「ご主人様ぁ~!!!」
「てーとくさぁん!!!」
執務室に入った途端左右からぐしぐし泣いている大淀と鹿島に抱き着かれました。
というかこれもう拘束だよね?
首だけ回すと長門が小さく肩をすくめた。
「ちゃんと取り戻してくるから待っていろと約束したものでな。多少は大目に見てやって欲しい」
「まぁ、その、色々温かいし柔らかいから良いんだけどさ」
長門はそのまま自席に取って返すと薄い紙束を掴み、私の机の上に置いた。
「午前時点で提督に署名してもらう必要があるのはこれだけだ。だからもう少しそのままでいて構わん」
構わないというか動けないんですけど。
「ねぇ大淀」
「なんでしょうかご主人様」
「今朝というか昨晩の鳳翔が軽いヒャッハアだとすればさ、それは独占欲なのかな、膨らみ過ぎた愛なのかな」
「・・えーと」
大淀は少し頬を掻いて別の方角を見ていたが、やがて意を決したようにこちらを向いた。
「ん?解釈違った?」
「恐らくなんですけど、コトはもっと単純で」
「うん」
「気持ち良すぎるから手放したくなくなるんです」
「・・・あー」
「ご主人様も経験ありませんか?丁度いい湯加減のお風呂から出たくないとか」
「わかる」
「本来はそれを理性が頑張って制御する訳です。のぼせるとか、明日早朝勤務だから寝ないといけないとか理由をつけて」
「うん」
「ですが開幕1秒でダブルリーチ、それロン!、役満なんて言われてハコにされるとですね」
「げんなりする?」
「いえ、理性が消えてしまうんです」
「」
「ちなみに昨晩は一体どのような事をなさったのでしょうか?参考までに分析してみます」
「・・大淀までヒャッハァにならないでね?」
「長門さん」
「・・なんだ?まだ仕事が」
「後で手伝いますから少し離れた所で耳を塞いでこちらを向いて待機していてくれませんか?」
長門は心底嫌そうな表情を大淀に向け、そのまま私に向き、深い溜息とともに立ち上がった。
「提督」
「ちょうど15時だから、おやつで手を打ってくれ」
「先払いだ」
「じゃあ買いに行っていいよ。私にツケといて」
「ああ」
「随分買い込んできてない長門さん?」
「羊羹が大量入荷したばかりだったのでな、まとめて買ってきた」
「いくつ?」
「30本だが?」
「長門は私がそんなにしくじると思ってるの?」
「1回1本でさえ絶対足りないと思うのだが?」
「良く分かってるじゃないの。で、食べるの待った方が良い?」
「食べた後に砂糖を吐いたら胸焼けがするのでな、先に話してもらって構わない」
大淀が人差し指だけを立て、ちっちっちと軽く動かした。
「ダメですよ長門さん、3人ともヒャッハアになる訳にはいかないんです」
「そうだな。では私は耳を塞いでおこう」
「私の話は音響爆弾か何かなの?」
「そんな生温い物なら鳳翔の理性が壊れる訳が無いのだが?」
「すいませんでした」
頷いた長門が大型のイヤーマフを装着した。え?そこまで完全防音するの?
「じゃあ話すけど」
「はいっ!」
「どうぞ!」
「・・・」
「なんで鹿島さんは少し離れてるの?ていうか何を持ってるの?」
「鹿島特製判定ボードです!」
「判定ボード?」
「これを掲げるとですね」
そういって鹿島が掲げて見せてくれたら板を見たら筆で「場外ホームラァン!」と力強い文字で書かれている。
「解りますかてーとくさん?これを掲げるのはほんっとーにダメな時ですから」
「役満?」
「です。それ以外はこの際見逃します。大甘判定ですからね!」
「とすると、近い所に居る大淀がメインの聞き役、鹿島が審判役、長門がストッパーなのね?」
大淀が頷いた。
「そうなります。ちなみに私はあえて各種アラートをそのままにしています」
「何回も再起動すること前提にしてる?」
「絶対そうなると思います。安定した姿勢を確保する為、行儀は悪いですが座って机に頬杖をつかせて頂きます」
「本格的な防衛姿勢なんだね」
「はい」
ただ話をするだけなんだけどなあ・・
「それでね、工夫によって美味しく供せるのが玄人の料理人だねって言っ」
鹿島が勢いよくホームラン板を掲げた!
ホームラン判定早っ!
「・・え、えとね、それでご飯の後風呂を沸かしてきますって鳳翔が言うからさ」
「・・・」
2人からジト目で食い入るように見られるなかで話すの辛っ!
長門にいたっては聞こえてない筈なのになんで既に苦笑してるのさ!
「だから私が洗い場に食器を下げてね」
鹿島が“食器下げ”って言っただけで板を上げかけたよ!?
「私が洗っといたんだ」
鹿島が勢いよくホームラン板を掲げた!
「もう2得点ですてーとくさん!こんなに甘い判定にしてるのに!」
こうなるとじっと聞いてる大淀が却って怖いなあ。
「それでね、今度はお風呂が」
「ご主人様」
「え?なに大淀」
「洗った食器はどうされましたか?」
「ああえっとね。鳳翔に隣で拭いてって頼んだら」
鹿島が勢いよくホームラン板を掲げた!
「3点目ですてーとくさん!」
「なんでだよ!洗ったら拭かなきゃいけないでしょうが!」
「隣!隣ってのがホームランなんです!どうしててーとくさんは何でもかんでもエッチまみれなんですか!」
「洗い場の隣に食器かごがあるんだから位置関係的に並んで立ってもらわないと拭けないじゃん!」
「かごをカウンターにおいてカウンター越しに拭いてもらえば良いじゃないですか!」
「仕舞う棚だってカウンターの中なんだから不自然でしょうが!」
「てーとくさんはもうちょっとエロの権化だという自覚を持ってくださいっ!」
「なんで隣に立って一緒に片づけて仕舞おうよっていうだけでそこまで言われなきゃならないのっ!」
「いー匂いなんですよてーとくさんはっ!」
「だから何!?」
「至近距離だとクラクラするんですっ!」
「えー、それじゃもう気軽に手伝えないよ・・」
「気軽に鳳翔さんクラスの理性を刈り取らないでください!」
「じゃあどこまでならファールなのさ」
「例えば食べ終わった時、食卓で同じ食器を積んで持っていきやすくする、それで既に安定のホームランなんですっ!」
「いやさすがに・・え、大淀判定もそうなの?ええ・・解ったよ・・」
「まだ他にありませんか?軽い言葉のやり取りとか・・あ、まさか」
「なに?」
「着衣は変化ありませんよね?」
「水が跳ねたら汚れるから上着脱いで肘までシャツまくったよ?」
鹿島が勢いよくホームラン板を掲げた!
「そこから!?」
「エロすぎです!」
それから何か1つ説明すると鹿島が勢いよくホームラン板を掲げ、大淀が段々臨終を知らせる医者のような顔になり。
聞こえてない筈の長門の表情がとんどんジト目になっていったんだ。
「で、長門と一緒に帰ってきたんだけど・・」
ようやくそこまでたどり着いた時、大淀が長門の方を向いてイヤーマフを取るよう促した。
「あぁ耳がキンキンするな。それでどうなんだ大淀?鹿島が何度も板を上げていたのは見ていたが?」
大淀はごく自然に私の方に向き直り、ゲ〇ドウポーズの姿勢を取った。
これは真面目な話のやつ。