艦娘可愛いです。   作:銀匙

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【その9】

 

「昨夜はお楽しみでしたね」

「えっ!?」

「なんとなくそう言わねばならん気がしてな」

「なんとなくで言わないでください」

 

翌朝。

七條司令官と取る朝食の席で、ふいに七條司令官がそう言った。

そして私の顔をじっと見つめた後、ぷぷっと噴き出したのである。

 

「あははは!顔が真っ赤だぞ桧山君!」

「んなっ!どーせ不慣れですよー!」

「何を悩んでるんだ?」

 

不意に真顔になってじっと見られるの、困る。

 

「女の子の操を、酔ったはずみで、なんて」

 

そう呟くと、七條司令官は眉をひそめた。

 

「は?男の貞操をというなら話は分かるが、なんで貴君が女を心配する?」

 

私はしばらく七條司令官と見つめあった後、不意に理解した。

あ、ここ、男が少ないから貞操まで逆転してんの?

 

「ええと、つまり貞操を守るのは・・」

「男だろうが」

 

設定盛りすぎて皿からはみでてるけど、今度ばかりは助かった。

気が抜けた私を見て七條司令官は肩をすくめた。

 

「解決したか?」

「んー、まぁ、まあ・・」

「あとはあれだ」

「なんです?」

「不平等は、良くないからな?」

「ふびょうどう」

「貴君が嫌でなければ、他の子にもちゅーしてやることだな」

「なんで知ってるんですか」

「いくら酔ってようがあれだけ部屋で騒がれたら起きるぞ」

「そりゃそうですよね」

「まったく、人の部屋でイチャイチャしおって」

「するつもり全くなかったの解るでしょう?!」

「いーじゃないかちゅうくらい!どうせ減るもんでもなし!」

 

ああそうか。ほんと昭和の感覚で貞操逆転してるから始末に悪いな。

でもまぁ、悩みは解消してくれたから感謝しておくか。

 

手土産として神通に燃料と弾薬を渡すと、七條司令官はにぱっと笑った。

そのままご機嫌で帰途に就く二人を見送って、私は執務室へと足を向けたのである。

 

 

-----

 

 

カリカリカリと、私がペンを走らせる音が続く。

真っ白な紙にイチから書き起こすの、原始的すぎて正直うんざりです。

パソコンで報告書書いてメールで送りたい。

ブラインドタッチ出来ても紙とボールペンしかこの部屋には無いんだよ・・無駄な才能すぎる。

せめてタイプライター・・あれ訂正できないんだよな。まぁこれも同じだけど。

そんなことを思いながら書類を書き続けていたのだが、ふと顔を上げた。

陽炎が暗い表情で俯いていたかと思ったらこちらを向き、視線が合うと逸らされた。

 

「・・何かあったのか、陽炎?」

「え・・あっ・・その・・」

「もしかして、今頃になって私とちゅーしたことを後悔してるとか?」

「わ、私は嬉しかったけど・・まだ司令は・・嫌だった・・かなって」

「・・・へ?」

 

あ、そうか。貞操逆転だった。

感覚とずれて仕方がないなあ。

 

「あっ、あのね司令。酔ってたとか言い訳しないし、その」

「昨日さ、色々思い出したって言ったよね」

「え?ええ、言ってたわね」

「多分なんだけど、私は別の世界から来たんだと思うんだ」

「へ?」

「だって私が思い出した世界は男女比が1:1で、女の子が貞操を守る世界だったんだよ」

「え?司令・・もしかして」

 

改めて陽炎を見ると、ぽかんとした表情になっている。

少なくとも暗い表情は晴れたか。もう一押しかな。

 

「それに、陽炎みたいに可愛い子とちゅーをして、私が嫌なわけがないじゃないか」

「へっ」

「だからさ、その、変な心配するな」

「・・・・司令」

「ん?」

「・・・その、あのね」

「うん」

「・・・よ、酔ってない時にね、ええと・・ちゅーしても、良いの?」

「恥ずかしいから、あんまり大っぴらにはしないけどな」

「司令!だぁい好き!」

 

ぱあっと花が咲くように満面の笑みになる陽炎を見て、私は苦笑するしかなかった。

つくづく貞操逆転世界だなあ。反応に困るというか、戸惑うよ。

や、悪くはないんだよ。うん。慣れないだけ。

 

笑顔のまま駆け寄ってきた陽炎は、そのまま私の腕に抱きついた。

 

「だー!だからくっつくな!」

「なーんでー?」

「おっきするから!」

 

あ、しまった。つい言っちゃった。

 

「・・・・」

 

抱き着いた姿勢のまま固まる陽炎を見て、さすがに憲兵案件かと思った瞬間。

 

「・・・子供何人欲しい?」

「何言ってんの」

 

てれてれとした顔で嬉しそうに囁く陽炎を見て、こっちが冷静になれたのである。

 

 

-----

 

 

その日の昼時。

食堂の長テーブルで昼食を食べ進めていた川内は、箸を置くと向かいに座る陽炎に声をかけた。

「・・ねぇ陽炎」

「なぁに改まって?んふふふ」

「一体どうしたのか言ってごらんよ。相談に乗るよ?」

「どうしてそう思うの~?」

「今朝は暗~い感じで百面相してて、今は気持ち悪いくらいニヤけてるから」

「んっふっふっふ。当ててみて・・って当ててる!当てたい!あっは!」

「医務室行く?」

「別に気が触れた訳じゃないわよ・・・うえっへっへっへ」

「工廠で直してもらう?」

「だから違うのよ~」

「浮かれてる」

「そうね~浮かれてはいるかしら~♪」

「・・・提督と何があったの?」

 

ピタッ

 

「なっ、なんでそこで・・司令?」

「確証はないまま言ったけど、今は確証が持てたよ」

「べっ、べちゅに何もないわよ?」

「言ってごらん?」

「んだっ、だから何もないわよ」

「言ってごらん?」

 

陽炎が目線を逸らすと、四方八方から興味津々な艦娘達の視線があった。

 

「ひっ」

「さぁ、言ってごらん?」

川内は夜戦で敵艦の急所を見つけた時のような悪い笑みをたたえていた。

 

「・・あは、ここで黙秘権の行使は厳しそうね・・」

「無理だと思うし、時間が経つほど追及がきつくなると思うなあ」

「まぁ、内緒にしなきゃならない話でもないか。えっとね・・」

 

その後食堂からは数時間にわたり、艦娘達の黄色い悲鳴と勝鬨のような声が繰り返し聞こえたという。

 

そして、翌日の午後。

 

「以上で報告終わりっ。頑張ったでしょ?」

「本当頑張ったねえ。演習でついにA勝利かぁ」

 

そう。

川内を旗艦とした艦隊一行は、今朝行われた近隣鎮守府との演習で勝ちをもぎ取ってきた。

これまでは良くてB勝利、敗北Cが普通だよねという状況だったのに、である。

私がじんわり感慨に耽っていると、川内がニコニコしながら手を振っている。

 

「聞いてる提督?」

「あぁごめん、ちょっと感動してた。で、なんだい?」

「A勝利のご褒美欲しいなあって話」

「あげたいんだけど、全員分プレゼント買うには懐が寒いんだよ」

川内が二ッと笑った。

「全然お金かからないご褒美で良いよ!」

「それなら構わないが、なんだいそりゃ?」

「私達にちゅーして欲しいなっ!」

 

音速で陽炎を見ると、陽炎も音速で視線を逸らした。

喋ったな貴様!

 

「陽炎さん、後で話あるから」

「なっ何の事かしら?」

「お説教です」

 

その僅かな時間に川内は距離を詰めてきた。

 

「ねーねー提督っ!良いでしょ?お金かかんないしすぐできるよっ!」

「川内は良いとしても他の子達はそんなんで・・・あ、良いんだ」

 

残る子達を見ると首だけコクコクコクと何度も動かして肯定している。

ペコちゃん人形のようである。

漣・・よだれ拭こう?

 

「普通は女ばっかりの海軍生活のところ、うちはせっかく提督が男なんだし!」

「別にいいけど、どこにすんの?」

「えっ・・」

 

川内は一瞬きょとんとして、口を開きかけて閉じ、一瞬で仲間の元に戻った。

さすが改2素早いな。

そして相談してるみたいだけど・・いや今どこ指差した!?

 

「顔っていうか首から上に限るからね!」

 

一斉に6人が真顔でこちらを見て沈黙し、再び相談に戻った。

私はその間陽炎をジト目で見続け、陽炎は口笛を吹き続けていた。

 

「くっ、唇で!」

「ほう、大きく出たな」

「せっかくのチャンスだし!」

 

チャンスなんだ。

まぁこちらとしても見目麗しい子達とちゅー出来るの嬉しいんだけどね。

あ、違和感の正体がわかった。

いつドッキリでしたーって看板持った奴が出てくるか不安で仕方ないんだ。

 

私がガタリと席を立つと、6人が6人両腕を前へと出してきた。

柔道かな?

 

しかし改まってちゅーするって緊張するなあ。確か頬に手を添えるんだっけ。

んー、どうして皆目を瞑らないんだろう。寄り目になってるよ?

そんなに唇すぼめたらタコみたいで美少女が台無しだよ?

君は舌を入れるなんてどこで覚えた。一番見た目幼いのにおませさんだな!

んで、一番緊張してるのは君か。そっか。

 

・・・・・。

 

「はい、これで全員。満足?」

「「「「「「まんぞくです」」」」」」

 

こうしてドタバタの演習報告会は幕を閉じたのであった。

もちろん陽炎さんとは機密保持条項とその履行についてこんこんとオハナシしましたよ?

 




ちょっと長め。
でもキリの良いとこまで。
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