その日の夕方、私はいつものように大淀と自室に向かって歩いていたんだけど。
「・・あ、居た」
「どうされたんですか、ご主人様?」
「大淀、あそこの塀の上に猫がいるの見える?」
「み、見えましたが・・猫にしては大きくないですか?」
「うん。大きくなってるけど、あの時の猫だと思う」
それくらいしか言葉を交わす時間は無かったんだよね。
猫がふいに近寄ってくるまでにはさ。
「困ったにゃあ・・干渉はしたくないんだにゃあ」
そう言って私の目の前で綺麗にお座りの姿勢になったんだけど、その顔が立ってる私の真ん前にある。
かなりデカくなってない?
大淀に同意を求めようとしたら彫像のように固まっている。
「ん?大淀?あれ?」
そっと見回すと、私と猫以外の世界が止まってる気がする。
「心配ないにゃ。話が終われば元通りにゃ」
猫の仕業なら、もう従うしかないよね。
「ええと、私が何かしでかしましたか?」
「・・個人的には、良いぞもっとやれ、なんだにゃ。男が女に優しくたって良いはずだにゃ」
「はい」
「でも皆が、このままじゃ本当に滅ぶからなんとかしろーってうるさいにゃ」
「滅ぶ?世界がですか?」
「物分かりが良いにゃ。ポイント高いにゃ」
「ありがとうございます。でも何故に滅ぶのです?」
「決まってるにゃ。お前が死んだあとにゃ」
「死んだ、あと?」
「程なく娘達の気が触れてあっという間に世界は終わるにゃ。100%確定したにゃ」
「100%ですか」
「そうにゃ。違う未来の確率が僅かでもあればそれに賭けると言って放っとけたにゃ」
「でも100%だと」
「そうならないように途中でタバコを持たせたにゃが、別の人が全部吸ってしまったにゃ」
「世界が破滅するほど私に好意が集まる前に居なくなるように、ってことですか?」
「にゃ」
「私が入る前に、この体が吸った事もないでしょうしね」
「時代だにゃぁ・・」
「ええと、この時点での選択肢は?」
「1つは、お前を無かったことにするにゃ」
「・・元の桧山竜二さんの魂を連れ戻す?」
「それはもう出来にゃいから、あの時点で死んだことにするにゃ」
「それならこの子達の反応は今よりはマシと」
「にゃ。少なくとも全員が悲しみで我を忘れるほどでは無いにゃ」
「他にはあるんでしょうか」
「・・それを相談しに来たにゃ」
「ええと、私も朧げなんですけど」
私が考えを説明して、猫神様?から問題点を返されて。
体感的には3~4時間くらい話し合ったかなという頃合いで、ようやく猫神様?が頷いた。
「それなら100%破滅ではなくなるにゃ。よく考えたにゃ」
「私が死のうが可愛い皆を大事にしたいですから」
「じゃあそれで行くにゃ。でも物凄く理から外れるからしんどいにゃー」
「お願いします」
「にゃー・・まぁ回避してくれた礼という事にするにゃ。もう現れないから心配しなくていいにゃ」
「別に私一人の時なら会いに来て頂いて良いですよ?」
「ホントは干渉しちゃいけないのにゃ。例外を作るとそこから甘えるにゃ。人間の世もそうにゃ」
「・・そうですねぇ」
「ま、お前らしいにゃ。では」
どろん、そんな効果音が似つかわしいような消え方をして。
「ごっご主人様危な・・あれえっ!?」
「お帰り大淀」
「えっ!?あれっ?化け猫は!?」
「それね、ご飯の前にちょっと大真面目な話がしたいんだ」
「・・長門さんも居た方が良いですか?」
「そうだね。大淀、鹿島、長門、日向、金剛にまずは説明しようか」
「はいっ」
私達は執務室に取って返し、集まってくれた皆を前に、先程の顛末について触れていった。
「に、妊娠確率を自在に変えられるスキル、ですか?」
「猫神様はそう言ってたよ」
そう。
私が猫神様?に提案したのは、男女比1:1の世界では伴侶喪失の寂しさは子孫への愛で埋めるということ。
ただ、男が私一人しかいないので、そのままだと近親相姦で衰退か、孫が作れず衰退となる。
その点をどうにかしなきゃってことで、相談を重ねてスキルに3つの特徴を付与してもらうことにした。
1つ目は、私の遺伝子の影響を外すこと。
100%女性の遺伝子に従って生まれてくれば、少なくとも近親相姦は数世代先送りできる。
2つ目は、大淀と鹿島も妊娠させられるという事。
さすがに他の治安維持ロボットまでは無理と言われたから二人だけね。
これも近親相姦を遅らせるために親の数を増やすという意味。
最後は、私が男女どちらにするか決められること。
男も女もそこそこ居る環境が作れたら、破滅一直線とは異なる未来を創る礎になってくれるんじゃないかなって。
説明を聞き終えて、最初に言葉を発したのは長門だった。
「ならば、ここから新しい時代が始まるということか?」
「そうあってほしいね。ゆくゆくは外の血も入れていかないと先細っていくけど」
金剛は肩をすくめた。
「・・外に期待出来ないデース」
「まぁそうだね。ゼロじゃないことを祈りたいとしか」
そこでようやく、大淀が鹿島と顔を見合わせた後に声を発した。
「ご、ご主人様の子供が産めるなんて」
「他の男とは産めないけどね」
「間違っても産みたくないので」
「そ、そっか」
鹿島はほうっとした、何とも言えない表情を向けてきた。
「てーとくさんは、やっぱり鹿島にとって神様です」
「ああ、えーっと、子供が産めるってこと?」
「はい。いつかの世でと思っていたことが今叶うんですから」
「叶えてくれたのは猫神様だよ」
「そうなるように説得してくださったのはてーとくさんですから」
「・・まぁ、そうだね」
日向が私を見た。
「提督」
「うん」
「外から艦娘を迎える気は、あるか?」
「私の人権無視でヒャッハァは勘弁してほしいけど、そうじゃないなら構わないよ」
「我々の鎮守府は、構成的にはかなり偏っているからな、長門」
「ああ。戦艦と重巡はともかく、軽空母、正規空母、軽巡、練習巡洋艦は1人ずつだからな」
「駆逐や潜水艦に至ってはゼロだ。補助艦艇や海防艦といった存在自体珍しいのはまだしも」
「まぁ欠落している艦種はヒャッハアしやすいからというのもあるのだがな」
「そこは見極めていくしかあるまいよ」
二人が私を見たので、私は頷いた。
「まあ外の話はおいおいで良いんじゃない?まずは今ここにいる皆との話で始めたらどう?」
「それがそうもいかぬ」
「どうして?」
「妊娠したら出航出来なくなるからな。代替要員が必要になるんだ」
「あ」
「ところが、我々の代わりとなると相当な熟練で無いと務まらなくてな・・・」
「最近、移籍を求めている船達の中に、練度も高くちょうど不足している艦種が居るのだが」
「気になる点があるの?」
「艦暦が長い点を提督が嫌がらないかと思ってな」
私は長門に尋ねた。
「艦暦って?」
「人間でいう年齢だ。別に一緒くたに“トシ”と言っても差し支えないがな」
「全然違うもんね、艦娘の皆の寿命と私達人間の寿命は」
「そうだな」
「その子達は長門や日向よりだいぶ年上なの?」
「いや、ほとんど誤差だ」
「じゃあ別に気にならないと思うよ。そういえばヒャッハアってどうやって調べるの?」
「確実なのは提督の前に出してみる事だが、それでは提督の命が幾つあっても足りないのでな」
「だろうね」
「なので、大体は写真を見せるか声を聞かせる。不意打ちでな」
「それだけでヒャッハア判定出来るんだ」
「もう何百と見てきたからな。隠してもなんとなく分かる」
「じゃあそれを頼りに、まずはふるいにかけてみたら?残ったらお話してみても良いよ」
「・・では、そのつもりでテストするか」
「一律不可とかナシだからね?」
「・・善処する」
「私から話せることはこのくらいだけど、何かあったら聞いてね」
金剛が手を挙げた。
「提督、質問デース」
「うん」
「明日からは妊娠を前提にするのですカ?」
「ううん。まずは代替要員の確保なんでしょ、長門?」
「一人二人くらい妊娠したところで影響はないが、さすがに半数を超えると問題だな」
「少なくとも7~8人は新たな子達が入ってきたら、ってことだね」
「正確には、我々の半数の仕事量をこなせる面々が入ってきたら、だな」
大淀がくすっと笑った。
「そこは受ける仕事量をググっと手控えてしまえば良いのではありませんか?」
「子作りするのを増えまくった深海棲艦に邪魔されたら?」
「面倒なので世界ごとぶっ壊しますが?」
「やめろ。本当に止めるんだ。それなら今、代替要員を探すことに力を注いでくれ」
「仕方ありませんね・・」
鹿島が手を挙げた。
「じゃあ今晩のてーとくさんのお世話は鹿島が致します!」
「え゛」
「一昨日大淀先輩が独り占めしたんだから、今日は鹿島の番で良いですよね?」
「を゛」
私は大淀の頭を撫でた。
「奥さんが優秀だと私も鼻が高いよ」
「お任せください!きっちり代替候補選別してみせます!」
頷く私の隣に、ぴったりと鹿島が引っ付いた。
「てーとくさん」
「なに?」
「今日は萌え萌えですから、いっぱい付き合ってくださいね?」
「萌え萌えかあ」
「萌え萌えです♪」
実際凄い夜になったんだけど、最初の夜のように技だけで搾り取られるって感じは無くて。
「スキっ!しゅきっ!だいしゅきっ!てってーとくさぁあん!」
「俺もだよ鹿島ぁ!一緒にイクぞぉぉおぉぉお!!」
「あっ!いっしょにっ!イクぅぅぅうぅうぅううう!」
こうして共同作業的な夜は更けていきました。
なお寮への騒音は一切考慮しておりません。まる。