夕方。
「失礼いたします。あの、司令はいらっしゃいますか?」
丁度扉の近くに居た長門が霧島を見て、ややあって頷いた。
「・・ああ、居るぞ。提督!霧島が来たぞ?」
「やぁ霧島。えっと、お仕事終わったのかな?」
「はい」
「えっとね、最近聞くようにしてるんだけど、私はケッコンカッコカリを無理に進めるつもりはないんだ」
「はい?」
「だから今日は気が乗らないからキャンセルとか、他にも今日はデートだけにしたいとか、始める前に希望があれば聞くよ?」
「希望・・ですか?」
「質問でも良いよ?」
「そう、ですねぇ・・」
霧島は頬に手を当てて少し考えていたが、何かひらめいたのかハッとした様子になった後、おずおずとこちらを向いた。
「あ、あのですね司令」
「うん」
「昨夜なさっていたのは金剛お姉さまと行ったという野球拳でしょうか?」
「だね」
「金剛お姉さまが楽しそうに思い出されているのですが、その、榛名と同じことをされたのでしょうか?」
「へ?」
「あ、あの、翌日以降ですね、榛名は、その、なんといいますか」
「うん」
「あー、えっと、えちちな目をしてどろんとしているのですが、金剛姉さまは笑顔が少し増えたくらいでケロッとしているので」
「何でそこまで違うのかってことかな?」
「はい。あ、あの、比叡姉さまが酔ってひたすらご迷惑をおかけしたのはお詫びいたします」
「ひたすら・・あーうん、ちょっとフォローしきれないけど、金剛を心配してるのは良く解ったよ」
「ご配慮はありがたいですが、もう鎮守府の皆が知っていることですから」
「はは・・えっと話を戻すと、榛名とはおせっせ中心の濃ゆい夜だったわけです」
「濃ゆい」
「あとはその翌日、榛名が小破して帰ってきたのに私が動転しちゃってさ」
「小破でですか?」
「初めての経験だったからね。それでお姫様抱っこして工廠まで運んじゃってさ」
「・・うわぁ」
「それでその、許容量を超えちゃったんじゃないかなって・・悪いことしたなあ」
「なるほど。あ、私の表現がまずかったかもしれないのですが」
「うん?」
「榛名は榛名でとても幸せそうなんです。だから不幸にされたとは思ってないのでそこは心配しないでください」
「あ、そうなんだ。よ、良かったぁ・・」
「・・(司令は)」
「あ、それで金剛の方はおしゃべりとカードゲームが中心で、その後良い雰囲気になったから少しだけおせっせって感じでね」
「ほう」
「金剛も言ってたけど、遊びで盛り上がったっていう感じだったから、そう変化はなかったんじゃないかな」
「なるほど・・・なるほど」
「心配だったら金剛みたいな過ごし方で、なおかつおせっせなしもできるよ?酒は元々飲んでなかったし」
そこで長門が寄ってきて、そっと私に耳打ちした。
「先に言っておくが、霧島は泣き上戸だ」
「控えるよ」
「賢明だ」
霧島は聞こえなかったらしく小首を傾げていたので、私と長門は霧島を見てへらっと笑った。
「だとしますと、私も金剛お姉さまと同じ感じでお願いしたいです」
「解った。じゃあ部屋で食堂のご飯食べて、お喋り中心だね。楽しい夜にしようね」
「はいっ」
霧島がやっと笑ってくれたので、私はとてもホッとしたんだ。
「じゃ、長門、大淀、お疲れ様ね」
「私も失礼いたします」
「ああ」
「お疲れ様でした、ご主人様」
執務室を出た時、私は霧島にたずねた。
「霧島は酒保とか使うことあるの?」
「そうですね。生活雑貨を除くとたまにお饅頭とか買いますね」
「へぇ、いいね。売ってるかな」
「お饅頭はたまにしか入荷しないので、あるかどうかは運ですね」
「行ってみようか、酒保」
「らっしゃー・・いらっしゃいませ提督っ!」
「お邪魔します。でさ、明石さん」
「なんでしょうか?」
「お饅頭とか売ってたりする?」
「あー・・ほんとにすみません。お饅頭今日は入ってこなかったんです」
「しょうがない。なかなか娯楽は難しいね」
「あ、娯楽と言えば」
「?」
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「買っちゃった」
「即決でしたね、司令」
「まぁこういう単純なものが面白かったりするんだよ。霧島ルール解る?」
「交互に挟んで裏返して自分の色に染めるんですよね?」
「ただのリバーシの説明のはずなのに別のものを想像する私は穢れてるんだね」
「?????」
「いやこっちの話。部屋に戻ろうか」
「あ、でしたら私は食事を取りに行ってきますね」
「手数をかけるね。ありがとう」
「どうという事はありません」
私が部屋に戻ると、程なくして霧島が訪ねてきた。
「失礼します司令、配膳はそちらのテーブルでよろしいですか?」
「うん、そこでいいよ。布巾で拭いておいたから」
「かしこまりました」
「そうそう、食事の間、出航した後の話とか聞かせてよ」
「目新しいものはあまり無いのですが・・」
「構わないよ。どんな時間を過ごしてるのか知りたいだけなんだ」
「やーごちそうさま。それにしても外洋って色々あるんだねえ」
「ええ。解放された海域だとトビウオの群れに遭遇したりするんですよ」
「それまでどこに居たんだろうね」
「そういえばそうですね。あ、食器片づけてきますね」
「よろしく」
そんなこんなでご飯は済みまして。
「おかえり。リバーシ用意しておいたよ。部屋に他にないから飲み物はお茶なんだけど」
「いいえ。ご配慮ありがとうございます司令」
「金剛が紅茶好きなのはわかるんだけど、他の皆も紅茶しか飲まないの?」
「いえ。お茶会の時は当然紅茶ですが、それ以外はそれぞれですし」
「うん」
「そもそも紅茶はなかなか手に入らないので、普段飲むのは白湯かお茶ですよ?」
「あ、そっか。そりゃそうだよね。氷は手に入るの?」
「はい。ただ、酒保で買うことになるのでつい面倒で」
照れ照れする霧島が可愛い。普段真面目な子が見せる可愛い表情ってぐっとくるよね。
言うと倒れそうだから言わないけど。
「そりゃそうだね。じゃあ始めようか。白か黒かはコイントスで決めようか」
「では私は裏で!」
霧島はなかなかリバーシが上手くてね。
さすがに艦隊の頭脳を目指そうとするだけある、というか振る舞いの雰囲気にあっている。
「うわっ!あっ置けない!あーー」
「ここもです司令」
「1辺完全に抑えられてしまったなあ」
「さぁいきますよー」
「負けました」
「勝ちました!」
「強いね霧島。3連勝かあ」
「でも先程のゲームは最後まで拮抗してましたよ?」
「そうだったね。だからあそこ、あの1点に置かれた後一斉にひっくり返っていった時がさ・・」
「それがリバーシの醍醐味ですから」
「1回休憩しよっか」
「では私がお茶を淹れますね」
「お願い」