艦娘可愛いです。   作:銀匙

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【その10】

 

 

まだ明るい午後。

長門は居酒屋鳳翔の裏口に立って、ちょうど出てきた鳳翔に声をかけてくれた。

「あの、まだ開店前ですよ?ランチは終わりましたし」

「すまない鳳翔。開店中に、というわけにはいかなくてな」

「えっと・・えっ!?あの、もしかして貴方は」

長門に遅れる形で私が登場。そうしろって長門が言うからさ。

「ごめんね鳳翔さん。話を通しておきたくて長門に無理を言ったのは私なんだ」

「話、ですか?」

「ああうん、えっとね、金剛のお茶会にしばらく参加させてもらう事にしたんだ」

「はあ」

「それで私が飲む分の紅茶を配給してもらったから、鳳翔さんのコーヒーも頼んだんだよ」

鳳翔は小首を傾げた。かわいい。

「なぜでしょう?」

「紅茶もコーヒーも貴重なんでしょ?片方だけ贔屓するのは良くないと思って」

鳳翔はポンと手を打った。

「・・ああ解りました。提督の影武者さんですね?随分そっくりな方を見つけましたね」

長門が首を振った。

「日向と同じ結論に達した所を申し訳ないのだがな、鳳翔」

「へ?」

「この方は影武者などではない。提督ご本人だ」

鳳翔は首を振った。

「いかに提督と滅多にお会いしない私でもさすがに解ります。違いすぎますよ」

長門は深く頷いた。

「全く以て同意だが、聞いてくれ」

「あ、長門。私から話すよ」

 

私は食堂で皆に話して聞かせた事に加え、前の提督との夢での会話もすっかり聞かせた。

長門さえ驚く話を鳳翔は目を丸くして、でも黙って最後まで聞いてくれた。

 

「そ、それはなんとも数奇な経過ですね」

「今でもさっぱり分からないんだけど、信じてほしいんだ」

「・・確かに、そのお話が無ければ現在がそうである理由が成り立ちませんね」

「うん。なんか無表情な人だったんでしょ?」

「はい。こんな所まで足を運ばれることもありませんでしたし」

「あ、そうだ。鳳翔さん」

「はい」

「鳳翔さんは拠点防衛専門と聞いたのだけど、ついてくれた理由を聞いても良い?」

鳳翔は俯き加減に微笑んだ。

「少し前の大きな戦いを制した時、私は足に障害を負ってしまいました」

「それはその、修復材でも治らなかったってことだね?」

「高速修復材をご存じでしたか。ええと、高速修復材は使っていませんが、妖精達は原因が分からないと」

「何故使ってないの?」

長門が首を振った。

「遠い昔に高速修復材は枯渇したからな」

「鳳翔さんが怪我を負う前に?」

「ああ。そして、妖精が直せないと言ったら高速修復材があっても意味がない」

「そうなの?」

「高速修復材はあくまで妖精が出来る事をスピードアップするだけだからな」

「そうなんだ・・あ、ごめんね鳳翔さん。それで、その障害が治らないから」

「はい。私は出航できません。それでも多少なら艦載機を飛ばし監視の真似事くらいは出来るので」

「ここを守る場所に選んでくれた理由は?」

「最初は本営の指示でした」

「そっか。一番大変な事は何だった?」

鳳翔は苦笑した。

「鎮守府のフェンスを突破しようとしてくる女性達への対応ですね・・・」

「あー」

「宅配業者や郵便配達を装ったり、本物の警察官が職務を理由に立ち入っては豹変しますので・・」

「そりゃあ・・大変だ・・・苦労かけてるね。ありがとうね」

鳳翔はにこりと笑った。

「労って頂けたので、それで十分です」

私は鳳翔にコーヒーとクッキーの袋を見せた。

「今後は鳳翔が今まで受け取ってたコーヒーと同じ数、同じペースでもう1つ届くようになるから」

「えっ・・今回だけでは無いのですか?」

「だって紅茶も定期的に受け取るようにしたからさ」

鳳翔はじっと私を見て言った。

「ダメですよ提督。私みたいなポンコツにそんなお優しい配慮をされたら誤解してしまいます」

「誤解?」

「気があるのかと思ってしまうという事です」

私は数秒、上を向いてから向き直った。

「それは誤解じゃないよ。鳳翔は懐の広さと癒しをくれるからね」

「提督」

「うん」

「それは居酒屋鳳翔の女将としての顔ですよ。わっ、私だってその、女ですから」

「女の子だもんね」

「そうです。だからヤるときはヤるのです。その気も無いのに焚きつけないでください」

うん?

「やるときはやる?」

「不肖この鳳翔、出航こそ出来ませんが陸で走るくらい、まして提督を追う為ならありったけの力を出しましょう」

「え?うん」

「ですからその、悪戯に弄ばないでください。メッ!ですよ?」

長門が首を振った。

「鳳翔、落ち着いて聞いてくれ」

「はい」

「提督は冗談を言っていないし、弄ぶ気は皆無なんだ。だからこそ余計タチが悪いのだが」

「え、あの?どういうことでしょう?」

私が鳳翔を見ると、すでにうっすら目を回し始めている。

「えっとね、鳳翔さん」

「は、はい・・」

「私は許してくれるなら、この鎮守府にいる皆と結婚したい。鳳翔とずっと一緒に居たいんだ」

「あ、あの、でも私はもう」

「出航出来るかどうかなんて気にしない。素敵な美人さんと結婚して仲良く暮らしたいんだ」

「提督」

「はい」

「私は子供には成人前から親元を離して一人暮らしさせようと思うのですが如何ですか?ああ勿論女の子の場合ですよ」

「遠くに行きすぎなので帰ってきてください」

「子育てには母乳が良いと思うのですが、もしかして粉ミルク派ですか?」

「それでも相当気が早いと思います」

「あっ、コーヒーは刺激物だから出産前は控えないといけないですね?」

「まだだいぶ先です」

「どうしましょう?居酒屋鳳翔を畳んで提督との新居を建てませんと」

「嫌な予感がするんでお店閉めるの思い留まってくださいね?」

「ウエディングドレスがいいですか?和服が良いですか?神前ですか?教会ですか?届けだけでは寂しいです」

「だいぶお戻りですが、もう少し帰ってきて?」

「あ、あの、あの、夢じゃないんですよね?」

「夢じゃないですよ」

私はそっと鳳翔を抱きしめた。

鳳翔がややあって、そっと私の背中に手を回した。

「・・嬉しいです。不束者ですが、精一杯あなた様の為に尽くしますね」

「ありがとう。大事にするからね。あ、そうだ鳳翔さん」

「どうか鳳翔と、呼び捨てにしてください。あなた」

「あ、ええと、鳳翔。あの、艦娘の皆にレベルってある?」

「ございますよ」

「鳳翔はレベル何かな?」

鳳翔はとろんとした目からふっと真顔に戻って顎に手をやり、しばらく考えていた。

「確か・・だいぶ前に大台には乗ったはずです」

「長門、大台って何?」

長門は腕を組んで大きく頷いた。

「艦娘の憧れ、レベル1000だな」

「せん?」

「ああ。鳳翔ならそのくらい当然だろう」

「ちなみに結婚出来るのは?」

「艦娘の場合ケッコンカッコカリと退役後の入籍の2段階あるが、ケッコンカッコカリでLV99が必要だ」

「長門はLV何なの?」

「900は超えた筈だ。正確な数字は確認しないと解らないが」

「この鎮守府でLV98以下の子は?」

長門が鼻で笑った。

「そんな若輩者を提督守護の為に呼び寄せるものか」

鳳翔がいつの間にか包みを手にしていた。

「それではこのコーヒーとクッキーは結納の品なのですね?謹んで頂戴いたします」

「結納の品はもっとちゃんとした物渡すから楽しみにしてて?」

「あはっ・・なんだか嬉しすぎて体が軽いです。今なら全力疾走できそうですのでちょっと走ってきます」

「えっ?あっ・・行っちゃった。ねぇ長門、あれで足に障害負ってるの?」

同じく駆け出して行った鳳翔を見ながら、長門は首を振った。

「いや、外出時は杖をつき、いつも軽く足を引きずっていたはずなんだが・・」

「どうみても両足上がってるんですがそれは」

「綺麗なフォームだな」

「長門」

「なんだ」

「現実逃避してない?」

「さぁな。で、鳳翔を口説き落としてそのまま金剛も落とすのか?」

「変なトゲを感じるけど、もしかして長門」

「なんだ」

「長門にも当然ちゃんとしたプロポーズするからね?」

「んばっ!?ばっ!バカッ!バカモノ!」

「ここで予行演習しちゃう?」

「しなくていい!」

 

なお、疾走する鳳翔を3度見した妖精さん達はその後鳳翔を捕まえて徹底的に調査した。

その結果、治らなかった筈の謎の不具合がきれいさっぱり消えており、完治のお墨付きが付いたそうな。

 

 

 

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