ショウマは重たい足取りで店の奥へ向かう。胸の奥が締め付けられるような痛みを感じながら、彼は千束とミカの会話に耳を傾けていた。千束との最期の戦いになるかもしれないという現実は、ショウマの心に深い影を落としていた。
これが最期の時になるかもしれない……。
そんな思いが頭の中をぐるぐると巡り、ショウマはため息をついた。
グラニュートとの戦いの日々とはまた違った重苦しい空気が、彼の肩にずしりとのしかかる。
店内にはショウマと千束とミカの三人だけ。常連客たちの賑やかな声も今は聞こえない。ただ静寂が漂っている。閉店が信じられないという彼らの気持ちも理解できる。自分もまた、同じような想いを抱えていたからだ。
「ショウマ君、ちょっと見てみて」
千束の声が静寂を破る。驚いたように顔を上げると、千束が何かを手にしているのが見えた。
「えっ」
それは木造の箱だった。その中身に対する興味よりも、その存在自体に戸惑いを覚える。この店の閉店という現実が再び彼を襲う。
一体何なのだろう?
千束が持ってきたその箱。それが何のためにあるのか全く分からなかった。
そして、その中に入っていたもの……。
「これって、着物?」
ショウマの口から自然と問いかけが出る。その答えは期待通りではなかった。しかし、それ以上に不思議なものであった。
「・・・そうか、君はずっとグラニュート界にいたから知らなかったんだな。これは成人式に着る為の着物だよ」
ミカの言葉にショウマは一瞬息を飲む。成人式? 初めて聞く言葉だった。
「成人式?」
ショウマは戸惑いながら尋ねる。その未知なる世界への恐怖と好奇心が入り混じった感情が胸を打つ。
「そう、成人式、20歳に達した若者たちが新しい社会人として門出する儀式さ。この着物はその時に着るものなんだよ」
ミカが穏やかな表情で説明する。その言葉一つ一つがショウマの心に深く響く。
成人式……そんな文化があったなんて。
今までグラニュートとの戦いにばかり集中していたせいで、日本独自の風習についてはほとんど知らなかった。
そして千束との別れが近づいている今、この着物が意味するものにさらに胸が痛くなる。
もしショウマが生きて帰ることができたら、千束と一緒にその成人式というものに参加できるだろうか。
その未来が見えないことに絶望感が募る一方で、「もしも」という希望も捨てきれずにいる自分がいた。
ショウマはその着物をじっと見つめる。その柔らかな布地からは何か温かいものを感じ取れたような気がした。しかし、その温もりは今の彼にとってはむしろ苦痛とも言えた。
「もぅ、ショウマ君ったら、そんなに暗い顔をしないでよ、せっかくの着物が台無しになるよ。いやぁ、成人式、出られないけど、これはこれで良いねぇ」
千束は、そう言って笑う。
けれど、ショウマは。
「俺はっ」
そう、千束の人工心臓があと僅かしか保たない事を知っている。
「俺はっ」
それでも一緒に過ごせる未来があると信じていた。
「俺はっ」
だからこそ戦わなければならないという決意も強まっていた。
だが……。
その言葉を言い切る前に感情が押し寄せてくる。その熱情には勝てそうになかった。
そして涙が込み上げてくる。
(ダメだ……ここで泣いてちゃいけない)
でも耐えきれなくて、ショウマは俯きながらも必死に嗚咽を抑えようとした。それでも漏れ出てしまう小さな声には哀しみと悔しさが込められていた。
「ショウマ君……」
それを見て、千束は。
「・・・可笑しいな、覚悟をしていたのになぁ。たきなにも、皆にも見せないようにしていたのに」
それと共に千束は。
「生きたいって、思っちゃうなんて」
涙を出しながら、答えた。
それは、ミカは、何よりも聞きたかった言葉だからこそ。
ゼンゼロから出る陣営は
-
邪兎屋
-
白祇重工
-
ヴィクトリア家政
-
特務捜査班
-
カリュドーンの子