「ごちそうさまでした」
「なに?遠慮しなくていいのだぞ?」
「全くしておりませんが?」
「そこまで胸を張って言われると・・ま、まぁ良いのだが」
食べるペースを合わせようと努力したが、自分の何倍もの分量となると無理がある。
驚いたのが、それが目の前に座る那智さんだけではなく、神通さん達まで健啖家なのである。
隣に腰を下ろしていた長い金髪の活発そうな子がこちらを見た。
「小食って男の人っぽい!」
この子はずっとぽいぽい言ってるなあ・・ぽいぽいちゃんと呼ぼう。
ぽいぽいちゃんの前に座る子が肩をすくめる。
「恰好も男みたいだしね。会社勤めなんでしょうけど」
私は飲み終えた湯呑みを下ろすと、首をこてんと傾げた。
「私は男だけど?」
その瞬間、何とも居心地の悪い静寂が広がっていく。
え?あれ?こんなことまで沈黙すべきだったの?
だって見りゃ分かるだろ、こんな格好した女なんていないだろ・・・
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「貴君は爆撃機か何かなのか?」
「そんなこと言われましても」
食堂が沈黙のあと大騒ぎになってしまい、私は那智さんに文字通り小脇に抱えられて脱出させられた。
連れていかれた先は書類に埋もれつつ仕事する司令官の部屋だった。
司令官が顔を上げるや否や那智さんが「おっおおお男!こっこれおっ男!」とまくし立てて今に至る。
ちなみに司令官は那智さんの一言を聞いた後、両手で額を押さえ、重い溜息を繰り返している。
幸せが逃げますよ?
「鎮守府しかない僻地に記憶喪失の人間1名が急に現れたというだけでも面倒なのに」
「ここ僻地なんですか?」
「そうだよ、心底どうでも良いんだよそんなことは」
「電車ありますか?」
「電車?何を言ってる?そんなものはない」
「さすが僻地ですね」
「そうではなく、日本のどこにも電車など動いておらん」
「は?」
司令官が無表情のままスロー再生のように顔をこちらに向けた。目が死んでいる。
熱暴走したペッ●ー君みたいで怖いです。
「日本はエネルギーを輸入に頼っていた。その最たるものが原油だ」
「はあ」
「海路と沿岸部にあった工業地帯や大型発電所は全て深海棲艦によって破壊された」
「ほう」
「以上から類推したまえ」
「大電力の消費順に禁止令が出ますね。電車なんていの一番だ」
「正解だ」
「ひと●くん人形ください」
「誰だそれは」
「発電所再建しなかったんですか?」
「現在進行形で深海棲艦を押し返してる最中だぞ?沿岸部の線路はあらかた攻撃されて破壊されたしな」
「水力は?」
「山間部にあるものは動いているぞ。補修部品の確保に苦労してるようだが」
「自家発電はあるんですか?」
「バイオエタノール発電はあるが、燃料が少ないからここでも発電は最低限にとどめている」
「という事はスマホやパソコンも・・」
「ただの箱だ」
「そこは丁寧にカカシと言ってほしかった」
「ただのカカシですな?」
「おぉ素晴らしい」
なるほどなあ。
艦これの説明で「こんなもんスマホあれば解決するよね?」って思ってたことが腑に落ちた。
ネットワークの維持も大電力要るしなあ・・ん?
えっ?
ここ、艦これがリアルの世界線なの?
お先真っ暗ディストピアじゃん。
「あの」
「なんだ」
「艦これという言葉に心当たりは」
「全くないが?」
「ですよね」
しかも住人は世界を把握していない。下手すれば私は転生者まであるぞこれ。
「ああそれと、聞き違いかもしれないからもう1度聞く。今なら冗談でも笑い話で済まそうじゃないか」
「はあ」
「貴君は男装をした・・」
「性別が男です」
「ガハッ」
「しっ司令官!司令官!気をしっかり持つんだ司令官!おい誰か!誰か!」
「はいはい何でしょう?」
「貴様ではないわバカモノ!誰か!」
ひどい。目の前で助けを求めてそうだったから応じたのに・・・
派手にのけぞったまま痙攣している司令官を揺さぶる那智さんを見ながら、私はうんざりしていた。
男が絶滅した設定まであるの?破滅一直線すぎじゃない?と。
そろそろ眠いんだけど、今部屋に案内してほしいとか言ったら張り倒されそうだしなあ・・
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「貴君は鳥と犬どちらがいい?」
「どういう意味です?」
「すぐに答えないのは良い事だな」
「鳥か豚なら豚と答えましたが」
「好きな肉の話ではないな」
「カルビが良いです」
「部位でもないな」
「生の豚レバーはさすがに朝からは遠慮したい」
「朝でなければいいのか?」
結局昨夜はぽいぽいちゃんに抱き着かれて司令官が正気に戻ると、私は寝る部屋に案内された。
二人部屋を1人で使用。ベッド嬉しいです。
目覚めて食堂に行ったら昨夜と同じ方式でご飯にありつけたので、しっかり頂いて司令官の部屋に来た。
いつどんな形で長時間拘束されるか分かったものじゃない。
それで開口一番このようなやりとりである。昼は焼き肉食べたいです。
ところでぽいぽいちゃんて他の子から何て呼ばれてたっけ?思い出せないのが歯がゆいなぁ。
「爽やかなトークはここまでにして」
「爽やかか?まぁいい、もう少しヒントを出せば、籠の鳥と軍の犬かな」
「ワンモアプリーズ」
「んー、監視下での生活か、鎮守府で指揮官の下働きか」
「それを最初から言ってくださいよ」
「珍しく正論だな」
「珍しいでしょう?」
「自覚はあるんだな・・・」
一応、頬に手を当ててうーんと唸ってみるが、まぁ、結論は見えてるよね。
だから腕をよじ登ってくるのを止めなさい妖精さんや。
後で遊んであげるから!ハウス!伏せ!お座り!
「それと、昨日は大騒ぎで聞けなかったんですが、この世界の男女比は?」
「全年齢で考えても1:50以上だろう。若いほど男は減っていく」
「下働きは定年まででしょうか?」
「寝ぼけるな。妖精が見えてるのだから実地教育が終わったらすぐ司令官として鎮守府運営の毎日だ」
「1:50なのに?」
「民間人のまま政府に男が居ると知られたら、とある機関からありがたくない連中が来るぞ?」
「どういった感じで?」
「行方不明になっても騒がれない男子。女はごまんと居る。男性出生率は下がる一方。導かれる答えは?」
「下働きで」
「賢明な判断だよ。ようこそ海軍へ」
司令官の手はすべすべで柔らかかった。てっきり柔剣道をたしなむ硬い手かと思ったのだが。
「ちなみにお名前は?」
「あぁ、そうだな。私は七條だ。一応少佐だよ」
「七條少佐ですね、解りました」