皆様、本当にありがとうございます。
「昨日の今日で鈴谷が秘書艦かい」
「なーに?嫌なの?めっちゃ落ち込むんですけど」
「いやその、おっきするってか仕事にならないから」
「じゃー鈴谷が机の下にもぐればいい?」
「なんで」
「え?男の人って机の下に居る女に無理矢理ハメるとヌきやすいって」
「どんだけ拗れた変態だよそんなことないよ」
「そうなんだ」
耳年増って言葉があるけど、鈴谷は、いや、陽炎にしても翔鶴にしても時々こういう変な事を言う。
・・・まさか保護区って男も女もキチガイしか居ない?
勘弁して欲しい。
「じゃー提督はベッドで寝るのが良いの?」
「なんで私が寝るのさ。寝るのは鈴谷の方でしょうが」
「へ?」
「何が?」
「だって寝たら動きにくいじゃん?」
「だから」
「ん?鈴谷背中が擦れちゃうよ?」
「なんでそこで鈴谷が動くんだよ・・・ってあー」
貞・操・逆・転!
動くの女の子の方かよ!
「まっ、まさか、まさか提督が動いてくれたりとかアリなの?」
「アリっていうかそっちを考えてたよ」
「素晴らしいね貞操逆転世界!」
「そうかい?私は文化の違いにぐったりしてるよ」
「あれ、じゃあ鈴谷ずっと動けないの?」
「いんや、大体交代するよ。疲れるもん」
「ティルドーンはありですか?」
「ティルドーン?」
「貫徹連続勤務?」
「やめてくださいしんでしまいます」
「あはっ・・ほんと、仕事にならないねぇ提督ぅ。なんならもうあっち行ってヤる?」
「そうしたいのやまやまだけど、1つ伝言があるんだよ」
「誰から誰に?」
「陽炎から鈴谷に」
「げげっ・・・なんて?」
「夕方までに仕事が済んでなかったら当面秘書艦から外すわねっ、だってさ」
「仕事しよう提督。今すぐ」
「切り替え早いね」
「ほらグズグズしない!出撃書類3セットさっさと書く!」
「鬼軍曹が居る」
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「やーっと終わったねー」
「マジで休憩ゼロでここまでやらされるとは思ってなかった」
「あーんしてあげたでしょー?」
「カレーうどんじゃなきゃ良かったんだけどね」
「書類にハネちゃったもんね」
「ってか、うどんをあーんするなよ火傷するだろうが!」
「ふーふーしたじゃーん!」
・・・。
解ってる。
二人ともわざとじゃれているに過ぎないのだ。
浜風は訂正しようがないほど完璧な書類を提出してきたし。
川内は私にニッと笑いかけながら握りこぶしの人差し指と中指の間から親指出してきたし。
漣はフォークリフトの操縦席からとてつもなく悪人面でニヤニヤ笑ってこちらを見ていたし。
食堂の間宮さんすら鈴谷に向かって黙ったまま「ファイトー!」とポーズしてたし。
鎮守府の皆から期待されてるんだという事が嫌でも解る。
ていうか、そこまでお膳立てされないと私がヘタるって事を皆知ってるって事だよね。
そのとおりだけれどもさ!
「あ、あー、鈴谷」
声が裏返るよちくしょう!
「んなっ、なにかなぁ提督ぅ」
そこで頬染めるなよ可愛いなあほんとにもう!
「・・・うん。鈴谷、今夜お相手してください」
「がっ、がんば・・る」
なんとなく二人で両手で握手してから、私の部屋へと足を向けたんだ。
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午前3時を告げる、ボーンボーンという執務室の柱時計の音が聞こえる。
あー・・・
ふと視線を感じてそっちを向けば、妖精さんが何人かでそれぞれ物を持っている。
「どうしたの妖精さん・・ありゃ紙巻きたばこ。良いの?ありがとね」
私にタバコとライター、灰皿を手渡すとふいっと消えてしまった。
1本取り出して火をつける。この体で喫煙経験あるのか知らないけど。
カチッ・・シュボッ・・・スウーッ
「ふー」
部屋の中はむせかえるほどの牡と牝の愛の香り。
とてつもない、満足感。
ほぼ同量の、虚無感。
さながら今の私はパンクしたタイヤのチューブ。
ふにゃふにゃの役立たず、賢者タイムを添えて。
紫煙を吸い込み、刹那の間肺に蓄え、少しだけ空気を吸って、ベッドの上空へと全て吐き出す。
深夜の藍色とほのかな外の薄明かりの闇の中、白い煙が漂っていく。
紫煙を吸い込み、部屋の空気を汚し、また吸い込む。
一言も発せず、ただ吸って吐く。
そんな私の傍らで、鈴谷はうにゃうにゃ言いながら眠っていた。
「・・・喜んでくれたかな。大丈夫だと思うのだけど」
指が火傷する寸前まで吸いきると、タバコをぐいと灰皿に押し付ける。
むせなかったという事は喫煙経験ありだな、この体。
まぁこんなおっさんなら経験くらいしてるだろうよ。
そっと、起こさないように鈴谷の頭を撫でる。
怠惰な時の流れの中、綺麗な水色の髪は、深夜の薄明りでも綺麗に反射していて。
漂う濃厚な香りと煙が、鈴谷を汚してしまうような気がして。
だから私は、窓を開けた。
「もう1本吸うかな」
体はとうに萎えたけど、頭が興奮して眠れそうにないから。
私はタバコを咥え、また火をつけた。
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「おはよー」
「おはよう、皆」
「おっ、おはようさんやね!」
「おはよー」
「はよー」
鈴谷と連れ立って食堂に向かう道すがら、所属艦娘の子達が挨拶してくれる。
どことなく何かを聞きたくてうずうずしてる、そんな感じ。
何かじゃないね。解ってる。でも歩きながら言う事でもないし。
「頂きます」
「いただきます」
静かに手を合わせ、朝食を食べ進めていると、隣からふわりと違う香りがした。
「おっはよ、提督」
見なくても分かる。川内だ。そのまま食べ進める。
「おはよう川内、隣に座るなんて珍しいな」
「たまにはね」
みそ汁の汁椀を手に取り、啜る。
「うん、で、ここで話したくはないんだけどな」
「わーかってる解ってるって。皆そこまで野暮じゃないし、違うよ」
「すると?」
「提督、大丈夫?」
意外な言葉に川内の方を向くと、心配そうな川内の顔が間近にあった。
「大丈夫って、何が?」
「無理してない?」
「どういう意味で?鈴谷は最高だったよ?」
「そうじゃなくて。私なんかがシちゃって良かったのだろうか、とか思ってない?」
うぐ。川内はこういう所鋭いなあ。
川内は私をじっと見た後、ちゅっと口づけをした。
「へっ?」
「ねぇ提督、そんな心配しなくていいよ。向かって座ってるんだから、ちゃんと見てあげなよ」
「えっ?いや、見てるよ」
「見てないよ、提督。ちゃんと、鈴谷の表情を見てあげて」
「?」
私は改めて、向かいに座る鈴谷の顔を、表情を見た。
・・・・あ。
「鈴谷・・」
「・・なに?提督」
「・・綺麗に、なったな」
「・・うん。提督の女にしてもらったから」
私の真向かいに座る鈴谷は、どこか大人びていて、素敵で。
いつも以上に、綺麗だったんだ。
「ちゃんと見せてくれるかい?」
「これでいい?」
「あぁ。綺麗だよ鈴谷。ほんと、綺麗だ」
「ねぇ提督」
「うん」
「鈴谷、幸せだよ。こんなに心の底から幸せな時間、生まれて初めて経験したよ」
「・・・よっ、よかっ・・た・・・良かった」
「なんで泣くかなぁ」
私がポロポロと泣き出すと、川内が両腕でぐいっと私の頭を自分の方へと引き寄せた。
「ほらね、鈴谷は幸せなんだって。大丈夫、大丈夫だよ」
「あぁ・・良かった・・・良かった・・・」
あぁ、私は不安だったんだ。
こんなにも好意を寄せてくれる、こんなにも可愛い子を。
どうあっても絶対に失敗できない1度しかない機会を。
私なんかが満足させられるのか。痛いとトラウマを植え付けてしまわないか。
翌日に痛みは出てこないか、そもそも行為の後で後悔の念に苛まれないか。
川内が背中を押してくれるまで、私は怖くて鈴谷の顔を見られなかった。
でも、恐る恐る見た鈴谷の顔は、晴れ晴れとしていて幸せに満ち溢れていて。
微塵も後悔していなかったんだ。
あーもう、本当に、本当に私は臆病で意気地なしで。
でも今だけは、川内に頼らせてもらおう。
しゃくりあげ続ける私と、その頭を抱き撫でる川内と、微笑みながら見つめる鈴谷を。
食堂の皆は、しょうがないなあと笑いながら許してくれたんだ。