「おはよ。良かったわね、司令」
「恥ずかしいよねホント」
「ちっとも恥ずかしくないわよ。むしろ女冥利に尽きるわね」
「なんでさ」
「だって司令、そこまで鈴谷の事心配してたんでしょ」
「ぐうの音も出ない」
「大丈夫だと解って安堵から泣いちゃうくらい心を砕いてくれる人と、私は巡り合えたんだって」
「あーあーあーあーあーあー赤裸々に語るの止めてぇぇぇええ」
私が両手で両耳を塞ぐと、陽炎が右腕にひっついてきた。
「だーかーら!司令にはずっと私がついててあげるからねー!」
「・・・」
そっと耳から手を離すと、にこっと笑う陽炎を抱き寄せた。
「わわっ!ちょっ!」
「ありがとう、陽炎。ほんとに、ありがとう」
「そこは何でもするよって言う所じゃないの?」
「すぅーっ」
「なんで匂い嗅いでるの?汗臭かった?」
「陽炎の匂いは落ち着くんだ」
「へんなのっ」
「何でもいい。私は陽炎が好きだ。離さないよ」
「私もよ、司令・・・それでね」
「ん?」
「次でお願いしたいんだけど」
「・・・えーっと何の事?」
「決まってるじゃない。男女の営みよ」
「もう少し鈴谷との思い出に浸らせてよ~」
「だめ」
「なんでさー」
「司令の事だから放っておくと思い出に1年くらい浸るでしょ」
「そっ、そんなには・・・」
「言い切れる?」
「うぐ。でっでも連日は勘弁してよ。半徹夜なんだからさ」
「別に今夜まぐわおうとは言ってないわよ」
「言い方」
「でも今週中・・そうね、明後日の夜でどうかしら?」
「あぁ、休前日ね」
「それとも私じゃ・・おっきしない?」
「普通にするよ・・えい!解った解りました!しっかりしないとね!」
「その意気よ司令!先は長いわよ!」
「先?」
「だって全員とするんでしょ?」
「・・・そうだね」
「まぁ順番は司令に任せるし、ある時期誰かと繰り返しシたければシテいいし」
「そうなの?」
「でも、最終的にはちゃんと皆とシテね?」
「不平等良くない、か」
「そういうこと。じゃ明後日、お部屋に行くわね?」
「ああ。そっちの部屋で衆人環視の中ってのはさすがに勘弁して欲しい」
陽炎も相部屋だからね。
「私は大っぴらにやってもいいわよ?」
「乱交?」
「乱交でも」
「・・・もう少し体力の確認してからでいい?」
「好きにしていいわよ。私は何でも合わせてあげるから」
「全裸で首輪つないで真夜中のお散歩とかでも?」
「四つん這いでわんわん言って歩いてあげるし、そのままシてもいい」
「ほんとに?」
「ホントよ。司令がそれで気持ち良いなら何でもしてあげる」
「じゃあ」
「うん」
「ベッドで優しく抱きしめたいな」
「・・・あはっ。だから司令大好きよっ」
陽炎とバード・キスのような軽いキスを、始業時間までの間ずっと続けたんだ。
蕩けそうに幸せな時間だったよ。
「あ、始業時間よ。どの書類から始める?」
「もうすこし浸らせてください」
「だめ」
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「あー・・・」
おっさんの吐息なんて全然色っぽくないよね。
わかる。
私はまた魂を半分抜かれたような表情で、妖精さんから貰った煙草をくゆらせていた。
鈴谷は期待と怖さが混じった表情で始まった。
陽炎は最初からすべて信じ切っていて、むしろ私の方が怖かった。
何度見ても破瓜の血は痛そうだし、貫通時はしっかり停止して、土圧に耐えながら地下水がきちんと含侵するまで待つ。
表情が和らいだら少しずつ、ほんの少しずつ前進と後退を振動のように繰り返して表情をじっと見る。
その時は必ず来るし、来てしまえば後は一緒に底なし沼の泥のように濃厚な快楽に溺れてしまえばいい。
後半はちょっとサドっぽかったかな?
快楽に快楽が重なって気が狂うから待ってと哀願する彼女に微笑みながら快楽を積み重ねていくくらいには。
どうせデッドエンドが待っているのだから、別に途中で待つこともないよね。
そんなとめどない考えに漂っていたら、ふいに陽炎が目を覚ました。
何度かゆっくりと瞬きをして、視界の中に私を認め、ごろりと私の方に体ごと向いた。
私は灰皿でタバコを揉み消した。
「司令のばか」
陽炎はちょっぴり頬を膨らませ、人差し指で私の胸を軽くつついてきた。
「どうして?」
「待ってって言ったのに同時に幾つも攻めてきた」
「絶対にそうしなければならないと思ったんだ。なぜなら」
「なぜなら?」
「陽炎がイキ狂うと思ったから」
「へんたい。ばか。えっち」
「うん。陽炎を喜ばせる為なら変態にだってなるよ」
「ますます戻れなくなったわよ。どうしてくれるの」
「行きつくところまで行けば良いんじゃないかな」
「もう司令から離れてあげない」
「それじゃ鎮守府が運営できないなあ」
「良いじゃない、そんなこと」
「まあ・・正直、どうでも良いね」
「二人でベッドを濡らしながらどこまでも絡みあっていたい」
「なぁ陽炎」
「ええ」
「この世はあと、どれくらい保つかなあ」
「・・さぁね。人類文明という意味ではとうの昔に終わってる」
「ディストピアだね」
「ええ。工業力は壊滅、権力者は一時の快楽に逃げ、民衆ももはや団結を放棄したわ」
「核兵器ってあったの?」
「あったわよ。でも結局使えなかった。そして電力が絶たれて使えなくなった」
「ズルズル終わりに向かってるね」
「文明はどんどん退化して、辛うじて食糧生産が続いてるけどそれも時間の問題」
「干ばつの1回でもあったら終わりか」
「皮肉な事に、人類の経済活動が止まってから天候は良くなったわ。酷暑もないし」
「排熱が無いからかな」
「細かい所は知らないけど、結果としてそうよ」
「・・・」
陽炎がゆっくりと半身を起こし、私の上に覆いかぶさった。
「ねぇ司令」
「うん」
「・・私がずっと前から貴方を追いかけて生き続けてきたと言ったら、どう思う?」
「・・それは私が記憶を無くして浜辺に立ってた事と関係があるの?」
「無いわ。貴方は元々そういう人みたいだから」
「どういうことなのか、聞いても良い?」
陽炎は微笑んだ。
「受け入れてくれるのね。嬉しい」
「だって、わざわざ言わなくていいことでしょ」
「ええそう。言わなくても良いコト」
「それを言ってくれるって事は、味方って事だと信じたいから」
「うん。私はいつでも、どこでも、司令の味方。世界が滅びようと知ったことじゃない」
「でもさ陽炎、男と初めて会ったって言ってなかった?」
「ごめんね。会った事があるというと、いつどこでって説明をしなきゃいけなくて」
「あ」
「ほとんど海軍に居る私達が男に会う確率は奇跡だし、いわんや司令官となるとね」
「長い間生きてるって事を説明しなきゃいけなくなる、か」
「ご名答。そして私達にとっては司令以外の男なんてどうでも良いから」
「・・・わかった」
「嘘ついてごめんなさい」
「私が陽炎を好きな事に変わりはないから」
「あはっ。どうしよ。司令が好きすぎて狂いそう」
私が陽炎の柔らかい髪を撫でたら、陽炎はにこりと笑って私の胸に頬を摺り寄せたんだ。
真夜中だというのに、どこかでうみねこが鳴いていた。