「あれっ!本当に知らない天井だ!」
私はピントの合った先にある天井を見て、がばりと半身を起こした。
そこは明かりが消えた居酒屋鳳翔の奥座敷。
肌に伝わる感覚で、私の下に敷かれた何枚もの座布団や、上にかかる毛布が解る。
暗闇に光る空調の運転ランプが、夜の冷気から体温を守ってくれていることが分かる。
「しまった。迷惑かけた奴だわこれ」
がりがりと頭をかいた時、ふと隣に気配を感じた。
ゆっくりとそちらを見ると、すやすやと眠る鳳翔が居た。
・・・・私はナニをしたのでしょうか?
嫌な汗が滝のように流れる。
いや!いや!鳳翔が酔っ払い相手にそんなこと合意するはずがないよ。
騙されないですよ私は。
こういう時のオチは甲斐甲斐しく世話しててうっかり寝ちゃったってやつ!
あ、そっか。
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「ん・・んんぅ」
とても良い夢を見ていた気がすると、まどろみの中で鳳翔は思った。
昨日は提督にプロポーズされて、体が軽く感じて、足が治って。
それに、お店にまでいらして頂けて、とっても幸せな一日でした。
もうすこし幸せに浸ってから起きてもバチは当たりませんよね?
無意識に寝返りを打とうとしたら、頭の先に何かがあって動けない。
そういえばいつもの枕にしては少し高い。
「んー」
ゆっくり目を開けると、だんだんピントが合ってくる。
何度か瞬きをすると、提督が笑顔で覗き込んでいる。
「・・おはよ。鳳翔」
「あの?」
「膝枕してみたんだけど、寝心地悪かった?」
「・・・いいえ。最高です、あなた」
そうは言ってみたものの、あまりの出来事に理解が追いつかない。
心臓がバックンバックン音を立てている。
でも提督の手が私の頭や頬を優しく撫でていて。
「昨晩はごめんね。迷惑かけたんじゃない?」
「・・酔って寝てしまう人は普通に居ますから」
「そっか」
プロポーズされた提督の膝枕で、朝日の差し込む部屋で二人きり。
提督の膝の上で猫みたいに撫でられて。
そっと提督の太ももに手を乗せてみる。
どうしましょう。あまりに幸せすぎて現実感がありません。
あ、そうか。なるほど。私死んだんですね?
昨日の昼辺りからずっと夢なら説明がつきます。
それなら。
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私はお疲れ様の意味を込めて鳳翔に膝枕したんだけど、鳳翔は普通に受け入れてくれた。
見たり触ったりする度に気絶されるのはちょっと辛かったんだよね。
だからこういう普通の時間が愛おしくて。
「ありがとね、鳳翔」
私は自然にそう言えて、鳳翔の唇にキスを落とせたんだ。
そしたら驚いたことに、鳳翔も沢山返してくれたんだ。
返して、返されて、無我夢中になって。
いつの間にか膝枕なんて止めちゃって、覆い被さって夢中でちゅうちゅうしてたんだ。
好きな人とするキスって、ほんと気持ち良いよね。
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「ところで」
「うん」
「私はどうして死んだんでしょう?」
「はい?」
それはそれは濃ゆいお時間の後、二人並んで寝転がり、何となく天井を見ていたら鳳翔が尋ねてきた。
「私とキスしただけで死なないでよ鳳翔」
「いえ、死んだから走馬灯の代わりに提督と仲良く過ごす夢を見ているのではありませんか?」
私は鳳翔の手をとり、1本1本指を撫でていった。
女の子の指ってどうしてこう柔らかいかな。
「じゃあ今こうして手を重ねてるのも夢なの?」
「むしろそうとしか思えないのですが」
「どうしたら現実だって解ってくれる?」
「・・・えっ?ほ、ほほ、本当に死んだあとの夢じゃないのですか?」
「うん」
それで、手から力が抜けたなあと思って鳳翔を見たらくるくる目を回していたんだ。
これで膝枕すると無限ループかなあとぼんやり思いながら2度寝したんだ。
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「簡単なものですみません」
「鳳翔と一緒に食べられるから幸せです。いただきます」
ちゃぶ台を前によそってもらったお茶碗を受け取る。
焼き魚、卵焼き、のり、お味噌汁、そしてご飯。これだよね。
なにより鳳翔と二人きり。
素敵な奥さんと食べる朝ごはん最高です。
私がそんなことを考えつつ箸を取ろうとしたら、鳳翔が顔を真っ赤にして聞いてきた。
「てっ提督、あの」
「うん」
「きっ、昨日も伺いましたけど、あの」
「ん?」
「こっ、こんなに私を惚れさせてどうなさりたいのでしょう?」
「まさにこんな感じで素敵な奥さんと仲良く暮らしたいんだけど」
「こっ、このペースで暮らしたら」
「どうなるの?」
「絶対離れられなくなります」
「あはは、お手洗いの時はさすがに勘弁してね」
「お風呂やお食事、お休みの時は構わないのですか?」
ん?冗談だよね?
「えと、鳳翔的には?」
「据え膳を断るなど女の恥」
あっ、長門の怒った顔と金剛のラリアットが脳裏に浮かんだよ?
軌道修正ですね?
はい解りました喜んで!
「えー、えっとね」
「はい」
「私はこの鎮守府にいる全ての艦娘達と結婚したいんだ」
「仰ってましたね」
「だから周期は相談になるんだろうけど、毎日は無理だよ。他の奥さんとも仲良くしたいから」
「そう、ですね・・」
しょんぼりする鳳翔を前に、私はにこりと笑った。
「だから一緒の日は目一杯楽しもうね」
鳳翔は一瞬目をぱちくりとさせた後、
「わかりました、あなた」
そう言ってとびきりの笑顔をくれた。よ、良かった。
「私から1つお願いして良いかな?」
「なんでも仰ってください」
「話をしながらご飯食べるのが好きなんだけど、許してくれる?」
「もちろんです。お話して、一杯召し上がってくださいね、あなた」
こうして私は穏やかで楽しいひと時を過ごせたんだ。
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「あの、鳳翔さん?」
「なんでしょうか」
「そろそろ自室に戻ろうかと思うのですが」
「あっ・・・・い、良い、です、よ?」
「あー」
そう。
朝食後に店を出ようとしたんだけど、鳳翔さんが捨てられた子犬みたいに寂しがる。
服の裾をつままれて、振り返ると行っちゃヤダと無言でアピールしてくるわけです。
そこで1時間。
そして店先で機嫌を取ろうと頭を撫でたらとっても嬉しそうにするので止めにくく、
気合で離すと涙目の上目遣いで見られ思わず再び頭に手を置いて。
というのを繰り返してます。
さらに1時間。
すっかり日が昇ってます。
「うん!また来るからね」
「あ、はい・・また・・また必ずお越しくださいね?」
ようやく自室に向かって歩き始めて、曲がり角で振り返ると、
「・・・・」
店の前で小さく小さく手を振り続ける鳳翔さんがずっとこちらを見てて。
ここはあえて笑って!大きく手を振って!長門の元へ帰るんです!