ちなみに皆様のご意見を総合し、改めて映倫基準等をふまえて慎重に再検討し、R18タグは外しました。
R15タグは念の為残しています。つまり元通りです。
【その1】
「・・んごっ!?」
私は頬杖が外れ、ガクッと頭が下がるのを反射神経で押さえつけた。
顔を伏せたまま周囲を見回すと会議の最中らしい。危ない危ない。
自席の手元には1ページも開かれてない資料がある。
視野の端を駆使して隣席の開いてるページを開く。
なるほど。成果報告か。そりゃ眠くなる。
・・・・。
ふと、ページ右上の文字に目が行く。
は?海軍だって?
そういえば自分の衣装は真っ白な軍服だし、同じ方角を向いて並ぶ面々も同じ格好をしている。
こちら側を向いた、今熱弁をふるってる人達は黒いけど。
いや服の話ですよ?腹の中の話なんてしてないですって。
で、最も肝心なこと。
私、なんでここに居るんですかね?
・・・・・。
落ち着け。まだ慌てる時間じゃない。
うたたねをしてたってことは、会議の最初から出席してたんだろう。
途中で飽きて資料読んでる体を取りつつ休息を取るスキルは社会人にとって必須。
しかしそれよりもっと根本的な疑問に気が付いた。
私は誰ですかね?
・・・さすがに慌てる時間かな?
頬杖をついた姿勢のまま、軍服に名札とかついてないかなと極限まで視線移動を駆使して探し回る。
おっ、机の上にネームプレートがあるぞ。
透けて見える名前は・・桧山竜二ね。へー
“ひのきやま?”違うか。“ひやま”だろうな。“たつじ”?“りゅうじ”?これは分かれるぞ。
そんなことを考えてると、場内放送で休憩をアナウンスする声が聞こえてきた。
空気が弛緩し、咳払いや小声での会話があちこちで展開される。
誰かに声かけられたら苗字の確認は取れるか。よしカモン!
りゅうちゃんとか読んでくれたら名前の呼び方が分かるからこっちでもオッケーだよ!
・・・・・。
あれぇ?
誰も声かけてこないよ?
そもそも向けられる視線すらないよ?
私幽霊じゃないよね?
よし、トイレ行ってみよう。
待ち行列とか隣同士でするときに話しかけてもらえるかもしれないし!
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・・・・・えっ、男トイレどこ?
ないよ?あれ?ほんとにないよ?
長蛇の列はどこも婦人用のみで紳士用が見つからない。
無いと思うと急に催してくるの何でなんだろうね。
余りにも見つからないので仕方ないから多目的トイレに入ったよ。
扉が妙に遠いトイレってなんか不安になるよね。カギ閉め忘れてないかとかさ。
ふと、鏡が目に入る。
そこには整った顔立ちではあるが、およそ生気の感じられない細い男が映っていた。
・・・まるで見覚えが無いんですが。ていうかおっさんだったよね私?あれっ?
戸惑いを押し破って尿意が迫って来たので慌てて便座に向かう。
腰かけて落ち着くと、別の疑問が湧いてきた。
なぜ、女の人しかいなかったのだろう?
海軍なんでしょ?
そういえば説明してた人の声も女性っぽかった。
別に女性管理職なんてありきたりだし気にも留めてなかったけど。
よし、会場で男を探すか!
トイレの場所教えてもらえるかもだし!
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私は重い溜息をついた。
閉会を知らせるアナウンスが流れるその時まで目を皿のようにして捜したけど、列席者に1人として男と思しき人物はいなかった。
いやまぁそういう部署なのかもしれない。
だとしたらなんで私はここに居るんだという事になるんだけどさ。
間違って居るのなら誰か指摘するだろうし。
ドアとか普通に使えたし、追加資料配られたときも渡してもらえたから私が幽霊説は無い。
それにしても困ったぞ。
自分の名前の呼び方すら解らず、ろくな記憶がない。
正確には言葉を話したり思考する程度の知識はあるが、自分に関する記憶が出てこない。
既に周囲の面々は書類を片付け始めている。
席を立つ者、書き物をする者など、バラバラな感じだから更に飲み会という雰囲気でもなさそうだ。
どうやって帰ろうかな。職場どころか家すらわからん。
誰になんて説明したらいい?
「提督、どうした。まだ片付けていないのか?」
私に向けられた声のような気がして、そっちに何気なく顔を向けて2度見した。
そこには艦これの長門の格好をした女性が立っていたからだ。
えっちょっ!?
この子、軍の会合にしれっとコスプレで入って来たの!?
警備員に連行されるんじゃないの!?
大慌てで周囲を見ると、いつの間にか列席者それぞれに艦娘の格好をした子達が寄り添っている。
え?あれ?普通に会話してる気がするんだけど、軍の会合じゃなかったの?
さっきの内容だってどれも大真面目なものだったよ?
オフ会にしては手が込みすぎてない?
ってか要らないよねオフ会にそんな演出!
「なんだ?誰か探しているのか?」
「あ、いや、待ってくれ。すぐ片付ける」
「帰るだけだから急ぎはしないぞ」
「ごめんね」
心の中は大パニックだけど、とりあえず片付けを優先した。
途中ネームプレートを持って帰るべきか悩んだんだけど、名前を書いた紙だけ抜いて鞄に入れた。
書類と筆記具も突っ込み、取っ手を手に顔を上げると、長門が怪訝そうな表情をしていた。
しかしこの子、長門そっくりの美人さんだなあ。
「おまたせ。ええと、どうかした?」
「・・いや。では行こう」
「うん」
言葉遣いも立ち居振る舞いもいかにも長門だわ。徹底してるね。プロかなあ?
私は長門の後に続いて部屋を出た。
誰一人咎める者も居ないし、皆艦娘の格好をしたコスプレ女性達と真面目な顔で話をしている。
一体どういうこと?
建物を出ればその横には広い運河が掘られており、多数の飛行艇が並んでいる。
どれもエンジンがかかり、運河を滑走路として次々と離陸していた。
長門が1機の方角に歩み始めたのでついて歩いていたが、なんとなく歩みが遅くなった気がした。
話しかける時は成りきった方が良いのかな。
「えっと、長門さん」
「・・なんだ?」
「飛行機、苦手?」
長門はぴたりと立ち止まり、ゆっくりと私に振り向いた。
その目には明らかに困惑の色が見えていて、
「なぜ、今更?」
そう尋ねてきたんだ。
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「・・・己の名前を含めて綺麗さっぱりだと?」
「うん」
「悪戯なら今ごめんなさいすれば忘れるが?」
「元の私ってそんなだったの?」
「い、いや、そうではない・・・すまない、取り乱した」
そこで長門は初めて目を伏せた。
機内はプロペラ機にしては静かで、相当防音に腐心したのだろうと思った。
外観に対して機内が狭すぎるし、機外が見える窓もない。
だから私と長門は向かい合って座っているし、普通に会話が出来ている。
間を置いて、再び長門が口を開いた。
「提督は、我々に無関心だった」
「そっか。ああええと、長門さん」
「なんだ?」
「ほんと申し訳ないけど、なんて読むのこれ?」
私は鞄からそっとネームプレートから外した紙を出して長門に見せた。
長門は頷いた。
「“ひやま りゅうじ”だな」
「そっか」
「本当に覚えていないのか」
「ええと、一切合切というわけではないんだけど、別の世界の記憶で上書きされてる感じがする」
長門が眉をひそめた。
「どういうことだ?」