こうしてお茶会は幕を開けたのだけど。
「・・・」
「こ、金剛、私が贈った紅茶開けた?」
一瞬の間の後、金剛は小さく首を振った。
「まだデース・・一度に幾つも開けると香りが飛んでしまうので勿体ないネー」
「そっ、そっか」
「・・アー、榛名?」
「はい・・金剛お姉さま」
「テートクが困ってるから一旦離れるのデース」
榛名が私の右手にくっつけていた頬を離し、とろんとした目で私を見た。
「ご迷惑・・ですか?」
そんな目で見られると何も言えないよ!
「えっ・・いや・・あの、一口くらい紅茶飲みたい・・な・・って・・」
「・・・」
「あ、いいよ。榛名の好きにして」
「はいっ♪」
私は金剛と比叡に向かって首を振った。
金剛は深いため息をついた。
「これからの順番を考えると、4日後には比叡がああなりマース」
「金剛お姉さま!?私はさすがに司令にあんな淫靡にくっつきませんよ?」
「比叡姉さま」
「なっなんですか榛名」
「・・うふっ。榛名も、そう思っていたんですよ」
「えっ」
「はしたないメスに堕ちるなんてありえない、と」
「そ、そうでしょう?」
「でも榛名気が付いたんです」
「?」
「提督にどろどろに甘えることが、なんと気持ちの良い事かと」
「へっ?」
「色欲に任せ、こうして逞しい提督の腕に頬ずりして、あの夜の事を思い出して体の奥をうずかせるこの」
ますます目が濁っていく榛名を金剛が一喝した。
「No!榛名!今は真昼間のお茶会デース!わきまえるネー!」
榛名はゆっくりと私の右腕から体を離し、蠱惑的な目で金剛を見返した。
「金剛お姉さまも、8日後、一緒にオハナシ出来ると思いますよ?」
「ひっ」
「ねえ提督?私達4姉妹を、きっちり天国に導いてくださいね?仲間外れは榛名、寂しいです」
うっとりした目で見てくる榛名と、半目で警戒を露わにする比叡と、戸惑う金剛と霧島を前に。
私にはどう返事して良いか分からなくて、視線を彷徨わせるしかなかったんだ。
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非常に疲れるお茶会から自室に戻ると、鹿島が部屋で迎えてくれた。
「た、ただいま・・」
「どうしたんですかてーとくさん!? と、とりあえず横になりますか?」
「いや、お茶を一杯貰えるかな」
「すぐにお持ちします!」
「と、いうわけでね・・榛名がなんか急に変わっちゃって」
「あの、差し出がましい事かもしれないんですけど」
「どしたの鹿島、なんか思い当たる事があるの?」
「はい。あ、あの、榛名さんを執務室から工廠まで運ばれたと仰いましたけど」
「うん」
「ど、どのような姿勢で、でしょうか?」
「そりゃええっと、ちょっと鹿島こっち来て」
「こうして、こう持ち上げて・・・っと、こういう感じ」
「てーとくさん・・・」
「下ろすね」
「あっ・・」
「んで、何か分かった?」
「はっきりと」
「何が原因かな」
「てーとくさんです」
「うん、それは自覚してるけど、じゃあその、どの行動のせいかな」
「抱っこです」
「今やった奴?」
「はい。神話級伝説の“お姫しゃま抱っこ”ですよね」
「神話級伝説?」
「てーとくさん」
「うん」
「えっと、今の世の中は、女にはもはや人権は無いんです」
「」
「先日も大淀先輩から、女に対して優しすぎると説明があったかと思います」
「あ、うん」
「榛名さんも小破こそすれど、まさか自分が男性提督からそこまで心配され、労われるとは思ってもみなかったのでしょう」
「・・」
「そこに神話級の甘やかしです」
「」
「さらに前日には散々甘美で快楽まみれの時間を与えられ続けていて理性は崩壊気味だった」
「」
「・・どうなると思いますか?てーとくさん」
「理性が土砂崩れ起こしても仕方ないね」
「路盤まで崩壊したパターンです」
「しゅ、修復は・・」
「おそらく、私や大淀先輩くらいまでは回復します。禁断症状が出ない限り日常生活は送れる、くらいですかね」
「それ重篤なんじゃない?ねぇ」
「てーとくさん」
「うん」
「夜の順番は止めちゃだめですよ?世界が滅びますから」
「いやそんな」
「鳳翔さんを始めとする皆さんの理性が崩壊して世界が維持出来るとでも?」
「・・・むり」
「お分かり頂けて何よりです」
「えぇどうすんの? 今からでも停止して他の子がおかしくならないようにすべきなの?」
鹿島は笑って首を振った。
「私達が狂ったのは提督のせいではなく、長く続きすぎた戦争のせいです」
「・・」
「そこにてーとくさんという救いの手が現れたので御縋りしている、甘えているだけなんです」
「・・」
「ですからもし、仮に、てーとくさんが具合を悪くされたなら、皆さんちゃんと待ってくれると思います」
「うん」
「でも、行方不明になってしまうとか、外の何者かに殺されてしまうような事があれば」
「・・」
「世界は間違いなく滅びます。誰が犯人であろうとです」
「・・えっとさ」
「はい」
「既に皆狂ってるんだけど、そうじゃないフリをしていて、私がこうなったから我慢出来なくなったってこと?」
「はい。今の世で女が生きていくのは結構辛いんですよ?」
鹿島の笑顔は薄幸そうで、抱きしめたくなるくらい寂しそうだったから。
「あぁ・・優しい・・温かい・・嬉しい・・私の神様・・」
「ただ抱きしめただけなんだけどなあ」
「純粋に案じて女を、それもAIロボットなんかを抱きしめてくださる男性など、もうてーとくさんしか居ないんです」
「なんか、じゃないよ、鹿島」
「本当に解ってくださいね。私にとって、いえ、鎮守府の皆にとって、てーとくさんは唯一の救いなんだと」
「・・わかった」
「お慕いしています。てーとくさん」
なんとなく離したくなくて、夕食の時間まで鹿島を抱きしめていたんだ。
不思議とエロい感情は湧いてこなくて、ただただ、か細く見えた鹿島を守ってあげたくて。
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「只今戻りました・・どうしたんですかご主人様、鹿島さん?」
「ああうん、皆が艶っぽくなっていくのはどうしてかなって鹿島さんから聞いてね」
「鹿島さん?何を話したのですか?」
「女の置かれている現状と、慈しんでくれる殿方の存在確率と、私達の壊れ具合です」
「・・ご主人様」
「うん」
「それを踏まえて申し上げますが、ご主人様はどうぞお好きに振舞ってくださいね?」
「えっ」
「私達を抱かねばならないとか、甘やかさねばとか、優しくしなきゃとか思わないでください」
「えーっと」
「それは情けであり、義務感であり、優しさには違いありませんが愛されるとは違うのではないでしょうか」
「そうだね」
「ご主人様がしたいようにして頂いて、結果としてそれが優しさや、甘やかしや、抱くことなら歓迎いたします」
「そうだね。義務感や同情で夜のお付き合いをするのはさすがに失礼だね」
「いえ、そうではなくて」
「?」
「そんなことをすれば、ご主人様が1年と保ちません」
「え」
「ご主人様がまた深く心を閉ざし、無反応・無感情・無言になってしまわれるのを、大淀は恐れます」
「・・」
「だってそれでは、ご主人様があまりに可哀想じゃないですか」
「・・」
「こんなに私達に優しくしてくださるのに、それで消耗してしまわれるのは、あまりにも悲しいし申し訳ありません」
「・・」
「ですから、気にしすぎないでください。今日はこんな事したいな、それで良いんです」
「・・」
「一人になりたかったら出て行けと言われても良いんです。孤独を補充すべきタイミングなのでしょうから」
「・・」
「ですから、出来るだけ長く、今度こそ、1日でも長く、幸せでいてください」
「・・」
「その為ならこの大淀、皆に刃を向ける事も厭いませんから」
「大淀」
「はい」
「私の左の半身は鹿島が温めてくれてるんだけど、右半身が寒いから来てくれるかな」
「・・かしこまりました。喜んで」
大淀も、鹿島も、とっても良い匂いで、温かくて、柔らかくて。
ロボットに心が無い?じゃあ今感じている心がぽかぽかする感情は誰がくれてるって言うの?
二人には心があって、とっても私を心配してくれて、まっすぐその気持ちを向けてくれてるんだよ。
二人の柔らかい重さを感じながら、私は抱きしめる力を強めたんだ。