「ご主人様には言いませんでしたが、私と鹿島は音声をあえて平文に変換してテキストだけで処理しました」
「なんでかな?」
「極力エロ要素を削ぎ落し、真の情報のみに集中する為です」
「う、うん」
「それでも私は正直何度も鼻血を出しかけました」
「そうなんだ」
「鹿島さんが次々とホームラン判定をしたのはご覧頂いてましたね?」
「最後の方数えきれなかったけど」
「ご主人様」
「うん」
「昨晩、鳳翔さんは少なくとも12回ホームランを打たれました」
「12回」
「投手的には心ズタボロに折れるレベルですよ?」
「・・うん」
「確かに、確かに私大淀は、ご主人様に今夜はこれがしたいなと思った事をしてくださいと申し上げました」
「うん」
「ですが!さすがに鳳翔さんが可哀想です!もはや死刑とそう変わりないですよ?」
「どうしたら良いのかなあ」
こんこんと諭す大淀と私から距離を置いたところでは、長門が鹿島に話しかけていた。
「その、12回ホームランというが、ホームランというのはどういうレベルなんだ?」
「加古さんなら1回でヒャッハァするレベルです」
「・・それを12回も浴びたというのか?」
「はい」
「どうせ提督の事だから細かなヒットとか盗塁もあるんだろう?」
「それはもう容易に想像がつきます」
「・・今度鳳翔にコーヒーに合う菓子か何か持っていくか」
「しばらく静養が必要かと」
「見舞いの切り花とかも良いな」
「あ、長門さん」
「ああ」
「静養中は鳳翔さんのお店にてーとくさんを近づけない方が良いと思います」
「ヒャッハァしかねない?」
「はい」
「・・まず1週間様子を見て見るか」
「もう少しあけた方が」
「今度は禁断症状が出てくるだろう」
「あぁ・・なんてこと・・そうですね。そのとおりです」
「な、なあ鹿島」
「はい?」
「医学的に見て、もうこの鎮守府はダメか?」
鹿島は思わず長門を見て、へらりと笑うと
「医学的判定に持ち込まなくても明らかに手遅れだと思います」
「だな。提督に近づけば悪化し、離せば禁断症状が出る」
「でもですよ長門さん」
「ああ」
「もうどうでも良くないですか?」
「いや、まぁ、その先に行くとな」
「ええ」
「鎮守府で内紛が起きて鳳翔しか生き残らない」
「あ」
「そして鳳翔から提督を盗もうとアホが動いて世界が滅ぶ」
「を゛」
「まぁ提督も言っていたが、どうせ滅ぶ世界ではあるのだがな」
「せめて滅びる日まで所属艦娘が仲良く生きられるように、ですか」
「とはいえ、いずれにせよデッドエンドはそう遠くないだろう」
「どういうことですか?」
「可能性1:誰かがはしゃぎすぎて提督を壊してしまう」
「」
「可能性2:提督が事件または事故で死亡する」
「」
「可能性3:提督が加齢で打ち止めになり、性交渉を嫌がるようになる」
「」
「これらと何年先まで無関係でいられるか」
「該当したら世界が滅びるのですね」
「末期症状になった金剛を、自分の末期症状を抑えながら制止させられる自信はないな」
「あ、そっか。提督がダメになったら一斉に皆の時限爆弾が起動するんですね」
「そうだ」
「もう、デッドエンドが割と見えてる気がするんですけど」
「その到達を少しでも延命するには、だ」
「・・てーとくさんのエロエロ度合いを少しでも下げる?」
「多分な」
「でも、きっと皆さん段々強い刺激でないと満足出来なくなって」
「ああ。いつか提督の限界を超える」
「今更医学的な話をすれば、30代前半が良い所だそうです」
「何がだ?」
「ナニが元気よく起つのが、です」
「・・確か提督は」
「24歳です」
「せいぜい6年と見積もっておくか?」
「私達全員を相手にしてるんですよ?」
「3年保てばいい方か」
「はい。大淀先輩はてーとくさんが皆に気を遣い過ぎれば1年保たないと」
「まぁそれはそうだろう。だが気ままに振舞わせても3年か」
「確定ではないですけどね」
「提督は我々を“性的に望んで”その予測だ。保護区送りになった男が平均半年で植物状態になるのも頷ける」
「支配層からの性的暴行と精子提出義務が課せられ、植物状態となった後も催淫剤で勃起させて採取しますから・・」
長門はフッと笑った。
「無くなって良いかもしれないな、こんな世界」
鹿島が肩をすくめた。
「望めるならてーとくさんの仰る、男女比1対1で女性が貞操を守る世界に生まれ変わってみたいです」
「ま、どういう世界になろうとも問題だらけなんだろうがな」
「それでも今よりはマシじゃないですか?」
「さぁな。そろそろ提督がげんなりする頃だ。救出しようか」
「なんだかんだで、長門さんもてーとくさん中毒の末期ですよね」
くすくす笑いながら話す鹿島に、長門は肩をすくめた。
「当然だ。抗う術などないぞ?」
「ご主人様の感覚としては、そこはグッとこらえてみるということになるでしょうね」
「ふんふん」
「あー大淀?まだかかるか?」
「あ、長門さん。いえ、後はご主人様自身でお考え頂ければよいかと思います」
やってきた長門と鹿島に、私は苦笑を返すしかなかった。
「この前鳳翔さんから麻雀で例えてもらったのでだいぶ理解したつもりだったんだけど、まだまだ甘かったよ」
「そうだな。それでな、提督」
「うん」
「1週間をめどとして、居酒屋鳳翔には行かないでもらえないか?」
「具合悪くなっちゃうかな」
「ヒャッハアしかけているからな」
「解った。ただ、昨夜の事はさすがに悪かったと思うから、手紙をしたためるよ」
「ああ。それくらいなら構わない」
「書いたら長門、持って行ってくれるかな?」
「任せろ」
その日の執務の後、長門は託された封書を手に、居酒屋鳳翔へと向かった。
臨時休業の札が下がった表玄関ではなく、昨夜壊してしまった裏口に向かう。
「鳳翔、夜分すまない。長門だ。入っても良いか?」
「はーい・・あらこんばんは、どうしました?」
「入っても良いか?」
「ええどうぞ。具合が悪い訳ではありませんから」
「・・・」
長門から渡された手紙を、鳳翔は一瞬震えながら受け取ったが、一呼吸おいて読み始めた。
読み終わると、鳳翔は2度、深く息を吸った。
長門は心配そうに声を発した。
「あ、あの、鳳翔?提督はその、過ぎた点を詫びるつもりだと思うぞ?」
「ええ、そういう内容でした。どうぞご覧ください」
鳳翔から手紙を受け取った長門は中を確認したが、そこには反省と謝罪、そして鳳翔への心遣いが記されていた。
「すべて私の不徳の致すところでしたのに、提督が気に病まれるとは」
「鳳翔でそれなら、他の誰かが同じ事をされれば間違いなく重度のヒャッハアになってしまう」
「・・・」
「今回は正直提督に自身の振る舞いがもたらす影響を知ってもらう良い機会だったし、解ってもらえた」
「・・」
「だからその、事故と思って、あまり自分を責めないで欲しい」
「・・長門さん」
「ああ」
「正直、自ら命を絶つ事を覚悟しておりました」
「!!」
「ですが実行に移す前に長門さんが来て、この手紙を読ませて頂いて」
「・・」
「1週間後にまたご飯食べさせてくださいと書いてあったら、出来ないじゃないですか」
「・・」
「長門さん」
「ああ」
「その、提督は、本当に私の事を嫌いになっていないのですか?」
「そうだし、もし仮に鳳翔が命を絶てば提督まで壊れてしまうだろう」
「!!!!」
「理性が保てなかったことは鳳翔としても忸怩たるものがあると思うが、今後慣れていかないか?」
「嫌われてしまったら、もう生きていけないと思っていたのですが」
「ああ」
「そうではないと言われては、そして私の死を提督が気に病むのなら、提督と一緒の時間を生きてみます」
「そうしてやってくれ」
「・・長門さん、お返事を書くので少しお待ち頂けますか?」
「ああ」
こうして私と鳳翔は、同じ鎮守府に居ながら毎日1往復ずつの文通を1週間行った。
配達係を黙って引き受けてくれた長門には感謝しかないし、その間順番を待ってくれた皆にも感謝したい。
次第に深い心情や相手にこれはどう思うかといった話もするようになったし、色々知れて良かったと思う。
そして。
「いらっしゃ・・あっ、あ、あなた・・」
「えっと、ただいま、鳳翔」
「・・おかえりなさい、あなた」
「ごめんね。もっと大事にするね?」
「私の方こそ、すみませんでした・・あぁ」
「どしたの?」
「直接お会いして、声が聞けるって、こんなにも嬉しいことだったのですね」
「うん。私もそう思うよ」
ふと見ると、周りで飲んでいた皆がそっとこちらを見ていて。
「提督復帰に、乾杯♪」
足柄の掛け声で、皆がお猪口やコップを掲げてくれたんだ。
格好悪いから一人で行きたいと大淀や鹿島、長門の同行を断ったのに、皆の支援が嬉しくて。
ありがたかったです。