「あぁ、そうか。大淀も疲れて暴走しちゃったと考えれば納得出来るかな」
私は長門と大淀から説明を聞いて、なるほどと思った。
私が調子に乗り過ぎたのもあるし、疲れて欲望に流されたと言われちゃね・・
私はサキュ・・鹿島に話しかけた。
「えっと、状況は聞いてから赴任されてますか?」
「全容についてはいいえ、ですが・・」
「?」
鹿島はくすっと笑った。
「大淀先輩が、それはそれは幸せそうにノロけてるので、楽しそうだなあって思ってます!」
「そっかあ・・」
私がちらりと大淀を見ると、顔を真っ赤にして縮こまっていた。
長門が肩をすくめた。
「一応確認だが、提督は極めて中毒性の高い麻痺毒だ。後遺症も最悪で二度と元の世界には戻れないが、良いんだな?」
「本当に酷いよね、私の扱い」
鹿島がじっと私の方を向き、少し目を細めた後、にこりと笑って長門に向き直った。
「もっちろんです!」
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「まぁ、ケア係を大淀一人に全部任せるのも可哀想ですネ・・」
招集に応じた金剛と日向を前に、長門が運用変更と鹿島の紹介を伝えた。
だが、日向は肩をすくめた。
「それはそうなのだが、鹿島」
「はいっ」
「大淀の求めがあったにせよ、随分と着任が早くないか?」
日向の指摘に私もそういえばと思った。
何せ私が朝から昼過ぎまですやすやしている間に依頼から着任まで済んでいたのである。
移籍にしても早すぎないかという疑問はもっともである。
鹿島が寂しそうに視線を下げ、大淀が口を開いた。
「鹿島さんは前々から私が増員する候補として目を付けていたのですが、それには理由がありまして」
「聞こう」
「1つは治安部隊、救護医療部隊ともに経験豊富であること」
「ああ」
「もう1つは既に“本営付”だったのです」
私は聞きなれない単語だったので大淀に尋ねた。
「ごめん。“本営付”って本営配属者という以外にも意味があったりする?」
大淀は頷き、長門達が遠い目をした。
「はい。私達もそうでしたが、本営付けは別名“本営漬け”とも言われる、艦娘の閑職です」
「かんしょく・・」
鹿島が私をちらりと見ていった。
「簡単に言えばお仕事がない窓際族です」
私は眉をひそめた。
「なんで?経験豊富なんでしょう?」
大淀は頷いた。
「知らぬが仏ということは、戦争では特に沢山あります」
「・・うん」
「戦闘での様々な景色はともかく、非常に高度な政治的うんぬんという案件も見ることになります」
「あー・・」
「鹿島は治安維持部隊の救護班での活動が長かったのですが」
「見てはいけない物を見てしまった?」
「それも何度も、ですかね。時には私と一緒でしたけど」
鹿島は頷いた。
「大淀先輩の後を継げ、そういう命令もありましたから」
「ですが鹿島は、そうなるには少し優しすぎました。自分の中で割り切れなくなってしまったのです」
「・・・」
「ただ、先程も申しました通り、治安維持と救護医療経験が豊富であるがゆえに切り捨てるのは惜しまれた」
「・・・」
「ゆえに活躍の場が見つかるまでという名目で」
「塩漬けってことか」
「はい。ですから簡単なネタの提供と引き換えにあっさり譲渡されました」
「ネタ?」
「ネタです。私、これでも沢山記憶していますから」
にっこりと笑う大淀だが、日向達は苦笑していたし、長門は頭を抱えていた。
「おい大淀」
「はい」
「まさかとは思うが」
「はい。鹿島も既にご主人様のモノです。資産移管手続きは済ませていますよ」
「だから高高度AIユニットをほいほい貰ってくるな・・」
「ですので、ここに鹿島が居ることは特に問題ありません」
金剛は鹿島を見ながら言った。
「古巣から何かお願いされてませんカ?」
鹿島は黙って懐に手を入れた。
そして取り出した薄く小さな機械を見た大淀は溜息をつき、受け取ったその場でくしゃりと握りつぶした。
「なめた真似を・・」
私は大淀が握ったまま離さないので、そっと声をかけた。
「えっと、大淀さん?それ何だったの?」
「データロガーです。体内埋め込み型の」
「行動を記録したい?」
「提督の隙をどうしても探し出したいのでしょうね」
「埋め込み型って、取り出して鹿島さんの体大丈夫なの!?」
鹿島はくすっと笑った。
「これくらいは何度も経験があります。取り付けも、取り外しも」
「でも痛かったでしょう・・可哀想に」
思わず鹿島の頭をよしよしと撫でてあげたのだけど、
「きゃっ・・あんっ・・もっとおねがいしますぅ・・」
反応がやっぱりサキュバスなんだよなあ。
さすがユ〇ケル営業本部長、またの名を有明の女王。
金剛が大淀の肩をぽんぽんと叩きながら問いかけた。
「他は大丈夫デスカ?」
鹿島は頷いた。
「はい、ハード・ソフト共にくまなくチェックし駆除済です」
大淀は握った手を軽く上げた。
「これが陽動かもしれませんし、私の方でダブルチェックしておきます」
長門は頷いた。
「念を入れておいて損はあるまい。頼むぞ大淀」
「はい」
「と、いうわけで、1人増える。ただし扱いは大淀と同じくスタッフ部門だ」
金剛が挙手をした。
「ハイ長門!」
「なんだ」
「夜の順番に加えるのですカ?」
「いや、まずは大淀のサポート専門で始めてもらう。鎮守府の生活が辛いかもしれないからな」
「ハーイ」
「用件は以上だ。忙しい所すまなかったな」
金剛と日向、そして大淀と鹿島が執務室を離れた後、私は長門に尋ねた。
「えっとさ、長門」
「ああ」
「生活が辛いというのは、日々の行動で昔の何かを思い出して、ということ?」
「珍しく勘が冴えてるな。そのとおりだ」
「珍しくは余計だよ。でも、そうならないと良いね」
「ならんだろうよ」
「え?どうして?」
「なるような弱さなら“本営漬け”になる前に壊れている。AIは特に」
「どういうこと?」
「AIは周りの事象を集めて勝手に学んでいくが、裏を返せば学習内容も学習の上手さも偶然の要素が大きい」
「ほう」
「大淀や鹿島が塩漬けにされても初期化されなかったのは、軍のハードな状況下で潰れなかったからだ」
「・・」
「それくらい、AIは様々な理由で壊れてしまう。多数の犠牲の間に、たまに成功する個体が居るんだ」
「それは人類の中に私が生まれる確率くらい?」
「いや、男性出生率はもっと低い」
「ひどいね」
「ああ」
「で、なんでならないのにそれを理由にしたのさ」
「1つは鎮守府という施設や出航等でトラウマを刺激されて居辛くなる艦娘は本当に0ではないからな」
「ふんふん」
「もう1つは大淀のチェックを受ける前だから、まだ“耳”が残ってるかもしれないのでな」
「大淀さんって仲間のAIチェックも出来るの?」
「自律的に動くAI部隊の隊長ともなれば仲間の修復もせねばならんからな」
「で、大淀さんはそれが出来ると」
「それも国内最高の成績だ」
「すごいね大淀さん」
「提督」
「うん?」
「鹿島の件、一応、頭の片隅に入れておいてほしい」
「解ったよ」
「では本日の執務を始めようか。といっても提督に関係ない所は済ませているがな」
「ごめんね」
「まぁ、慣れるまでは色々あろうよ」