「長門さん、お疲れ様です。お呼びになりましたでしょうか?」
「もう夕方だが、仕事の最中だったか?」
「鳳翔さんの臨時業務を含めて済ませていますから平気ですよ!」
「それなら良かった。その、来てもらったのは他でもない、提督の件だ」
比叡は提督という単語を聞いた途端に表情を曇らせた。
「あ、あの、司令がここに居ないのは今だけなんでしょうか」
「いや、この話が済むまでは席を外してもらっているから、率直に聞きたい。良い印象ではないな?」
「はい」
「それはどのような所からきている?」
「・・榛名を見ていると、少なくとも偽りのケッコンカッコカリではないことは分かるんです」
「ああ」
「ですがその、あまりにも変わり果ててしまって」
「・・」
「エロ一辺倒というか、そんな子じゃなかったのに、口を開けば次に司令と会えた時の事ばかりで」
「・・」
「金剛お姉さまも、霧島も、正直ちょっと引いてます」
「・・」
「そして私に限って言えば、怖いです」
「変わるのが、か?」
「それもありますし、受け入れたくないと思った時に、司令が豹変してしまわないかと」
「殴られるとかか?」
「はい。その、かなり過激なおせっせのようですから」
「・・順番を飛ばすか、ケッコンカッコカリを取りやめるか?」
「金剛お姉さまは、それでも1度は確かめるべきだと仰ってます。でも私は、今のままでは、その、エロい事は嫌です」
「まさしくうってつけだな」
「え?なにか仰いましたか?」
「いや。よし、分かった。それでは私から提督に、今夜はエロ無しでと言おうじゃないか」
「えっ」
「それで激昂するなら私と大淀が仲裁する。もしこの部屋を出た後で怒ったとしても私が責任を取る」
「・・」
「・・それでも気が乗らないなら今ここで言え。順番を1つ飛ばして加賀に来てもらうだけだ。それも私から提督に言おう」
「・・」
「定時まではまだ間がある。考えていいぞ」
「・・本当に、エロ無しでなんて通るのでしょうか」
「通す」
「・・そ、それなら、あの」
「なんだ」
「で、でで、ででで」
「?」
「デートという形で、終わったら部屋に戻っても良いでしょうか?」
長門は一瞬迷った。そこまで徹底して何もなしで提督は納得するのか、と。
だが、ダメならそこまでだと思い直した。
「解った。そう伝えよう。結果だけ聞くか?同席するか?」
「お伝えした時の反応を見たいので、同席で」
「解った。呼んで良いか?」
「・・・はい」
長門はインカムで大淀をコールした。
「お待たせいたしました」
「こんばんは、長門、比叡」
私が入室時に声をかけると、長門は頷きを返してくれたが、比叡はじっとこちらを見たままだった。
これは困った。かなり警戒されてるなあ・・
「提督、これは提案なのだが」
「うん」
「今宵はエロ無しのデートという事で、終わったらそれぞれの部屋に戻る形としてほしい」
「解った」
「・・・終わったらとは、おせっせの後という意味じゃないぞ?」
「鳳翔さんのとこでご飯食べてお話して解散、そういうことでしょ。あ、もちろんお酒も抜きで良いよ」
「え、あ、そ、そうか・・それぞれの部屋に帰るんだぞ?」
「私は私の、比叡は比叡の部屋に帰るんでしょ?」
「そうだ」
「それで良いよ。というか、現時点で無理だと思うならケッコンカッコカリ自体無しにしていいからね」
「その見極めの意味でもある」
「うん。解った。私は好きだと思っても仲良くなるのは一方的には出来ないしね」
「ああ」
「じゃあ今夜は仲良くなれるかの確認として、ご飯とお話しましょう」
大淀がそっと比叡に尋ねた。
「あの、私が同席しましょうか?」
「えっ」
「お一人で心細いと思われるなら、一緒にいますけど」
比叡は首を振った。
「そこまでではないですし、仮にそうならさっき長門さんに聞かれた時にケッコンカッコカリを解消してます」
大淀は頷いた。
「解りました」
長門がパンパンと手を叩いた。
「よし、じゃあ提督はもう上がって良いぞ。比叡、終了時刻を決めるか?」
「あ、いえ、お話は済ませたいので」
「そうか。いざとなれば鳳翔に言え。塩梅よく仲裁してくれるだろう。私からも伝えておく」
「ありがとうございます」
私は比叡に言った。
「えっと、居酒屋鳳翔で待ち合わせにする?一緒に歩きたくないとかない?」
比叡は首を振った。
「大丈夫です。行きましょう」
私が先を歩くと、数歩後ろに比叡が続く。
私が立ち止まると、比叡も止まる。
なんか無理させてるようで申し訳なくなるなあ。
でも男に対する恐怖っていうのは間宮さんで学んだし、私があれこれ言っても無礼講と無礼者みたいになるだけだよね。
相手あってのお付き合いだからなあ・・
まぁ、なるようになるか。
そんな事を考えていたらいつの間にか居酒屋鳳翔の前で。
「えっと、先に入るかい?比叡」
「先にどうぞ」
なんか歩き始める前より機嫌悪い気がする。
そんな事を思いながら、店に入ったんだ。
「いらっしゃ・・あらあなた、おかえりなさい」
鳳翔はいつも通り迎えてくれて、にこりと笑ってくれた。
「あぁ、その、今夜は」
「比叡さん、中に入れますか?」
「あ、す、すみません。入ります」
「では、お二人はそちらへどうぞ」
示されたのは、カウンターの真ん中の席2つ。
私は逆らわずに比叡に先に選んでもらい、残った席に腰掛けた。
「えっと、鳳翔さん。夕食という事でお願いね」
「かしこまりました。それと比叡さん」
「は、はい」
「お持ち帰りされそうになったら私が力尽くで提督を引き剥がして2発ぶん殴りますので」
「「へっ?」」
比叡と二人でハモってしまったが、鳳翔は涼しい顔で。
「ですから、お酒の力を借りてみませんか?言いたいことが沢山ありませんか?」
「・・本当に、殴ってくれますか?」
「ええ、もちろん」
私はなんか、断罪の家族会議に出る時の心境ってこんなかなと思っていた。
「あ、提督にはお茶をお出ししますね」
「うん、元々そのつもりだから良いんだけどさ」
「では、お待ちください」