「・・これはゲームの模造品などではない。ほら、砲も動くだろう。ここで撃つわけにはいかないが本物だ」
長門はそう言って背負ってる砲台を1つ動かしてくれた。
小さいのにしっかりミリタリーの動きである。
本物の、長門なんだ。
ってことはリアル艦これの世界、しかもなんか男女比まで狂ってそうとかもう嫌な予感しかしない。
「はー」
私が砲台の様子をしげしげと見つめていると、長門が溜息をついた。
「にわかには信じがたいが、信じるほかないようだな」
「えっ何か変?」
「行きの機内では一言も会話をしなかった、と言えば解るか?」
「私が書類でも読んでたの?」
「何もしていない。ただじっと座っていただけだ」
「向かい合ってるのに押し黙ってたの!?」
気まずいなんてものじゃないんだけど。
「ああ。言っただろう。提督は我々に無関心だった、と」
「所属艦娘は何人いるの?」
「14人だが、提督は恐らく知らないだろう」
「なぜ?」
「出航指示書しか見ていなかったからな」
「え?だって指示するには誰が居るか知らないと計画しようがないでしょ?」
「それは私達が行っている。提督は我々の提出した出航計画を承認していただけだ」
長門はちらりと私の目を見て、ふっと微笑んだ。
「おかしな話だが、記憶を失ったという今の方がよほど心があるように見える」
「私に?」
「ああ。あと、これは気に障らないならという話だが」
「うん」
「さん付けは要らぬ。長門と呼んでほしい」
「解った」
私は居住まいを正し、まっすぐに長門を見た。
「改めて・・ええと、これから行く先は鎮守府だよね、長門?」
「もちろん」
「どれくらい時間ある?およそでいい」
「2時間だ」
「それまでにとりあえず鎮守府での直近の行動予定を教えて。あと鎮守府内の内情や常識も」
「常識?」
「うん。なるべく違和感を持たれないように動かないと迷惑かけるでしょ」
長門は苦笑した。
「何もかも違和感しかない。最初から素直に打ち明けた方が良い」
「そんなに?」
「眉一つ動かさず我々を見もせず飛行艇に乗り込んだのが朝出発した時の提督だ」
「えぇ・・」
「我々を感情のある目で見る時点で既に大違いだ。諦めろ」
艦娘の皆を前にその態度は、死んだふりするより難しいだろうなあ・・
「じゃあ皆に一度に説明した方が良いんだね」
「ああ。食堂なら全員入れる。不在者には別途伝えればいい」
「じゃあそうするよ。あ、すぐ捌かなきゃいけない仕事ある?」
「特には無い。私がしているからな」
「・・・ねぇ長門。それって普通?」
「どういうことがだ?」
「司令官ではなく艦娘が差配すること」
長門は軽く首を振った。
「さぁな。女が司令官の所なら司令官が仕事するが、唯一の男の司令官だからな」
私は目をつぶった。この推論は間違っててほしいのだけど。
「えっと、この世の男女比は」
「貴殿は海軍唯一の男性で、少なくともこの県で男性観測例は他にない」
おうっふ。想像以上に悪い。
「か、観測するレベルなんだ。ええと、男性が持つ特権はあるの?」
長門は頷いた。
「男性は希望すれば医師を除くあらゆる職業に無条件で就けるし、強い権利で守られているから罪に問われることもほぼ無い」
「何それ怖い」
「その代わりに、精子提出義務がある」
「・・だろうね」
「貴殿の場合はその他に見合いの義務がある」
「見合いの義務?」
「非婚姻者だからな」
「えっと、結婚する相手は選べるの?」
「男性の意思が最優先される。だが貴殿は見合いの席で1度も頷いたことも、声すら発したこともない」
「よほど酷い相手ばかりだったの?」
「適齢期の女性を主に、子供から大人まで、それこそあらゆる女性が来ているぞ」
「ええと、見合いのペースは?」
「週のうち2日間で大体40人前後来る」
「1日20人!?それ誰が誰だか解らなくならない?」
「相手があいさつをしている間に部屋を出ていくのが普通だった」
「・・・あのさ長門」
「あぁ」
「結婚すればそれは終わるの?」
「5人以上との結婚が必要だがな」
「そこに艦娘の皆は含まれるの?」
長門はジト目になった。
「偽装結婚は男性の数少ない罪だが、刑罰は保護区送りだから事実上の終身刑だぞ?」
「偽装と判断される根拠は?」
長門は自らの額に手を当て、ゆっくり答えてくれた。
「婚姻手続きをしていないこと、会話等の接触が長期間絶たれること、繁殖行為をしないこと、同居しないこと、だ」
「じゃあ鎮守府所属の子とケッコンカッコカリして毎日会話すれば問題ないね」
「違うぞ提督」
「え?」
「常にすべて満たす必要がある。だから繁殖行為が抜けているな」
機内に沈黙が訪れた。
「いやだって出撃してる子達を妊娠させられないでしょ」
「義務は繁殖の行為のみだ。そして艦娘は建造できる。本当に妊娠したとしても代役を建造すればいい」
「・・なるほど」
「むしろ最初から繁殖の為に好みの艦娘を建造してもいいだろう」
「いやそれは」
長門は腕組みし、宙を見つめた。
「そうか。今まで考えも及ばなかったが、確かに我々艦娘を隠れ蓑に使うのはいい案かもしれないな」
私はジト目になった。
「だってさ・・繁殖行為はどうするのさ」
「行為の証明は周囲の者の証言だけだ。時折同じ部屋で寝泊まりすれば真偽は闇の中だ」
「行為そのものは私が控えればいい話だけど、好きでもない男と同じ部屋で寝るの嫌じゃない?」
長門は眉を寄せた。
「どういうことだ?まだ何か大きな差異が横たわっていそうな気がするぞ」
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「男女比1:1?女性が貞操を守る?古文書にすらそんな記述は無いぞ?」
「古文書レベルで無いの!?」
「とはいえ古い文献の多くは戦争で焼失しているからな。残された記録での話だ」
「どこまで遡れるの?」
「私が知る限りでは300年ほど前の公文書までだ」
つまり男が市民権を失って300年以上たってると。
よく人類残ってるなあ・・
「じゃあ男を生んだ母親というのは・・」
「まず妊娠中は医師に検査ミスを疑われる」
「だろうね」
「そして証言した医師ともども自治体に誤りだと疑われる」
「えっ」
「最後に国の担当省庁に誤りを疑われたのち、母親は神仏として崇められる」
「えっ」
「貴殿の母上は出産時に亡くなったそうだが、ご母堂を本尊としたお寺が建立されたぞ」
「は?」
「連日参拝客が列をなしてるそうだ」
「ご利益は」
「男児出産」
「ですよね」
「だから貴殿はその収入で十分生きていけるはずなのだが、ある日何故か司令官職に就くと海軍に通告してきた」
「軍に?個人が?通告?」
「海軍全体で上を下への大騒ぎになり、この鎮守府が設立された」
「わざわざ作ったんだ」
「それで、本営勤務経験のある艦娘が配属され、運営を任されている」
「あ、それが長門なんだね」
「ああ。正確には私、日向、金剛、大淀の4名だ」
「で、長門達が運営してくれてるんだ」
「そうなる。だが・・」
「どうしたの?」
「改めて考えれば、提督は見合いを避けるために鎮守府勤務を所望したのかもしれないな」
「なぜ?」
「軍事基地たる鎮守府に入れる民間人は限られるし、戦争の最前線に来たがる富裕層なぞいない」
「あー」
「だが、有名寺院のオーナーでは金目当て男目当てが群がって仕方あるまい」
「うっわぁ・・」
多分長門と同じこと考えてるだろうけど、控えめに言って欲塗れの魑魅魍魎が跋扈するフィールドやん。
見染められるだけで名声・権力・財産が手に入って自分も働かなくていいんだからそりゃ群がるわ。
“カモがネギ背負って”ならぬ、“男がカネ背負って”ってか。
男からすればパニック映画も真っ青の展開だよ。
長門が私に深々と頭を下げた。
「考えが及ばなかった。許せ」
私は長門の両肩を押し上げた。
「やめてよ。今の私だって前の私の考えも、内に秘めた裏事情もわかんないよ。謝る必要なんてないから」
長門は私の手が当たる自分の肩を、そして私をしげしげと見つめた。
「・・その、おかしなことを言うと怒らないでほしいのだが」
「うん?」
「提督が今のままであることを・・・その、願ってしまいそうになる」
「元の私に戻るかわかんないけどさ、長門」
「なんだ?」
「私が私である限りこんな感じだから、仲良くしてね?」
「ああ、よろしく頼む」
長門が微笑んだ。初めて見せる、柔らかい笑みだった。
ご指摘頂いた方に補足します。
「出航」と「出港」は相当悩んだのですが、大辞林等で調べると「航行に出る」のが「出航」で、「港から出る事」が「出港」とあり、ここでは計画、つまり出港から帰港までの全プランニングという意味で「出航」としました。
なお、「出撃」だと遠征等攻撃が主目的ではない計画が含まれないためこれも除外しています。