沈黙した執務室の中で、ようやく高雄が口を開いた。
「男女の営みだと思うのですが」
「う」
「さ、さすがに何年も挑み続けて成果が得られない事を理由にお預けされるのは他の方が黙ってないかと」
「そっ、そーだよねー・・あのさ提督」
「うん」
「その、男女の営み1回目で、気持ちよくなれるのかな?」
私は腕組みして唸った。
「んーーどーかなー」
「えっそんなに難しいの?」
「その、ええと、除幕式と、坑道拡張工事の2つがある訳ですよ」
「じょまくしき?あー」
「それでその、どちらも痛い人は痛いし、それがどれくらいで痛くなくなるかも個人差があるから」
「ねぇ高雄、それって」
話を向けられた高雄は頷いた。
「はい、出産準備工程と同じでしょうね」
「しゅっさんじゅんびこうてい」
「こっちの世界では人工授精だって言ったじゃん」
「うん」
「受精器具は凄く細いからそのまま行けるけど、出産前に広げておかないと切開しなきゃ通れないわけ」
「なるほど」
「だから出産準備工程っていって、妊娠期間中に全身麻酔して器具で時間をかけて広げる訳です」
「ほう」
「でも鈴谷、あれはその後何日も痛くて動けないって聞いたんだけど」
高雄も頷いた。
「はい。痛いと聞きますね」
「なるほどねぇ。全部気持ちいい訳じゃないんだー」
「聞く限りでは自然分娩で問題となる所を上手くカバーしてるのが人工授精のノウハウなんだろうなって思った」
「だねえ」
「それに、記憶では出産時には医者が付き添ってたんだよ」
「あぁ、こっちでも必ず医者が立ち会うよ。最終的な性別確定のために」
「いやそうじゃなくて、出産で母子ともに命の危険があるからさ」
「こっちもそれ込みだけど、比重的には性別確定の方が大きいんだよねえ」
「・・・男の子だと取られるの?」
「保護区に連れてかれるのはいわゆる育児放棄児童なんだけど、経済的に堕ちたら男の子だけでも助けたいって意味はあると思う」
「なるほどね。私は成人してたんだけどなんで保護区へ送られそうになったのかな」
「身元不明者、懲役刑受刑者、ホームレスの男性は即座に保護区内の搾精所送りってのは各国共通だよ」
「うわぁ」
「せいしが たりないのです!」
「血液が不足してますみたいに言われても」
「血液より不足してます」
「・・なるほど、相違点がようやくわかって来たよ」
「解ってくれた?」
「つまり人工授精さえも割と限られた人の特権みたいな感じで」
「うんうん」
「男女の営みなんてほぼありえない?」
「そー」
「ええと、その、そのうえで私の事を好いてくれてるから」
「そこにもっと自信持とう?」
「だからええと、憧れというか高嶺の花なわけだ。好きな男との男女の営みは」
鈴谷と高雄がシンクロして頷いている。
「なので、何の功績の褒美か知らないけど、鈴谷が一番の権利を得て、それを盟約としたと」
「ザッツライトー!」
「ようやく提督に分かって頂けましたね。良かったですね鈴谷さん」
「長かったよ高雄ぉ」
えーと、鈴谷が高雄に抱き着いて泣いてるのはゆりゆりしくて素敵なんだけど、そこまでの話なんだ。
うーむむむむ。ほんっとーに次元が違うな男女比異常と貞操逆転世界。
とすると、だ。
「うん、わかったよ鈴谷」
「てーとくぅ」
「じゃあやっぱり、鈴谷が気持ちよくなる時まで、が盟約じゃないかな」
「きもちよくなるとき」
「妊娠まで射程に入れると不確実だし長すぎる。でも気持ち良くなるなら大概は数回で大丈夫のはず」
「全体評議会にかけてみる」
「全体評議会!?」
「それで良いよね、高雄」
高雄は頷いた。
「はい。盟約解除の規定が不明確だったのを提督の提案でクリアにする。その事自体に異論はないでしょう」
「気持ち良くなる、の定義が難しいよね」
「一緒に考えましょう!」
「そうだね!こうしちゃいられねぇや!じゃあね提督!」
「失礼いたします提督!あっ、あの」
「えっ高雄さんまで行っちゃうの?え?なに?」
「次に愛撫して頂けるのを楽しみにしておりますわ。お早めにお願いしますね」
「おはやめに」
「ええ、私がお胸様の良さを忘れる前に・・っと、鈴谷さん!どちらへ行きましたか~?」
ええ・・ホントに行っちゃったよ・・
そして執務室は濃厚な行為の後の匂いと、ボーっとした私と、本日の書類が半分以上未着手のまま残された。
とりあえず換気するか。
ゆえに昼過ぎに陽炎が様子を見に来て、一通り叱られて手伝ってもらうといういつものパターンになりました。
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その夜、まもなく日付が変わろうという時。
食堂の明かりが消えると同時に建物から出てきたのは、鈴谷と陽炎だった。
「やぁっと認めてもらえた・・・えへ、えへへへ」
「鈴谷頑張ったわね。お疲れ」
「陽炎のフォローがあって助かったよぉ。川内に中立な第3者判定を提案された時は肝が冷えたって~」
「あれは無理よ。司令が萎えちゃうもの。いつまでたっても始まらなくなるわ」
「それを陽炎が指摘してくれたから廃案に追い込めたんだよぅ」
「まぁ分かるけどね。鈴谷がまだ気持ちよくないって言い続ければ際限ないんだし」
「快感度合いで嘘はつかないって4回も宣誓させられたし」
陽炎はげんなりする鈴谷に微笑んだ。
「でもまぁ、それこそ杞憂だと思うわ」
「なんでさ?」
「多分一発よ」
「いっぱつ」
「だって今夜の高雄の証言聞いたでしょ」
全体評議会は何も鈴谷の盟約の話し合いだけが行われた訳ではない。
常日頃から提督に関する情報共有が行われており、特に快楽に関する情報は事細かに共有される。
もちろんオカズになるからである。
「もちろん聞いたし。うん、ちょっち我慢するの大変だった」
「さすがに議場でイったら恥ずかしいからねえ」
「でもさぁ、高雄が妙に臨場感あふれる説明するんだもん」
「最後の方は結構な子達が代わる代わるトイレ籠ってたわね」
「この前の翔鶴の時はちょっと翔鶴の感覚がマゾ過ぎて引き戻せた瞬間があって助かったんだけどさ」
「今回はずぶずぶの快楽って感じだったわね。痙攣してても優しく容赦なく魂までイかされるって表現は凄かったわ」
「明石は絶対証言を録音したやつ売るつもりだよね」
「でしょうね。長期遠征中の子も居るし。まぁ外販しない事だけは念押ししといたけど」
「この前来た海外艦隊の子達もうちの提督が男だって事は黙秘してくれてるみたい」
「あれは取引があるから」
「何の取引?」
「黙ってればポーラは毎月1本良いワインがこっそり手に入るわ」
「言うと?」
「それまでの明細が請求書としてザラに届く」
「そりゃ言えないねえ」
陽炎は微笑んだ。
確かに司令は艦娘を汚い手でハメるなとは言ったけど、司令を守る事は全てに優先される。
陽炎はそう思っている。
「見つかったら絶対難癖付けられて保護区送りにされるからね」
苦笑していた鈴谷も真顔に戻って頷いた。
「それだけは絶対防がないとねぇ。たとえ日本を滅亡させてでも」
陽炎も、鈴谷も、艦娘達も分かっている。今の国の上が腐り果てている事を。
保護区が保護区の役割をなしていないことも。
善良な民衆が紛れているからこそ国の単位で守っているが・・
「司令に比べたらこんな国の1つや2つどうでも良いわ」
陽炎の言葉に、鈴谷は当然とばかりに頷いたのである。