「過去イチうるさかったんだが、寮の住人代表たる私に何か言うことは無いか?」
「愛のあるおせっせ最高です」
「妖精に頼んで提督の私室を防音化してもらうか・・しかし本営宛の報告理由をどう書けばいいんだ?」
「私のおせっせの声がうるさいから?」
「査察だなんだ理由を付けてわんさか押し寄せてくるぞ、飢えた高齢の上官どもが」
「引きこもらざるを得ない」
「まったく。だったら少しは抑えろ」
「思いついたよ長門さん」
「なにをだ」
「私の部屋じゃなく寮の防音工事ならどう?夜戦出撃組とかの睡眠時間に配慮してとか」
「その結果何が送られてくると思う?」
「予算?」
「大量の眠剤だ」
「あー・・」
「ここには居ないが艦娘達が寝不足になる原因に川内が騒いで仕方ないというのが常にあってな」
「へえ」
「その時に防音工事を陳情すると必ず大量の眠剤が送られてくるんだ」
「川内ってそんなにうるさいかな」
「どういうことだ?」
「んー、普段はひょうひょうとして、静かに行動してるイメージがあるなあ」
「高練度のくノ一のような川内ならともかく、普通は夜戦夜戦とうるさいぞ」
「そっか」
「そこに那珂が加わって地獄と化すんだ」
「あー」
返事をしつつ、私の脳裏に着物姿の川内が思い浮かんだんだけど、あの子はそんな子じゃなかったような・・
あれ、川内に、会ったことが、ある?
「そんなわけでな・・提督?どうした?」
「っあ、ううん、何でもないよ。仕事始めようか」
その時は、ただなんとなく引っかかっただけだったんだけどね。
-----
「こんばんは鳳翔、ご飯食べに来ました」
「私も一緒だからねっ!」
「おかえりなさいあなた、伊勢さん」
伊勢の希望で居酒屋鳳翔、それもカウンター席です。
私の反対隣は日向なので、伊勢型に挟まれました。
もちろん二人とも兵装は下ろしてるので潰れる心配はないんだけどね。
酒と肴を幾つか頼み、居並ぶ面々で肴を突きつつ酒をチビチビ、だらだら話す。
楽しいよね。
だいぶ酒が進んだところで伊勢が話しかけてきた。
「ねぇねぇ提督、日向から聞いたんだけどさ」
「はいよ?」
「メンバー増やして子作り始めるんでしょ?」
「代替要員が上手く見つかったらね」
「それなら割と早いかもよ?」
「なんで?」
伊勢は一瞬口ごもり、肩をすくめつつ口を開いた。
「練度が上がって、昏い物見てる艦娘はそれなりに居るって事」
「・・・本営漬け、か」
「そ。でも本営だってそんなに空席無いし、腕の良い艦娘は働かせたいわけよ」
「・・うん」
「だからどこの鎮守府でも良いから働け~ってなるわけ」
「今居る所では、嫌な目に遭うという事か」
「駆り出された先で見た子も居ると思うけど、まぁ高練度艦娘あるあるなのよ」
「・・可哀想に」
「そんなもんよ。綺麗な戦争なんてないから」
「うん」
「って事で割と早く集まると思いまーす」
「そんな練度の高い子達がここを目指す理由は?」
「鳳翔・長門・金剛・そしてあたしの妹日向の名声を侮ってはいけませんぞ~!」
「そんなに凄いんだ」
鳳翔が次の皿を差し出しつつ、軽く咳払いをする。
「そんなことはどうでもいいのです。あなた、肉じゃがですよ」
「おっありがと。鳳翔さんの肉じゃが美味しいんだよね~」
「私は戦果を讃えられるより、あなたに肉じゃがを褒めてもらう方が嬉しいです」
「で、伊勢さんや」
「なんですかね提督さんや」
「この、隣でうずうずしてる日向さんはどんな名声があるとですかね?」
途端に日向が顔を真っ赤にした。
「うっうずうずなどしてない!君はどうしてそうおちょくるんだ!」
「おちょくってないよ。さあ伊勢さんどうぞ」
「日向は簡単に言うと、北海道取り返したの」
「え、本当に凄いじゃん」
「だから言ったでしょ。うちの妹凄いのよ!」
私は日向に拍手した。
「すごーい日向!えらーい!頑張ったねえ!」
「きっ、君という奴は・・怒るに怒れないし、は、恥ずかしいから止めろ・・やめてくれ・・」
「「立派立派~ひゅー♪」」
そうして二人で日向を囃し立てていると、
「おっ、おほん」
可愛い咳払いが聞こえた方を見ると、鳳翔さんが居て。
「い、いい、伊勢さん?」
「ハイなんでしょうか鳳翔閣下!」
「閣下はいりませんが、その、ちょっとだけ私の昔の事をですね」
「伊勢さんや、閣下ってどういう事なの?」
「えっ」
「そう。前から気になってたんだけど、なんで客の皆が鳳翔に頭が上がらない感じなのかなって」
「あがる訳ないでしょー」
「なんでよー」
「良いわ教えたげる。私がまだ駆け出しだったころ、割と高練度艦娘が荒れる時代があったわけ」
「昏い物を見過ぎてってこと?」
「そー。陰湿な工作が相次いだ時代だったしね」
「んで?」
「そいつらがまとまって、深海棲艦も人間もぶっ殺すって集団になったことがあったわけ」
「あーあ」
「その前から命令無視して深海棲艦狩りまくる艦娘とかはぼちぼち居たんだけど、人類の敵になると話が違うわけ」
「でもまあ、うん、続きを聞くよ」
「色々タイミングとか重なって、そいつらがハワイ島占拠しちゃった時にね」
「うん」
「鳳翔さんが“ちょっと躾けてきますね”って言って、単身で行っちゃったわけ」
「・・相手どんくらい居たの?」
「取り巻き合わせたら2000はくだらないんじゃない?ねぇ鳳翔さん」
返事が無いので鳳翔の方を見たら厨房の隅の方で両手で顔を覆っててさ。
「そっ・・そんな若気の至りの・・よりによってそんな話を・・」
とか言ってるから、私は伊勢に笑顔で話しかけたんだ。
「さあ続きを」
「あああああ」
「でね、1週間くらい経って、さすがに探しに行った方が良いかなって皆で話してたら帰ってきたわけ」
「うんうん」
「凄いのよ?戦艦夏姫の兵装に乗って、戦艦夏姫をアゴでこき使っててさぁ」
「ああ伊勢さん、もうそろそろおしまいで良いじゃないですか」
「欧州水姫とか太平洋深海棲姫とかがかしずいて飲み物とか果物とかせっせと運んでるし」
「いえあの、それはっ、相手からの厚意で・・」
「その後ろでボロボロになった高練度艦娘達がガタガタ震えながら直立不動なわけ」
「ああああああ」
「接岸したらひょいと降りて来てさ、ついでに太平洋取り返してきましたってなもんよ」
「おー」
「もっ、もうその辺で」
「それから大宴会が10日は続いたっけ。で、アメリカさんから感謝の言葉が贈られた時にね」
「うん」
「”アメリカの領土を取り戻してくれた偉大なる鳳翔閣下”ってフレーズで始まったものだから」
「あああああ」
「以来鳳翔さんは“閣下”なわけよ」
「そりゃ当然の“閣下”だね」
「“閣下”でしょー?」
「鳳翔“閣下”~?」
「あああああ」
「帰って来た高練度艦娘達はどうなったの?」
「もちろんガチで働いてたわよ。鳳翔閣下怖いですって言いながら」
「ねぇ伊勢」
「はいな?」
「その子達って、今この鎮守府に居る?」
「・・ううん。その後深海棲艦と敵国が手を組んで世界を二分した大きな戦があってね」
「敵国何考えてんの」
「しらない。で、その子達は全員沈んじゃった。勇敢に戦ってね」
「・・・戦で散った勇猛な艦娘達に」
私がそう言って盃を掲げると、
「艦娘達に」
そういって皆も掲げてくれたんだ。
「で、そんな偉業を成した鳳翔閣下にカンパーイ!」
「イ゛エ゛ー」
「あああああ」
そんなわけで、今夜の一番の肴は鳳翔さんだったと思うんだ。