艦娘可愛いです。   作:銀匙

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【その32】

 

 

陽炎が合図をした、その時。

 

「ヤラセルモノカ!!オチロォッ!!・・・エッ?」

 

中枢棲姫は配備した部下の隊列が、1点を中心に突然崩れていく様を目の当たりにしていた。

ぽかんとする間にその1点は部下を次々と宙に飛ばし、ぐんぐん近づいてくる。

 

「ナゼダ・・ドウヤッテ?・・アレハ、マサカ」

 

中枢棲姫の額を嫌な汗が伝う。

深海棲艦の間で伝えられている、海の魔物と呼ばれる存在。

その中の1つの特徴と、目の前の光景はぴたりと当てはまる。

何十年も観測されてなかった、紅のつむじ風。

 

「ソンナバカナ・・シンジラレナイ・・ドウシテ私ノ所ニ・・ヒギィッ!!!」

 

ひたり。

 

いつの間にか、立っている部下は一人も居らず。

真横を見れば、真っ赤に染まる一人の艦娘。

自分の喉元には、血塗れの苦無が当てられていて。

 

「キッ、貴様」

 

川内は苦無を軽く払ったように見えたが、中枢棲姫の首は綺麗に落ち、光の粒となった。

 

「ねぇ提督、買ってもらった晴着、鎮守府ごと燃やされちゃって、ごめんね。

 こいつら狩りつくしたら、また、買って欲しいなぁ。

 もう売ってないか・・・伝統工芸だって言ってたもんね・・・

 生産してた町全部、目の前で燃やされちゃったもんね・・」

 

川内は瞳に浮かんだ涙をぐいと右腕で拭い、爆発が続く島の南部へと目を向けた。

暗い瞳に殺意を漲らせて。

 

「ぜんぶ殺さないと、終わんないもんね」

 

 

-----

 

 

「そろそろ観念しなさいよ。皆待ってるんだから。うふふ」

 

鈴谷はモニタを見つめながらコントローラを捌く夕張を呆然と見つめていた。

艦対艦ミサイル。

提督と妖精が戯れに作った大量破壊兵器。

夕張を旗艦とする私達第3艦隊のうち、祥鳳以外は大部分の兵装を艦対艦ミサイルポッドに載せ換えた。

夕張のコントローラで遠隔操作されるポッドは私達の意志と無関係に次々ミサイルを発射していく。

そんな夕張の横顔は狂気の笑みをたたえていて。

 

「凄い良い!あぁイきそう!1度に21隻誘爆なんてサイッコーね提督!」

 

緑に彩られたモニタに映る赤い点が、刷毛で塗られるかのように次々と青い点へと変わっていく。

 

「ここね!あとここ!ここも!あはははっ!良いデータが取れるわねっ!」

 

ガチンッ!

 

背後で起きた大きな音に、鈴谷は我に返った。

背中を見るとミサイル発射ポッドは全て空で、うっすらと煙が上がっている。

 

「あ、鈴谷さんのポッド、空かしら?」

「はっはい!」

「イイトコだったのに・・まぁ良いわ。次いきましょ!祥鳳!」

 

声をかけられた祥鳳はにこりと微笑みを返した。

「とっくの昔に上空到達して旋回中です。早く切り離してあげてください」

 

「よぉ~っし!行けっ!」

 

鈴谷の目の先にあるモニタは島の北部と東部の形を背景に赤い点が沢山並んでいたが、一瞬で青に変わった。

やや遅れて雷が100回落ちたかというような鋭く空気を切り裂く音がして、鈴谷はびくりとした。

 

「良いわねえMOAB。非核兵器だし範囲指定型だから提督は安全だし」

 

鈴谷はごくりとつばを飲み込んだ。

普段の艦隊戦がおままごとのようだ。

夕張がこちらを見てにこりと微笑んだ。

「さぁ、生き残りを始末するわよ?ついてきて」

 

 

------

 

 

陽炎のハンドサインと共に、世界が弾けた。

 

目の前に居た集積地棲姫は2つの大穴が開き、命の炎が消えた表情でゆっくりと崩れ落ちた。

間髪を容れず飛来する数多の爆撃機、等間隔で投下され続ける爆弾。機銃掃射の雨。

私と陽炎の居る僅かな場所を除いて次々と起きる爆発、深海棲艦達が昇天する光の洪水。

周囲の敵を蹴散らしながら私に近づこうとしている陽炎。

 

長いのか短いのかさえ分からない、あっという間の出来事だった。

 

ふと傍らを見ると、さっき居た妖精さんが一生懸命両手を宙に向かってかざしている。

周りを見れば、私の居る所だけ半球型のドームに包まれていて。

 

「守って、くれてるのかい?」

 

そう声をかけたら、妖精さんがちらりとこちらを見て、ニコッと笑いかけてくれたんだ。

 

私は、情けないことに腰が抜けた。

縄でぐるぐる巻きだけど、更に動けなくなって、真上を向いて転がった。

ドーム越しに見える夥しい数の光の粒が、次々と昇っていっては消えていって。

 

「皆、こんな激戦をして、毎日帰ってきてくれてたんだ・・」

 

そんな事を思っていたんだ。

 

 

------

 

 

「ごめんねっ!ごめんね司令!待ってる間痛かったでしょ?猿轡取ったわ!」

「ありがとう。いや、こんなのほんと、大丈夫だから」

「待ってね・・待って、後はこの縄を・・あっ!」

 

陽炎があっと声をあげた瞬間、私をぐるぐる巻きにしていた縄が綺麗に真っ二つになって落ちた。

顔をあげたら陽炎ではなく川内が目と鼻の先に居た。ドアップです。

 

「提督、大丈夫?痛む所は?」

「どうしたんだよ川内、いつもみたいにひょうひょうとしてくれよ」

「ふざけてる場合じゃないからだよ!」

 

ちゅっ

 

私は川内の唇にキスをした。

「ほら、大丈夫でしょ?落ち着いて」

 

川内がぺたんと女の子座りで座り込んだ。

「ありがとう、心配してくれて」

「てっ提督が、提督がまた燃やされちゃうんじゃないかって・・心配で」

 

随分ハードな死に方だな過去の私。

 

「そうか。そりゃ心配するわな。でも大丈夫。生きてる。生きてるからさ」

「ふっ、ふえ、ふええ~ん」

私は泣き出した川内を抱きしめたのだけど、彼女は全身血塗れで。

でも服が無事だから、多分返り血だけ。

ここまで来るのに、一体どれだけ戦って辿り着いてくれたのだろう。

今日だけではなく、今まで。

「苦労かけてごめんね、川内。よしよし。よーしよし」

 

戦争って理不尽。

この子達が生き残るために、相手を殺さないといけない。

殺してもいずれ、世界がデッドエンドに達する。

軌道修正するには、もはや遅すぎる。

もっとずっと、この子達と、愛を語って平和に生きていたいのに。

なんでこんな世界に、この子達は居るんだよ・・

 

号泣する川内を抱きしめつつ、顔を上げると苦笑いの陽炎がそこに居た。

私は二ッと笑った。

「絞らなくていいからね」

「そ?じゃあやめとくわ」

「えーっと、この場合はただいまって言えば良いのかな?」

陽炎がふふっと吹き出した。

「おかえりって言えば良いの?司令」

「そうなるか。ただいま、陽炎」

「おかえりなさい、司令」

「まさか資源探訪が毎日こんな苛烈なものだとは思ってなくてさ」

「えっ?」

「ほんとにありがとう、陽炎も、皆にも、ほんと感謝してる」

「あー、あのね、そのぅ」

「惚れ直したよ。実に勇敢だったね」

「いやー」

 

陽炎は少し視線をそらし、カリカリと頬を掻いた。

普段からこんな事してたら鎮守府に幾ら資源があっても足りないです。

生きてきた中でもほぼ最大級の戦いだったんだけど・・・

でも・・

まあ・・

褒められたからヨシ!

 

「じゃっ、じゃあ皆で帰りましょ!戦闘終了を知らせるわね!」

「あぁ」

「陽炎から全艦隊、陽炎から全艦隊、司令、無事保護したわっ!」

インカム越しに歓声が聞こえる。良かった。

「あ、夕張はいつまでも遊んでないでちゃちゃっと片付けてきてね~」

どういうことですか?

 

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