かんぱにのSS置いてくだけ   作:イイワカハルミ

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マリアとアザミノの飲ミュニケーション

 

マリア

「それでどうしてバーなんかで話すのよ。魔法の話が聞きたいって言うからわざわざ来たのに、お酒入った状態で話なんて聞けるの?」

 

アザミノ

「いやあ、やっぱ仲良くなるなら酒を飲みながら話すのが一番だろ」

 

マリア

「仲良くって。武器に魔法刻んだりしてるものとかあるし、鍛冶師としてその辺の知識も強化しておきたいっていう話だったじゃない」

 

アザミノ

「それは本当さ。ただ研究論話すからって、お硬くその話ばっかりしててもしょうがないだろ? 楽しくやってそれで知識も増えるのが一番さ」

 

マリア

「お酒の入った頭で知識を増やす? ナンセンスにしか思えないわ」

 

アザミノ

「まあまあ。そっちもヒルダの事とか鍛冶の話とか、色々聞きたいって言ってたじゃないか。小さいけど良いバーなんだ。飲もうじゃないか」

 

マリア

「ったく、ちょっとだけだからね?」

 

 

アザミノ

「そういえば魔法ってのは本当に才能ない奴は一切使う事が出来ないくらい生まれ持ったものが大きいって聞くが、ヒルダはどのくらいのもんなんだ? 将来的にはアンタくらいになりそうな感じかい?」

 

マリア

「貴女、鍛冶師としては超一流なのかもしれないけれど、魔法の才能は本当にないのね」

 

アザミノ

「む?」

 

マリア

「あの子の魔法の才は私なんかじゃ遠く及ばないわ。私程度の魔法使いは探せばいくらかは見付かるでしょうけど、あの子クラスとなると探した所で見付かるかしらね」

 

アザミノ

「おいおい。いくら何でもそりゃ言い過ぎじゃないか? あんまり魔法に詳しくない私でさえ、アンタの名前くらいは聞いた事あるぞ。そんなアンタと同じか少し上だってんならともかく、アンタとは比べ物にならないってのは家族の贔屓目過ぎやしないか?」

 

マリア

「そうだったらよかったのでしょうけど、そんな次元じゃないわよ。嫉妬したくなるくらい、あの子が秘めているものは大きいわ」

 

アザミノ

「ふーん、そんなにかい」

 

マリア

「ええ。まあその才能が輝きを失わないのも、ヒルダの弛まぬ努力と研究があるからだけどね」

 

アザミノ

「何だ、お姉ちゃんは厳しくて駄目出しばっかりして褒めてくれないとか言ってたけど、全然そんな事ないじゃないか」

 

マリア

「いいえ、事実よ。昔はともかく、教師としてヒルダと接するようになってからは褒めた覚えなんてないわね」

 

アザミノ

「オイオイ。それじゃ可哀想だろ。もっと褒めてやれよ」

 

マリア

「それは駄目よ」

 

アザミノ

「どうして? 凄く喜ぶと思うぞ?」

 

マリア

「確かに伝えればヒルダは喜ぶでしょうね。それで今まで以上に頑張って魔法を学んでくれると思う」

「でもそれは褒められたり期待に応える為にやってるだけ。自分自身の為じゃない。始まりはそれでいいかもしれないけど、いつまでもそれでは駄目」

 

アザミノ

「そういうもんかねえ」

 

マリア

「確か刀鍛冶だったわよね? 貴女は褒められる為に刀作ってるのかしら?」

 

アザミノ

「そういう部分もないとは言わんさ」

 

マリア

「少し質問が悪かったわ。それじゃあ相手が喜ぶからってどんな刀でも作る? 例えばそうね。扱い切れずに大怪我するか、すぐに刀を壊すと解ってて、注文されたからって実力が伴わない相手に特殊な刀を卸す?」

 

アザミノ

「卸す訳ないだろ」

 

マリア

「そういう事よ。けど相手が喜んでくれるから、もっと下世話な話をすれば売れるから卸す鍛冶屋は数多いんじゃない?」

 

アザミノ

「まあな」

 

マリア

「魔法も似たようなものなのよ」

 

マリア

「自分の魔法で誰かが喜んでくれる事、誰かに認められる事、お金を稼ぐ事。そこに楽しさを見い出すのは構わない。けどね、そこに寄り掛かって思考を止めては駄目。その先にあるのは、利用され使い捨てられるか、利用して使い捨てていく人生。そんな悲しい結末だけよ」

 

アザミノ

「ふむ」

 

マリア

「誤解しないでよ。認められたり、お金を稼ぐのが悪いって訳じゃないわ。そこに自分の意志や価値を持ってないと駄目になってしまうって事。鍛冶師として有名な貴女なら心当たりあるんじゃない?」

 

アザミノ

「確かに。良い腕持ってたのに、顧客に媚びている内に腕腐らせちまったヤツは山ほど見てきたよ」

 

マリア

「でしょう? 私はヒルダにそんな風になってほしくないの」

 

アザミノ

「なるほど。姉心ってやつだねえ……」

 

マリア

「そんなんじゃないわ。実の妹相手に抱く想いではないと思うけど、あの子がどこまでやれるのか。どこまでいけるのか。見てみたいのよ。一人の魔法研究家として、あの才能がどこまでのものか知りたいの」

 

アザミノ

「アンタ、根っからの研究者なんだな」

 

マリア

「しょうがないでしょ。いつの間にか、こうなってたんだから」 

 

アザミノ

「ああ、悪い悪い。非難したかった訳じゃないんだ。そういうの嫌いじゃないぞ」

 

マリア

「慰めは結構よ。良い年して魔法以外興味ない枯れた女だと自分でも思うしね」

 

アザミノ

「いやいや、慰めじゃないって。私の相方も似たようなもんでな。生粋の鍛冶職人ってヤツで中々凄いぜ」

 

アザミノ

「武器を通して自分の事を感じてほしい。だから手を抜く訳にはいかないってのが信条でさ。これがよくある口だけのヤツと違って本気でね。だから武器は作るけど依頼主と顔を合わせる事さえ滅多にない」

 

マリア

「それは凄いわね。でも、そんな作り方してたんじゃ利益計算とか素材の調達とか大変なんじゃない?」

 

アザミノ

「そうなんだよ!」

 

アザミノ

「素材だけじゃなく熱の入れ方とか水の温度とか徹底的に拘るヤツでさ。それも一本一本、魂込めて。お陰で大量生産とかも出来ないし商売あがったりだよ」

 

マリア

「よくそんなの相方にしてるわね」

 

アザミノ

「いやあ、それが私もあんまり人の事言えなくてな。誰にでも使い易い刀を作るってのもいいんだけどさ、こう、なんだ。凝った物作るのはそれとは違った楽しみがあってなあ」

 

アザミノ

「例えば使い手に合った刀を考えたりするのって色々面倒臭くはあるんだけど、その試行錯誤が楽しくてなあ。その上で期待以上の物が出来た時とか、もう堪らなくてな」

 

マリア

「解るわ、その気持ち」

 

アザミノ

「そうか、解ってくれるか!」

 

マリア

「ええ。魔法も同じような部分あるからね、と……」

 

アザミノ

「ん、どした?」

 

マリア

「お酒なくなっちゃったわ」

 

アザミノ

「おー、静かに飲んでるから解らなかったよ。よし、マスター。追加で酒持って来てくれ」

 

マリア

「ちょ、ちょっと。軽く付き合うだけって話でしょ」

 

アザミノ

「まあまあ。私の奢りだし、それに色々鍛冶師として魔法研究家のアンタには聞きたい話が残ってるんだ。付き合ってくれよ」

 

マリア

「鍛冶師として、ね。しょうがないわね、もうちょっとだけよ?」

 

アザミノ

「はは、助かる」

 

 

マリア

「そういえば気になってたんだけど」

 

アザミノ

「お、何だい?」

 

マリア

「あの子がよく傭兵会社なんかに入る気になったわね。切っ掛けって何だったの?」

 

アザミノ

「あー、何だったっけかな。もう随分前だからなあ……」

「ちょっと待ってくれ。思い出す」

 

マリア

「そんなので思い出せるもんなの?」

 

アザミノ

「私が傭兵会社入って結構すぐだったからな。印象的な事多かったから、多分思い出せ……」

「あー、思い出してきたぞ。確かぬいぐるみを一緒に探してほしいって依頼が来てな。その時に出会ったんだ」

 

マリア

「ぬいぐるみ? ワーグナーの事かしら」

 

アザミノ

「名前までは覚えてないが兎のぬいぐるみだった気がするな」

 

マリア

「そうそう、その兎よ。私が上げたぬいぐるみだし、嬉しそうに名前付けてたの覚えてるわ」

 

アザミノ

「そうかそうか」

「それで魔法の研究素材だったかな? それを取りに行った時に落としたらしくて、それで一緒に探しに行ったんだ」

 

マリア

「ふーん。それで見付かったの?」

 

アザミノ

「ああ、見付かった見付かった。いやー、まさかペロッグの上にあるなんて思わなくてな。結構魔物の群れも出てきたし大変だったよ」

 

マリア

「ちょっと待って。たかがぬいぐるみ一つの為に魔物の群れと戦ったの?」

 

アザミノ

「おいおい。たかがなんて言ってやるなよ。あのぬいぐるみ、めちゃくちゃ大事にしてるんだぞ。ほとんど手放さないくらいにさ」

 

マリア

「たかがよ。ぬいぐるみなんていくらでも買えるけど、ヒルダの身には代えられないのよ」

 

アザミノ

「いくらでも、ねえ」

 

マリア

「何よ。その目は」

 

アザミノ

「アンタ、あの頃イェリンに捕まってたじゃないか。アンタが居なくなって寂しい想いしてたヒルダが、アンタから貰ったぬいぐるみを失くして探さずに居られると思うのかい?」

 

マリア

「……むしろ私から貰った物なんだから無くなったって気にならないわよ」

 

アザミノ

「おいおい、本気じゃないのは解るが、んな事言ったらヒルダが可哀想だぞ。覚えてるだろ、この間アンタに助けられた時に嬉しそうにしてたのさ」

 

マリア

「……解ってるわよ。ただ私の上げた物のせいで危険な目に遭わせたってのが嫌だっただけよ」

 

アザミノ

「あー、まあ気持ちは解らんでもない」

 

マリア

「少しでも喜んでほしかったからプレゼントしたのよ。それなのに危険な目に遭わせちゃうなんて。それでもし取り返しが付かない事になってたらどうすればいいのよ」

「上げなかったらよかった、私のせいでってずっと後悔し続ければいいの?」

 

アザミノ

「悪かった悪かった。だからそんな泣きそうな顔しないでくれよ」

 

マリア

「……解ってる。私が居なかった時期が一番、自分の力や才能に自信を持てなくて迷う時期。そんな時に傍に居てあげられなかった私に心配する資格なんてないくらい……」

 

アザミノ

「あースマン。そこまで地雷だとは思わなかったんだよ」

 

マリア

「いいわよ。事実、私は姉としても魔法の先生としても失格よ……」

 

アザミノ

「……」

 

マリア

「…………」

 

アザミノ

「そうだ!」

「なまじ肌身離さず持ち歩けるような大きさだから失くしてしまうんだよ。もっとこう、持ち運べないような大きさのぬいぐるみでも渡したらどうだ?」

 

マリア

「馬鹿言ってんじゃないわよ。そんな大きさでヒルダが喜ぶような可愛いぬいぐるみなんてあると思ってるの?」

 

アザミノ

「んー、ペングーって知ってるか?」

 

マリア

「知ってるわよ。嘴とか水掻きとか色々魔法の素材になるしね」

 

アザミノ

「あれを追い払う時、ヒルダが結構寂しそうな目で見てる事があってな。多分、可愛いからあんま痛め付けたくないんじゃないかって思うんだ」

 

マリア

「……言われてみれば大きいけど小動物チックな可愛いさあるわね、あいつら」

 

アザミノ

「だろ? だからアレの等身大のぬいぐるみとかあったら喜ぶと思うんだよ」

 

マリア

「なるほどね。で、手に入るアテはあるの?」

 

アザミノ

「うっ、スマン。私は人形屋とか行かんし思い付きだから解らん」

 

マリア

「全然駄目じゃない」

 

アザミノ

「いや、待て。こういうのに詳しいヤツには何人か心当たりがある。そいつらに聞けば多分……」

 

マリア

「本当かしら? そんな話聞いた事ないけど……」

 

アザミノ

「それは間違いない。ただ……」

 

マリア

「何よ。何かあるの?」

 

アザミノ

「そいつらも極度なぬいぐるみ好きでな。もしそれが本当に良い品だったら最悪戦う事になるかもしれん」

 

マリア

「何だ、そんな事……」

 

アザミノ

「オイオイ、そんな事って軽く言うけどな……」

 

マリア

「渡したくない、奪いたくなるほど良い物って事でしょ。いいじゃない、その方がヒルダのプレゼントに相応しいわ」

 

アザミノ

「いや、けど円卓騎士並に強いというかだな……」

 

マリア

「上等よ。ヒルダの為なら円卓騎士だろうが剣聖だろうが薙ぎ払ってやるわよ」

 

アザミノ

「頼もしい事で……」

 

マリア

「何他人事みたいに言ってんのよ。貴女も手伝うに決まってるでしょ」

 

アザミノ

「まあ、うん。そんな気はした」

 

マリア

「っと、マスター。もう一杯貰えるかしら?」

 

アザミノ

「ああ、私にも頼む」

 

 

アザミノ

「いやー、にしてもヒルダの姉で魔法研究家のマリアさんとしてはどうなんだ? 妹が魔法研究家としてスクスク育っていくのを見るのは」

 

マリア

「……時々不安になるわ。このまま魔法研究家の道を歩いていくだけでいいのかって」

 

アザミノ

「んー、何だ? まるで魔法辞めてしまってもいいみたいな言い方するじゃないか」

 

マリア

「……そうね。そうなっても構わないわ」

 

アザミノ

「おいおい、今までの話は何だったんだい? ヒルダにはアンタも羨むほどの才能があるんじゃなかったのかい?」

 

マリア

「誤解しないで。姉としての贔屓目無しにヒルダには魔法の才能があるわ。戦う魔法に関しては並くらいかもしれないけれど、探知や感知といった分野だけを見ればヒルダ以上の才を持ち合わせている人間なんて世界に数人も居ないんじゃないかしらね。もしかしたら歴史に名を刻む事さえあるかもしれないわ」

 

アザミノ

「それでどうして辞めてもいいなんて話になるんだよ」

 

マリア

「才能があるからって、その才能を使いたいかどうかは本人次第でしょう?」

「戦う才能があるからって戦いに明け暮れるのが幸せ? 魔法の才能があるからって魔法の研究に人生を費やすのが幸せ? 何に幸せを感じるかなんて本人次第でしょう?」

「魔法なんて捨てて生きたいと願うかもしれない。ただ誰かと恋をして平凡な家庭を築いていきたいと思うかもしれない。向いてなくて成功する可能性が万に一つしかなくても、別の魔法を求めたいと思うかもしれないわ」

「けど、あの子は他の楽しみを知らなさ過ぎる気がするわ。若い内にしか出来ない事なんていくらでもある。人生を魔法に費やすと決めるには早過ぎる気がするのよ。それを才能のままに走り続けて」

「後悔しないか心配だわ。魔法の才能があるからって、魔法だけが人生の全てじゃないのよ」

 

アザミノ

「ふむ」

 

マリア

「あの子の人生はあの子のもの。そして何が幸せか決めるのもあの子であるべきよ。そしてその為の苦労も失敗も背負うからこそ、功績も成功もあの子自身のものになる。そういうものの筈」

 

アザミノ

「だからあれこれと口を出して縛りたくないってかい?」

 

マリア

「そうよ。あの子は優しい子だから、きっと私が望んでいるって知ったら自分の人生だなんてこれっぽっちも考えず、きっとその道を歩いてしまう。それは駄目。魔法使いとしてもヒルダ個人としても、そんなのは絶対駄目よ」

 

アザミノ

「それでペンダントも、魔力が上がってきたら解るような回りくどい仕掛けにしてた訳か。もし魔力が上がらなかったら、一生発見されなくても良い覚悟で」

 

マリア

「どうして知ってるのよ?」

 

アザミノ

「魔術刻印の解明は鍛冶職人達の間じゃ悲願と言っても過言じゃない課題の一つでね。その研究をしているヤツが身近に居るんだ。詳しく話を聞くのは、おかしい事かい?」

 

マリア

「なるほど。むしろ聞かない方がどうかしてるわね」

 

アザミノ

「そういう事。その時にペンダントの話も色々とな。色々とらしくないメッセージをペンダントに仕込んでたのも聞いたよ」

 

マリア

「そこまで知ってるのね」

 

アザミノ

「まあな。だから気になってね。さっきも言ったけど、話聞いている感じ、どうも刻まれていたメッセージはアンタらしくないって感じるぞ?」

 

マリア

「……怖かったのよ。中途半端な魔法は自分だけじゃなく他の誰かも傷付ける。だから私は学校でも出来るだけ厳しく接してきたし、特にヒルダには姉妹としての情が出て甘くなったらいけないって思って、他人より一層厳しく接してきたわ」

「だからヒルダが私に嫌われてるんじゃないかって誤解して卑屈にならないかって――」

「ううん、言い訳ね。私があの子に嫌われてるんじゃないか怖かったのよ。だから気持ちを伝えたかったし、何か繋がりが欲しかった。けど面と向かって言葉にするのは恥ずかしくてね」

 

アザミノ

「それでああいう形になったって訳か」

 

マリア

「ええ。ただ、可愛い妹だってヒルダを甘く見ていたのかしら。それとも傭兵会社での経験が想像以上にあの子を成長させたのかしらね。アレに気付くのは魔法学校を卒業してからの事だと思っていたのに、あの子ったら卒論のテーマに魔術刻印なんか選んじゃって……」

 

アザミノ

「そいつは大変だ。発生自体は確認されてるが原理そのものは未解明に近いって聞くぞ。そんなの学生の手に負えるレベルかい?」

 

マリア

「だから上手くいかなかった時の為に魔力感知のレポートも纏めていると聞いたわ。本当ならそっちのレポートだけで十分でしょうに。全く、わざわざ苦労を背負いたがるなんて、あの子にも困ったものね」

 

アザミノ

「困ったという割りに嬉しそうな顔をしてるじゃないか」

 

マリア

「……嬉しくない訳ないじゃない。わざわざそんな困難なテーマを選んだって事はヒルダも嫌ってるどころか、少なからず私の事気にしてくれてたって事でしょ。アウロラ先生から聞いた時は顔が緩みそうになるのを必死でこらえたわよ」

 

アザミノ

「そかそか」

 

マリア

「嫌われてないって解ったし本当はもっと傍に居たいのよ? けど、あんまり近くに居たらヒルダを助け過ぎてしまう。それじゃあ、あの子の成長の機会を奪ってしまう」

 

アザミノ

「親心だねえ……」

 

マリア

「止めてよ。まだ子どもどころか結婚すらしてないのよ?」

 

アザミノ

「だよなあ。結婚して子ども居るのにその恰好は出来ないもんなー」

 

マリア

「アハハハ、全力の闇魔法喰らわせるわよ?」

 

アザミノ

「悪い悪い。冗談だから割りとマジな目で睨まないでくれ」

 

マリア

「ったく。こっちだって魔力効率にさえ関わらないなら、もっと普通の服着てるわよ」

 

アザミノ

「アハハ。けどアレだ。アンタ心配し過ぎだと思うぞ」

 

マリア

「そうかしら?」

 

アザミノ

「そうそう。ぶっちゃけ暇さえあればヒルダは本読んだり何か魔法の研究してるみたいだけど、すっごい楽しそうにしてるぞ。鍛冶師の私には解るね。アレは私が刀の事を考えている時と同じ感じだ」

 

マリア

「……苦しい事とかあっても、魔法が好きで好きで仕方ない。そういう事?」

 

アザミノ

「解ってるじゃないか」

「もうヒルダは魔法の危険も魅力も知ってる。意地張ってないで傍に居てやったらどうだ?」

 

マリア

「ふん。例えそうでも、簡単に素直になれるなら苦労しないわよ」

 

アザミノ

「素直にはなりたいんだ?」

 

マリア

「張っ倒すわよ」

 

アザミノ

「おー、怖い怖い」

 

マリア

「ったく。調子狂うわね」

 

マリア

「と、お酒なくなっちゃったわね。マスター。もう一杯貰えるかしら?」

 

アザミノ

「お、いい飲みっぷりだね」

 

マリア

「何かここのお酒美味しくてね。いくらでも飲めそうな気がするわ」

 

アザミノ

「ふふ、そうだろそうだろ。お勧めだぞ、この店は」

 

マリア

「私が褒めたのはお店とマスターの腕よ。何で貴女が嬉しそうなのよ」

 

アザミノ

「自分の好きなものを認めてもらうと嬉しいもんさ」

 

マリア

「……まあ、気持ちは解るわ」

 

アザミノ

「だろ? いやあ、美味いねえ、ここの酒は……」

 

 

アザミノ

「そういや、この前ゴーレムの群れから私達助けてくれた事あったじゃないか」

 

マリア

「ああ、あったわね。全く、準備不足で依頼に向かうなんて何考えてるのよ。トントン拍子に上手くいってるからって油断し過ぎじゃないかしら?」

 

アザミノ

「あー、耳に痛い話だよ。それ関係で最近は結構トラブル続きでなあ……」

 

マリア

「大丈夫なの、それ?」

 

アザミノ

「まあそこは社長共々、色々考えていくから今は置いといて。あの時、わざわざあんな場所に居たのはヒルダを見守ってたからかい?」

 

マリア

「それもないとは言わないけど本題は違うわ。本当は助けてくれた御礼を言おうと思って何日も前からずっと様子見てたのよ」

 

アザミノ

「わざわざ様子なんて見なくても、礼なんてパパーっと言っちまえばいいじゃないか」

 

マリア

「ほとんど命を救われたって言っても過言じゃないのよ。そんな簡単に済ませられる訳ないじゃない」

 

アザミノ

「気にし過ぎだろー。ちゃんと正式な依頼手続きは取ったし依頼料だって支払ったんだろ? それとも色々あって払えず仕舞いだったりするのかい?」

 

マリア

「失礼ね。ちゃんと依頼料は払ってるわよ。けど、あんな額じゃ全然釣り合わないくらい大変だった筈よ。それなのにそっちからは何も言ってこない。解る? 今か今かと貴重な魔術具を準備して研究室で待ってた私の気持ち……」

 

アザミノ

「何も言って来ないんだから、有り難く受け入れておけばいいじゃないか」

 

マリア

「相手の優しさに甘えろっての? そんなの納得出来る訳ないじゃない。むしろそういう優しさを持つ相手にこそ、こちらも誠意を尽くすべきなのよ」

「でも相手が何も言って来てすらないのに押し付けがましく御礼の品なんて渡し難いし、かといってそんな会社じゃ礼言いに行ったらそれで終わりそうじゃない……」

 

アザミノ

「ああ、そうだなあ。『ヒルダのお姉さんなんだし気にしないでくれ。こっちもヒルダには随分助けてもらってるから』ってな感じで終わるだろうなあ」

 

マリア

「それじゃあ私の気持ちが収まらないわ。労働には見合った対価、買い物にも釣り合う貨幣。恩には恩を持って返すべきよ」

 

アザミノ

「見合った対価、ねえ。くれるってんだから貰っときゃいいってのに。そんな服装してる割りに根は相当真面目なんだな、アンタ」

 

マリア

「だからこれは魔力効率の問題であって好きでしてる訳じゃ……」

 

アザミノ

「いくら効率が良いからって自分の身体に自信がなきゃ、その恰好は出来んだろ」

 

マリア

「私の身体を見るのなんて女なら誰でもいいっていう人間だけよ。そんな奴はどんな格好であれ寄ってくる。必要以上に気にする必要なんてないわよ」

 

アザミノ

「……これだから研究ばっかしてるヤツは。大体の男ならアンタみたいな美人がそんな恰好してたら目を離さずには居られんと思うぞ」

 

マリア

「フフン、知ってるわよ。同性が相手を褒めるのはどうも思ってない時だけでしょ?」

 

アザミノ

「……どっから仕入れたんだよ、その情報」

 

マリア

「本に載ってたわ。完璧でしょ?」

 

アザミノ

「さいですか……」

 

 

アザミノ

「にしても話してる感じ教師も随分向いてる気がするなあ。いっそ臨時教師じゃなくて本格的に魔法学校で教師やってみたらいいんじゃないか?」

 

マリア

「それは嫌」

 

アザミノ

「おや、意外だ。話を聞いてる限り教師は天職だと思ったんだがね」

 

マリア

「多くの才能を見られるという意味では良い環境だし、その才能が花開く手助けを出来るのに、やりがいを覚えた事がないと言えば嘘になるわ。正直、その道を考えた事がないかと言えば嘘になるわね」

 

アザミノ

「ふむ」

 

マリア

「ただ私は生徒より自分の研究の方が大事だし楽しく感じてしまうの。研究が軌道に乗り始めたら生徒を放っておきかねないくらいにね」

「そんな人間が教師として人の面倒を見るなんて無責任もいいトコだわ。そう思ってるから正式に教師にって話は何度か来てるんだけど、断らせてもらってるの」

 

アザミノ

「なるほどなあ」

 

マリア

「大体、教師なんて効率が悪い事が多過ぎるのよ。自分の研究室なんだから使い易いように使ってたらもう少し整頓してくれないと困るだの、臨時とはいえ講師なんですから大掃除の監督くらいしてほしいだの。そんな事してる暇があったら一冊でも多く本を読んで、新しい魔法を試したいわ」

 

アザミノ

「やれ普通はこうするべきだとか言う人間って多いものなあ」

 

マリア

「合宿だって集中的に勉強するまでは良いとして山の中に閉じ込めるってのが前時代的過ぎるわ。もし新しい研究機材や新しい魔法理論が書かれた本が出てたらどうするのよ。魔法の奥深さを全て知る時間があるほど人の生は長くないのよ!」

 

アザミノ

「教師として学校で過ごすには研究者や探究者としての側面が強過ぎるって事か……」

 

マリア

「まだ見ぬ魔法理論を追い求めてこその魔法研究家でしょう、何が悪いのよ」

 

アザミノ

「気持ちは解る。鍛冶も素材探しに技術の探求と、ある程度の自由と挑戦は必要不可欠だからな。何もない場所に留まってなんてられんよ」

 

マリア

「そうよね! それなのにアウロラ先生もノーリーン先生も、それらの誘惑を打ち破ってこそ精神修行の意味がって聞いてくれなくて。確かに合宿なのに脱走しようとしたのは私が悪かったし、生徒に示しが付かないって言葉も確かだと思うわ。教師としての自覚も足りなかった。結界を破ったのもやり過ぎだったって認める」

「けど研究と探求こそが魔法の真理でしょう! あそこまで怒らなくたっていいじゃない……」

 

アザミノ 

「ワハハハハ。とりあえず飲め飲め。飲んで全部吐き出しちまえ~」

 

 




ここまでが地の文なしの台詞だけの話です

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