それから数日が過ぎた、ある日。
「はーい提督、お待たせ! フル改装の軽巡夕張、何でも言ってね♪」
「わーい夕張だー!!」
「毎回大歓迎されるの嬉しい!がんばっちゃいますよー!」
そう。
今日の秘書艦は夕張である。
陽炎の目を盗んで妖精さんと企み事をする時、大体夕張も一枚噛んでいる。
私が発案と資源調達、夕張が基本設計とテスト、妖精さんが開発と実装という塩梅である。
なお背後には必ず明石屋の影がある。
「この間の艦対艦ミサイルどう?」
「・・試し撃ち、ご所望ですか?」
「いや180発もテストしたんでしょ?」
「一度に撃っちゃったんで、まだ連発時のデータが少ないですねえ」
「それにしてもよく12cm30連装噴進砲改二の中に納まったねえ」
「使ったのガワだけですから」
「発射装置から別物なの?」
と、普段ならこの軽妙で爽やかな話が昼まで続き、堪忍袋の緒が切れた陽炎が仕事しろと怒鳴り込んでくるのだが、今日は違った。
「そーですよ提督!忘れちゃうからここで言っちゃって良いですよ!」
「何がですか?」
「告白!コ・ク・ハ・クです!」
「おぉ」
「鈴谷さんが三日三晩発情期の野良猫のようになり、翔鶴さんが一昼夜部屋から出てこなかったという伝説の!」
「そんな事になってるの?」
その情報知らなかったんだけど・・えぇ・・
「じゃあ言わない方が良いのかなあ・・思いを込め過ぎなのかなぁ」
「何言ってるんですか提督!むしろ怖いもの見たさですよ!」
「私の告白って肝試し感覚なの?」
「あれだけ憔悴してとろけた翔鶴さん初めて見ましたからね!貴重なデータです!」
「そんなだったの!?大丈夫なの彼女?!」
「大丈夫どころか、その後一気に改二甲になって連日キラキラ状態ですよ?」
「なんかシャブ中みたいじゃないそれホントに大丈夫なの!?ラリってない!?」
「受け答えや思考はしゃっきりしてますからヒロポン等の中毒症状とは違いますね」
「さすが夕張、データ持ってるね」
「抜かりありません!さぁ提督!どーんと告白してくださいっ!」
「あー・・おほん、んっんっ!・・えー、じゃあ、そこに立ってくれる?」
「はいっ」
私は執務机の横に立ち、目の前の夕張に向かって帽子を取り、深々と頭を下げた。
そして帽子をかぶり直すと、剣道のすり足の要領で一気に夕張との間合いを詰め、左腕で抱き寄せた。
「ふにゃっ!?」
「いつも、装備開発や修繕に熱心に取り組んでくれてありがとう」
「どっ、どどどういたしまして!?」
「気さくで優しく、生真面目に取り組む純粋で素直な君は」
「あっいや、そんな」
「いつも頬を機械油で汚してるけど、今日は元の通り綺麗だね」
「あひゃあ見てたんですか!ってふええっ!」
そこで右手で夕張の左手を握り、左腕で彼女の腰をさらに引き寄せた。
「作業着が板についてるけど、たまにはドレスを着ておしゃれするんだよ」
「うひゃあ!ふ?ふえ?てっ提督近いでしゅ!」
「絶対夕張なら似合うに決まっているからね」
「ああ・・あひ、あ、あ」
「お願いします。これからもずっと傍に居てください」
「あ、あわ、あわわわわ、こっこちらこそよろしくお願いいたす」
私はそのまま夕張に軽くついばむように口づけした。
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「はへー・・」
「おーい夕張さーん・・書類やってよー・・」
ガチャッ!!
「司令!夕張!まぁた今日もおしゃべり・・して・・ないわね?もうお昼よ?」
「あぁ陽炎、今日は珍しくちゃんと仕事してるよ」
「自分で言わない。というか自覚してるなら仕事して」
「だからやってるって」
「んっ、感心感心・・で、夕張はなんで涎垂らして呆けてるの?」
私は陽炎のまっすぐな視線から目を逸らした。
「あ、うん、まぁ、その、なんだ」
「・・・もしかして仕事する前に告白したの?」
「だって夕張が」
「人のせいにしないの」
「はい」
陽炎はふむと息を吐き、腕を組んだまま言った。
「それにしても、ちょっと面白くないわね」
「なにがでしょう」
「私も聞きたい!」
「なにを」
「司令の私への告白!」
「・・・ほんとはケッコンカッコカリとかのタイミングで言うつもりだったんだよ」
「司令にしては洒落た事考えてたのね」
「だからまぁ、もちろんあるよ?陽炎への告白の言葉は、とっくに用意してる」
「そう・・んー」
「聞きたいなら聞か」
言いかける私を遮るように陽炎は大声を張り上げた。
「今は止めとくわ!ケッコンカッコカリの時に聞かせて!」
「・・・うん、わかった」
頷く私に向かって陽炎はニシッと笑った。
「でも愛の言葉を囁くのはいつでもしてくれていいわよ?」
「そう?陽炎、いつも元気で愛らしいよ。普段から一番艦らしくしっかり者の長女として」
「や、やっぱりいつでもはナシ。言って良いって言った時だけにして」
「・・わかった」
陽炎まで真っ赤になって黙ってしまったので、私は仕事を続けることにした。
もじもじと両手の人差し指をつんつんし続ける陽炎が可愛いです。くっ!カメラが遠い!
手元用にコンデジ1台作ってもらおうかなあ・・
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そして、さらに数日後。
「司令?良い?3回も失敗したんだから4回目はナシよ?良いわね?」
「はいっ!」
「浜風も良いわね?ちゃんと仕事済ませてからにすること!わかった?」
「無論です」
今日は秘書艦が浜風だなあとぼんやりしていたら朝イチで陽炎が執務室に乗り込んできた。
どのやらかしがバレたのかとドキッとしたのだが違ったのでほっと息を吐いた。
紛らわしい事をしないで欲しい。
んで、えーと仕事か。うん。
「提督、この書類ですが」
「えっと・・そう。この下書きで問題無いよ。ここ少し空けといて。サインするから」
「はいっ」
浜風は多分鎮守府で1・2を争う真面目さん。
でも陽炎いわくストッパーにはならないって言うんだよね。なんでなんだろ。
秘書席の浜風を見ると一生懸命書類を書いている。
あー、机の上に乗るって言うか乗せてるのかな。書く時邪魔にならないのかな。
むしろ肩が楽なのかな?
うん、仕事しよ。
そして時は午後を迎え・・
「川内、無事演習から帰還いたしました!」
「うん、ほんと安定して勝てるようになったね。でもさ川内」
「なに?」
「最後手を抜いてわざと夜戦に持ち込もうとするの止めような?」
「きっ、きのせいダヨ?」
「気のせいかなあ」
「やだなあ提督!そんな事しても意味ないじゃん!」
「夜は良いよねえ・・夜はさ」
「や・せ・ん!や・せ・ん!・・あっしまった」
「意味あるじゃん。川内にとっては」
「あ、あの、提督も川内も、その辺で・・仕事押してますから・・」
「そっか。すまん浜風。じゃあ川内は最後まで手を抜かないように!解散!」
「はーい」
と、控えめながらも上手に進行調整を果たし。
「本日のお仕事終わり~夕食挟んで夜になっちゃったね。ごめんね浜風」
「いえ、職務ですから当然です」
1日の仕事を捌ききったのである。
私がぐいぐいと座ったまま背筋を伸ばしていると、おずおずと浜風が近づいてきた。
「あ、あの、提督」
「んーっ・・んえ。はいな?」
「あ・・あああああの」
私はピンときた。
「告白かい?いつどこでやる?」
「いつどこでもヤる!?」
「は?」
「あっ違っ・・は、はははい時と場合ですね」
「時と場所な」
「そっ、それなんですが、提督」
「うん」
「私は、自分の部屋というわけにはいきません」
「谷風に散々冷やかされそうだもんねえ」
浜風は谷風と相部屋なのである。駆逐艦の子達は多いからどうしてもね。
「ですがその、前例を考えますとっ、よっ、よよ横になれる場所の方が良いかと思うのです!」
「あー、気絶するかもってコト?」
「そのとおりです」
「じゃあ客室予約しようか?」
「てっ!」
「?」
「て、てて、提督の、お部屋では・・だめでしょうか・・」
なぜそんなにしょげる?
「別に良いけどおっさんの部屋で気絶するってリスクじゃない?」
「なぜでしょう?」
「何もなくてもエロい事されたと噂になるとかさ」
「?」
小首を傾げる浜風の頭の上に巨大なクエスチョンマークが浮かんでるのが見える。
あぁそうだ、貞操逆転。
あーっと、えーなんだ、おばちゃんの部屋で若いハンサムな兄ちゃんが気絶する?
それはそれでいかがわしい感じがしなくもないけど・・・セーフなのか?
「まぁ浜風が問題ないなら良」
「良いんですかっぜひお願いしましゅ!」
「なんで食い気味なの」
「なんでもありません!」
どうして浜風が目をらんらんと輝かせてムフームフーと鼻息が荒くなるのか、これが分からない。
私が浜風の部屋でエロいことしませんかと誘われて私がそうなるなら話は分かるんだけどさ。
いやこの子に限ってそれはなさそうだけど。
「んじゃ、部屋行こうか」
「駆逐艦、浜風、出ます!」
「隣の部屋だよ?」
ホントに判らない。
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「えーっと、鍵をかけるかどうかは浜風に任せ・・あぁかけるのねハイ」
「ベッ!ベッドは!こちらでしょうかっ!」
「え?あ、うん。1つしかないし。あーっとじゃあ、気絶に備えて浜風がベッドを背にした感じで立つ?」
「いつでも押し倒して頂いて構いません浜風はどんな性癖でも覚悟しております!」
「ガンギマリすぎて怖いし違うからね?」
なんか目の奥がぐるぐる回ってるように見えるんだけど大丈夫かなあ。
仕事の疲れでハイになっちゃってるのかな。
私は数回咳ばらいをし、努めて低い、ゆっくりした声で話し始めた。
「君はもう称える言葉を聞き飽きているだろうけど、言わせてほしいんだ」
「んなっ、なんのことでしょうか?」
「駆逐艦として戦場を縦横無尽に駆けながら、いつも冷静沈着で」
「い、いえっ! 私はそういうことは」
「そんなクールな君の、両方の瞳を見せて欲しい」
そう言って彼女の髪を左手でかき上げ、顔を寄せた。
「あ、え、ひゃああ」
「ほら、こんなに素敵なレディだ」
「・・・・」
「そしてこの胸の中には、優しくも熱い火が灯ってるよね」
私は右の掌をそっと彼女の胸のふくらみに乗せた。
「あひっ・・あっ・・赤ちゃん・・でき・・」
「皆を守る。その為に戦う。素敵で尊い意志」
「あにょっ・・あっ・・あにょっ・・」
「私は精一杯頑張るから、これからも支えて欲しい」
「ひゃ・・ひゃい・・」
「よき艦娘として、そして良き妻として、ずっと一緒に居てくれると嬉しいな」
「なんでもいたしましゅ」
・・・ちゅっ
そして彼女の予想通り、彼女は真後ろのベッドに倒れ込んでしまった。
ぐるぐる目が回ってるので、私はそっと布団をかけると客室に向かった。
結婚予定ではあるけど目が覚めたら事後なんて可哀想でしょ。
隣で浜風が寝ていて手を出さないって自信ないし。
「おやすみ、浜風」
私はそっとドアを閉めたのである。
陽炎に頼んで明日の朝迎えに来てもらうか。
ええと。
予告です。
本章の終わりまで残り10話程度となりました。
既にきちんと完結して全てup済なのでエタる確率ゼロです。
安心してお楽しみください。