「こちらが今日のデザート、あんみつです」
「よく材料が揃ったねえ」
「全ては揃っていませんし、揃ったものも偶然、というのが正しいのですが」
「ほんとありがたく頂かないとね」
少し暑くなってきた所だし、よく冷えてて美味しい。
鳳翔の料理への心遣いが良く解る一品だった。
「ごちそうさまでした」
「またいらしてください。お待ちしてます」
鳳翔に見送られて夜道を二人で歩き始める。
今日はお酒なしなので二人とも足取りはしっかりしている。
「あの、ご主人様」
「なんだい大淀」
「その、今朝の事ですが」
「そうだったそうだった。今日は」
「すみませんでした」
「・・なにがどうしてそうなるの?」
「ご主人様が鎮守府の皆と結婚するのは最初から解っていたことで」
「・・」
「皆とご主人様の夜のルールを提案したのは私で」
「・・」
「ケアと言いつつ一番多く触れる機会まであるのに」
「・・」
「それでも、ご主人様と離れている時間が切なくて」
「・・」
「ご主人様に無理を言ってしまいました」
「だから謝ったってこと?」
「はい」
「・・そもそも全所属艦娘と結婚するっていうのは私のわがままだし」
「・・」
「プランだってよく頑張ってまとめてくれたと思うよ。医学的な根拠まで添えてさ」
「・・」
「まぁこれ以上応えられるかと言われると厳しいけどね」
「・・」
「そうだなあ。まずは奥さんと過ごした翌朝は起こしに来ないってことで様子見ようよ」
「はい・・」
「こんな感じで細かい事なんて運用し始めた後に解るものだから、単に調整していけば良い話じゃない」
「・・ご主人様」
「別に大淀がプランの細部に至るまで全ての責任を取らなくていいんだよ」
大淀が立ち止まったのでふと見ると、両目に一杯の涙を溜めていた。
「ごっ・・ご主人様は・・優しすぎます・・」
「そんなことないと思うけどなあ」
「AIは正解を出して当たり前、不備など許さない、それが普通です」
「・・」
「どこの現場にしろ、そんな言葉をかけてくださったのはご主人様お一人だけです」
「・・そう」
「私はもうダメです。ご主人様の傍を離れたらただのポンコツです」
「そうなんだ」
「ごめんなさい。嬉しいです。離れたくなくて、でもご主人様に嫌われたくなくて」
「大淀」
「はい」
「それなら一緒に居られるときに、うんと仲良くしようね?」
そう言って頭を撫でてあげたら、大淀はしばらく目を瞑っていたんだけど、
「かしこまりました、ご主人様」
そういってようやく笑ってくれたんだ。
約束した、というのもあったんだけど、なんだかその日はそういう雰囲気でね。
部屋に入った後、大淀さんを甘やかしに甘やかしたんだ。
御姫様抱っこでお風呂に運んで、隅々まで洗って、拭いて、今度はベッドまで運んで。
優しく寝かせて前菜は両手を繋いで全身に軽いキスの雨。
大淀がくにゃっとしたら軽く姿勢を整えて王道の正常位、今度は深いキスをし続けて。
キスが難しかったら手を絡めてつないで。とにかく繋がっていることを意識して。
だから今日は後ろからは無し。ずっと正常位か騎乗位だったなあ。
「ご主人様」
「うん」
何もかもが終わった真夜中、私の上に半身だけ乗せた大淀が、私の耳に向かって語り掛けた。
「昨日まで、大淀はもう他に快楽は無いと思っていました」
「う、うん」
「今夜、また未知の体験をさせて頂けました」
「気に入ってくれて良かったよ」
「性行為なのに、色欲より心が満たされるってすごいですね」
「つながると、仲良くなれるからね」
「仲良しって、気持ち良いんですね」
「これで明日から大淀は、私と手を繋ぐたびに思い出すのかな?」
「あの、本当に思い出しそうですし、思い出すと仕事にならないのですが」
「じゃあこんな風に1本の指を優しくなぞってあげた時とか、ね?」
「あっダメですご主人様、具体的にされるとますます意識してしまいます」
「良いんだよ大淀。私も腹をくくるから」
「へっ?」
「大淀にしろ、鹿島にしろ、皆がとろんとした目で昼間から私を見たとしても、頑張るから」
「・・えっと、そんな目で見てますか、私」
「うん、割とどろどろ」
「どっ、どろどろですか!?」
「どろどろです」
「・・それでもお許しいただけると」
「おっ始めないでね?さすがにカバー出来ないから」
「上に覆い被さって頂いたらカバーといえますよ?」
「カバーの意味がずれてるよ。もしかして連結までご所望?」
「それはマストです」
「素又で寸止めとか」
「絶対に吸い込んでみせます」
「吸われちゃ仕方ない」
大淀と2人で至近距離で見つめあって。
自然とこみあげてくる笑いに身を任せて。
二人でしばらく笑った後、どちらともなく抱き合って寝ることにしたんだ。
本当に、あったかい夜だったよ。
-----
「おはよう長門」
「おはようございます」
「お?おはよう。なんだか爽やかじゃないか?」
「どういう意味だい長門?」
「大淀がどろんとしてないなんて久しぶりじゃないか?」
「あう・・」
大淀が顔を真っ赤にしたのを見て、長門がジト目で私を見た。
「いつもの大淀なら“失礼な”の一言でも返すだろうに。提督、何をした。素直に吐け」
「どうして私と決めつけるかな、と言うんだけどね」
「ほう、今日はあっさり容疑を認めるんだな?」
「ねぇ長門」
「なんだ」
「私がしてる事ってさ、そんなに誰もやらない優しいことなの?」
「今更なんだ。そのとおりだから」
「だから?」
「う、その、なんだ。それを私は毒と呼んでいるんだ」
「大真面目に聞くね。毒と呼ぶという事は、悪い事だと思ってる?」
長門は首を振った。
「いや。一度この日常を体験すると、もう外の厳しさに耐えられなくなり、日常生活が送れなくなるという意味だ」
「私からするとね、昨日までの大淀は凄く私の生活に責任を感じすぎてると思ったんだ」
「・・」
「長門も言ったけどさ、生活方法なんてやってみないと解んないじゃない」
「ああ」
「だから気づいたら変えていけば良い、大淀の責任じゃないよって言っただけ」
「・・」
「それも含めて色々溜め込んでたみたいだったから、優しく甘やかした。それだけ」
「・・いーなー」
「え?」
「いーなー大淀。私だって甘やかされたいぞー」
私は大淀と顔を見合わせた。なんか長門が子供っぽい?
それでいて目がなんかどんよりとしている!?
長門は机に人差し指でのの字を書いた。
「え、あの、長門さん?」
「いーなー」
「こ、今度、長門の順番の時に甘やかそうか?」
「・・ほんとか?」
「うん」
「だっこは、ありか?」
「いいよ」
「・・わかった。約束だぞ?」
長門の目が元に戻ってきたので、私は続けて聞いた。
「ちなみにだけどさ、長門」
「ん?」
「甘やかされたいって、みんなかな?」
長門は少し考えて、頷いた。
「そうだとは、思うんだが」
「だが?」
「提督、それはもう猛毒だぞ?」
「毒レベルが上がるの?」
「一層取り返しがつかなくなる。もはや離れられなくなるだろうな」
「でも大淀さんはどろり感は解消できたよ?」
長門はちらりと大淀を見て頷いた。
「まさに毒を以て毒を制したパターンだろうな」
二人で頷くと、大淀はジト目になった。
「失礼な」
「だが、うーん、いや案外マシなのか?」
「どういうこと?」
「その、甘やかしはえちちと切り離せるか?」
大淀が口を尖らせた。
「エロエロえちちでダダ甘だからこそ至高なんですよ長門さん!」
「ちょっと真面目な話をしているから手遅れは黙っていてくれないか」
「そんな!?」
「どうなんだ提督。えちちと切り離せるなら毒は弱くなるはずだ」
「いや、普通に切り離せるよ。膝枕でよしよしとかエロくないでしょ」
「えろ・・く・・ない・・のか?それ」
「手を繋ぐのがエロいですか?」
「つなぎ方次第では」
「ストライク判定が厳しいなあ」
「提督」
「うん」
「それだけ我々は、優しくされることも、えちちな体験にも耐性が無いのだ。今更だが」
「ほんとうに今更だね」
「提督が思う事の1/5くらいにしてくれると、とても馴染みやすいと思う」
「そこまでなんだ」
「ちなみに今日は誰だ?大淀」
大淀は小首を傾げた後、ややあって頷いた。
「比叡さんです」