「と、いうわけで陽炎!秘書艦として来たわっ!」
「やーほんと悪いねぇ助かるよ」
「規模を考えたら遅すぎるくらいよ。なんでも任せてくれていいわよ?」
「陽炎の場合ほんとに何でもできそうだよね」
そう。
写真撮影が忙しいから提督業を手伝ってもらう。
完全に順番が逆なのは分かってるのだけど、撮影会止めようよって言ったら
川内「じゃあ鎮守府の運用止める?」
伊19「本営ぶっ壊してくればいいのね?」
翔鶴「中将にネタをお持ちして言う事聞かせればいいのですか?」
など、まったくもってシャレにならない答えが即座に返ってきた。
皆が皆、一瞬で目のハイライト消して真顔で言うから怖くて仕方ない。
この時ばかりは冗談だよと言える雰囲気作りをしといて良かったと心から思ったわ。
今から思えば唯一まともな答えを返してくれたのは陽炎だった。
「皆の生きがいなんだから止めない方が良いと思うわよ?」
「大げさな」
「大げさじゃないわよ?」
何でこんな事に・・って明石に喋ったせいだよね解ってる。
この件ではうかつに明石に話をしてはいけないと学んだよ。
それに、いつのまにか私の居る指揮棟の隣に6階建ての立派なビルが建ってたんだ。
その上に乗ってる看板が「総合商社明石」って酒保じゃなかったっけ!?
他の鎮守府の建物全部2階建てなのに。
手に入らない物はないって豪語してたし、1度監査しないとなあ。
まぁ私も特殊な化学原料の調達とかで世話になってるけど、手遅れになったらいけないし。
そういうわけで本業たる鎮守府の運営を手伝ってもらうべく、秘書艦制度を始めたのである。
「じゃ、どっからやりましょっか」
「演習の時間が迫ってるからまずはそれかな」
「艦隊編成は当番表通りで良いの?」
「良いよ・・あ、今日非番の浜風を谷風と差し替えて」
「先日の非番交代の件ね」
「そうそう。後は当番通りで」
「解ったわ」
「じゃあ私は出撃の書類書いておくから」
「私が演習書類ね」
指示が済むと、後はカリカリという万年筆の音。
そう。
ついにボールペンの在庫が払底して万年筆とインク壺で執務しろとお達しが来たよ。
どんどん退化してるよちくしょう。
それにしても普通だ。
ほんっとーに普通に会話が通じるって良いなあとしみじみ思う。
撮影会やってると時々自分の日本語おかしいのかなって思うし。
いや艦隊指揮中の無線連絡とか普通に通じてるから大丈夫だと思ってたんだけどさ。
思ってるだけ?
ノックの音に陽炎が返事をすると、ドアが開けられた。
「第1艦隊旗艦、鈴谷、演習準備整いました」
「うん、鈴谷もそろそろ演習は最終段階だ。実戦を意識して経験を積んでね」
「はい」
「相手も重巡、空母、軽巡、駆逐x3と編成も似てる。海域内に点在する小島を上手く囮にするんだよ」
「・・てーとく」
「うん」
「結構強い相手だよね」
「正直、Cに持ち込めたら上出来。Dでもがっかりするな、だな」
Cは惜敗、Dは完全敗北である。
「A取れたらご褒美欲しいんですけど」
Aは完全勝利である。
「んー」
「ダメ?」
「・・この前のような作戦はダメだぞ?」
「あ、あれはぁ~・・えへっ?」
「可愛くポーズ取ってもダメ」
先日も似たようなやり取りがあり、許可したら鈴谷が旗艦を他の子に譲り、あろうことか相手旗艦に対し重騎兵のような装備で渾身の開幕ラムアタックを仕掛けたのである。
鈴谷も大破したが吹っ飛ばされた相手旗艦は轟沈判定となり、わずか5分で演習が終わってしまった。
相手提督とその後電話でやりとりした時の気まずさったらなかったよ!
結局こちらの装備にルール違反が発覚して勝ちは返上、鈴谷にはトイレ掃除1週間を言いつけた。
「カミカゼなんか実戦じゃ役に立たないんだからね?私がどれだけ肝冷やしたか解ってる?」
「はぁい」
「だから条件を付けます」
「んぉ、どうする?ナニする?」
「全員小破以下であること」
「げげぇっ」
「それなら何でもしてあげましょう」
「・・ナンデモ?」
「おう、なんでも良いぞ。久しぶりに手料理でも作っ・・どしたの陽炎?頭痛いの?」
「別の意味で頭痛いわね・・鈴谷、今回の相手は本当に手練れだから猫だましは通じないわよ?」
「ガンバル」
「なんかカタコトだな。大丈夫か?」
「コレカラ サクセン カイギ スル」
「あ、うん、演習海域への出航は2時間後だからね。遅刻しないようにね」
「ワカッタ。アト、工廠使ウ」
「工廠?妖精さんと兵装の相談かい?まぁ演習のルール内でね」
「ワカッテル」
パタン
鈴谷が去った後、陽炎がそれはそれは重い溜息をついた。
「司令?あんまり無茶させたら可哀想よ?」
「え?無茶させないように小破以下って」
「そこはいいの。ご褒美の中身よ」
「さすがにAは出来るわけないだろー?」
「今頃あの子達本気よ?メンバー覚えてる?」
「鈴谷、翔鶴、夕張、浜風、伊19、伊26だろ?」
「ストッパーが誰も居ないのよ?」
「ストッパー?」
「はぁ、この前みたいなことにならないと良いわね」
「絶対なるって確信してるよね」
「ならない方がありえないわ」
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「これより演習に入ります。両艦隊は600秒以内に配置についてください」
毎回聞く言葉だけど、心拍数が上がる。緊張の一瞬だ。
今日の演習はうちの海域ではないのでモニタ越しの応援となる。
鈴谷、今日の演習でレベル上がるかな。
翔鶴、もう運悪くなんて展開がなければ良いのだけど。
夕張はヘンテコな装備のテストさえ始めなければ実力は十分ある。
浜風は緊張で動きが固くならなければ大丈夫。
伊26は伊19の動きを理解できるようになれば1人前だ。
伊19がどれだけ伊26に色々なケースを見せられるかだね。
間もなく10分になろうという時、両陣営を左右端にいれた上空からの俯瞰図が映し出される。
妖精さんの操る航空機からの映像だろう。
静まり返った海域に、温かいシロップのように放送の声が広がっていく。
「演習開始30秒前・・10秒前・・5・4・3・・・始め!」
私は両手のこぶしを握り込んだ。長い演習時間の始まりだ。
「鈴谷、がんば・・へ???」
私と陽炎の視線は、うちの陣営から上に向かって伸びる白い煙達に釘付けになったんだ。
それは円弧を描くように相手陣営に向かって進んでいったんだ。
程なく
「OO鎮守府、全艦轟沈判定で演習終了です」
という放送と共に、モニタの映像が途絶えた。
「・・・」
「・・・」
私がおそるおそる陽炎を見ると、陽炎は両手で顔を覆い俯いている。
「なぁ陽炎、今のって」
「何も言わないで」
「いや、だって、あれ」
「何も言わないで!」
嫌な汗が止まらない私、ピクリとも動かない陽炎。
そんな二人しかいない部屋に電話のベルが鳴り響いた。
なんだろう。
鳴る音は同じはずなのに怒気を孕んでる気がするんだ・・・・