執務室に入ると、珍しく長門が一人で仕事をしていた。
「おは・・伊勢、お前、つやつや過ぎるだろう・・」
「おっはよ長門。当たり前じゃない!」
「提督は・・死んではいなそうだな」
「死んでたらここまで歩けないよね」
「解らんぞ?」
「まぁ後悔はないよ」
「反省はしろよ?」
「あいさ」
「あ、後さぁ長門」
「なんだ?」
「ごめ~ん、昔の秘密全部喋っちゃった♪」
執務室の中に重い沈黙が訪れた。
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「伊勢・・お前という奴は」
「どうせ陽炎が来た時点で隠し通すの無理なんだから言えば良いのよ言えば!」
「提督ご自身の精神的ダメージを考えろ!何かあったらどうするんだ!」
「あ、そこは大丈夫だったよ長門。ちょっと昔の事思い出して頭痛したけど」
「・・そうなのか?というか何を思い出した?」
「長門にプロポーズしたらなんか訳解んない台詞返されたなあとか」
「どうしてそんなピンポイントにどうでも良い事を」
「加古はいっつもツキがないというか運が悪くておせっせ出来ず仕舞いだったなあとか」
「現時点でまだ出来てないからな」
「そうだね。長門と二人でやっと掴んだはずのLV99がもう遠い昔なんだね」
「ああ。その10倍近いLVになってしまった」
「今度は多分長く一緒に居られるから、ずっと仲良くしようね、長門」
「・・ばかもの。当たり前だろうが」
その時、執務室のドアが開いて大淀が入って来た。
「あ、ご主人様、長門さん、それに伊勢さんもおはようございます」
「おかえり大淀」
「今日もよろしく頼む」
「ねえねえ、いつ陽炎に連絡したの?」
「ちょっ!伊勢さん!それは!」
「あ、ごめん大淀。伊勢から話聞いちゃったし思い出したから」
「へ?」
「昔、陽炎や川内、それに皆と別の鎮守府で暮らしてた事をさ」
「・・・ご主人様、思い出せたんですか?」
「うん。昔から大淀には苦労かけてるね。でもあえて、ありがとうと言うね?」
「うっ・・ご、ご主人様ぁ・・」
「おいで大淀。よしよし。よーしよし」
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「それで?どうだった大淀」
長門の問いに大淀はにこりと頷いた。
「陽炎さんが残るメンバーに連絡してから、最速でこちらに向かうと」
「現所属をどうするつもりだ?」
「話し合いで済ませられればよし、ダメでも押し通す、と」
「どう転んでも司令官を殴り倒す結末しか見えんな」
「でしょうね。そこらの高練度戦艦より戦果を挙げる駆逐艦がほいほい居る訳ありませんから」
「どうせ陽炎の事だから手を抜いて誤魔化してはいるだろうがな」
「小娘を演じてる陽炎さんを見てると、ちょっと鳥肌立ちますよね」
「あー、私は何も言ってないからな?陽炎?」
「えっ?」
大淀が青い顔でそっと振り向くと、そこには誰も居なかった。
向き直るとそこにはにやりと笑った長門が居た。
「おっ脅かさないでくださいよ~」
「悪口など言うからだ」
「司令官殴り倒すというのは悪口ではないと?」
「事実になるだろうからな」
「ホントの事言っても悪口になる場合もあるわよ、長門?」
私が執務室の入り口に目を向けると、そこには陽炎が立っていた。
ただし背負ってる兵装というか主機からはうっすら黒い煙が立ち上っていて。
「やっと会えた!陽炎よ。よろしくねっ!」
陽炎は満面の笑みで、でも踏み出した足がもつれたのを私は見逃さなかったんだ。
「陽炎っ!大丈夫か!すぐ直してやるからな!」
「えっちょっ司令!?司令!?」
私は陽炎を抱き上げると、そのまま工廠に向けて駆け出していたんだ。
「ほんとにもー、司令はもー」
「だって」
私は妖精達から大袈裟だと叱られた後、ただの補給と念の為の点検を済ませた陽炎と対面していた。
「だってじゃないの。ちょっと主機を全速力より大目に回したから煙が出ただけよ」
「大目ってどれくらいさ?」
途端に陽炎の目が泳ぎだした。
「・・・ちょ、ちょっとよちょっと。ほんのすこーし」
「どのくらい?ちょっとなら私の目を見て具体的な数字で言えるよね陽炎?」
「あ、ああああああのね司令。あ、そうよ今日良い天気よ?」
「言ってごらん」
「・・・758%くらい?」
「缶が爆発するよ!無茶にもほどがあるよ!」
「司令」
「なに?」
「心配してくれるの?」
「当たり前です!陽炎は私の大事な奥さんなの!」
「・・あは。ほんと司令って、1秒で私を殺しにくるわね」
「愛してるのに殺すわけないでしょうが」
「だってもうめろめろよ?司令以外なーんにも見えないわ」
「じゃあ私だけ見てればいい。一人くらい養ってやる」
「あは。もうどうしようもないわ。ごめんね長門。狂わないなんて無理」
「我慢しろバカモノ」
その声を聞いて初めて長門達が工廠にやってきたことに気が付いたんだ。
「いやあ焦ったよ。缶が爆発したらさすがに命にかかわるからねえ」
「我々をLV2桁の小娘と一緒にするな。刹那の時間なら2000%位でも回せる」
「ときに陽炎さん」
「なぁに司令?」
「758%でどれ位回し続けたのかな?」
「昨日の深夜、大淀に連絡貰ってからさっきまでよ?」
「ちなみに連絡貰った時どこに居たのかな?」
「チリ近くの外海よ?」
私は長門を見た。
長門は両手で顔を覆っていた。
私は全てを察し、満面の笑みを浮かべたんだ。
「へっ?え?なに司令」
「グリグリげんこつです」
「いにゃああああイタタタタタタ!」
なお後で妖精さんに聞いたら世界記録塗り替えたらしい。
心配して当然の状況じゃん!
こうして。
「川内参上!提督、覚えてる?」
「あぁ。精悍な顔つきになったな、川内」
「えへっ」
「浴衣で良ければ妖精が作ってくれるそうなんだが、晴着の代わりにはならないかな?」
「・・ううん。提督が新しいのくれるなら喜んでもらうよ!」
「良かった。じゃあ揃いで作ろうか」
「絶対だからね!」
日一日と。
「翔鶴、ただいま戻りました」
「久しぶりだね翔鶴。抱きしめても良いかな?」
「ええ、どうぞ。とうに身も心も捧げております」
「・・うん、翔鶴の柔らかさ、そして温かさだ。また会えて嬉しいなあ」
「あの、また、あなたとお呼びしても?」
「もちろん良いよ翔鶴。大好きだよ」
「私もです、あなた」
皆が帰ってきてくれて。
「夕張、ぶっちぎりでビリなのね!」
「しょうがないじゃない!装備が重いんだもの!」
「すぐ前に来た伊26より半月も経ってるでち!」
「Heyユーバリ?また何か寄り道しましたネー?」
「・・・ちょ、ちょっとだけ。ちょっとだけですよ?」
「また怪しい化学原料とか買ってたんじゃなーい?」
「しっ・・試薬を買ったらここまでの燃料が買えなくなって、アルバイトをですね」
「変わってないね夕張」
「提督!」
「あえて、おかえりと言わせてもらうね?」
「・・はい、ただいま帰りました」
「出来れば末永く、この鎮守府で共に暮らしてほしいな」
「もっちろんです提督!日向さんとやりかけだった検証も再開しないと!」
「ちゃんと食事くらい食堂で摂るんだよ?」
それと、1つ変化があった。
間宮さんなんだけど、新たに来てくれた子達も私の話を色々してくれたみたいでね。
「い、いらっしゃいませ」
「・・い、いらっしゃいました」
「ぷっ!提督緊張しすぎじゃん?」
「うっうるさいよ鈴谷!だって間宮さんと会うの久しぶりだし?また倒れちゃったら可哀想だし?」
「いーから早くお盆取って並ぶ!ほら間宮さんB定食1つ!」
「おいおい選ばせてくれないの?」
「A定食が鮭の塩焼き定食、B定食が豚の生姜焼き定食。提督なら絶対B定選ぶっしょ?」
「・・その通りです鈴谷さん」
「ほらー」
「あ、あのっ、B定食お待たせしました」
「美味しそう!あ、そうだ。会えない時もいつも美味しかったです間宮さん。ありがとうね」
「・・いえ、こちらこそ窮屈な思いをさせてしまってすみませんでした」
「ゆっくり慣れてくれたら嬉しいけど、ちょうど良い塩梅を探していこうね」
「・・はい」
「よーっし!じゃあ鈴谷にはあんかけ焼きそばね!提督席取っといて!」
「はいはい」
そんなわけで。
「呂500ちゃーん!切れちゃうからもっと寄ってねー!」
「夕張頼んだぞ~」
「はーい・・よしばっちり!皆動いちゃだめよ!10秒でシャッター切れるからね!」
「夕張早く早く!」
「遅いでち!」
「あ、わわっ!装備が・・おも」
パシャッ!
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「だからこの集合写真は提督の真ん前にすっ転んだ夕張さんが大写しで被ってるんですね?」
「その後ちゃんと撮り直したのに、提督ったらこっち飾れっていうのよ?酷いと思わない?」
「でもなんか、皆が表情豊かで良い写真ですね」
「皆心配してるというか、驚いてる顔だけどねえ」
「そりゃ目の前ですっ転ばれたらそうなりますよー」
「上が重いから復元力が足りなくなるのよねえ」
私は展示室の入り口から足音を消して離れ、廊下へと戻った。
元々私を守ってくれた子達、戻ってきてくれた子達に加え、最近は長門達が目を付けた子達も受け入れている。
表向きには私がなるべく親の遺伝子を増やしたいから、という理由なんだけど。
「高練度になるまで戦って、昏い世界を見続けて壊れて終わりなんて可哀想だからね」
これが本音。
艦娘は皆可愛い。だから守ってあげたい。愛でてあげたい。傷ついていたら癒してあげたい。
この世界がいつ終わるのかは分からないけれど。
「その日まで、仲良く過ごせたらいいよね」
私は次々仕事を振ってくる長門から次の逃亡先候補である酒保を目指し、廊下をそっと歩き始めた。
黄昏の黄金色に染まる鎮守府には、私を呼ぶ長門の声が木霊していた。
完結、です。
やっぱり全年齢に比べPG12は色々許されますので、書きやすいは書きやすいです。
(この小説のR15タグはあくまでも念の為なのでね)
ところがこれが無制限のR18とかになると、いったい何を書けばR18らしくなるのだろうかと思ったりするんです。
いや、AVのように終始性器の名前とか絶叫してハートマーク乱発すれば簡単にR18になりますけど、直接のエログロを省き、ストーリーがあるうえでのR18って結構大変です。
書くつもりもありませんが。
さて、1章に続いて2章も完結出来ました。
見切り発車だったので途中どうなるかと思ってましたが、無事完結に持ち込めたことを嬉しく思います。
私の作品が好きだと言ってくれた方、昔から読んでくださってる馴染みの方、ほぼ毎回校正して頂いた方(お手数かけました)、高評価をつけてくださった方。
そうした方々に支えられて、ここまでやって来れました。
明日から師走となりますが、私を支援してくれた皆様に良い年が来ることを祈念しつつ、筆をおかせて頂きます。
本当にありがとうございました。