東方不死王墓~Requiem for the OVERLOAD~   作:烏籠茶

1 / 3
初投稿です。至らないところも多々あるかもしれないのでご了承ください。


プロローグ

 2138年現在、「DMMORPG」という言葉がある。正式名称『Dive Massively Multiplayer Online Role Playing Game』。ゲーム機と神経回路を専用コンソールを介して繋げることで、ゲーム内での体験を実際の出来事のように味わうことができる、体験型のオンラインRPGのことである。

 

 そんなDMMORPGの中でもとりわけ異彩を放つゲームタイトルがある。その名も『ユグドラシル<Yggdrasil>』。今から12年ほど前である2126年に日本のゲームメーカーから発売され、その名は瞬く間に日本中に知れ渡ることとなった。

 

 このゲームの最大の特徴は、何といっても自由度の高さだろう。まず、プレイヤーは自身のアバターを様々な種族から選択することになる。それらの種族は三つの区分に大別され、ヒトやエルフなどの人間種、ゴブリンやオーガなどの亜人種、そしてスライムやスケルトンなどの異形種がある。そしてDMMORPGであるユグドラシルでは、異業種のような人間の体から離れた構造をの種族を選んでも、しっかりのと自分の体かのような感覚があり手足を自由に動かすことができるのだ。

 

 外見だけではなく能力面である職業(クラス)の種類も多彩で、その数は2000を超える。ユグドラシルでは1キャラあたり1つの職業(クラス)選ぶのではなく、1レベルごとに1つ選択する。つまり最大の100レベルまでには計100回選ぶことになり、その組み合わせの膨大さは十分に実感できるだろう。

 

 装備やアイテムも自分たちで作ることができる。外装を細部までデザインできるのはもちろんのこと、使用する素材によって能力や性能が変わり、どの素材をどう組み合わせるかで自分だけのオリジナルの装備やアイテムを作り出せる。

 

 ゲームのプレイスタイルだって自由だ。プレイヤー達は何の説明もなく広大なフィールドに投げ込まれ、体験通じてこのゲームとの関わり方を理解していく。そうして、広大な世界を自由に探索する、自分だけのビルドや装備を研究し最強を目指す、頭の中のアイデアを創作物として昇華させる、自慢の創作物を皆と共有する、自分たちだけの防衛ダンジョンを築き上げるなど、各々自分だけの遊び方を見つけていくのだ。

 

 この自由さが見事にヒットし、日本中にユグドラシルというゲームの名前は瞬く間に広まった。ゲーム内は多くのプレイヤー達で溢れかえり、更なる強さを求めて研究し、自分だけのアイテムを作り上げ、未知のダンジョンを攻略し、ライバルたちとしのぎを削った。

 

 ...が、それももはや過去の話である。2138年現在、ユグドラシルは発売から12年の時が過ぎ、もはや時代遅れのゲームとなった。ゲームにかつての熱気はなく、プレイヤーの大半は他の新しいゲームへと移っていった。既にゲームはサービス終了の告知までされており、このままその物語に幕を下ろすかのように思われた。

 

――――――――――――――――――――

 

 ユグドラシルのサービス終了日。ギルド「アインズ・ウール・ゴウン」の拠点「ナザリック地下大墳墓」。その第九階層に存在する一室で、ギルド長であるモモンガは孤独に他のギルドメンバー達のログインを待っていた。

 

 アインズ・ウール・ゴウン。彼らは異形種に対する迫害ともいえる執拗なPK(プレイヤーキル)に対抗するべく集結した異形種プレイヤーたちだ。41人と定員の半分未満のメンバー数でありながら、ギルドランキングでは9位に鎮座していた異例のギルドだ。かつて、ギルド拠点に攻め入ってきた総勢1500人のプレイヤー達を撃退するという伝説を作り、ユグドラシルではその名を知らぬものはいなかった。

 

 そんな輝かしい日々にモモンガは未練があるのだろう。ユグドラシルの衰退とともにギルドメンバーが一人、また一人と去っていく中で、彼だけはこの地に残り続けた。

 

 いい年した大人がゲームの中の友達に執着があるのは、いささか恥ずかしいことかのように思えるが、彼の境遇を考えれば仕方のないことかもしれない。

 

 モモンガ、その本名を「鈴木悟」といい、母子家庭で育った。政治は麻痺し、自己利益しか眼中にない企業連合たちが社会を支配するこの時代、労働階級は搾取され学校すら碌に受けることができない状況であった。そんな中、母親は息子を小学校に入れるべく、高い学費を払うために必死で働いた。そのおかげで悟は一般人にしては珍しく小学校に入学できたが、母親は過労で亡くなった。

 

 孤児となった悟は学校で友人を作ることができず、小学校を卒業し働き始めても気の合う仲間はできなかった。

 

 そんな孤独に生きていた彼にとって、アインズ・ウール・ゴウンのメンバー達は、生まれて初めての友人であり、かけがえのない仲間だった。

 

 故に皆がこの地を去った後もこのナザリック地下大墳墓に執着し続けた。かつての皆との思い出が詰まったこの場所を一人で守り続けた。かつてのメンバーが戻ってこれるようにこの地を残し続けた。

 

 しかし、そんなナザリック地下大墳墓すらも、モモンガは失うことになった。ユグドラシルのサービス終了の告知だ。

 

 もちろんショックを受けたモモンガだったが、最後の瞬間ぐらいはギルドメンバー達で集まりたいと、かつてのメンバーにメールで呼びかけることにした。この地を守り続けたことを無意味にはしたくなかったし、何より最後に皆と会うことができれば未練なくサービス終了を乗り越えられると思ったのだ。

 

そしてサービス終了の当日、いつものようにブラックな会社から帰宅し、ずっとこの「円卓の間」にてギルドメンバーたちを待ち続けていたわけだが...

 

―――23:29:43

 

「なぜ誰一人として来ない!!」

 

 モモンガは、骨だけの拳を円卓に叩きつけ怒号を飛ばす。確かに41人全員が再びこの場に集結することは厳しいだろうとは思っていた。集まったのが数人だけでも、かつてのように楽しい瞬間を過ごすことができればそれで満足だったのだ。それなのに、どうして誰一人も来てくれないのだ。誰か一人ぐらい来てくれたっていいじゃないか。

 

「どうしてそんな簡単に見捨てることができる!皆で築き上げたナザリック地下大墳墓じゃないか!」

 

 ずっとこの地を守り続けてきた守ってきた結果が、俺たちのアインズ・ウール・ゴウンの最期が、こんな惨めな終わりであっていいものか。

 

 待ち続けた結果、もう日付変更まで30分を切った。どうせこのまま待っていても誰も来ない。これ以上待っていても無駄だ。

 

「いいさ、皆がその気だというなら俺だって」

 

 そういって、モモンガは円卓の壁に祭られてあるギルド武器「スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン」へと手を伸ばす。

 

 かつてはギルドの証であるこの杖を作るために、ギルドの皆が一丸となってレア素材集めに力を尽くした。無謀すぎる素材集めに妥協を提案したメンバーもいた。素材集めのために有給をとったと笑ったメンバーもいた。杖が完成したときには皆で盛り上がり、疲労でそのまま寝落ちしたメンバーもいた。

 

 そんな皆との思い出が詰まったギルド武器。ギルド長であるモモンガに合わせて作られたものだが、そんな重大なものであるが故にモモンガは遠慮して作成以来一度も使ったことがなかった。

 

しかし今、その杖はモモンガの掌のなかに納まる。あるべき場所へとスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンはどす黒い赤色のオーラを漂わせ、悍ましいうなり声を上げる。

 

「行こうか、我がギルドの証よ。」

 

 モモンガはギルド武器を片手に歩きだす。もはやこれ以上この部屋にとどまっていても意味は無い。目指すはこのナザリック地下大墳墓の最深部だ。

 

 最深部へと続く道中、第九階層に配置されたNPCの執事やメイド達を引き連れて進んでいく。だんだんと膨れ上がっていくその集団は、第十階層へと続く巨大な階段の奥へと消えていった。

 

 

 

  ―――第十階層「玉座の間」

 

 見上げるほどに高い天井。白を基調とした壁に黄金の刺繍が施され、天井からは七色の宝石が埋め込まれた豪華なシャンデリアがいくつもぶら下がっている。この場所こそがこのナザリック地下大墳墓の最深部である玉座の間だ。その最奥には魔王が座るにふさわしいような、重厚感のある水晶の玉座が鎮座していた。

 

 その横には純白のドレスに艶やかな黒髪が似合う美女が控えていた。しかしその風貌は人のそれとは異なり、黄金の瞳は縦に割れ、腰からは漆黒の翼を生やし、黒髪からは山羊のような角が突き出ている。彼女の名は「アルベド」、サキュバスだ。ナザリック地下大墳墓を守るNPCたちのまとめ役という設定であり、この玉座の間においてギルド長であるモモンガを守る護衛でもある。

 

 玉座の前で一度モモンガは立ち止まる。後ろに追従させていたNPC達に待機命令を送ると、そのまま片膝を付くような敬礼のポーズを取らせる。モモンガはその様子を確認すると、ゆっくりと玉座前の階段を上り玉座へと腰を掛けた。

 

 最期の瞬間ぐらいは、この地の支配者として最深部でどっしり構えていようじゃないか。もはやこのナザリック地下大墳墓はモモンガだけのものなのだ。好きなだけ我が物顔でふんぞり返ってやる。

 

23:52:14

 

 サービス終了まではまだ少し時間が余っているようだ。暇を持て余したモモンガは隣に立つアルベドのコンソール画面を開く。

 

「どんな設定だったかな」

 

アルベドの作成者はタブラ・スマラグディナというギルドメンバーであり、キャラなどの設定にはかなり細かい人だった。アルベドの説明文はいい暇つぶしになるかもしれない。

 

「どれどれ、うわ長っ」

 

 軽い気持ちで説明文をを読もうとしたことにモモンガは後悔する。そこに表示されたのはコンソール画面にぎっしりと埋め尽くされた膨大な文字の壁であり、横に表示されたスクロールバーの長さからとんでもない大作であることが分かる。

 

 どう考えても読み切る前にサービス終了の時間になってしまうので、モモンガは適当にスクロールをしながら流し読んでいく。そうやって誕生経緯やら趣味やらを読み、文末に記載されていた文字にアインズはフリーズする。

 

「『ちなみにビッチである』...ってさすがにあんまりじゃないか」

 

タブラ・スマラグディナはギャップ萌えが好きでもあったが、モモンガには受け入れられなかったようだ。モモンガは最後の文を消す。

 

「微妙な余白ができちゃったな、何か書き足しておこうか」

 

モモンガは少し悩んだ後、『モモンガを愛している』と付け加える。

 

「恥ずかし、何やってんだ俺」

 

モモンガは羞恥心からすぐにアルベドのコンソールを閉じる。なんとなく製作者であるタブラ・スマラグディナが怒鳴って出てくるのではないかと思ったが、そんなことはなかった。

 

23:57:49

 

「もうそろそろだな」

 

モモンガは深呼吸をし天井を眺める。天井の中心は煌びやかなシャンデリア輝き、両脇には41もの大きな深紅の旗がたれていた。ひとつひとつにギルドメンバーのシンボルマークが黄金の刺繍として入れ込まれている。

 

23:59:02

 

もうサービス終了の時間はすぐそこに迫ってきている。

 

23:59:06、07、08...

 

モモンガは時計に合わせて数えだす。

 

23:59:17、18、19...

 

この12年間、過ぎてみればあっという間だったな。

 

23:59:28、29、30...

 

明日も4時起きだ。サーバーが終了したら早く寝なければ。

 

23:59:40、41、42...

 

モモンガは目を閉じる。

 

23:59:51、52、53...

 

「嗚呼」

 

23:59:58、59、

 

―――楽しかったな

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

「うわっ」

 

 サービス終了のタイミングと同時に腰かけていた玉座の感触がなくなり、目を閉じていたモモンガは訳がわからないまま尻餅をついてしまう。

 

 サービス終了の際に何かしらのトラブルが発生したのだろうか。とりあえず、自身の現状を確認すべくモモンガは目を見開くと、

 

「え?」

 

そこには、辺り一面に咲き誇る美しい彼岸花の姿があった。

 

 




ちなみにヘロヘロさんは過労死です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。