「本当に本当に本当にほんっとーにお前という奴は・・ピンを抜いた手りゅう弾を持ってる気分だ」
「それ5秒後には必ずアウトってこと?」
「うっかり手を緩めるとレバーが外れて取り返しがつかなくなるという事だ」
「おっ、まだレバーは付いてるって評価なんだ。そっかぁ」
「ホッとしてるようだが私は決して褒めてないからな!?」
金剛になだめられ、足柄が加古をドナドナしていった後。
私と長門は食事もとらず、何故か食堂の玄関前で果てしない言い合いを続けていた。
いや、正確には私が無理やり続けてる感もある。
「なんだ?」
長門は完全にジト目で私を見てくる。
夜の風に長門のマントがゆらりとたなびく。
私は自然とクスクス笑いながら言った。
「ほんと、長門は私の心をよく読んでくれるよね」
「なんだと?」
「軽妙な受け答えには絶対にあうんの呼吸が必要なんだけど、長門とは息ピッタリな気がするんだ」
「お前と一緒にするな」
「いつの間にか提督呼びからお前に格上げされてるし」
「どう考えても格下げだ!」
「仲良くなって結婚しようね、長門」
「んなっ!?ばっ!?ばかもの!」
「知ってるかい?男女は惹かれあって、仲良くなって、ずっと一緒に居たいから結婚するんだし」
「・・・」
「大好きな相手だから二人の結晶として子供を作りたいって思うんだよ?世界の事なんてどうでもいいんだ」
長門は渋い表情をしていたが、溜息と共に表情を戻した。
「そうか。男性の気持ちなど古文書にも記されていないからな。すると今はずいぶん勝手な解釈が横行してるな」
「勝手な解釈?」
「そうだ」
「どこで読んだの?」
「それはもちろんエ・・・」
「?」
「さて提督の部屋に案内しよう。こっちだ」
「長門?ねぇ長門さん?何言いかけたの?」
「何も言いかけてなどいないさ」
「長門もエロ小説なんて読むんだね」
「聞こえてるじゃないか!」
「語るに落ちたね?」
「うぐっ!」
「そこは長門さん、“くっ殺せ!”って言ってほしかった」
「私に騎士物のようなセリフを言わせるなっ・・あっ」
「そういうの好き?私は好物だよ?ねぇねぇ」
私はその時、多分生涯で一番悪辣な笑顔だったと思うんだ。
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「起床はマルロクマルマルで良いか?そうか解ったそれじゃあな」
「あっ」
バタン。
閉められた自室のドアを内側から見た私は肩をすくめた。
夜でも解るくらい顔真っ赤になってたな。
・・・さすがに悪戯しすぎたか。明日謝ろう。
「きっと私は、長門と出来る丁度いい会話が楽しかったんだなあ・・」
テンポとか、話題とか、リズムとか。
そういう波長が合う人との会話というのは果てしなく続けられる。
きっと長門とは上手くやっていける。
私が弄り過ぎなければ。
部屋の鏡を見ると、昼間トイレの鏡で見たのと同じ男がそこに居た。
違和感は強いんだけど、元の自分も解らないというね。
なんとなく鏡に手を振り、力なく笑ってみる。
詰襟のホックを外し、上着を脱いで椅子の背に掛ける。
途端に着替えが面倒になってそのままごろんとベッドに寝転がった。
そういえば午後からずっと緊張し続けて疲れたのかもしれない。もう昨日だけど。
「全然見覚えのない天井だなあ・・」
丁寧に模様が施された天井、品の良い色の木目の通った柱、汚れのない壁。
記憶基準で考えれば一流ホテルとか迎賓館って言った方がしっくりくる。
ただ、それは・・
「どこにも生活感が無い。本当に心が弱ってたんだろうな」
心の衰弱が限界を迎えて私が目覚めた可能性もある。
「だとすればもう、元の桧山竜二は帰ってこないだろう」
言葉にしたとき、恐らくそれが正解だろうとしっくり来たんだ。
そのまま目を瞑るとあっという間に眠りに落ちていった。
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いつの間にか私は白一色の空間に居て、夢なんだろうなとぼんやり思っていた。
そして目の前には一人の人間。いや、元の桧山竜二氏が立っていた。
本当に生気の無い目でまっすぐこちらを見ていて恐ろしくなったんだけど、ふいに話し出したんだ。
「君が僕を救ってくれたの?」
「何を願ったの?」
「僕はもう生きていたくない。けれど自殺を図ったら保護区送りで生き地獄になる」
「・・・」
「今の世の蘇生は艦娘の技術を基にしてるから、頭に銃弾を撃ち込んだくらいじゃ治されてしまうしね」
「えぇ・・」
「八方塞がりの中で、誰か代わりに生きてほしいと願ったら、解ったって声がした」
「ほう」
「女の声だったからまた侵入者かとうんざりしたんだけど、周りには誰も居なかった」
「・・」
「今日の昼過ぎからずっと、君の少し上から俯瞰していたんだ」
「そっか。あーっと、されて嫌なことはあった?」
「僕が考えもしない行動をしてるの見て、代わってくれたんだって実感で喜びいっぱいさ」
「えっと、さ」
「ああ」
「こうして会いに来たのは、何か心残りがある?聞くよ?」
「心残りじゃないけど、教えとこうと思って」
「何を?」
「自室の机の一番上の引き出しの一番奥に銀行のカード。暗証番号は889194だよ」
「銀行まだ機能してるんだ」
「ほとんど貸金庫だけどね。あ、営業担当は体目当てだから会わない方が良いよ」
「ここに何が入ってるの?」
「お賽銭」
「・・・なるほど」
「ここにきてから残高確認もやってないけど、金は力だから損はないと思うよ」
「暗証番号の数字に意味は?」
「早く逝くよ、だよ。ずっと母さんの所に行きたかったから」
「いけそうかい?」
「うん。そろそろお迎え来るみたい。じゃあ後はよろしく。本当にありがとう」
差し出された右手を私は軽く握った。
そのままゆっくり消えていく彼の表情は安堵と幸せで満ちていた。
夢の中で、ただ1度だけ。
私はこちらの世界の男と会話し、軽く握手をして、別れた。
きっと二度と男と話す機会なんて無いだろう。
もっと聞いておくべきことはあったかもしれないけど。
目を開けるとうっすら空が明るくなり始めていて、雲間から天使の梯子が見えた。
あれを伝っていったのかな。
「後は好きにしろって事だよね」
私はぐいっと半身を起こした。
服のまま寝ていたから体のあちこちがギシギシする。
ギシギシアンアンなら良かったんだけど違うんだ。
そして机の引き出しを開けると、確かにそこにはカードが1枚入っていた。
シックな黒一色のカードにローマ字で私の名前。クレジット機能もついてるんだって。
「冥福を祈るよ。お母さんと仲良くね」
私はそう呟くと、カードを机に戻して顔を洗いに行ったんだ。