「リゼルっ」
眼前で消えた娘の影に、ボッカの足元が僅かに震えた。恐怖ではない──喪失の予感だ。まるで心臓を鷲掴みにされたように。
「それが……お前が世界中の人々に与えようとしている現実だ」
灼熱の炎を纏ったショウマが静かに言い放つ。
ガヴの装甲からは火花が飛び散り、焼けつく肌から蒸気が立ち昇っている。目は鋭く光っていたが、その奥には深い哀しみが揺れていた。
「人々の日常を奪い、こうした絶望をばら撒こうというのか?」
一歩。足を踏み出しただけで床石が溶けて沈む。
二歩。周囲の大気さえ歪んで見えるほどに。
「選べ」
その声は低く、しかし確固たる意志に満ちていた。
「償いを選ぶか──このまま暗闇の中で贖罪を選ぶか」
ボッカは歯を食いしばった。額から汗が流れ落ちる。その瞳には怒りと迷いが交錯していた。
「選べだと?」嘲笑うような笑みが浮かぶ。「愚かな問いだ!」
拳を握りしめると血管が浮き出るほどの力が込められた。
「お前達を粉砕し!グラニュートの支配者となることこそ我が答だ!!」
刹那──
ガヴのレバーが猛回転した。
『ガヴ……ガヴ……チャージ・ミー!チャージ・ミー!』
機械的な旋律と共に、ショウマの全身から眩い光が迸る。灼熱の炎が渦巻き、その輪郭が陽炎のように揺らいだ。皮膚の焼け爛れた部分から蒸気が吹き出し、白煙の尾を引いて飛翔する。
『アメイジング!バーストォォォォ!!』
咆哮にも似た電子音が轟くと同時に、ショウマの体は流星のごとく加速した。地面を蹴る衝撃で大理石の床が蜘蛛の巣状に砕け散る。空気を裂く音が耳をつんざく。
「ふぉおおおおおっっ!!」
ボッカも雄叫びを上げながら迎え撃つ。両腕を交差させ防御態勢に入る。その巨体が壁となり行く手を阻む。
だが──
ショウマの右脚が跳ね上がった。まるでボールを蹴り上げるボレーキックのように高々と弧を描く。その軌道上に灼熱の残像が刻まれる。
「はああああああああああああっっ!!」
全身の筋肉が膨張し、太陽のような輝きを放つ。足裏から放出される炎の奔流が螺旋を描きながらボッカへと迫る!
「ぬぅっ!!」
巨大な拳で受け止めようとするボッカ。衝突した瞬間──
衝撃波が爆風となって広がった。城全体が大きく揺れ、天井から瓦礫が雨のように降り注ぐ。硝子窓が粉々に砕け散り、床に亀裂が走る。
「ぐ……っ!?」
ボッカの顔に驚愕が走る。自身の拳ごと押し込まれていくのだ。ショウマの脚がさらに深くめり込む。
「ぐぎゃああっっ!!」
凄まじい熱量がボッカの巨体を貫いた。装甲が溶解し、内部機構が露出する。爆発的な閃光が空間を埋め尽くす。
「リゼル……ッ!」
最後に娘の名を呼んだ後、ボッカの巨体は崩れ落ちた。その背後で壁が完全に崩落し、青空がのぞく。
ショウマは炎を鎮火させながら膝をつき、荒い息を吐いた。焼け焦げたスーツからは黒煙が立ち上り、その表情には安堵と痛みが交錯していた。
ゼンゼロから出る陣営は
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邪兎屋
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白祇重工
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ヴィクトリア家政
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特務捜査班
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カリュドーンの子