しばらくして、長門が熱い抱擁を解いて離れたので私は微笑んだ。
「んじゃあ朝食食べるね」
「あ、ああすまない。冷めてしまったな」
「長門の方が大事だよ」
「お前は・・本当に狂わせてくれる・・っと通信か。大淀」
「はい」
大淀が素早くインカムに手を当てた。
「・・鳳翔さんからです。予定より早く済んだので3時間ほど早く帰港すると」
「うん?3時間早いというと?」
「簡単に言えばあと30分です」
「それを先に言えバカモノ・・っと、提督はどうする?迎えに出るか?」
「うん、ご飯食べた後する事無いし」
「ならば出迎えるがいい。巨大な敵拠点を潰してきたのだ。少しは褒めてやれよ?」
「えっ」
雑用って書いてなかったっけ鳳翔さん?ちょっと?
胸騒ぎがした私は急いで朝食をかき込んだのである。
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「ごくろっ・・あれ?ほっ鳳翔?私はここに居るのだが?・・なっなあ?」
長門・金剛・大淀が並んでいたので、私は少し奥の脇の方に避けて立ってたんだ。
仕事の話が先だろうと思ってね。
でも鳳翔は陸に上がってくるとキリッとしたまま歩いてきた。
そして伊勢や日向が長門達の前で止まったのに、鳳翔だけ私の前まで歩いてきたんだ。
他の面々はぽかーんと呆気に取られている。
「第1艦隊旗艦鳳翔、ただいま帰還いたしました。出迎えてくださったのですね、あなた。嬉しいです」
「あ、うん。鳳翔。私への報告は後で良いから長門無視しないであげて?向こうで泣いてるよ?」
「お仕事は全く問題なく終わりましたから、特に報告することも無いのです」
「様式美は大事にしよう?」
「・・だめですか?」
「ちゃんとお仕事する鳳翔が素敵だなって思」
私が言い終える前に鳳翔は長門の前で敬礼していたんだ。
誰一人目が追いつかなかったよ。
「第1艦隊旗艦鳳翔、ただいま帰還いたしました。任務無事完了です」
「あ、ああ、ご苦労だった鳳翔」
「こちらが報告書です」
「・・・すべて駆逐しましたの1行だけでは良く分からないのだが?」
「ええ、ですから、但し書きを」
「なお航路等仔細は日向・伊勢両名より説明・・いや鳳翔いくらなんあれぇっ?」
鳳翔って瞬間移動できるんだね。
さっきまで長門ときちんと報告してたかと思ったら次の瞬間私の目の前に居たよ。
あまりに速くて長門が見失ってるけど。
とりあえずなでなでしておこう。
「えと、それで、怪我は無かったのかい?なんで鳳翔がこんなことに?」
「はい。あなたとチューチューさわさわしてすっかり舞い上がってしまいまして」
「うん」
「日向さんに一番強そうな敵はどこですかと伺いまして」
「う、うん」
「ちょっとはしゃぎすぎてしまいましたけど、きっちり均してきました」
「待って」
「なんでしょうか?」
「敵の居る所に行ったんだよね?」
「はい」
「なんで地均ししてきたの?」
「ああ、1体ずつ武器で相手するのは面倒なので、軽くきゅっとつまんで潰すんです」
「え?きゅっと?鳳翔さん空母だよね?」
「もちろん艦載機の子達には周りの有象無象のお片づけを頼んでいますよ?」
「お片づけ」
「あの子達も最近は海底地形まで把握した造成工事が出来るようになりましたので」
私は鳳翔を撫で続けたまま、鳳翔と共に帰って来た日向に声をかけた。
そういやなんとなく日向の顔色が悪い。伊勢も行きと違って黙ったままだし。
「・・あ、あのさあ日向」
「・・・なんだ」
「ごめん。勉強不足で鳳翔さんが何言ってるか良く分からないんだけどさ」
「それは勉強不足ではなく、当然だ」
「えっ」
「あ、姉も私も目の前の光景が信じられなかったし、未だに理解出来ぬ」
「えっ」
「確かに数十万の深海棲艦がそこに居たんだ。それは私も姉も見た」
「えっ」
「だが、まず空爆でその多くが吹っ飛ばされ、海原に道が出来ていたんだ」
「道?」
「深海棲艦の兵装の残骸が寄せ集まってできた道だ」
「・・」
「鳳翔はひょいひょいとその上を当然のように歩いて行き、呆然としている敵幹部達を手折っていった」
「手折る?」
「その、雑草の枝を折るように首をぽきりとな。相手は一瞬で白目をむき倒れる前に光になって消えていた」
「えーと」
「鳳翔は軽い足取りで敵を手折りながらどんどん中央へ進んでいき、敵大将も一瞬で屠った」
「そういうものなの?」
「我々が立ち尽くしている間に周囲に居た深海棲艦は残らず空爆で四散していた」
「空爆凄いね」
「鳳翔は服の破れどころか血の一滴すらかかることなく、鼻歌を歌いながら元来た道を戻って来た」
「はなうた」
「ほ、本当なんだ提督。信じてもらえないかもしれない。私だっていまだに信じられない」
「いや、日向の言う事だから信じるよ」
「そして鳳翔はこう言ったんだ。折角来たのにつまらないですね、と」
「つまらない?」
「そしてしばらく航空探査をさせたのち、じゃあ回りましょうかと言うんだ」
「回りましょう?」
「我々も同じ返しをしたさ。だが鳳翔は直ぐ分かると、すいすい残骸を避けて海原を進んでは同じ事を繰り返した」
「え」
「丸24時間が過ぎた頃、突然敵海域に必ずある邪で重い空気が晴れた」
「えっ」
「我々は最大距離までレーダー探査したが、敵の一体すら見つけられなかった」
「えっ」
「行きと同じように、帰りも鳳翔は軽やかに海原を進み、ずっと鼻歌を歌っていた」
「・・」
「実際敵の一体も出ず、我々2人は瑞雲発艦どころかついに機銃の1発さえ撃たずに帰って来たんだ」
「・・」
「な、なあ長門」
日向の視線を受けた長門は、気だるげに日向を見返した。
「なんだ」
「ほ、鳳翔は、あんなに強かったのか?大戦で苦戦した鳳翔は、一体なんだったのだ?」
長門は肩をすくめた。
「LV1000は伊達ではあるまいし、やる気の問題では無いのか?どう思ってるんだ鳳翔」
鳳翔は下を向いて薄く微笑んだ。
「ですから、舞い上がって少しはしゃぎ過ぎてしまったと。戦場で鼻歌など、お恥ずかしい限りです」
違う、そうじゃない。