そして、翌朝。
「反省しましたか?」
「はい。練習巡洋艦鹿島、すっかり心を入れ替えました!」
「では確認テストを行います」
「確認テスト」
「ご主人様、どうぞお入りください」
大淀に呼ばれたので、私はぬぼーっとしたまま部屋に入ったんだけど。
「ひょっはぁ!?」
「鹿島さん?その手は何ですか?まさか欲情して我を忘れてないですよね?」
「あ、あは、あははは。大淀先輩?だ、だだ、大丈夫!大丈夫ですよ?」
私はぼーっとしていた。朝早すぎて眠いんだもん。
あ、そっか。私Tシャツ1枚で下穿いてないわ。
「次です。ご主人様」
「んー?」
「鹿島を誘惑して頂けますか?」
「んおー」
「おっ大淀先輩!?」
「ゆうわく・・むにゃ・・うん解った」
「てーとくさん!?あっ」
私は鹿島をさわさわした。この子おっきいしパッツパツなんだ。
「鹿島ぁ・・んー」
「あひっ、てっ、てーとくさん!?んっ!?んーーーー!」
「ぷはっ・・えへへ」
「ひゃあああん!あっらめっ!い、今だけはダメですてーとくさん!あっ」
「こんどは両方同時~」
「んっ!んー!んんんん-!」
「これぞちゅーちゅーさわさわだー・・zzzzz」
大淀は部屋の時計を見ながら言った。
「試験時間の間、よく我慢しましたね。これで刑期終了です」
鹿島はぜぇぜぇと息を切らし、自分で自分の胸を押さえつけながら答えた。
「えっ、AIとして自我を持って以来、最悪の試練でした・・」
「甘美だったし、役得もあったではないですか」
「誘惑に負けたら大淀先輩から何されるか分かったものではありませんし」
「刑罰はいくつかご紹介しましたよね?まさか冗談とでも?」
「えっ、あれ、脅しの為の作り話じゃないんですか?」
大淀はタンスの引き出しを1つ開け、中の物を見せた。
「ひっ!?」
「作り話ではないと信じて頂けましたか?」
「信じましたし、改めて自制する覚悟が出来ました!」
「よろしい」
鹿島は溜息をついた。
まさか本当に用意してるなんて・・
さすが曲者揃いのAI特殊部隊を長年率いていただけの事はありますね・・
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「よーっし、靴紐結べた。じゃあ行ってくるね、鹿島」
「はいっ!お掃除はお任せくださいっ」
「あはは、よろしくね」
その後いつもの時間に起きて、朝食を頂いて身支度を整えた私は、自室を出ようとしていた。
大淀は成果を確認したいのでと先に行ってしまったけど、何の成果だろう?
椅子から立ち上がると、鹿島がそっと肩を私の胸に当ててきた。
「どしたの?」
「てーとくさん」
「うん」
「鹿島をお使い頂くなら、黙ってそのまま始めて頂いて構いませんからね?」
「ん?使うって?」
「いきなり服を破いて頂いても、パンティをずらして無理矢理ねじ込んで頂いても良いんです」
「え」
「なんでも、いつでも、お好きなようになさってくださいね」
「いやそういう事はしたくないんだよ」
「どうしてですか?鹿島は屈服しましたから何もかも好きに使って良いんですよ?」
「屈服とか隷属とかじゃなくてね、鹿島」
「はあ」
私は鹿島さんをきゅっと抱きしめた。
「ひゃん」
「私は、鹿島さんと心を通い合わせたいんだ」
「鹿島はAIですから、命もないし、心なんて・・」
「ううん。鹿島にはちゃんと、心があるよ」
「・・」
「私は鹿島さんを性処理玩具とは見てないよ。仲良くしたいんだ」
「・・」
「じゃ、いってきます」
「いって・・らっしゃいませ・・」
軽く手を振って部屋を出ていく提督を、鹿島はぼうっと見ていた。
自分が今まで出会った男と言えば、傲慢か、忌避するか、性玩具としか見てくれなかった。
提督が仰った、仲良くという単語。
思い・・・出しちゃった。
はるか昔、男の人と仲良くなりたい、ころころ笑ってお話ししたい・・って・・・
鹿島の頬をつつっと一筋の涙が流れた。
「あぁ・・こんな・・汚れ切った鹿島に・・今更・・そんな・・」
一筋の涙は二筋、三筋となり、やがてしゃくりあげる声を伴って。
奥底から堰を切ったように何かが押し寄せこみあげてきて。
「ひっく、ぐすっ・・・あぁ・・うわああん・・」
提督のベッドの枕に顔を埋めて、声をあげないようにして。
鹿島はひとしきり、部屋で泣き続けたのである。
「極めて中毒性の高い麻痺毒、確かにそのとおりですね」
しばらく後。
鹿島は雑巾で部屋を掃除している手を止めてつぶやいた。
“感情を殺せ、大淀のように常に冷静たれ、情けも優しさもいらぬ。しょせんオスなど性技を駆使して抜けばイチコロだ”
鹿島が迷い泣いて縋った時、教師AIが放った回答。
いつしかタブーとしていた、仲良くしたいという言葉。
「私っ、てーとくさんと仲良くなりたいです!」
うかつに信じるなと否定する分析もあるけれど。
あと1回だけ、人類と、いや、提督とだけ、仲良くしてみよう。
「まずはお掃除ですねっ!鹿島頑張ります!」
鹿島はむんと拳を作り、清掃作業へと戻っていった。
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「昨夜は眠れたか?」
「良く寝られたよ」
「それは何よりだ」
執務室に行くと長門からそんなふうに声を掛けられ、大淀が肩をすくめた。
「私や鹿島の暴走でご迷惑をかけました。申し訳ありません」
「ん?大淀の方は聞いているが、鹿島も暴走したのか?」
「実は・・」
「さすが提督の毒だ。実に早く回るな」
「完全に毒扱いされてるけど、鹿島さんから仕掛けられた話だからね?」
「また無自覚に煽ったのではないだろうな」
「・・無い!無いよ今度は」
「やましい所が無いか思い返してチェックするのは良いことだがな」
「でしょう?」
「普段から留意しろバカモノ」
「そりゃそうだ。じゃあ始めよっか。あ、気にしてないからね、大淀」
「ご主人様・・」
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そして間もなく日が沈むという時になって、執務室に現れたのが日向である。
「長門。資源調達任務完了だ。報告書はこれだ」
「うむ・・・ほう、良い成果ではないか」
「たまたま良かっただけだ」
「解った。あぁ・・っと提督」
「なに?」
「今日はもう上がって良いぞ。ちょうど日向も来たしな」
「そうだね。今夜は日向だった。よろしくね」
日向は頬をかいた。
「そんなつもりではなかったのだが、厚意はありがたく受け取ろう。帰り支度は出来ているか?」
「出来たよ」
「では帰ろうか」
「じゃあね長門、大淀。お疲れ様」
「ああ、お疲れ」
「ご主人様、お疲れ様でした」
私は執務室を辞すると、日向と並んで歩き始めた。
「夕飯どうしようか?」
「君が良いなら、居酒屋鳳翔で晩酌といかないか?」
「それ良い!お酒飲もう!行こう!」
「あっ・・て、手を繋いでいくのか?」
「もちろん店の外までだけど、ね」
「ああ。あんな恐ろしい体験を何度もしたくない」
日向の小さな手を包み込むように握りなおし、私達は居酒屋鳳翔に向かったのである。
「いらっしゃ・・あらあなた、おかえりなさい」
「ただいま。晩御飯食べに来ました」
「日向さんとお揃いですか?」
「お揃いです」
「あらお熱い事。微笑ましいですね。奥座敷を使いますか?」
「どうする日向?私はどちらでもいいよ?」
日向は少し迷ったようだったが、
「そっ、それでは奥座敷を借りよう」
そういって店の奥へと入っていった。
「注文はどうする?食事兼ねてのお任せにしちゃう?」
私はおしぼりを日向に渡し、自分のおしぼりでごしごしと顔を拭いた。気持ち良いんだこれが。
「大皿を幾つか頼んで肴にするのも良いが、君はコースの方が良いか?」
「この前はコースで美味しかったけど、大皿も良いよね」
「例えばこれは早い。それに、これと、これと、この辺りだと少しずつ出てくる」
「味の雰囲気も変わって良さそうだね。良いよ、日向に任せます」
「承知した。鳳翔、注文を頼む!」