鳳翔は大淀が通信終了のサインを出したので、ふうと一息ついた。
「大淀さん、骨の折れる仕事ですが、ターゲットの焼却確認をお願いします」
「解りました」
「それと、今後60時間程度の各空港ならびに沿岸の不審船に関するチェックもしたいのですが・・」
「空港チェックは鹿島にお任せくださいっ!楽器ケースの中まで確認しちゃいます!」
「では、鹿島さんにお願いします。殺処分はマザーAIにやらせますので監視だけで結構です。あとは」
伊勢が手を挙げた。
「あたしと足柄でやっときますよ」
鳳翔が頷いた。
「では頑張ってください。あぁ、対象者の乗船チェックは要りませんので一律沈めてください」
「かしこまり!行くよ足柄!」
「勝手に決めるんだから・・はいはい、まったく世話が焼けるわね」
「この後は長門さんに任せますね」
「ああ解った。しっかり済ませるさ」
「では解散といたしましょう。夜の部の仕込みがありますので私はこれで」
こうして鳳翔の一声であっという間に散会となった。
食堂に残って片付けを進めていた、私も、長門も、大淀も、鹿島も。
互いにへらりと半分笑い、「今日は、静かに寝よっか」と呟いた私の一言が採用され。
無事大淀さんの「ケアタイムおせっせ1回抜き」は消化されたのであった。
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翌日。
私は部屋まで迎えに来てくれた長門や大淀と共に執務室へ歩いていた。
「やー、鳳翔さん凄いね」
長門が肩をすくめた。
「LV917となった今でも子供扱いされるからな。まぁ今回は私の判断が甘かった訳だが」
「重大事項を理論的に即決ってかなり無理だからね?」
「しかし鳳翔が目の前でやっている以上、鳳翔としては出来ないなら未熟と判断するのだろうよ」
「そういう意味ではより厳しい判定をした大淀さんは頑張ったのかな?」
大淀が苦笑いを返した。
「私もさすがにあの早さでGLCMの発射決断は出来ません」
「私は何が起きたか分かんなかったよ。ところでさ長門」
「ああ」
「この体の前の持ち主がね、頭部を撃ち抜いた位じゃ修復されるって言ってたんだけどさ」
「ああ」
「どこまでいくと直せないの?」
「修復の意味によるな」
「意味?」
「ああ。惨い話だが、極論、保護区の男性なら精子生産活動さえできれば良い」
「おおう」
「だから記憶がなくなろうが構わないという意味なら、頭部を撃ち抜いても治せてしまう」
「下半身さえ機能すればって事か」
「ああ。だが、通常の生活を送るというか、その人の人格を保つには頭部が損傷するとダメだ」
「だとすると、今回のような場合は」
「直接の頭部破壊、あるいは脳への長時間酸素供給停止、だな」
「なるほどね」
「大体は前者、つまり頭部への銃撃で足りるだろう」
大淀が頷いた。
「対象者解剖記録を見ると、多くが至近距離から頭部に2発撃ち込まれてますね」
長門が頷いた。
「結局の所、人は記憶と人格が全てだからな」
「脳が維持出来なきゃおしまいだね」
「ああ」
そして執務室のある棟の入り口で壁に寄りかかっていたのが那智である。
「あれ、どうしたの那智」
「提督に長門に大淀か、丁度良かった」
「どうした」
「あ、提督」
「うん」
「その、疲れていないか?大丈夫か?」
「えっ」
那智はぽんぽんと私の肩を叩いた。
「昨日は鳳翔の差配や交渉等を見ていただろう?精神的にしんどいなら今夜はゆっくり寝て良いぞ?」
私は一瞬理解が遅れて、その後那智に抱き着いた。
「うおっ!?ど、どどどうした提督!?」
「嬉しいなあ・・順番回ってきた奥さんの中で初めて私の体調に言及してくれたよ」
途端にジト目になる那智。視線に耐えきれず目を逸らす大淀と長門。
「まったく。そんな事で大げさな反応をするな」
「でも大丈夫だよ那智。今ので元気出た!」
「そ、そうか」
「長門、大淀、私の今日の仕事どれくらいあるかな」
「すまないが、割とあるぞ?普通に定時くらいまでかかるだろう」
「だって。だからまた定時くらいに執務室に来てくれるかな、那智」
「ああ。では仕事頑張れよ!」
「ありがと。那智もケガしないようにね」
「ああ」
那智を見送ると、私は長門達に振り向いた。
「じゃ、片づけますか」
「よし、では部屋に行こうか」
こうして私達は執務室へと戻っていったのである。
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そして定時5分前。
控えめなノックの音と共に執務室のドアを開けたのは那智だった。
「そろそろ定時だと思うが、どうだ提督。体調は変わらないか?」
「心配してくれてありがとう。大丈夫だし、仕事も終わったよ」
「そっ、そうか」
「じゃあ先に上がるね、長門、大淀」
「ああ、お疲れ様」
「お疲れさまでした、ご主人様」
執務室を出た廊下を歩きながら、私は那智に声をかけた。
「えっと、私は食堂に行けないんだけど、部屋で食べる?鳳翔さんのところ行く?」
那智が歩みを止めた。
「間宮の件は確かに聞いているが、昨日の今日で鳳翔の店に行けるのか?」
「だって私に対する怒りではないし、むしろ私の為に怒ってくれたんだし」
那智は数秒間私を見つめると、笑いながら軽く息を吐いた。
「それなら良い。では二人で飲むか!」
「おっけ!」
「いらっしゃ・・あらあなた、おかえりなさい」
「ただいま鳳翔・・えっとね」
厨房から出てきて、案内しようとする鳳翔さんの肩をそっと捕まえて、きゅっと腕の中に引き入れる。
「ふわああっ!?あっあなた!?」
「私の為に頑張ってくれたでしょ。ありがとね、鳳翔」
「・・・・そう言って頂けると、本当に嬉しいです」
「大好きだよ鳳翔」
「あなた・・」
鳳翔と至近距離で見つめあって、ちゅっちゅちゅっちゅしていると。
「ん゛っ、んっん゛っ・・ゴホンゴホン!ん゛ん゛っ」
顔を上げれば、顔を真っ赤にして視線を逸らしながら咳払いする那智が居て。
「あーもう、那智が可愛い!」
「酔っているのか貴様!?まだ飲んでないぞ!?」
「那智にめろめろでーす」
「なあっ!?」
そんなやり取りをくすくす笑いながら見ていた鳳翔が店の奥を指差した。
「ごめんなさいね那智さん。旦那様があまりに嬉しい事を仰ってくれるので。奥座敷へどうぞ?」
「あ、ああ、そうさせてもらう」
「お邪魔しませんからごゆっくり」
鳳翔はそう言ってメニューだけ置いていった。
那智は片手でパタパタと自分の顔を扇いでいるが、頬は相変わらず赤かった。
「ゆ、夕食を兼ねるとして、提督はどのくらい空腹だ?」
「普通に1人前くらいは」
「飲みたい酒かつまみはあるか?」
「ビール飲みたいかな」
「ビールか・・枝豆、焼き鳥、手羽先、おでん、モツ、炙りイカとかか?」
「うん。そういうの頼んでだらだら飲みたいな」
「あはは。それも良しか。注文良いか鳳翔?」
「はい、お待ちください」
「あ、鳳翔さん。今日の献立の中でビールに合うものってある?」
「そうですねえ・・意外かもしれませんが、バクダン丼のご飯小盛りでは如何でしょう」
「へー、じゃあそれ頂戴」
「はい」
「後は焼き鳥盛り合わせ、那智何する?」
「枝豆とチーズ盛り合わせ、あ、今日はモツ煮はあるか?」
「ございますよ」
「それを。ビールはとりあえず2本だ」
「取り皿多めにお持ちしておきますね」
「ありがとう」