「そうかあ」
「どうかなさいましたか?」
朝の光を浴びながら執務室に入ると、穏やかな微笑みを称えた翔鶴が待っていた。
あいさつを交わし、軽い作業調整をして、仕事を捌く。
一段落した所で昨夜の陽炎の話を思い出し、口をついて漏れ出た言葉に、翔鶴が反応したのである。
「翔鶴はさ、艦娘としてでも、その後でも、何か願いはある?」
「ございます」
「聞いても良い?」
「はい。貴方様と共にいる事です」
「一緒に?」
「ええ」
「んーと、それは・・」
私が何と言おうか迷っていると、翔鶴は微笑んだ。
「はい。陽炎さんよりは短いですが、私も貴方様とのおつきあいは長い方ですから」
「ねぇ翔鶴」
「はい」
「思ったんだけど、もしかして、今うちの鎮守府に居る子達って・・」
翔鶴は緩やかにほほ笑んだ。
「そうですね、少なくとも18名は以前から付き従ってきた者達ですわ」
「そうじゃない人って、例えば誰?」
「間宮さんや大淀さん、後は球から建造された子達です」
「それは何故なんだろう」
「間宮さんと大淀さんは、本営からいつも派遣されますから」
「お目付け役?」
「大淀さんはそうですね。間宮さんは単純に絶対数が少ないので偏らないようにと」
「そっか。じゃあ情報は筒抜けなんだ」
「いいえ」
「えっ、でも大淀は情報収集役なんでしょ?」
「違反行為、いわゆるブラック鎮守府と化した場合に憲兵を呼ぶのが彼女の役割です」
「うちも違反行為じゃないの?」
「結果的にはきちんと海域攻略と深海棲艦を減らしてますし、鎮守府内はブラックではありません」
「・・もしかして大淀は、生命体じゃない?」
「ご明察です。彼女はAIです」
「そして大淀がチェックする所を避けるように、君達が頑張ってくれている?」
「頑張るというより、もう慣れてしまいましたので」
「球から建造された子は・・」
「偶然うちの鎮守府に配属されただけでしょう。ただ・・」
「ただ?」
「我々の側に、理を外れてでも来ることを希望している子もいます」
「もしかして、その違いって直接私と話してるか否かかな」
「はい。私達しか、貴方様のお傍には近づけていません」
「それは・・」
「万が一にも保護区とやらに誘拐されないようにです」
「そっか。なんか、沢山感謝しないといけないね」
「それはもう沢山頂いていますので。今世でも、その前でも」
「なぁ翔鶴」
「はい」
「私はどうして、浜辺に立っていたんだい?」
翔鶴は悲しそうに首を振った。
「解りません。それが解るのなら、私達はそこまで苦労しないのですけど」
「苦労?」
「いつの時代の、どちらに、どんな形で貴方様が現れるのか、そして消えるのか」
「ん?」
「それさえ解れば、私達も安堵できるのですが」
「えっと、翔鶴」
「はい」
「私は過去、何度も消えてきたということ?」
「仰る通りです」
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どうやら、私は時折時間を飛ばすように、不意に消えてしまうらしい。
例えば西暦で1400年から1405年まで居た後、急に1530年にあらわれる、みたいな。
過去には遡った事はなく、現れるのは常に日本のどこからしい。
そして数年から数十年居たと思ったら突然いなくなり、今度は50年後に現れたりするらしい。
何十年も先だったり、数年先だったりと、規則性もないそうな。
私は首を振った。
「自分で言うのもなんだけど、こんな普通のおっさんそんなに追いかけるほどの価値があるかい?」
「貴方様は今の世の中で、ご自身が普通の範疇だとお考えですか?」
「・・・あー」
貞操逆転するくらい男女比が壊れてる世で、保護区の中に囚われてる男どもを普通として?
普通がゲシュタルト崩壊するね。逆か。
「私達にとって、貴方様は理想です。ですがこの世にはもう、そのような殿方はおりません」
「そっか」
「私達は生きてはおりますが、輪廻の理から外れてしまっています」
「長く、生きてきたんだよね」
「はい。一番年若い者でも数百年の時を経ていますから」
「どうして外れてしまったの?」
「解りません。ただ、遥か昔、私達はとても激しい戦いに身を置いていました」
「うん」
「そして攻め込まれ、もはや魂まで燃え尽きようという時、願ったのです」
「・・・」
「ずっと貴方様のお傍に居たいと。時を超えようと、ずっと」
「・・・」
「いつからこの身だったかも覚えておりません。元々人であったかさえも」
「・・・」
「ですが、いつも慈しんでくださる貴方様は一緒に過ごせば程なく判ります」
「・・」
「貴方様がこの世に現れるのをお待ちして、現れたらお情けを頂いて、消えている時の悲しさに備えるのです」
「・・ごめんねと、言った方が良いかな」
「とんでもありません!理を外れてなお付き従いたいと願ったのは私達。何度も現れてくださることが奇跡」
「・・」
「ですからお会い出来た時は嬉しくて、嬉しくて、本当にただ、うれしいのです」
「・・だから皆、こんなにも好意的なんだね」
「はい。お傍に居られる短い時を、精一杯おもてなししたいのです」
「今度は、長く一緒に居られると良いなあ」
「そうですね。後、出来れば・・ほっ、本当に欲深い事ですが」
「?」
「貴方様のお子を、1度、身籠ってみたいです」
私は翔鶴を見た。
翔鶴は両手で自分のお腹をさすりながらこちらを見ていた。
「次の休日はいつかな、翔鶴」
「明日の夜になります」
「じゃあ翔鶴の部屋に行くね」
「よっ、よろしいのですか?」
「授かるかは分からないけどね」
「あはっ・・とても幸せです」
私を見る翔鶴の表情が、蕩けそうな笑顔で。
初めて私は、この子達から愛されることを許された気がしたんだ。
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目の前の翔鶴の柔らかな肢体が、玉のような大粒の汗をかいて。
私の動きに合わせてしなり、そして時折不規則に痙攣する。
満ち足りて、でも終わったことを切なく思い、そして新たな快楽をどこか欲する瞳がこちらを向く。
この子達といつまで居られるか分からないけれど、
最後の時まで、ずっと愛して、慈しもうと決めた。
「さあ翔鶴、もう1回だよ」
「あぁ、わたし・・あなたさま・・うれしい・・」
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「あー・・」
もはや恒例の、紫煙をくゆらせる時である。
箱を開けると、吸った分だけ本数が減っている。
吸ってもむせこまず、特に体調の悪化も感じない。
そういえばこんな銘柄知らないなあ。妖精さん謹製なのかな?
翔鶴の安らかな寝顔を横目に、私は紫煙を宙へと吐き出した。
鈴谷の時は2本吸っても落ち着かなかったのに、今は1本で良くなった。
こんなとてつもない幸せにすら、人間は慣れていくんだなあ。
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それからは罪悪感が吹っ切れたので、心が楽になった。
秘書艦と会話を楽しみ、帰還した艦隊の筆頭艦娘と話をし、食堂でも積極的に話しかけた。
そして皆で調整してくれているのか、大体2日に1回ずつ、男女の営みを重ねた。
それでもよくよく観察してみると、私と会話している所属艦娘は20人くらい。
さりげなく配置されているけれど、抜かりは一切ない。そんな気がした。
この子達を泣かせたくない。
こんなにも愛らしい子達をもっと喜ばせたい。
そう願って、私が出来る事でそれが叶うことが、本当に嬉しかった。
でも時計の針は確実に回っていて、その時が来てしまったんだ。