魅了の魔女   作:わらにんぎょう

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別れ、不穏な空気

 半年間、あっという間だった。

 

 小さい子たちの相手をしつつ、畑仕事だったり掃除だったり孤児院のお仕事をする毎日。

 

 空き時間には遊びに来たルピウスさんに剣の稽古を沢山付けてもらった。

 

 ルピウスさんはあれからやたらと孤児院に立ち寄ってくれるようになった。毎度食べ物を孤児院に恵んでくれることもあって、子供達にも良く懐かれていた。性格的にも小さい子と馴染みやすかったのだろう。

 

 結局、僕に剣の才能はなかった。半年間でなんとか形になってはきたものの、剣をメインに活躍など夢物語。霊力による身体能力の強化もよくわかっておらず、微妙に体の動きは良くなったが誤差の範囲だろう。

 

 剣でズパズパ魔物を両断する剣士になるには何十年と掛かりそうだ。憧れていただけに少しだけショックである。

 

 

 そんな益体もないことを考えながら、昨日のうちにまとめていた荷物を再度確認する。とは言っても、大事なものは『アモール』と刻まれたナイフと服くらいだ。

 

 そう、今日が遂に孤児院から巣立つ日なのである。本当にあっという間だった。昨日の昼間に引っ越しの準備をし、後はもう荷物を持って孤児院を出るだけである。

 

 ちなみに子供達から貰った石たちは、魔術を使って整形しつつ、みんなで一緒にネックレスかブレスレットにした。石は大量にあったのでみんなに一つずつ配ることができた。僕も勾玉っぽい形をした石を一つお守りとして荷物の中に入れている。

 

 

「アモちゃんもう行っちゃうの……?」

 

 

 準備を終えて荷物を持つと、その様子に気づいた女の子が駆け寄ってくる。その目尻には涙が浮かんでいる。びっくりして固まっている隙にガシッとしがみつかれた。

 

「ごめんね、もう行かないとだから」

 

「やだ! いっちゃやああああああ!!!」

 

 孤児院でも年少組の彼女は大声で泣きながら縋り付いてくる。年齢の関係もあって、僕が一番世話をしていた子だ。僕も妹のように思っているので、こうして泣かれてしまうと罪悪感が胸に募る。

 

 彼女を宥めている間に、その泣き声を聞いた他の子達も何かを察したのか一斉に集まってきた。気がつけば十人近い子供に囲まれている。

 

「いがないでぇぇぇぇぇ!!!」

 

「びぇぇぇぇ──!!」

 

「なんで行っちゃうのおおおお──!!」

 

 一気に大泣きし出す彼らに少し困惑する。こんなに懐かれていたとは思っていなかった。確かによく遊んであげていたし、魔術を見せてあげたりしていたが。ここまで好かれることをしていただろうか。

 

「ラーミナさん達が待ってるから……」

 

「だめぇぇぇ!!」

 

 縋り付いてきて離れてくれない子供達に困り果てる。かといって無理矢理離すのも可哀想だ。しかしこのままでは騒動を聞きつけたアマストリネさん達がすぐに来てしまうだろう。最後の最後に彼女たちに迷惑は掛けられない。どうしようか……。

 

 

「仕方ないなぁ、これ、外の人には言っちゃダメだよ?」

 

 

 一つだけ、いい案を思いつく。ヒルデガルドさんには無闇に人に見せるなと言われたが、まぁこの子達にはいいだろう。

 

 詠唱はせず、ひたすらに体内で魔力を練り上げていく。少しずつ体から魔素が漏れ出し、体が淡い虹色のモヤを纏い始める。

 

 その様子を見た子供達は泣き止み、ぴたりと動きを止める。みな、虹色の不思議なモヤを凝視している。

 

 内心うまくいったことにほくそ笑みながら、更に魔力を練っていく。そのまま漏れ出した魔素に魔力のパスを繋げた。

 

 

 わぁ!! 

 

 

 子供達が一斉に感嘆の声をあげる。その視線の先には虹色に輝く半透明の蝶が。十数匹の蝶が部屋中を舞い、何匹かは子供達の手元に落ちていく。子供達はすっかり泣き止み、(さわ)れないそれに触れようとしたり、じーっとその動きを観察したり、完全に蝶に関心を移していた。

 

 これは魔素を体外に出して操っているのだ。不定形の魔素を、魔素としての形態を崩さぬまま蝶の形に留めているのである。ヒルデガルドさんはこういった術は見たことがないと言っていた。僕もつい最近試行錯誤の末できるようになったばかりだ。

 

 

「また、すぐ遊びにくるから。みんないい子にしてるんだよ?…………ばいばい」

 

 

 蝶にみんなが気を取られている隙に、ルピウスさんとの稽古で培った身のこなしを活かして逃げ出す。

 

 蝶に気を取られつつもすぐに気づいた子供達が再び泣き出す。だがもう僕は扉の目の前だ。もう止められないことを悟ったのか、みんなで泣きながら手を振ってくれる。

 

「絶対すぐ帰ってきてねぇ──!!!」

 

「約束する。みんな元気でね」

 

 まさかこんな別れになるとは思っていなかったが、なんとなく、悪い気はしなかった。

 

 

 孤児院の門をくぐると、向こうでラーミナさんとルピウスさんが待っている。その側にはアマストリネさんとヒルデガルドさんが。

 

 

「あ、アモールちゃん! やっぱり愛されてるっスね〜」

 

 

 僕を見るや否や、にやにやと笑いながら揶揄ってくるルピウスさん。先程の泣き声が聞こえていたのだろう。ラーミナさん達も苦笑している。

 

 準備を終えた僕を見たアマストリネさんが駆け寄ってくる。そのままぎゅーっと抱きしめてきた。

 

「これからもずっと、私達は家族だから。寂しくなったらいつでも帰ってくるのよ?」

 

 強く強く抱きしめてくれるアマストリネさんに心がぽかぽかする。前世では、こんなに愛されることなんてなかった。だから、こうして想ってもらえることがただただ嬉しい。

 

「行ってきます、()()()()。次戻ってくる時は、たくさんお土産持ってきます」

 

「ふふ、楽しみにしてるわ。いってらっしゃい」

 

 十五年間ずっと母親代わりとして育ててくれた恩人と別れを告げる。別に今生の別れではない。でも、抱きしめられた温もりが離れていく瞬間は、酷く寂しく感じられた。

 

 先程からこちらを見守っていたヒルデガルドさんが懐から何かを取り出し、ゆっくりと歩いてくる。

 

「これは師匠としての餞別だ。君ならすぐに使いこなすのだろうが……魔法陣の読解は自分でやるといい。もうそれができるだけの力は付いている」

 

 渡された羊皮紙を見てみると、3つの魔法陣が描かれていた。中身をざっと見てみる。

 

 これは……導系統の……雷? 

 

 どうやら3つ合わせて一つの魔術になるようだ。流石にこの一瞬で全てを読み解くことはできないが、複雑なものであることだけはわかった。

 

 

「ありがとうございます。きっと、使いこなして見せます」

 

「君なら一瞬だろう。ではな、次会う時はぜひ君の英雄譚を聞かせてくれ」

 

 

 大袈裟なヒルデガルドさんに苦笑いを返しつつ、荷物の中に大事に丸めて仕舞う。

 

 

「じゃあ、そろそろ行くとしようか。ヒルデガルドも、またいつか。パーティに戻りたくなったらいつでも手紙を寄越しな」

 

 

 そうして、僕は新たな門出を迎えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────ー

 

 

 

 

 

 

 

「ここがあたしらの家さ。君の部屋はもともと物置きだったからね。何か不便があったらいつでも言って欲しい。荷物は既に全部出してあるから内装は自由にしていいよ」

 

 

 孤児院からそれなりの距離を歩いたところにラーミナさん達の家はあった。予想以上に大きな家だ。やはり上位の冒険者なのだろう。

 

 与えられた部屋は物置きと言いつつもそれなりに広い部屋だった。マットレスも既に用意されており、いつでも住める状態になっている。何から何まで用意してもらって少し申し訳ない気分になる。

 

 

「荷物を置いたら先に冒険者としての登録をしに行こうか。本登録は少し時間がかかるしね」

 

 

 衣類などの整理をしているとラーミナさんがやってきてそう言った。まだ昼前であるので日が沈むまで時間はある。今から行けば丁度良い時間だろう。

 

 

 少ない荷物をささっと整理し終えた僕はラーミナさんと一緒に家を出る。

 

 

 街中は様々な屋台が並び、多くの人で賑わっていた。16年前、世界を脅かした魔王が討たれ、その反動で一気に国が発展していったらしい。今は戦時中でもなく、魔物の脅威もあまりないため、昔と比べて街の雰囲気がかなり明るくなったそうだ。ラーミナさんが歩きながら教えてくれた。

 

 

 彼女の案内で歩くこと十数分、大きなレンガ造りの建物が見えてきた。あれが冒険者ギルドだろう。

 

 どうでもいいが、この世界では既に建材としてのレンガの使用が一般的となっている。魔術によって簡単に高火力が出せるため、レンガの焼成が容易だからだろうか。

 

 

 開けっぱなしとなっている巨大な門を潜ると、中は外とは違った騒がしさがあった。

 

 冒険者が仕事終わりにそのままお金を落としてくれることを期待してだろうか、ギルド内部に酒場が併設されている。昼間だというのに大変賑わっていた。

 

 冒険者と聞いて荒くれ者というか、むさいおじさんが集まっているのをイメージしていたが、意外にも細身の人が多い。勿論筋肉質な人も多いが、前者と後者で半々くらいの割合だ。

 

 なんとなく、上位の冒険者は魔術師が多いという話を思い出した。ここはそれなりに大きな都市であるので、冒険者も上位の人たちが集まっているのかもしれない。

 

 酒場から聞こえてくる喧騒を尻目に、二人で受付まで行く。当然かもしれないが受付嬢とラーミナさんは知り合いらしい。すごく気安い雰囲気で声を掛けている。

 

 

「今日はこの子の登録をしにきたんだ。あたしが後見人だからね、向こうで本登録の手続きをしてくるよ。その間にこの子に仮登録のやり方を教えてやって欲しい。あぁ、文字は書けるから代筆はいらない」

 

 

 そう言ってカウンター横の通路から奥へと入って行ったラーミナさん。どうやら本登録にはしっかりとした身分が必要らしく、後見人のラーミナさんが手続きをしてくれるようだ。

 

 ちなみに僕は両親が自由市民だったので市民権を持っている。両親は僕が生まれてすぐに魔王の群勢によって殺されてしまったそうだ。

 

 今世の両親については一切の記憶が無いせいであまり思い入れはない。冷たいと言われてしまうかもしれないが、市民権を得られたことはありがたく思っている。

 

 市民権があるおかげで僕も本登録ができる。本登録を済ませれば、冒険者証を身分証として使えるようになるのだとか。色々と便利だ。

 

 

「こちらにご記入をお願いします」

 

 

 仮登録用の羊皮紙を受付嬢に貰い、色々と説明を受けながら記入を進めていく。

 

 今更だが、僕は聖インノケンティア教会の附属孤児院出身なためフルネームはアモール・インノケンティアである。両親はファミリーネームを持っていなかったので、インノケンティアがファミリーネームとなっている。

 

 

 記入事項はそこまで多くなく、すぐに埋め終わった。書き終わったものを受付嬢に渡して、一旦受付から離れる。ラーミナさんはまだ戻ってこないので入り口横のベンチに座って待機することにした。

 

 じっと座っているとやはり視線を感じる。別に僕くらいの年齢の冒険者なんて珍しくないだろうに。やはりラーミナさんと一緒に来たからだろうか。

 

 ラーミナさんはギルドに来る道中も、ギルドに来てからも、老若男女を問わず手を振られていた。やっぱりヒルデガルドさんの言っていた『ただの中堅パーティ』は絶対嘘だと思う。

 

 じろじろと見られるも、絡んでくる者はいない。ラーミナさんが怖いのだろうか。見られている方向へ視線を動かしてみると皆微妙に目を逸らす。こうして視線があるとあまり落ち着かない。

 

 ギルド内を見回していると、一人、目を逸らさずにじーっとこちらを見つめている人がいることに気づいた。

 

 女性が、酒場の方からずっとこちらに目を向けていた。この世界では珍しく黒色の髪に青白い肌。目元には濃い隈を浮かべている。

 

 そんな顔色の悪い女性が、目が合っても逸らさず、ずっと凝視してくる。

 

 少し怖くて、軽く手を振ってみると、びくりと小さく体を跳ねさせた彼女がゆっくりと立ち上がった。そのままオドオドとした仕草で近づいてくる。

 

 一体なんなのだろうかと身構えていると、丁度良いタイミングでラーミナさんが帰ってきた。

 

 

「お、アーテルじゃないか。丁度良い。まだアモールとは顔合わせしてなかったよな? 彼女が新しくパーティに入る子だ」

 

「………………そうなの…………なるほど」

 

「これから仲良くしてやってくれ」

 

 

 黒髪の女性はアーテルと言うらしい。名前は以前から聞いていたが未だに会ったことのなかった最後のパーティメンバーだ。

 

 

「アモールです。これからよろしくお願いします」

 

「…………よろしく」

 

 

 僕が話しかけると、若干怯えたような顔で、元から青白いであろう顔を更に青ざめさせる彼女。一言だけ呟くと、そのまま逃げるように酒場へと戻って行った。

 

 その様子を見てラーミナさんも若干首を傾げている。

 

 

「ふむ……まぁ少し人見知りなところがあるから許してやって欲しい。そうだ、彼女も後衛の魔術師だよ。拘束用の魔術とか弱体化の魔術とか、変わったものばかり極めている。彼女に魔術を習ってみるのも面白いんじゃないか?」

 

 

 きっと勉強になるぞ、と付け加えるラーミナさん。

 

 確かにヒルデガルドさんは王道な魔術が好きだから、そういう魔術はほとんど習えなかった。今度師事させてもらえるよう頼んでみるのもありかもしれない。

 

 

 結局先程の反応がなんなのかわからず、ほんのりと不安は残る。まぁこれからゆっくりと仲良くなっていけば良いか。

 

 

 そんなことを呑気に考えながら、手続きが完了するまで、二人ベンチで待つのだった。




魔女としての覚醒の時はもうすぐです。

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