艦娘可愛いです。   作:銀匙

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【その31】

 

 

偵察機から送られてくる映像やデータを見つめていた夕張の眉が寄った。

「見つけた。ばっちりバイタル一緒・・あれ?・・っと、ねぇ陽炎聞いてるかしら?」

「はいはーい、何、夕張?」

「あのね、提督が地面に転がされてる」

「・・・は?」

「縄で全身縛られて、椅子・・かな?何かに縛り付けられて・・あと、ええとその・・集積地棲姫に顔を踏みつけられてる」

「・・・へぇ。全体のマッピングとクズメガネの座標マーカーは?」

「終わったわ。転送する」

「お疲れ様。後はそこからザコ潰しお願いね」

「それじゃあ東と北を担当するわ。始めるタイミングは?」

「いつも通り、交渉決裂からよ」

夕張はニイっと笑った。

「いつも通り、決裂させるんでしょ?」

「そうよ。話し合いなんて生温いもの」

「提督に危害が行かないようにね」

「その辺のヘイトコントロールは心得てるわよ」

「じゃー引き続き彩雲からモニタリングしてるわね」

「そうして。あ、翔鶴聞いてるかしら?」

 

 

翔鶴は静かにインカムに手を当てた。

「はい、感度良好です」

「貴方もいつも通り、領海を周回しながら徹底的に航空制圧をかけて。提督の防壁もかねて」

「かしこまりました。では皆さんには私の護衛と着艦誘導をお願いします」

翔鶴が言葉を区切って周りを見ると、高雄達が頷いた。

にこりと翔鶴が微笑み、再びインカムに集中する。

「まぁ今更だけど、撃ち漏らさないでね。提督の命の安全に直結するから」

「私はその為に生を受け、ここに居りますので」

「あはっ。戦場にあなたが居ると頼もしくて仕方ないわ」

「期待と信頼にこたえてみせましょう」

 

その時、伊19がインカムのコールボタンを押した。

「陽炎、私とゴーヤはいつも通り遊撃に入るのね!」

「あーっとごめん。今回はクズメガネ近辺を手厚めにお願い」

「行けたら食っちゃっていい?」

「良いわよ。私を撃たないでね。間違っても提督に当てないこと」

「そんな接近してるのね?」

「ええ、それはもう。提督相手に野外SMプレイ気取ってるわ」

伊19が瞬く間に真顔になった。

「・・・わかったのね。クズメガネのマーカー座標転送して」

「もちろん」

伊19と伊58は互いを見ていなかった。

しかし、ぴったり同じタイミングで狙撃銃を取り出し、初弾をチャンバーに叩き込んだ。

それを見ていた皐月はぶるりと震え、肩をすくめた。

敵ながら可哀想に。

とはいえ、僕達から司令官を奪ったらダメだよ。

まぁ誰にでも誤りはあるし、七生をもって償ってくれれば、許してあげてよって陽炎に進言してあげる。

僕はこの中で一番優しいから、とりなしてあげるよ。

 

インカムから手を離した陽炎は、傍らの川内に囁いた。

「貴方のエリアは西全域。中枢棲姫までお願いして良いかしら」

川内はひょいと苦無を宙に放り投げ、パシッとキャッチした。

「狩りつくしてあげる」

「じゃあ私は行ってくるわね。インカム聞いててね」

「うん」

 

 

-----

 

 

「ゴーヤ、そっちは見えるのね?」

「時折見えないでち。ザコが邪魔でち」

「こっちもなの」

 

僅かに海に顔を出す岩に狙撃銃を設置し、伊19と伊58は腹這いでスコープを覗いていた。

 

「まぁ気長に待つでち」

「夕張のマーカーずれより、風の誤差の方が怖いのね」

「最悪ヘッドショットは諦めるでち」

 

 

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「準備完了いたしました。全航空隊、発艦始め」

「まあなんだ、敵の空襲を甘く見ちゃだめだー。なんだかんだでごっついからなちくしょうめい!」

空を見上げる谷風に、程なく発艦作業を終えた翔鶴が振り向いた。

「ふふっ。そうね谷風さん。それはこちらも同じ事ですけど」

そこへ皐月が近づいてきた。

「ねぇ翔鶴、僕は着艦誘導専門で良いの?」

「高雄さんに敵艦船の警戒と始末はお願いしたので、敵潜水艦の殲滅をお願いします」

「はいはーい、相変わらず人使いが荒いや・・・っと」

皐月がキャッチボールをするかのように気の抜けた投擲で爆雷を投げる。

少しして腹に響くような鈍い音が海深くから聞こえると、潜水艦の残骸が幾つも浮かんできた。

翔鶴は微笑んだ。

「出来ない事を頼んだつもりはありませんよ、皐月さん」

「僕、出来ないとは言ってないよ・・っと」

 

ドズズン、ズズン・・

 

気だるそうに爆雷を投げ続ける皐月の瞳は、何物をも反射しないほどに昏かった。

 

 

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「鎮守府から交渉の為に陽炎が来たと伝えて。集積地棲姫のオーダーよ」

「通セ」

 

陽炎は先導するニ級の後を追いながらメモを開いた。

(交渉役は一人で、資源に関する全権限を持たせろ、ね。随分資源がお好きなこと)

震えてるふりでもした方が良いかしら?

 

「オマエガ交渉役カ?」

「そうよ」

「資源移送ノ権限ヲ持ッテイルナ?」

「資源だけじゃなく、全ての権限を持ってるわ」

 

集積地棲姫は私をゆっくり引き起こすとバインダーを取り出し、大声で読み上げた。

 

「燃料:15万8554

 弾薬: 8万5022

 鋼材:12万3112

 ボーキサイト:3万8118

 

 以上ヲ持参シタラ、コノ人質ノ解放ヲ考エテヤロウ。

 刻限ハ1両日以内ダ。

 

 ・・・解ッタカ?」

 

私は頭の中で帳簿を思い出していた。

ここ1ヶ月の獲得量の2倍ってとこか。随分大きく出たな。

まぁある所にはどうせあるんだろうけど、近隣では無理だ。

交渉決裂で失われるのは所詮私の命だけ。切り捨てられて終わりだな。

 

だから私は、微笑んで陽炎を見た。

見捨てろって意味で。

 

少し離れた海の上で揺らめく陽炎が、一瞬私を見た気がした。

だから声をかけようとしたら再び蹴り倒されたんだけど、その時言い知れないほどの寒気に襲われた。

遠くでもハッキリ解る。いつもの陽炎の目じゃない。

あれが深海棲艦を前にした、艦娘の眼光なのか。

 

駆逐艦の「駆逐」とは、害を与える恐れがあるものを追い払う事を意味する。

文字通り敵を駆逐する為の艦なのだと、あの小さな体が主張している。

 

陽炎は静かに集積地棲姫に視線を戻すと、小首を傾げた。

 

「あら、随分少ないわね」

「ナニ?」

「全部25万、いえ、50万ずつくらい必要じゃないかしら?」

「ゼッ全部50万ズツダト?ソッ、ソンナニカ!」

「そうよ」

「馬鹿ナ奴ダ。ジャア全テ50万ズツ寄越セ!」

「何言ってるの?」

「エッ?」

「支払うのはお前達よ、クズメガネ」

「?」

「知ってた?私達、搾り取れるのよ」

 

陽炎が右腕を掲げ、踊るように優雅に左肩へと動かす。

集積地棲姫も私も、呆然とその動きを目で追った。

陽炎はニイッと笑い、にゅっと拳の親指を立て、自らの首に向けると、そのまま左から右へと手を動かした。

「死ね」

 

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