魅了の魔女   作:わらにんぎょう

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前回のあらすじ
アモール「魔術いっぱい覚えた」
ヒルデガルドさん「君も冒険者にならないか」


冒険者

 冒険者とは本当にピンキリである。

 

 なんの力も持たず、ただただ雑用をこなして日銭を稼ぐ者。圧倒的な力を以て強大な魔物に打ち勝ち、英雄として崇められる者。

 

 傭兵の如く、各地で兵として活躍する者。

 

 冒険者と、彼らをひとまとめに語ることは中々に難しい。

 

 力なき者は徹底的に侮蔑の目を向けられる一方で、力ある者の名声は凄まじい。活躍する冒険者は一種のアイドル的存在であり、あるラインを超えると支援者が付くことも稀ではない。

 

 そんな彼らの中でも、魔術師としての資質あるものは上位に行きやすい傾向がある。というのも、剣を片手に活躍しようにも、頑丈なことが多い魔物達と戦う中ですぐに武器を消耗してしまうからだ。

 

 この世界には魔力とは別に霊力というものがある。詳しい説明は省くが、魔力と違い全人類が持ち、身体能力などを司る力だ。この霊力に弾かれるせいで敵の体内で直接魔術を発動させるなどの芸当が難しくなっている。

 

 これのおかげで、魔法が使えずとも鍛えた人間は魔物達と渡り合うことができる。しかし残念ながら武器の方がすぐに持たなくなってしまうのだ。安価で頑丈な都合のいい武器は少なく、魔物との戦いに耐えうる武器となると庶民には手が出せない。

 

 

 故に武器がなくとも魔術の知識さえあれば戦える魔術師達が活躍しがちなのである。

 

 

 魔術師として冒険者になり、活躍して名を売れば結果的に孤児院の名声にも繋がる。孤児院を卒業する際、院の名前をファミリーネームとして戴く風習があるというのも大きい。

 

 だからこそヒルデガルドさんの提案にさして驚きはなかった。

 

「君なら間違いなく歴史に名を残す冒険者になれるだろう」

 

 

 ヒルデガルドさんはシスターになる以前冒険者をしていたらしい。やはり魔術師にとって冒険者は都合が良いのだろう。仕事も日雇いでさまざまなものが受けやすいし。

 

 

 ヒルデガルドさんに真剣な目で見つめられ、冒険者という言葉を頭の中で反芻する。

 

 確かに良い響きである。世界中のいろんなオモシロ生物を見たり、未踏のダンジョンに踏み入ってみたり、考えるだけでワクワクさせられる。冒険者になれば、きっとこの異世界を全力で楽しむことができる。もちろん現実はそう甘くないのだろうが。

 

 

「私の旧パーティメンバーに掛け合うこともできる。彼らなら君の踏み台にも丁度いいだろう。私が抜けて魔術師を探しているだろうしな…………それで、どうだろうか」

 

「まだ、私だけでは決められません……もう少しだけ、考えさせてください」

 

「そうか、まだ時間はある。ゆっくりと考えるといい」

 

 

 口ではそういいつつも、僕の頭の中では冒険者になることはほぼ決定事項となっていた。そもそも孤児院出身の女性が就ける職というのは恐ろしく少ない。

 

 定職ならば農家、靴屋、中流階級の下っ端侍女、女中。それ以外なら細々と織物などを売ったりしていく他ない。

 

 もちろん魔術が使える以上日雇いの仕事は数多あるだろう。でも冒険者ほど自由に仕事を受けられるかと言えばそうではない。色々と面倒なことも多いはずだ。

 

 

 女中にはなりたくないなぁ……スカラリーメイド*1もランドリーメイド*2も絶対に重労働だ。それに靴屋も農家も性に合わない。やはり僕にとって冒険者が理想であるように思う。

 

 

 そうして、魔術の講義を終えた僕は、この思いを相談するべくアマストリネさんのもとへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてヒルデガルドさんの誘いから3ヶ月の月日が経った今、アマストリネさんにも話を通して正式に冒険者になることが決まっていた。

 

 今までしていた裁縫の練習などは一旦やめて、冒険者になるための訓練を受ける日々。

 

 1年制の冒険者養成学校などもあるそうだが、僕は主にヒルデガルドさんにお世話になっている。

 

 この3ヶ月間、様々なことを学んだ。魔術は中級までほぼ全てを教わったし、そこから様々な応用があることも学んだ。

 

 他にも魔物の種類や討伐方法、野草の知識など、まさに冒険者といった知識の数々を惜しげもなく伝授してくれたヒルデガルドさん。本人曰く中の上くらいのパーティだったらしいが本当だろうか。正直謙遜しているのではないかと思っている。

 

 

 そんなこんなで順調に冒険者になる準備を進めて、今日。遂にヒルデガルドさんの元パーティメンバーの人と会うことになった。

 

 元々ヒルデガルドさんを含めて女性3、男性2のパーティだったらしい。そしてヒルデガルドさんが抜けて、入れ替わりで若い男性がパーティに加わったそうだ。今は女性2、男性3のパーティとなっている。

 

 僕は15歳に孤児院を卒業し、ヒルデガルドさんのパーティでお世話になることになった。冒険者として完全に一から活動することの難しさは容易に想像できる。こうしてコネでパーティに入ることができる恩恵は計り知れないだろう。

 

 本当は16歳*3で孤児院を卒業するのが通例なのだが、僕はこれ以上ここにいても仕方ないということで15歳での卒業となった。

 

 コネといい、色々と特別な扱いに嫌な顔をする子供もいると思っていた。だがどうやら杞憂だったらしく、子供達の間で『尊敬する憧れのお姉さん』ポジションに収まれたらしい。最近は何かとキラキラした目を向けられることが多い。

 

 

「アモちゃん水出して!」

 

「いいよ」

 

「ありがとう! これあげるね!」

 

 

 たまにこうして小さな子に魔術をせがまれる。差し出されたコップに水を注いであげると、お礼に丸い石を渡された。最近拾ったお気に入りの石らしい。

 

 最近子供達にこうして綺麗な葉っぱやら石やらを貰うことが増えた。食べられない木の実なんかもよく貰う。正直いらないが、小さな子の純粋な目を見ていると断ることもできず、捨てるわけにもいかない。気がつけば僕の私物入れが大量の石と葉っぱで埋め尽くされていた。

 

 また貰った石を私物入れに仕舞っていると、丁度ドアノッカーが鳴らされる音が聞こえてきた。

 

 玄関へ向かいドアを開けると、ヒルデガルドさんが立っていた。門の側には見知らぬ大人が四人。

 

 

「あぁ、アモールか。すまない、アマストリネさんに話を通してくる。あそこに立っている奴らが元パーティメンバーだ。先に自己紹介でもしていてくれると助かる」

 

 

 そう言って中へと入っていったヒルデガルドさんを見送り、外に目を向ける。赤髪の活発そうな女性と目が合った。軽く手を振る彼女の元へ向かう。

 

 

「君がアモールちゃんか。あたしはラーミナ、初めましてだね」

 

「来年からお世話になるアモールです。よろしくお願いします」

 

「あぁ、畏まらなくていいよ。こっちの男どもにもそういうの合わないだろうし。ごめんね、むさ苦しい男ばっかで。今日はアーテルは留守番なんだ」

 

 

 赤髪の女性、ラーミナさんはそう言って隣にいた青い髪の男性をバシバシと叩く。

 

 

「こっちは夫のアベラルド。愛想はないけど、まぁ悪い奴じゃないから、困ったときはこいつを頼るといいよ」

 

「アベラルドだ。よろしく頼む」

 

 

 どうやらこの二人は夫婦らしい。色々と対照的な二人だ。赤髪と青髪、活発そうなラーミナさんに大人しそうなアベラルドさん。

 

 

「そしてそっちの金髪のいかついのがウルフ。あんな見た目だけど後衛の魔術師だよ」

 

「…………」

 

 

 そう言ってラーミナさんが指差すのは筋骨隆々な金髪の男性。拳で魔物を撲殺しそうな見た目をしているが魔術師らしい。側から見ても凄まじい筋肉である。

 

 彼は僕を一瞥した後、口を開くこともなくそっぽを向く。どうやらこちらには特に関心がないらしい。少し怖いので僕も目を逸らす。

 

 今度は、三人の陰で先程からずっとガッツポーズをしている少年に目を向ける。視界に入れてからずっと挙動不審で気になっていた。

 

 するとこちらの視線に気づいた彼が満面の笑みで一歩近寄ってくる。

 

 

「あ、こっち向いてくれた! オレはルピウスっス。呼び捨てでいいっスよ! いやぁ、聞いてた通り超かわいいっスね。かわいい子はいくらでも歓迎っスよ!」

 

 

 いや癖つよ。

 

 ライトブラウンの髪に好青年のような笑みを浮かべているルピウスさん。なんとなく彼からそっと身を引く。それを見てショックを受けたように項垂れるルピウスさん。ガーンという効果音が聞こえてきそうだ。随分と賑やかな人らしい。

 

 

 そんな彼に、後ろから水の矢が飛んでくる。そのまま当たるかと思ったが、予想に反して素早く避けるルピウスさん。素人の僕でもわかる華麗な身のこなしだった。

 

 後ろを振り返ってみると不快げな顔をしたヒルデガルドさんがドアから顔を覗かせている。

 

 

「当たってくれればまだ可愛げがあるものを……アモールに妙なことをしたら許さないぞ、ルピウス」

 

「へ、変なことはするつもりないっスよ」

 

「フンッ」

 

 

 こちらに合流したヒルデガルドさんに、もう一度至近距離で矢を放たれるルピウスさん。それも上手く避けた彼に、彼女は苦い顔を浮かべている。

 

 そんなヒルデガルドさんに連れられて、大人数で孤児院内に入っていく。そのまま応接間に入り、少々窮屈ながら六人でテーブルを囲んだ。

 

 そうして現リーダーらしいラーミナさんとヒルデガルドさんがこれからについて話し始めた。

 

 簡単にまとめると『アモールをよろしく頼む』『いいよ』という会話だ。

 

 どうやら僕はラーミナさんとアベラルドさん夫婦の家に住まわせて貰えるらしい。名目上は住み込みのお手伝いさんになるとのことだ。

 

 

「優秀な魔術師はいくらいてもいいからね。それに、他ならぬ君のお墨付きだ。今後が楽しみだよ」

 

「ふっ、この子の才能を目にしたら度肝を抜かれると思うぞ? いずれ勇者パーティにでも引き抜かれてしまうかもしれない」

 

「あはは! 随分と入れ込んでるんだね」

 

「オレも大歓迎っスよ!」

 

「お前は黙ってろ」

 

 

 そうして今後の話がある程度まとまると、僕は解放される。どうやらもう自由にしていて良いらしい。ヒルデガルドさんはもう少しラーミナさんと話をするようだ。

 

 そんな彼女たちを尻目に、先程から辛辣な言葉を浴びせられてしゅんとしているルピウスさんに声をかける。一目見てからずっと気になっていることがあったのだ。

 

 

「ルピウスさんって剣を使うんですか?」

 

「んぅ? そうっスよ! 珍しいっスよね」

 

 

 そう、腰に剣を帯びていたのだ。じーっとそれを見つめていると、そっと取り外して見せてくれるルピウスさん。綺麗な装飾が施された高そうな剣だ。

 

 

「これ、実家からくすねてきたやつなんスよね〜。アモールちゃんも剣気になるっスか?」

 

「その……剣って、なんかかっこいいなーと」

 

「おお!! やっぱ剣いいっスよね! いい趣味してるっス。魔術師でも護身用にいいから、一本持っておくのおすすめっスよ! なんなら今から試しに振ってみるっスか?」

 

 

 やっぱり(元)男として剣には凄まじいロマンを感じる。もちろん魔術も好きだが、剣というのは全男児の憧れだろう。

 

 想像していたよりずっと話しやすいルピウスさんの誘いで、ヒルデガルドさんから許可を貰って庭に行く。いつも魔術の練習をしている場所だ。

 

 途中、孤児院に備え付けられている練習用の木剣を借りる。

 

 

「なんかこう、試し切りができそうなやつ作れるっスか? 出来るだけ頑丈でおっきい奴!」

 

「少しだけ待ってください」

 

 

 庭につくなりそんなことを言ってくるルピウスさん。まずは実際に剣技を見せてくれるらしい。せっかくだからということで何か切るものを用意することになった。丁度いい魔術があるので詠唱する。

 

 

「我は定める者、凍れ、静寂を齎せ」

 

 

 詠唱し終わると同時、高さ2メートルと少し、半径1メートルほどの氷の柱が現れる。ただの氷ではなく、魔素を含む氷であるのでとんでもなく硬い。少しやりすぎた気もするが、ルピウスさんは少し驚きつつも特に気にしている様子はない。

 

 

「わお、それ初級っスよね? 初級なのにすごいっスね……これなら斬り甲斐あるっス」

 

 

 正直こんなものに剣で挑むことにまだ懐疑心はあるが、自信ありげにニヤリと笑うルピウスさんを見て口を噤む。

 

 そっと見守っていると、剣を抜いたルピウスさんが上段に構える。体幹を一ミリもブレさせないその姿は大変(さま)になってる。

 

 

 ──刹那、気がつけば剣を振り下ろした体勢のルピウスさんが氷の前に立っていた。

 

 

 何が起きたのか理解できなかった。まるで瞬間移動でもしたかのように見えたのである。瞬きはしていないのに、全く目で追えなかった。一瞬遅れてキンという音と踏み込んだ鈍い音が響く。

 

 

「え……?」

 

 

 もう終わったとばかりに剣を納めてこちらを見るルピウスさん。

 

 近寄って見てみると、確かに氷が縦に真っ二つになっていた。氷は半径1メートル、つまり直径2メートルあるというのに綺麗に二つに斬られている。明らかに刃渡りより長く斬れていることに驚きを禁じ得ない。断面を見てみると、ただ氷に亀裂が入って割れたのではないことがわかる。

 

 隣に立つルピウスさんを見上げる。ドヤ顔でこちらを見下ろしていた。

 

 

「どうっスか?」

 

 

 自身ありげにそう聞いてくる彼に、胸の奥から熱いものが込み上げてくる。

 

 この感情を表す言葉がしっかりと浮かんでこない。ただただ高揚する。限界を超えて、喉の奥から溢れてくる思いのままに口を開いた。

 

 

「ちょーーかっこいい!!」

 

 

 顔が熱くなっているのを自覚する。こんなものを見せられて興奮しない男児がいるだろうか、いやいない(反語)。

 

 なんだかんだで初めて見る人外的な動きだった。魔法だけでも十分ファンタジーだが、こういうのを見ると異世界というものを更に強く認識させられる。

 

 思わず興奮して詰め寄る僕に、照れたように頭を掻くルピウスさん。

 

 

「いやーこうもキラキラとした目で見られると、嬉しいを通り越して恥ずかしいっスね。せっかくだからアモールちゃんも練習してみないっスか?」

 

 

 そういって木剣を指差すルピウスさん。促されるままに木剣を構えると、横から持ち方などを修正してくれた。

 

 

 そのまま剣を振るってみると、先ほどのルピウスさんと比べると天と地ほどの差がある一振りだが、空気を斬る音と共に真っ直ぐ振り下ろすことができた。

 

 喜びのままに何度も素振りをする。

 

 

 そうして、ルピウスさんによる剣の指導は、様子を見にきたヒルデガルドさんに怒られるまで続くのだった。

 

 

 久しぶりに男心をくすぐられる、とても楽しい時間だった。

 

*1
scullery maid: 皿洗いなどを主にする女中

*2
laundry maid: 洗濯を主にする女中

*3
主人公の言う16歳はこの世界における17歳(生まれた時の年齢を1歳と数える)。また、主人公は誕生日を基準に年齢を数えているが、これは前世の習慣が無意識に出ているもの。本来は数え年である




もう少しで物語が動き始めます。
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