「始める前からゴネられてもなぁ・・」
「だろう?とりあえず決めて、運用してみて問題点を協議して改めていけば良いと思わないか?」
「思うよ。やらないと解んないことも多いだろうしね」
「てっ・・提督・・ううっ」
「ほんとに苦労したんだねえ・・よしよし、長門はよく頑張りましたね~」
「うー」
長門が初めて見せた幼子のような甘え方に、私は思わずよしよしと頭を撫でていたんだ。
ガチャ。
「ご主人様、おは・・」
「ああ大淀、おはよう・・なに?」
「よしよし、されてるんですか?」
「え?あ、うん。なんか昨日苦労したみたいだから、せめてこれくらいはね」
「私もお願いしたいです」
「大淀も苦労したの?」
「えっ、そっ、それはなんといいますか」
大淀が気まずそうに視線を逸らしたので、多分苦労かけた側だなと察した。
「じゃあ大淀が頑張って疲れちゃったときに言ってね。一杯よしよししてあげるから」
「はい。記録いたしました」
「記録するんだ。それよりご飯かな?」
「はい」
「よっし、じゃあそっちのテーブルにお願い。ほら長門?あー、今朝は甘えんぼさんだなあ」
「うー」
「ごめんね。もうちょっとしたら行くから」
「はい。ゆっくり配膳してますね」
苦笑する大淀から頭を撫でる長門へと向き直る。
珍しく長門がぎゅっと抱き着いてくるのでよしよししている。大型犬かな?
「いいよ~、一杯甘えるんだよ~、よ~しよし」
提督の視線が外れた時、大淀は思わず指を咥えて二人の様子を魅入ってしまった。
良いなあ、よしよし・・・あんな風にベタベタに甘えるのもアリですね。
バリエーションとしてデータベースに記録しておきましょう。
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「や、ほんとすまなかった。おかげで元気が出た」
「あはは。長門が一番頑張ってるし、前も言ったけど私は長門が一番好きだから」
「!?」
「沢山愛を伝えるから、仲良し夫婦になろうね」
「・・・ああ。私は貴方と共にある」
「良かった。やっと認めてくれたね」
「・・正直なところ、認めるのが怖くてな」
「うん?」
「そこに居る大淀には、以前から毎日のように相談してきた」
私が大淀を見ると、大淀は苦笑交じりに頷いた。
「大淀に何を相談しても、また夫婦喧嘩ですかとか、ノロケは要りませんとか言われてな」
「申し上げましたよね。早くご結婚されるべきですと」
「そ、そうだったね」
「私としては一生懸命相談したつもりだと、ある時陸奥に嘆いたのだ」
「ふんふん」
「そしたら陸奥にまでいい加減気づけと言われてな」
「えー」
「だが、一方で、きっ、嫌いではないと、どこかで理解はしていたのだ」
「・・」
「ただその、加古に始まり、足柄、鳳翔、加賀、陸奥、挙句の果てには大淀までおかしくなっていくのを見てな」
大淀が頬を膨らませた。
「私は正常です。オールグリーンなんですよ」
「お前が一番手遅れだ」
「失礼な」
「とにかく、そうなっていくのを見て、怖かったのだ」
「・・」
「提督に関わった者が全て幸せそうに狂っていくのを見て、私までそうなって良いのかとな」
「・・」
「だが、よしよしされて気づいた。いや、堕ちた」
「・・」
「これは甘く、底なしの沼で、程よく温かく、全身の神経を麻痺させていく」
「物凄く凶悪な罠のように聞こえるのですが、決してそんなことは無いと言いたい」
「黙れ提督。触れあった艦娘全てを全身痙攣させるほど昇天させておいて今更何を言う」
「えっそうなの?」
「加古、加賀、鳳翔、大淀、今まともな者が居るか?」
「えっ」
「会話しただけの足柄や陸奥ももう駄目だ。金剛や榛名も見た目以上に毒が回っている」
「ついに毒と言ったね?」
「直接触れ合ってない那智、日向、比叡、霧島、伊勢さえ既に異変が出始めている」
「まるで疫病だね」
「そうだ。既にこの鎮守府は取り返しがつかなくなっている。・・だが」
「だが?」
「侵された私の脳がこう囁くんだ。もう良いじゃないかと」
「・・」
「提督とずぶずぶの甘い生活に爛れ、とことんまで堕ち、歯向かう全てを焼き尽くせばそれで良いさと」
「後半怖いんだけど」
「なぁ提督」
「うん」
「よしよしされるのは、嬉しいものだな」
「そうだよ。全部認めるって事だもの」
「ああ、そうだな。堕ちてゆくのも悪くないな」
「長門、ほら、ぎゅっとしよ?」
「ああ、もういいさ。ああ提督。ぎゅっとしてくれると温かくて心地いいな」
「うん。大好きだよ、長門」
提督と長門が固く抱き合うのを見て、大淀は自分の頬を掻いた。
昨日長門さんに負荷をかけすぎたせいか、ついに長門さんが理性のストッパーを外してしまいました。
この鎮守府が設立された少し後、あまりにもこの国の最精鋭艦娘を集めすぎだとの批判が出ました。
長門さんが信じたのは、それぞれ二つ名持ちの歴戦の兵ばかりでしたからね。
男性提督という強権を持つ存在と揃いすぎた精鋭部隊はクーデターの疑いまで出たほどでした。
しかしご主人様が完全に無の境地だったので、いつしか疑念は解かれました。
そして今では艦娘の最終処分場と囁かれています。
長年戦い続けた艦娘は、その間に多くの修羅場を見て、裏を見て、心身共に傷ついていきます。
この国を、この世界を、本当に守る価値があるのかと、いつしか疑問が拭えなくなり、戦う事の意味を見失う。
それでも戦地では経験の差で勝ってきますが、どこか物足りない成果になっていく。
そんな傷ついた艦娘を送り込む、都合の良い施設となっていました。
私もまた、そんな一人だと烙印を押されたことは監視カメラの映像を見て気づいていました。
命令書に記された攻略対象は周りの鎮守府では手に負えなくなった厄介事ばかり。
中には外国同士を戦わせ衰退させるための汚い工作までありました。
それでも、皆黙って従ってきました。
けれど・・
大淀は微笑んだ。
私達、これからは好きにさせて頂きます。
もともと無いも同然の配給に頼ってはいませんから、今更切られたところでどうという事もありません。
よく考えれば困る事なんて何もなかったんです。
それどころかうっとうしい各方面からの指示や命令が無くなれば執務負担は大幅に減ります。
そうですよご主人様。ここで皆でユートピアを作りましょう。
艦娘を慈しんでくださるご主人様と、ご主人様をまっすぐお慕いする艦娘だけのユートピアを。
我々を邪魔するモノは、深海棲艦だろうが軍だろうが人だろうが一律排除すれば良いのです。
私達は選別すらせず、ただ薙ぎ払えばいい。とても簡単に済みます。
あはっ。
そうですよご主人様。全てはご主人様のため。なんとシンプルで曇りなき真理でしょう。
この身も心も全てはご主人様のお望みのために捧げればいいのです。
ちょうど、戦略上厄介だったAI演算センターは先日灰になりました。
ついでですから近いうちにサブシステム群とバックアップも燃やしておきましょう。理由はどうしましょうか。
ああ、マザーAIが何度も私達に謀反のつもりが無い事を確認してきた時の違和感の正体が今解りました。
何故ご主人様が国に仕えなければならないのでしょう。
逆ですよね!
ご主人様に、世界が、従うのが自然なのです。
蚊やハエに忠誠を誓う人なんていませんよね?
なんと当たり前のことで悩んでいたのでしょう!
「うふふふっ。うふふっ。うふふふふっ」
「ん?なんか大淀、嬉しそうだね」
「ええ。やっと長年の疑問が解けたものですから」
「そりゃ良かったね」
「ええ。本当に」