「えっと、じゃあ今日は初月か。よろしくね」
「僕は、約束は忘れない。守るさ、必ず」
「いや、ただの写真撮影だからね?」
そう。
我が鎮守府のGMSたる明石屋の宣伝活動により、私の艦娘撮影は趣味の披露からすっかり商品へと変わっていた。
「今日は皐月さんです」
「今日は菊月さんです」
「今日は祥鳳さんです」
「ねぇなんで毎日?」
「むしろなんで1日1人なんですか?」
「し・ご・と!本職があるんですよ!」
「皆だって仕事ありますし、そもそもそれならさっさと秘書艦をですね」
「あーあーあーあー聞こえないー!!!」
撮影で時間を取られるなんて事はない。
せいぜい1時間もあれば済む話である。
ただ、ここに着任してからどんな所で頑張ってくれたとか、どんな状況を避けるべきとか、そういう下調べには時間を割いている。
夕陽を見ると悲しい記憶が蘇る子に、夕陽の中でポーズ取ってとか言えないでしょ?
なのに明石ときたら1時間で済むなら1日24人いけますねとか無茶言いやがる。
単純に割り算するんじゃありません!
そしてなぜか酒保の建物が日に日に大きくなっている。
「なぁ、なんで酒保の建物4階を増築したの?」
「品物がもう入らなくて!」
「補給船の補給物資って変わってないでしょ?」
「そんなもの頼る訳ないじゃ・・ああすみません飛行艇が」
「飛行艇?」
駆けていく明石の先を目で追うと見慣れない飛行艇が港に入ろうとしていた。
勝手に鎮守府の港に入れるんじゃないよ・・ていうか知らないよ物資搬入の予定なんて。
私の知らない所でどんどん鎮守府が改造されてる気がしてならない。
そんなこんながあり、私はとりあえず1日1人のペースで撮影する以外の全てを黙殺している。
伊19にはちょっとした探し物を頼んでるけどね。
そして場面は初月との撮影会に戻る。
「初月とはあまり話が出来てないね。この前の演習で大金星取ったって聞いたけど」
「あ、その、提督」
「なんだい?」
「はっ、始める前に、握手を、してもらえると・・聞いたんだが・・」
「あ、うん、いいよ?」
差し出された手はおっかなびっくりで。
温かくて、柔らかい、小さな手。
こんな手で頑張ってるんだなあ・・
握手し終えた掌を初月はじっと見ていた。
「・・・・」
「・・えーと?」
「あっすまない。提督は何か話していたな。ええと金塊がなんだったかな」
「言ってない言ってない。演習で大金星って話」
「あれは川内に教わったやり方が功を奏したんだ。川内を褒めてあげてくれないか」
「良い子だなあ」
「あっ・・あた・・・ま・・・」
少し乱れ髪の黒髪をよしよしと撫でる。
自分の功績の話なのに川内を立てるとか真似できないなあ。
「てっ・・ててて提督。その、もう十分だ」
「ああごめんごめん。折角撮影の為にお洒落してきたんだもんね」
「そういうことでは・・なくて・・だな」
「よし、それじゃ今日は窓際で撮ろうか」
「構わないが・・外ではないのか?」
「天気が良すぎるからね。その辺りで、左の半身をこちらへ向けて」
「この辺りか?あ、その、良すぎるとはどういうことだ?」
「人を綺麗に撮るときは柔らかい光の方が良いんだけど、今の晴天は日差しがきつすぎてね」
「提督は柔らかい方が好きか?」
「うん。綺麗に立体感が出るからね」
「そうか。ちなみに僕は柔らかいぞ」
「なんか話がかみ合ってない気がするけど」
「気のせいだろう」
「まぁいいや。じゃあ初月は立ち姿が綺麗だからそのまま立ち姿で撮ろうかな」
「ったっ・・立ち姿がき、綺麗、か?」
「うん。スラッとしてラインが綺麗に流れているからね」
そういって指先で空中に初月のボディラインをなぞる。
そりゃ直接触りまくりたいけど撮影どころじゃなくなるからね!
「ぼぼっ、僕の体のラインをなぞりたいのか?」
「なんで人の心が読めるんだ?」
「正解なのかっ!?」
「正解ですとも」
最近は思った事をあえて知らせる事にしている。
何故かというと、誤解された方が余計事態が悪化するからである。
先日、翔鶴を撮影することになった時も・・
「今日の撮影は翔鶴だね。よろしくね」
「はい。後々ご覧頂く時に心地よくなって頂けるよう誠心誠意努めます」
「うん?ええと、んーまぁそう、かな?それはそうと翔鶴は普段からよく見ているね」
「ナニをでしょうか?」
「うん?ああいや、隊列の端から端まで目が行き届いているなって」
「体液がどこに飛んだか把握しておきませんと後で舐めとれないので」
「うん?」
「なんでしょう?」
「微妙なすれ違いを感じるのだけど」
「微妙なふれあいの方が感じますか?ならば次回からその様にイタしますが」
「・・あのね翔鶴」
「はい」
「これから撮影しようって時におっきさせようとしないでくれる?」
「二人の絡みを撮るならおっきした方が良いのではありませんか?」
「翔鶴の綺麗な写真を撮ろうとしてるのだけど?」
「格納庫整理を完遂した瞬間を撮るのですか?」
「普通の!ポートレート写真を!撮るんだってば!」
もうほんと、ちょっと横道に逸れるとおっき抑えるの大変なんだ。
で、目の前の初月はこれから軌道修正しないとね。
頬を染める初月は当社比20倍可愛いです!
「も、もう、お前はどうしてそうなんだ・・・バカ」
「まぁこれは男のサガだから」
「そ、そうか・・別に触っても構わないぞ。責任を取ってくれるなら」
「責任というと?」
初月が二ッと笑った。
「無論、ケッコンカッコカリだ」
「いいよ」
「良いのか!?」
「最終的に皆とはケッコンカッコガチしたいと思ってるし」
初月は私の顔をぼうっとした表情で数秒見つめた後、にこっと笑った。
「それなら構わない。なんでも好きにしてくれていいぞ」
パシャッ
私はなんでもって言ったよねと聞き返す前にシャッターを切った。
こんな良い笑顔撮り逃がしたらダメだよね。
「それで、部屋の間取りなのだが」
「何を言ってますか初月さんや?」
「建てる自宅の間取りの話だ。寝室はもちろん1つだろう?天井に鏡をつけるか?」
「気が早すぎます。まずは練度上げよう?」
「夜の営みの練度か?」
「操船技術っ!」
「上にのしかかって僕を操るのはお前の方だろう」
「海に出て戦う方の話だよ!」
なんでこんなに誤解されるんだろうなあ・・
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執務室から出てきた初月に、明石は声をかけた。
「あ、お疲れさまでした初月さん」
「・・明石」
「はい」
初月は少しの間目を細めつつ宙を見て、そのまま口を開いた。
「・・ほんとに良いものだな。理を抜ける価値はある。前評判以上だった」
明石はにやりと笑った。
「ですよねー?」
「わざと卑猥な話題に持っていくと提督が真っ赤になって慌てるんだ」
「恥じらうのが可愛いですよねえ」
「お勧めの防音オプション、頼んだのは正解だったよ」
「思い切り言葉攻めできますもんね。妖精印ですから性能は折り紙付きですし」
「ほっ、本当に聞こえなかったよね?」
「もちろん」
「今回は踏み込みが浅かったから、それを踏まえて早速次回を予約したいのだけど」
「あー、それがもう今年度枠は埋まってまして。最短で来年5月ですね」
「今まだ初夏なのに!?」
「すごい人気なんですよぉ」
「そんな・・1年待たないとあの快楽に浸れないなんて・・僕は何を糧に生きて行けば・・」
「そこで1つ提案なんですけど」
「?」
「ゴールド枠というのがありまして」
「ゴールド枠」
「通常枠なら1年お待ち頂くところ、ゴールド枠なら3ヶ月ほどで済みます」
「3ヶ月」
「ゴールドクラブ会員は年会費が発生しますが」
「入ろうじゃないか」
「ありがとうございます。こちらが契約書で・・」
初月がさらさらと契約書にサインするのを、明石はうっすらと微笑みながら見ていた。
一方私はその2週間後、ついに根負けして秘書艦制度導入を承認したのである。