「ほんとにもー、司令はもー」
「精一杯配慮したよ!?仕事済ませてからやったよ?」
「浜風が完全に骨抜きになってて仕事にならないのっ!」
翌朝、執務室に入ったばかりの私を、腰に両手を当てて仁王立ちした陽炎が睨んでいた。
さっき朝ごはん食べたばかりなのにヘビーな展開だなあ・・
「また大げさな」
「そう言うと思って用意したわっ」
「なにを?」
「さぁ入ってちょうだい!」
「?」
私が執務席に腰を下ろすと同時に私室との連絡ドアが開き、谷風と黒潮に抱えられた浜風が入ってきた。
「司令!ほら見なさい!浜風が「はんまかじぇ」になっちゃってるでしょ!」
陽炎の言葉はまさに言い得て妙だなあと感心するくらい、浜風はぐにゃぐにゃだった。
まず一人で立てないし、半開きの口からは涎がこぼれてるし、「えへ、えへへへ」と言い続けてる。
何より目の焦点が合ってないし、時折謎にびくんびくんしている。
「うわぁ・・昨晩より悪化してるよ?」
「夕張だって似たようなものだったわよ?」
「えー」
「後誰が残ってるの」
「ええと、伊19と伊26」
「2日」
「はい?」
「今日から2日開けて。あの子達明日倉庫荷役だからその後にして!」
「あー、休日にやれと」
「そういうこと。分かったわね?」
「最初からそうすれば良かったね。ごめんね陽炎」
「・・・素直に謝られるとやりづらいわね」
「でしょう?」
「ていっ!」
「痛っ!」
陽炎から軽いチョップを貰ってしまった。良いツッコミだ。
その後、私は谷風と黒潮に抱えられ、ドナドナされていく浜風を見送ってから仕事を始めたのである。
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「艦隊旗艦、伊19、倉庫荷役終了を報告するのね!」
「ハイお疲れさまー」
陽炎に言われたとおり、2日後の倉庫荷役の後で報告に来てねと頼んだのでちゃんと伊19が来てくれた。
終了時は必ず来てくれるのだけど、倉庫荷役は複数班合同で行うから別の子が代表として来ちゃう可能性があったんだ。
「先に仕事の話を済ませようか。在庫に偏りは出てない?」
「少しボーキサイトが減り気味だけど、最近近くにはイ級以外寄ってこないし、ワ級は倍速で逃げるのね!」
そう。
うちの鎮守府はワ級を拿捕して積み荷の資源を頂戴するのと、深海棲艦の兵装から資源を得ている。
燃料だけはイ級を絞ればじゃんじゃん取れるのだけど、イ級以外が近くの海に来なくなってしまった。
さらにワ級は前々からうちの子を見ると全速力で逃げるのだが、その速度が明らかに増しているというのである。
「でも攻撃すると沈んじゃうし積み荷がこぼれるしなあ」
「艦船の子達が生け捕りにするのは難しいのね!」
そう。ワ級の明確な弱点が複数の潜水艦による捕縛である。
うちの潜水艦達は静かに遠くから取り囲み、広大な網でワ級を拿捕するのが得意で、延縄漁法と呼んでいる。
傷一つつけず、積み荷の1つも漏らさず鎮守府まで曳航してきてくれる。
なお、ワ級は非武装であるうえ絞っても燃料が得られないので積み荷を取ったらおむすびを渡して海に返している。
「海に返すから情報が広まってるのかなあ」
「いずれにしろ、各資源の調達方法は敵艦隊だけじゃダメなのね!」
「どうしようかなあ」
「敵基地に乗り込んで取れるだけ取ってくればいいの!」
「いや敵基地なんて敵一杯居るでしょ?」
「メガネ女が集めた物資返せって泣いてるだけなのね!」
「えー」
ちょっと罪悪感が・・うん?
「てことはイクさんや」
「?」
「敵の基地の場所知ってるの?」
「もちろんなのね!最近は接収目標値に足りない時は直接取りに行ってるのね!」
どうりで潜水艦の子達だけ安定的に資源取ってくるなあとは思ってたんだ・・・
「でも敵さん追ってこないの?」
「最初から艦対艦ミサイル5~6発メガネ女に撃ち込めば無抵抗なの!」
これ、通商破壊作戦って言って良いのかなぁ・・
それと、そうか。男女差。
この世界の女の子の人権ってほんと無いに等しいよね・・・
「でも、敵さんが集めたってのは元々うちらの国の物資とかだしなあ」
「返してもらってるだけなの!」
「じゃあ取立て作戦とか名付けようか。ところで皆に艦対艦ミサイル持たせれば敵基地行けるかな?」
「途中、ダルそうにしてる女が「何故だ、どうやって来たぁ」とか言って攻撃してくるのね!」
「それでどうするの?」
「イク達は聞き流して潜っちゃうけど、彗星一二型甲でシバき回せばイチコロなのね!」
「じゃあ翔鶴が入ってる班に頼もうかなあ」
「道中の大概の敵は艦対艦ミサイルでどーにかなっちゃうのね。いっぱい持ってくのね!」
「すごいな艦対艦ミサイル」
「妖精さんがてーとく発案の推進燃料が誘爆も出来て保存性も素晴らしいって褒めてたのね!」
「ただの固形燃料なんだけどね。まぁいいや、分かった。じゃあ次回からそうしよう」
「なの!」
「ありがとね、イク。貴重な情報だわ」
「えっへっへー」
「んでイクさんとニムさんにもそろそろ言おうと思ってるんだけど、今夜とかどう?」
「待ってたのね!もちろん今夜で良いのね!」
「場所どこにする?」
「もっちろん!潜水艦部屋でイイの!」
「皆居るのに?」
「どうせ後で話して聞かせるのね!」
「そっか。まぁ聞かれて困る話じゃないけどさ」
隣でやり取りを聞いていた秘書艦の大淀は冷や汗を垂らし、唾をごくりと飲み込んだ。
それって間違いなく本営が指定している日本近海で最大最悪の敵拠点ですよね?
最近活動が沈静化してると報告されてますけど、まさか・・
その日の夜。
夕食を済ませた私は、またも明石屋で散々からかわれつつクッキー詰め合わせとシュトーレンを手に、潜水艦部屋へ向かった。
今回直接関係ないとはいえ、部屋のボスに挨拶は欠かせない。
「こちら、シュトーレンになります」
「うむっ!ようやくしきたりが解ってきましたねっ!」
ぷるんぷるんと胸を弾ませながら伊8が胸を張りメガネをくいくいしている。
エロかわいいのである。
「それとこちら、クッキー詰め合わせになります」
「でち!ここでゴーヤチャンプルとか出して来たら引っぱたいて追い出したところでち!」
「はははまさかそんな」
「でも、桐箱に入ったゴーヤ持ってきてからひと月も経ってないですって!」
「ろーちゃんは可愛いなあ」
「頭撫でられても誤魔化されませんって!」
潜水艦部屋は実に賑やかである。
本当に広い1つの大部屋で伊8、伊19、伊26、伊58、伊168、呂500が一緒に生活している。
布団や机は1人1つずつあるけれど、ちゃぶ台とかソファ、棚なんかは共有らしい。
それぞれが好きに使っているのに不思議な調和を見せているのが、いかにこの子達が仲良しかを物語っている。
「えっと、じゃあ始めはどっち?」
「イク、イクの!」
「ん、分かった」
伊19に立つようにお願いし、向かい合って立つ。
残る子達はラグの上になぜか正座して並んでいる。試合かな?
私は伊19の両肩に両手を乗せて、話し始めた。
「着任からずっと、何かと頼りにさせて貰ったね」
伊19はむんと胸を張り、にこっと笑った。
「どーんと頼って!なの!」
「うん。イクにはこれからもお世話になるつもり。ただね」
「?」
「お仕事だけじゃなく、男女としてもお世話になっても良いかな?」
伊19は花が咲いたように微笑んだ。
「もちろんなのね!」
「ありがと。上司と部下だとセクハラになっちゃうけど」
「せくはらって何なのね?」
「まぁ、わきまえろってコト。けど男女の関係だったらもっと触れ合っても良いよね」
「もっちろんなの!」
私はそのまま、伊19を抱きしめた。
「好きだよ、イク。甘えられるのは君だけだよ」
「いーっぱい、甘えていいのね!」
「愛してる、イク」
「だあいすきなのね、てーとくっ♪」
うん。
伊19は懐が深いから、抱きしめて長い長いキスをしても許してくれるだろうって甘えてしまう。
そしてそのとおり、唇を離したくなくて、ずっと躊躇って、キスしながらくりくり額や鼻を擦りあって、やっと唇を離しても
「てーとく、だあい好きなのっ♪」
許してくれるんだ。