艦娘可愛いです。   作:銀匙

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【その9】

 

 

そんなお願い事をした翌日。

「おはようございます提督」

「おはよう大淀」

起こしに来た長門と当然のように爽やかな朝の会話を楽しんでたのだけど、朝食を運んできたのは大淀だった。

だが彼女が手提げ袋を持っていたので、長門は袋を指さした。

「それは?」

「不審物が混入してない事は検査済です」

「ああいや、違う。中身を聞いている」

「提督ご希望の紅茶1缶とコーヒー1袋です」

怪訝そうな顔で私の方を向いたので、私は肩をすくめて答えた。

「いや、金剛達のお茶会に交ざることにしたから紅茶をね。ありがと大淀。早かったね」

私が大淀から2つの包みを受け取ると、大淀はにこりと笑って席に着いた。

「最優先案件となったそうです」

「・・誰かの取ってないと良いんだけど」

私が大淀から食事の配膳を受ける間、長門がコーヒーの袋をつまみ上げた。

「なぜコーヒーまで頼んだ?」

「だって紅茶だけ贔屓する訳に行かないんでしょ?」

長門はくりっと目を見開き、懐からハンカチを取り出して目頭に当てた。

「うっ・・この短い間にバランスと配慮を学んだのか。そうか・・成長したな・・」

「え?マジ泣きしないでほしいんだけど?ちょっ・・長門・・ええ」

私がおろおろしていると、長門はちらりとハンカチの隙間からこちらを見てにやりと笑った。

「フッ。割とチョロいな?」

「へー、そういうことするんだ。へー」

「変わり果てた提督を乗りこなさねばならない私の身にもなってみろ」

「まさに大変だね。ひっくり返すとヘンタイだ」

「少しは協力する姿勢を見せろバカモノ。お前の事なんだぞ?」

「んー・・そういえば長門はコーヒー派?紅茶派?」

「緑茶派だ」

「大淀と一緒なんだ。お茶請けは白菜のお漬物?」

長門が大淀と顔を見合わせ、小さく笑った。

「・・昔、そういえばそんなものを茶請けにしていたな」

「今は手に入らないの?」

「生産指定リストから白菜は外れてしまったからな。もう絶滅しただろう」

「ゆずも?」

「雑木として生えてるかもしれないが、生産はされてないな」

「作ってる暇がないってことだね?」

「あぁ。食糧は自給しなければならないからな」

 

だよね。海運が無ければ食糧輸入なんて不可能だもの。

 

「じゃあ今はあまり食品のバリエーションが無いのかな」

「そうだな。種類より量の確保だ。だが一応肉魚野菜は手に入る。限られているがな」

「じゃあ感謝して食べないとね。いただきます」

手を合わせて食べ始める私を、二人は微笑んで見ていたんだ。

 

 

-----

 

 

食後、大淀の片付けを見守りながら、私は長門に尋ねた。

「えっと、所属艦娘をおさらいしたいんだけど良いかな?」

「ああ」

私は指折り数え始めた。

「長門、陸奥、伊勢、日向、金剛、比叡、榛名、霧島、足柄、那智、加古、加賀、大淀、そして」

長門が頷いた。

「昨日居なかった鳳翔で14名で全員だ。良く解ったな」

「食堂とかで会った子は覚えてるよ」

長門が肩をすくめた。

「前の提督と今の提督を足して2で割りたい」

「無表情なのにそこら中で悪戯を仕掛けて艦娘の顔を覚えない人?」

「どうして最悪の選択肢を示すんだ。完全に逆だ!」

「世の中都合の良い結果を望むと正反対の結果が来るんだよ。現状に感謝しよう?」

「想像のモンスターを示して自分を正当化するな」

「想像出来るってことは実施出来るってことなんだよ?」

「だからそれを何というか知ってるか?」

「柔らかな交渉に見せかけた脅迫」

「まさにその通りだ馬鹿者」

ふと見ると、大淀がくすくす笑っている。

「ほ、本当に長門さんと提督、息ピッタリなんですね」

「でしょう?」

「認めん」

「うふっ、うふふふ」

「あ、大淀の笑顔を初めて見た。かわいいね」

やや間があって、気づいた長門が大淀の顔の前でひらひらと手を振った。

「・・・深刻なエラーが発生しました。コード0h4d8dffe。再起動プロセスに移行します」

私は長門を見た。

「実はAIだって気づいてる人、割と居るんじゃない?」

長門はジト目で答えた。

「私が建造されて以来、本営時代を含めても初めて経験する事態なんだが?」

「何年くらいの間でしょうか」

「軽く200年以上経つのだが?」

「・・・はっ!?私は何を!?」

「あ、おはよう大淀」

「へっ!?えっ?てっ提督?あれっ?」

「落ち着け大淀。提督の悪戯がクリティカルヒットしたようだ」

「悪戯じゃないよ。本当のことを言っただけ」

「・・・な、なる、ほど・・・笑顔がかっ、かわっ・・・ピー・・・」

 

長門が再び停止した大淀を見た後、半目で私に振り返った。

そこから紡がれる声は穏やかなんだけどなぜか寒気が止まらなくてね。

 

「瞬間接着剤がなぜ生まれたか知っているか?」

「手術で切開した部分を速やかにつなぎ合わせる為です」

「そうだ。つまり人肌に強い接着力を持つ。それこそ瞬時に結合するほどにな」

「今後も自分の口でご飯食べたいです」

「だったら」

「強制お口チャックとならないよう発言内容に留意します」

「よし」

 

その後3回ほどエラーと再起動を繰り返し、ようやく大淀は復帰したんだ。

 

「まったく。次々骨抜きにするから誰も派遣できないではないか」

「ええと、ほんとに邪魔したくないからさ。長門の正規の休憩時間教えて」

「提督にしては殊勝な心掛けじゃないか」

「あと酒保ってある?」

「もちろんだ。行きたいなら同行しよう」

「それは警護の意味と」

「余計なことをしないか見張るためだな」

「どちらがメインかというと」

「後者に決まってるだろう」

 

 

-----

 

 

そして昼過ぎ。

「いっ・・らっしゃいませ!初めましてですね提督!」

「あれ?明石?」

「ああえっと、私は販売専門要員ですので艦娘としては数えられてないんです」

「スタッフさんなんだね」

「はい!だから他の鎮守府より営業時間が長いんですよ!」

「あ、そっか。兼ねてたら出航中はお休みだもんね」

「はい!うちはマルロクマルマルからフタマルマルマルまで開いてます!」

「お昼休みは?」

「ヒトサンマルマルからヒトゴーマルマルまでです!」

つまり06:00-13:00と15:00-20:00なんだ。

「切り盛りするの大変だね。ご苦労様」

「ありがとうございます!それで今日は何をお探しですか?」

「花束ってある?」

「仏花ですか?」

「ううん。贈答用」

「それなら数日前にご予約頂ければ手配いたしますが?」

「あー、それじゃあクッキーやチョコの箱詰めはある?」

「こちらに」

示されたコーナーで箱菓子を1つずつ買い、手提げ袋に入れてもらった。

「ありがとうございました!」

 

酒保を出て長門に話しかける。

 

「明石は男に拒絶反応が無かったね。ほっとしたよ」

「・・いや。あれはプロ根性だぞ提督」

「えっ?」

「脚ががくがく震えていたからな。それに、あんな素直な明石を見たことが無い」

「えっ?」

気になって酒保を振り向くと、真っ青な顔で「closed」の札にかけ替えている明石と目が合った。

明石はそのままへへっと笑い、そっと建物の中に戻っていった。

私は深々と頭を下げ、足早に自室に戻ることにした。

もうどうしたらいいのやら。

 

「で、何故そんなものを買った?」

「金剛と鳳翔に挨拶する為だよ。紅茶やコーヒーと一緒にね」

「気を遣うなら行動と態度を何とかする方が喜ばれると思うのだが?」

「んー・・それがね長門」

「なんだ?」

「海軍の打ち合わせがあった日って、私なりに興奮してたみたいなんだ」

「初めて会った日か?」

「そう。私としては記憶が一部ないまま突然議場の真っただ中に呼ばれて、長門に驚いて」

「ゲームのなりきり衣装かと言われた時には理解に苦しんだな」

「世界の変わりように驚いて、好きだった艦娘の皆と会えたのが嬉しくて」

「・・」

「私は長門が一番好きなんだ。だからこの現実がいつ嘘だって言われないかって怖かったんだ」

「・・偽りは言っていない」

「うん。その後も驚きの連続だったんだけどね、長門」

「ああ」

「人は、それでも慣れていくんだ。全然知らない世界に、こんな短時間で慣れていくんだ」

「・・」

「でもどんなに慣れても、絶対見失いたくない事が1つだけある」

「なんだ」

「艦娘の皆は可愛いし、喜ばせてあげたい。それだけだよ」

「んなっ」

「そういえばさ、長門」

「ああ」

「飛行機、苦手なの?」

長門はちらと窓の外を見て、軽く頷いた。

「・・ああ。あの一度飛び上がって、そのままの姿勢ですうっと落ちる瞬間が大嫌いだ」

「わかる」

「解るのか?!」

「わかるよ。なんか鳥肌立つよね」

「・・そうか。提督も同じか」

長門は色々な笑みを持ってるけど、初日にしてくれたのと同じくらい柔らかい笑みを、またくれたんだ。

 

 

 

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