素敵な姿を見て息の根が止まってしまったのだけど、今回は――あれ、どうして息が止まっているのだろう?

 

「うまく吸えないか?」

 

考え事をしていて吸うことを忘れてしまった。

 

「吸えないなら、人工呼吸も一つの手だね」

 

くすくすと笑うお兄様だけど、もう少し焦ってもいいのでは?妹が目の前で呼吸を止めているのですよ?何故そんなに愉しそうなの?

慌てて顎の下を撫でられてうっすら開いた唇から息を吸う。

 

「深雪は驚きすぎると呼吸が止まってしまうみたいだね」

 

大抵の人間は驚くと止まると思いますよ。私みたいに長い人は珍しいでしょうけれど。ついでに心臓も偶に止まりますね。犯人はわかってます、お兄様です。

 

「うん、やっぱり深雪で頭が満たされると何もかもどうでもよくなるな」

「……お兄様、それは現実逃避というのです」

 

まさかのお兄様思考放棄。でも、

 

「…お兄様でいっぱいで、余計なことなんて考えられないというのはわかります」

 

先ほどまで心と頭を支配していた暗い思考が全てどうでもよくなった。ああ、触手?あったねそんなこと。

だから、この世界は分類上少年誌なのですよ。青年誌はノーセンキュー。ラノベはちょっとえっちぃまでしか許されてません。もしくは朝チュン。省略される。コンプラに守られてます。

…深雪ちゃん、結構すれすれでしたとかそんなのは気のせいです。

アレです。水戸のご老公様のドラマ後半の見えそうで見えないお風呂シーンみたいな、…若い子には通じないか。

えっと、皆の知ってるご長寿物ご長寿物…しずかちゃんのお風呂?どっちもお風呂だね、そして共通して肝心なところは見えない。…小学生女児の件についてはいろんな意味で見ちゃダメです。アウトだよ。

っと、話が逸れに逸れたけれど、おかげで気持ちは浮上した。

 

「いつまでも気持ちを引きずっていては、前に進めませんものね」

「俺はいつまでもお前をここに留めておきたいけれど、そうも言ってられないね。体が冷えてきている」

 

いつまでも空調のかかっていない玄関で、いくら二人寄り添っていても真冬の夜は冷える。

 

「…お兄様のせいで頬は熱いままですけれど」

「俺はおかげで心が温まったよ」

 

何で妹の顔中にキスをして心が温まるの?その原理がわからない。

 

「最後に」

 

と、お兄様が再度身をかがめて額に唇を落として。

 

「お前が悪夢にうなされないように、おまじないだ」

 

……悪夢には魘されないかもしれないけれど、別のものに悶えそうなおまじないですね。

 

「…お兄様は、私を幾つだと思っておいでなのですか」

 

とりあえず、口では憎まれ口のように考えていることと別のことを返すけれど、内心は暴れ狂っている。

お兄様、その口元に指を立ててるの、さっき私に当てていた指なのは意識的ですか!?お兄様のことだから確信犯疑惑!

 

「子ども扱いなんて、今の深雪にできるわけないだろう?」

 

ぽんぽんと頭を叩く手は明らかな子ども扱いだ。

表情も揶揄っているとばかりの笑みで。

 

「もう、お兄様ったら」

 

慰めるためにキスをしたり、揶揄って笑わせようとしたり。

こんなに甘やかされては、暗く落ち込む暇もない。私の心は単純で、お兄様で満ちればすぐに幸せになってしまうから。

 

「そんな意地悪をするお兄様には、こうです!」

 

靴を脱いで上がろうとするお兄様に後ろから抱きついて回りこむと、首を伸ばして頬に唇を押し当てた。

人生で初めて自分の意思で口付けをして、私はその場を逃げるように、振り返らずに階段を駆け上がった。

 

 

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