艦娘可愛いです。   作:銀匙

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【その30】

 

 

「オ前、フザケルナヨ?」

執務室のドアがノックも無しに開かれたと思ったら、そこに居たのはメガネをかけた女性。

服と呼ぶには奇怪なそれを含め、全身真っ白でいかにも不健康そうで。

そしてさらにその表情は、疲れ果てて憔悴してますといった有様だった。

 

即座に身構えたのは傍らで仕事をしていた浜風で、強く指笛を吹くと兵装を展開、発射した。

飛んでくる建物の破片を腕で防いでいると、不意に首根っこを掴まれた。

 

「交渉ノ為ニ来テモラウゾ」

 

顔を上げると、そこにはメガネ女。

これは生きて帰れないなと、私は瞬時に悟った。

それくらい彼女の眼には憎悪が満ちていたんだ。

 

 

-----

 

 

破壊された執務室を見ながら、陽炎は浜風に尋ねた。

 

「浜風、なにがあったの」

「アラートシステムをハックした集積地棲姫による強襲です。提督が誘拐され、このメモが残されました」

「ふうん・・マーカーは?」

「どうにか。しかし、今も正しいかは」

「そうね。翔鶴達の第2艦隊を至急呼び戻して。出来るわね?」

「命に代えても」

「それはまだ。解るわね?」

「はいっ・・・すみません」

「謝らないの。貴方は最善を尽くしたわ。強いて言えば、謝るなら提督に。ねっ?」

「ははっ!」

 

浜風は頭を下げつつ震えていた。

自分にかけられた労いの言葉とは裏腹の、大津波のような殺気の塊。

陽炎が、怒っている。

 

 

-----

 

 

「艦対艦ミサイル、第3艦隊に1人何本ずつ揃えられる?明石」

「今の備蓄だと一人12本です」

「90本ずつ揃えるには何分かかるかしら?」

「とっ、特殊な化学原料が幾つか不足します」

「それはいつ揃えられるの?遊びじゃないのよ?」

「直ちに確認します!」

「15分以内に予定を」

「はいっ!」

 

「私達から提督をかっ攫うなんて、その度胸だけは褒めてあげましょう」

「まぁそうね。たかが今の世にポッと出てきた化け物風情が」

「急ぎ戻って来たのを無駄にしないよう、最高火力でお焚き上げしないといけませんね」

「その意気なんだけど・・翔鶴?あたしも食いたいから独り占めしちゃだめよ?」

「それはお約束しかねます!あははははっ!あははははははっ!」

 

「どーお夕張?足りそう?」

「ぎりっぎり。ほんっとーにぎりっぎりね。あっただけ凄いわ」

「ごめんね。もう少し余裕持たせたかったんだけど」

「足りるから大丈夫よ明石。提督奪還の為ですもの。必ず間に合わせるわ!」

「妖精さん向けの金平糖もっと持ってきます!」

 

 

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「・・あの、川内さん?」

「・・・」

シュッ・・・シュッ・・・シュッ・・・

苦無を研ぎ続ける川内に、更に話しかけようとした漣を浜風が押しとどめた。

「ダメです。ああなった川内さんに話しかけると敵味方関係なく吹っ飛ばされます」

漣は薄く笑った。

「・・あたしは」

「今回は明石、菊月とともに、鎮守府の留守居役をお願いします」

「だよね。ええと、本営には」

「言わなくて結構です」

「近隣の鎮守府にも?」

「不要です」

漣は下を向き、拳を握りこんだ。

「・・ご主人様はずっと、こういう時に備えて近隣に物資をあげてきたのに」

「・・」

「こっ、こんな時にも、頼っちゃだめなのかなあ」

「違いますよ漣」

「?」

「頼れないのではなく、頼る必要が無いのです。お任せください。必ず連れて帰ります」

漣は浜風の方を向き、頷きを返されたのでグイと腕で涙をぬぐった。

「うん。お願いね浜風。ご主人様にはどうしても帰ってきて欲しいんだ」

「はい。それから、帰還時に修理が発生すると思います。今から準備をお願いします」

「・・ほいさっさ!リフトオペは期限内に場内差配しきってこそ一人前だよね!」

むんずとヘルメットを掴みフォークリフトへ向かう漣を見送ると、浜風は波止場に向かって駆けて行った。

 

こうして、提督が誘拐されてから2時間の後。

全身黒づくめの3艦隊18隻が、静かに鎮守府を出航した。

 

第1艦隊

旗艦陽炎、副艦川内、伊8、伊168、伊26、呂500

 

第2艦隊

旗艦翔鶴、副艦高雄、伊19、伊58、谷風、皐月

 

第3艦隊

旗艦夕張、副艦鈴谷、祥鳳、初月、浜風、黒潮

 

 

-----

 

 

右を向いても、左を向いても。

 

「・・・・」

 

どこを見ても深海棲艦しか居ない。

さほど大きくない島がコンクリートでフラットに固められていて、いかにも物を置く場所だ。

しかし、そこには何も置かれていない。

強いて言えば海に程近い所で椅子ごと縄でぐるぐる巻きにされた私が座らされているだけだ。

 

エサだなあこれ。完璧にエサだ。

猿轡が口に食い込んで痛いなあ。

 

「クックックックック!コレデカエリウチダ!」

 

「はがー・・・」

 

縛られた口から間抜けな声が漏れる。

 

多分、ここにあった物資をうちの子が「返してもらった」のだろうな。

よく見ればメガネ女の装備はかなりボロボロで。

修理にも事欠く状態まで追い込まれて、しかも持って行った相手の居所が掴めたら、そりゃキレるか。

 

でも、そんな世の中にしたのは君達なんだよ?

人類文明の中に溶け込んで、サプライチェーンの中に混ざっていたら、物資の奪い合いにはならなかった。

それを全部自分のもんだと相手を叩き壊しながら奪ったらさ、そりゃ取り返しに来るよ。

こっちだって生活あるんだし、突然出てきた君達にひれ伏す理由も無いし。

 

あーやだやだ。戦争っていつもこう。

あーだこーだ屁理屈つけても結局誰かの醜いエゴでしかないんだよ。

土地だの名誉だの宗教だのクソくだらない理由と欲で他人の命を踏みにじってさ。

このメガネ女がこの辺の深海棲艦の取りまとめかどうかは知らないけどさ。

下っ端なんていつも醜いエゴに踊らされてるだけなんだ。

 

そんな事を考えながら見ていたからだろうか。

ふとメガネ女と目が合った時、椅子ごと蹴り飛ばされた。

 

「ガハッ」

「アハハハハッ!アハハハハハ!モウスグ資源復活ダ!」

 

顔を足で踏みつけられた。

生憎私はそういう趣味はないんだよ。

分かり合えそうにないなあ。

コンクリートの地面は、火傷しない位には熱くて。

司令官なんて、所詮こんなもの。

本当に自分の無力さを痛感するよね。

ん?妖精さん?どうしてこんなとこに?

危ないから帰りなさいって。

 

 

-----

 

 

「こちら翔鶴、伊19の示す海域上空に彩雲を展開完了」

「了解。夕張はお仕事の時間よ」

「始めてるし、集まってる島は見つけた。でも提督が確認できてないから待って」

「ダミー置いてる可能性もあるから慎重にね」

「提督のバイタルデータは把握済みですから」

「しっかり見つけて頂戴」

 

陽炎はインカムから手を離すと、傍らの川内に声をかけた。

「夜戦にはならない感じだけど」

川内は懐から取り出した苦無をぼんやり見ながら答えた。

「提督はさ、ずっと昔に晴着を買ってくれたんだ」

「・・」

「帯から下が血のように真っ赤でさ、上は私の髪の色に揃えたよって、綺麗な黒に染めてくれてさ」

「・・」

「ちょっとこの服は、赤みが足りないよね」

「そうね」

「奴らのブラッドバスで染めるから、エリアの中に入ってこないでね」

「じゃあザコが多い所が良い?」

「冗談。あーでも提督は居ないエリアにして。みんな叩っ切るから」

「OK。夕張が確定したら伝えるわ」

「ん」

陽炎はくるりと振り返った。

気配を感じた伊8が本を閉じた。

「私達は表に出ませんよ?」

「それで良いわ。メインは逃げるアホどもの始末よ」

伊8はにんまりと笑った。

「提督を攫っておいて逃げようなんておこがましいですからね」

「そうね。逃げたら何百年かけても地の果てまで追い詰めるし・・」

「提督が居ない間の良い暇潰しにはなるんですけどね」

「それでも、何匹も居たら面倒だから」

「追う時間が長いほど、魂が壊れるまで徹底的にやりますからね、私達は」

「そういうこと。だからなるべくこの場で潰しておいて。頼んだわよ」

「いつものことです。任せてください」

伊8がひらひらとハンドサインを出すと、伊168、伊26、そして呂500は音もなく潜航を開始した。

静かな海原には陽炎と川内だけが残された。

 

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