「ざっ・・ザラ姉さま」
「おはようポーラ」
「おおおおおおはようごじゃいましゅ」
「えっと、なんで私呼ばれたんでしょうか?」
そう。
現在執務室には私と秘書艦として伊19、雨に濡れた子犬のように震え上がるポーラ、
穏やかな表情できちんと座るザラ、そして明石というメンバーである。
私は口を開いた。
「明石、昨晩の酒のお会計は別でしょ。明細見せて?」
「あっ・・あーあれは別途積算してご相談しよーかなーと」
「明石が帳簿つけずに商品渡すわけが無いよね」
「うぐっ」
「いくらだい?」
「ええと・・」
案の定明石は懐から小さなメモを取り出し、銘柄別に消費本数を読み上げていく。
そのすべてが2桁の本数であり、ポーラはもちろん、ザラまで顔が青ざめていった。
「というわけで、お会計は488万8900コインです」
「488万!?ふわあ・・」
「ちょっとポーラ!ポーラ!?しっかりして!」
白目をむいて倒れ込むポーラと介抱するザラを横目に、私は両手を顎の下で組み、明石と向き合った。
「ときに明石さんや」
「はい」
「港湾使用料が未納なんだけどさ」
「何のでしょう?」
「飛行艇接岸時の、だね」
「げげっ」
「それに、うちの子達に毎回頼んでるよね?フォークリフト使った搬入搬出作業」
「あっ・・あ、そーでした・・かね?」
「毎日5~6回、多い時は18回なんて記録もあるけど」
「・・・」
「まさかタダって思ってないよね?」
「あ、あーっと、折を見てお支払いのご相談を」
「だよね。明石さんが踏み倒そうなんて思ってないよね」
「やっ、やだなぁ提督ぅ」
「信じてたよー」
「あっはっはっは」
「で、だ。先程本営に確認したのだけど、鎮守府の港湾使用料は軍港緊急接岸費用とやらでね」
「・・・」
「それとフォークリフトでの荷役、妖精さんの本社ビル建築工賃、あとはまぁイロイロ」
「・・」
「全部合わせると結構な額なんだけど・・・この先も言わないとダメかな」
「・・・チャラで良いですか」
「あと、ポーラさんとかに結構なカネ貸してるとか噂もあるんだけど」
「うぐっ」
「明石って金融業の免状持ってたっけ?」
「あっえっとぉ」
「貸してなければ別に調べる必要もないんだけど、さ?」
「えっそれは」
「6階の耐火金庫の中、右側の上から2段目、まだ言わないとダメ?」
「おっ・・お金・・貸して・・ません」
「そっか。じゃあ昨晩のとあわせてチャラで良いよ」
「うぐおうっ」
「・・なぁ明石」
「なんでしょう・・」
「品数広げるのは商売として認めるが、搦め手で艦娘ハメるのは・・許さんよ?」
「・・はぁい」
明石はがくりと頷いた。
伊19は隣に座る提督を見た。
これは本気で怒ってるのね。
まぁあの貸金リスト見たら怒っても仕方ないのね・・他所の海防艦の子にまでトイチで貸してたのね。
「というわけで、ザラさん、ポーラさん」
「は、はい」
「違法な借金は無くなりましたので、安心してお帰りください」
「てっ・・ていとくぅ・・うえーん」
「あーあー・・・ほら、よしよし。これに懲りたらあまりお酒に溺れたらダメだよ」
「心を入れ替えますぅ」
私は足に縋り付いてきたポーラの頭をよしよしと撫でてあげたんだ。
ふと顔を上げると、ザラが深々と頭を下げたんで、私は小さく首を振った。
私がやったのは徳政令みたいで決して良くはない手なんだ。
だけど、あまりにもあくどいのはね・・・
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「なんかあったんですか?」
「いや、別に。ポーラがザラ姉さまと少しお話しただけだよ」
「控えめに言って修羅場ですよねそれ」
たははとアクィラが苦笑し、駆逐艦の子達もつられて笑った。
一方顔色が悪いのはアブルッツィである。
「どうして・・頭が痛いわ・・飲み過ぎ?私が?そんなこと・・」
「そりゃあなあ」
「何かご存じですか提督?」
「えっ、いや、昨晩浴びるようにバカスカ飲んでたから」
「えっ、私、酔ってた? うっそ、そんなこと!」
「いやあれが素の行動なら完全にアル中だと思う」
伊19がそっとアブルッツィに水の入ったコップを手渡している。
あれがスピリタスだったら伊19は鬼だがもちろんそんな事はなかった。
・・いや心配してないよ?
ザラがすっと背筋を伸ばしてこちらを向いた。
「提督、本当にお世話になりました。貸し借り無しどころか借りを作ってしまいましたね」
「色々な意味で気にしなくていいよ」
「ふふっ。ポーラがすっかり懐いているので、また伺わせますね?」
「その時は酒席無しで良いかな?」
「もちろ・・ポーラ?何この世の終わりみたいな顔をしてるのかしら?まさか飲もうとしてたんじゃ」
「ちっ違いますザラ姉さま!ポーラ心から反省し、お酒はたしなむ程度にしようかなと検討する所存です」
「禁酒するのよね?」
「きっ禁・・きん・・しゅ・・」
私は肩をすくめた。
「すごいな。あれだけの目に遭ってまだ酒を手放さないんだ」
ポーラは胸を張った。
「お酒には代えがたき酩酊の時をもたらしてくれアイタタタタタ」
ザラは顔色一つ変えずポーラにアイアンクローをかけている。腕に青筋立ってるけど。
「では、私達は失礼します。ありがとうございました」
艦隊を見送っていると、伊19が隣で囁いた。
「あの艦隊、向こうの鎮守府では酔いどれ艦隊って言われてるらしいのね」
「駆逐艦の子達もかい?そりゃ可哀想に」
「違うのね」
「えっどういうこと?」
「一番の大トラはマエストラーレらしいのね。グレカーレとリベッチオも相当な絡み酒らしいのね」
「うそ」
「だから3人には一服盛っておいたのね」
「盛った?」
「夕食の時に、睡眠薬入れておいたのね」
「あっ・・だから」
「マルヒトサンマルで済んだのね」
「えっそうなの!?3人居たらオールだったの!?」
伊19は二ッと笑った。
「情報って、大事なのね!」
「今度間宮で何か奢るよ」
「それより提督のご飯食べたいのね!」
「ごはんかあ。いいよ」
「提督でも良いけど」
「なんか言った?」
「言ってないのね」
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「てことで、貸金リストは没収します」
「・・そういえば提督は借りなかったですね」
「だって明石さんや」
「なんでしょ」
「写真撮影と本業で忙しすぎて使う暇なかったんですよ」
「あー・・あははははー」
「それだけ商才あるんだから、恨まれない商売しなよ」
「えっ・・なんで商才があると思うんです?」
「短期間で6階建てビル建てるくらい儲けたんでしょ」
「まぁ」
「恩を売れ、恨みは買うな、商売の基本でしょうに」
「余りに儲かるのでつい調子に乗りました」
「ま、地道に稼いでください」
「はーい。じゃあ戻りますね」
「お疲れさん」
明石は提督に背を向けると、くすっと笑った。
借金棒引きは痛いは痛いが、金の卵を生むニワトリはそのままだ。
「また手堅く儲けさせていただきますよ、てーとくさん」
そう言いながら自社ビルへと戻る明石の足取りは軽かったのである。