異世界バイト日記   作:ニホニウム

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日記……?
日記ってなんだろう……(タイトル)


3話 出勤(1)

けたたましく鳴り響くタイマーの音に意識を揺すぶられ、慌ただしく覚醒する。現在の時刻は7時30分。

 

昨日の事を思えばずいぶんと早い起床だが、訳もなく連日休みを取るというのも他の社員から見れば目に余る行為だろう。

先日の謝罪の意味も込め、少々早めにバイト先へ向かうことにしたのだ。

 

「超さみぃよ……」

 

気温は5度を下回っている。外を見れば、昨夜降った雪が薄っすらと積もって、一面の銀景色が広がっていた。

 

暖房は節約の為付けていない。

暑さばかりはどうにもならないが、寒さならば厚着をしてしまえばどうにかなるからだ。家計を圧迫して、綾瀬に迷惑をかけたくない思いもあるが……実を言えば、前世の耐乏生活の記憶が根付いて、貧乏性に染まっているというのが大きい。

 

「さて……頑張るか」

 

寒さに身を震わせながらも、重たい身体を叩き起こし、仕事の準備を始めた。分厚いコートをクローゼットから引っ張り出し、身体を包み込む。

 

幾許か寒さが和らいだ。

 

その足でリビングへ向かうと、綾瀬の姿が見えた。

 

「春香ー、ご飯用意しといたから食べといてね」

「ありがとー!美味しそうだね!」

 

テーブルにトーストとフルーツ、熱々のコーンスープが彩りよく並んでいる。冷え切った体には、暖かい食事が何よりのご馳走だ。

 

前世で一人暮らしをしていた時は、毎日のように半額の、パサパサとしたパンを食べていたが、こうして「温かい」ご飯がいつでも食べられてしまう日常に入り浸ってしまうと、もう以前の様に戻れるとは思わない。

 

「ん……!おいしい!」

 

コーンスープの暖かさが身体をじんわりと温め、トースターの香ばしい匂いが心まで温めてくれる。それと、フルーツの甘くさっぱりとした味わいが朝の目覚めにぴったりだった。

 

「春香はいっつも美味しそうに食べてくれるね」

「だって美味しいんだもん……」

 

少し照れ臭かったが、本心だった。

 

「そう言ってくれると作り甲斐があるね、嬉しいよ」

 

綾瀬は微笑みながら、俺の隣に腰掛けてきた。

 

近くで聞く彼女のハスキー声な声は、冷え切った朝の空気を柔らかく包んでくれるように思えた。

整った顔立ちと、黒髪の間から覗く猫耳がピクリと動く度に、彼女の可愛さが更に引き立つ。綾瀬が隣に居るだけで、俺の心が鮮やかに染めあげられていくのを感じる。

 

「春香が今やってるバイトって何だっけ?」

「イベントスタッフだよ、まぁ木っ端も木っ端なんだけど」

「へぇー……意外。楽しそうだね」

 

楽しいかどうかはさておき。

イベントスタッフというと、体力仕事ばかりのようなイメージを持たれる方が多いかと思うが、実際にはそのような仕事は「獣人」の手で事足りる為、俺は会場案内やクレーム処理などの業務に回される事の方が多い。

 

適材適所というものだろうか?

 

もちろん、人間が全く力仕事をしない訳ではない。

状況によっては、俺も重たい荷物を運んだりする事もある。

だが、やはり獣人の方がその分野では優れているし、効率的なのは言うまでもない。

例えば、俺の上司にライオン系獣人の「神谷(カミヤ)」という人が居るのだが、彼は人を率いる立場でありながら、実際に現場に出て働く方が身に会っているのだといって、いつも力仕事を担当しているのだ。

 

___そんな風に、人と獣人は、いつも何処かで線引きされた世の中を生きている。

 

「そういえば、綾瀬の働き先って聞いた事がなかったけど……何してるの?」

「知りたいー?ふふ、どうしよっかな〜……んー、内緒!」

 

綾瀬は少し悪戯っぽい笑みを浮かべて、肩をすくめた。

 

「えー、そんなの言われたら余計気になるじゃん。せめてヒントを……」

「そうだなぁ……。私の仕事は、人と接する事が多くて……あとは体を使う事も多いかも?」

 

綾瀬の曖昧な答えに、ますます謎が深まるばかりだったが、それが彼女の狙いなのかもしれない。

彼女の手の平に乗せられている自分が少し悔しい気もするが、そんなふうに揶揄われるのも意外と悪くないのだ……もしかすると、俺はドMなのか?

 

いや、そんな事はない……はず、だ。多分。

 

そんな風に思い悩む俺を見てか、彼女はニヤニヤと笑っている。

 

「もー、また俺で遊んでるでしょ!」と、軽く頬を膨らませて抗議してみたが、彼女はただ笑うばかりで、結局答えを教えてくれる気配はなかった。仕方なく、謎は謎のまま、今日のところは諦める事にした。

 

「わからないな……まぁ、また今度教えてよ」

「んー……気が向いたらね?」

 

そう言って、綾瀬は食器を片し始めた。

 

何もしないのも申し訳ないので、彼女の隣に立って、出勤までの残り時間、少しばかり皿洗いを手伝う事にした。




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