「ごちそうさま。いやぁ美味しかった」
「お口に合って良かったです」
「でもお店貸し切りにしてもらって良かったの?」
「こんな日くらい、二人きりで過ごしたくて。ダメでしたか?」
「ううん。鳳翔は頑張り屋さんだからね。あ、お風呂とかもこっちで入らせて貰って良いかな?」
「ええ。泊っていってください」
「ありがと」
「では早速沸かしてきますね」
「食器を洗い場に運んでおくよ」
「いえそんな」
「良いから良いから。分担。ねっ?」
「・・・では、お言葉に甘えて」
「よろしくねっ」
鳳翔は廊下に出ると、曲がり角で胸を押さえた。
はぁ、と漏れ出た吐息はそれはそれは湿っていて。
「ああもう、どうしてそんなに狂わせようとするのですか、あなた」
男が家事を手伝う?分担する?
女が夢にも思わないような甘やかし攻撃がごく自然に繰り出される。
致命傷に注ぐ致命傷。立っているのさえやっとです。
もしかしてと思い、店を閉めておいて大正解でした・・
「あ・・え、えっと、そうです。お風呂沸かしてこないと・・」
廊下を進む鳳翔の足取りは夢遊病のそれのようだった。
「あ、あなた。あぁ洗い物までさせてしまってすみません」
「あはは。洗い物くらいどうという事も無いよ」
鳳翔は目の前の光景が眩しく感じた。
提督が上着を脱いでシャツを肘までまくり、鼻歌交じりに軽やかに洗い物をしている。
傍から見ればただそれだけなのだが。
(女の夢、ですねえ)
そもそも自分から動く事すらあまりない、今の男ではありえない光景。
(こんな光景を独り占めして良かったのでしょうか)
一瞬だけ録画しようかと考えたが、止めた。
(目に、脳に、焼きつけましょう。こんな夢、もう見られないかもしれません)
「鳳翔、ごめん。拭いてくれるかな」
「はっはい!」
いけないいけない。何もかもやらせてしまう所でした。
鳳翔は慌てて食器拭きを手にし、硬直した。
てっ、提督と・・隣同士並んで・・食器を拭くのですか?
それはもう夫婦の共同作業ではありませんか?
鳳翔は提督との未来に思いを馳せる。
提督と二人でお店を切り盛りして、こうして閉店後に洗い物をして、えへへへへへ。
「鳳翔?ほっ鳳翔さん?よだれ出てるよ?ねぇちょっと?」
「えへへへ・・えへへっ・・はいかしこまりましたぁ」
「これあかんやつ。ええ、どれが役満だったんだ?」
私は突然涎を垂らしながら中空をぼうっと見る鳳翔さんを傍らに食器を洗い続けましたとさ。
「すみませんすみません。全部お一人でさせてしまって」
「それは良いんだけど、何が役満だったのかなって」
「・・あ、え、ええとですね」
鳳翔が言いかけた時、給湯器が風呂が沸いた事を知らせてきた。
「あ、あなた。汗かかれたでしょう?先に入ってきてください」
私は鳳翔が頬を染めて私の背中を押そうとする様を見て、少しだけ悪戯心が騒いだんだ。
「じゃあ一緒に入って、背中流してもらおうかな」
「ふええええっ!?で、ですからあなた、そう簡単に神話級とか伝説級のシチュエーションを」
ちょっとこう、振り向きざまに、上目遣いでね。
「・・洗ってくれないの?」
「がふっ」
「あ、あああなた、痒い所はありませんか?」
「すごく・・いい・・です」
「あ、あわ、泡があわわわ」
現在の状況。
和風なお風呂に柔らかいマット。
鳳翔さんタオル1枚腰に巻いただけ。
私はその膝枕に頭をのせてシャンプーしてもらってます。
目を瞑っててと言われてるんだけど、薄目を開けて見ちゃう。
鳳翔さん、おっきいです。
普段はサラシをぎゅうぎゅうに巻いてるんだって言ってたっけ。
息苦しく無いのかな。
「お湯で流しますね」
「ありがと」
「・・・はい、流せました」
「じゃあ交代」
「はい?」
「交代です」
「」
は、はわわ、はわわわわわ・・
提督の指で地肌がゆっくり揉み解されて、いつものシャンプーなのに香りが全然違う気がして。
お膝が温かくて、指が優しくて、油断してると気を失いそうなくらい気持ち良くて。
「痒いとこありませんか~?」
「・・・にゃいでしゅ」
「やー、ちょっぴりえちちな感じで良かったね、洗いっこ」
「・・ふえ」
「鳳翔?鳳翔さーん?」
「えへへ」
「とりあえず体は拭いてあげるとして・・どの部屋で寝るんだっけ?」
「・・はっ!?」
「あ、起きた」
「わっ!?あのわたっ!?私は一体何を?」
「えっと、洗いっこして一緒に湯船入ったのは覚えてる?」
「・・・かすかに」
「その後体拭いて見回ったらこの部屋に布団が敷いてあったから連れてきたよ」
「あわわわ・・本当にすみません」
「ううん。のぼせちゃったんでしょ?それとごめんね。サラシの巻き方が解らなくて裸のまま布団かけちゃった」
違います、あなた。
お風呂にのぼせたんじゃなく、あなたにのぼせたんです・・
もう本当にどうしましょう・・
「そうそう。湯当たりは怖いから、ほら」
そういって渡されたのは大きめの湯呑に入った氷水で。
「体の中もちゃんと冷やした方が良いからね。飲みなよ」
鳳翔は両手の中に納まる湯呑をじっと見て。
目を瞑って、そっと口をつけて。
こくり、こくりと飲み干した。
まるでそうすることで、何かに別れを告げるかのように。
「・・・」
「お、良い飲みっぷり♪」
「あなた」
「湯呑貰うね。ん?何?」
「いただきます♪」
「へ」
無理です。
私のようなポンコツに時間を割いて。
夢のような出来事を次々下さって。
これで好きにならないとか、理性を保つとか無理です。
まだ戦艦水鬼に阿波踊り教える方が簡単です。
組み敷いてしまいました。お口でごっくんしてしまいました。
あは、もう少しで私のナカに・・・えっ私何を?
「あっ!?あああなたごめんなさい!?私」
「鳳翔」
「い、いますぐどきま」
「いくよ。止められる自信ないからね?」
「へっ?」
うん。
目がどろーんとした鳳翔さんに押し倒されましてそのまま1回おくちでね。
でもって鳳翔さんがやらしく口を半開きにしながら私の上に腰を下ろそうとしたわけですよ。
もっちろん私の方はギンギンにおっきしていつでもバッチコイ状態なわけですよ。
そこで何故か急に鳳翔さん目が覚めたかのように急に慌てて退こうとするんですよ。
それはない。
それはありえませんよ?
だから思わず退こうとする鳳翔さんのくびれた腰をガッと掴んじゃいまして。
柔らかくて折れそうに細いんですよ?止まれるわけないじゃないですか。
お泊りだから自室に帰る必要もないですし。
それに、別に明日腰がへっこへこだとしても構いやしませんよ。
私は!今!この時を!生きる!
ここで頑張れないようなヘタレじゃないさっ!