ダンガンロンパXXX   作:Krk

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プロローグ
プロローグ


 目が覚めたら、見知らぬ教室にいた。

 

 事件性を感じる出だしだが、生憎やたらに怯える事も出来そうにない。

 何故ここにいるかの顛末……迷い込んだか、あるいは連れ去られたかの記憶が一切ないのだ。

 何も分からない以上、どういうリアクションが正解なのかも測りかねる。

 

 確かに覚えていることは、自分の事だ。

 名前は、見通透。職業、高校生。

 それも、『ごく普通の高校生』……とは少し違う。

 

 超高校級の投資家:見通透(みとおしとおる)

 

 勿体つけるほどの物でもない。俺はいわゆる、超高校級と呼ばれる存在だ。

 とは言っても、自分が一般的な高校生と比較し何かに優れているかと言われれば、大して違いはないと思う。

 俺は気まぐれで始めた株がたまたま上手くいって、気付けば不相応な程の金を得ていた。

 それだけの人間だ。

 

 必要以上に焦る事もないとは言え、必要程度には焦らなくてはいけない。

 まず、そもそもここは一体どこなのだろうか……。

「いやあ、やっぱり集められた私達の共通点が、ヒントだと思うんですよね」

「…………」

(……変な女子がいる)

 俺のぴったり後ろに、女子高生が立っていた。

 腕組みをし芝居がかった動作で、うんうん頷いている。

「……誰だ?」

「あ、ごめんなさいっ!怪しいものじゃないんですっ!」

 声をかけると慌てた様子でぴょん、と離れる。

 赤を基調としたブレザー、天使の羽とクローバーを組み合わせたような校章と、花柄のブローチを着けたリボンタイ。赤みがかった髪の両端を結った、一見優等生風の女子だ。

「えっと、あなたも超高校級の方ですよね?実は私も……僭越ながらそう呼ばれちゃってたりなんかしてまして」

「……それが、さっき言っていた共通点、か?」

「そうですそうですっ!超高校級が集められる学校……と言えばっ!?」

「そう!きっとここは、希望ヶ峰学園なんですよ!」

 

 希望ヶ峰学園。

 説明するまでもない。現代日本における、才能教育機関の最高峰だ。

 超高校級と評される高校生たちは、そこからのスカウトを最大級の栄誉として考える者も多い。

 入学方法は学園側からのスカウトのみ。しかしその詳細は謎に包まれている部分も多く、実はこんな不可思議な方法で生徒を集めているというのも、ない話ではないが……。

 

「……いや、その前に。結局『誰だ?』の質問に答えて貰ってないんだが」

「あわっ!?わーわー、ごめんなさいっ!」

 顔の前で手をぱたぱたさせ、少女はぺこんとお辞儀をする。

「すみません、すっかり夢中になっちゃって……改めましてですね」

 

「私の名前は、声野美遊です。超高校級…?の?声優ですっ」

 

 超高校級の声優:声野美遊(こえのみゆう)

 

「あう、ちょっと緊張……!てへ…よろしくお願いしますね」

 女子高生……声野は、照れたように笑顔を浮かべ胸を撫で下ろした。

「……声優?」

「あ、私なんて、まだまだですけどっ!これでも結構、お仕事頂いてたりしてまして……名前とか聞いたことないですか?」

「……ないな」

「あうう……」

 知ったかぶりも出来ず正直に答えると、声野はがっくりと肩を落とした。

 

「い、いえいえ全然良いんですけどねっ?私もまだまだ、駆け出しですし……」

「えー?でもさー、今どきの高校生で声野知らない方が、珍しくない?ミュースタとか見ない人?」

 

 唐突に別の声が割り込んだ。

 はきはきとした声の持ち主は、蛍光ピンクを基調とした派手なジャージを着た活発そうな女子だった。

 スポーツ少女は、俺達の顔をくるりと見る。

「…あ、ごめんごめん、自己紹介タイムねっ」

 そう言ってすうっと息を吸う。

 

「やーっほー!こちらは、青空登和だよー!」

 

 超高校級の山ガール:青空登和(あおぞらとわ)

 

 百メートル先にいてもはっきり聞こえる、伸びやかな挨拶だった。もちろん数メートルと離れていない俺達にとっては、過剰以外の何物でもない。

「……耳がもげるかと」

「元気でた?あんた、湿った顔してるしさっ。こんくらい上げてった方がいいって!」

 悪気のない顔でそんな事を言う。

 

「…ま、無知はどんな時でも誇りになんねーって事だな」

 またしても唐突に、もう一人の声が入ってきた。

「…誰っ?」

「尾後追従郎。それだけだ、俺はな……」

 

 超高校級のストーカー:尾後追従郎(びごついじゅうろう)

 

 背の高い、だぼっとした黒ずくめの格好をした男だ。

 にやにやと皮肉っぽい薄笑いを浮かべている。

「超高校級の『ストーカー』なんだとさ、俺は」

「えっ、な……なに?ソレ」

 怪訝な顔をする青空をスルーし、尾後は声野の方へ顔を向けた。

「『みゆゆん』こと、声野美遊。本名同じ。平成××年×月×日×県×市生まれ、麗紅戸女学園中等部・高等部出身。中学二年の十二月まで放送部に所属、以降声優業に打ち込むため退部。『Aクロス』のレイカ・リリィ役で電撃デビュー。ファーストアルバムは現在5週連続オリコン1位。前号『声優ラベリィ』人気投票1位。好物はフレンドマートのはちみつレモンキャンデー。趣味は猫カフェ巡り、最近の推しはアメリカンショートヘアのシエル」

「えっ、あっ、わあ……。そ、その通りです……嬉しい、な……?」

 流れるように言葉の洪水を浴びせられ、声野がやや引きつった笑顔を浮かべる。

「……そこまで詳しいと、さすがに引くー…」

「…おい。まさかお前、声野のストーカーじゃないだろうな」

「チチッ、分かってねえなあ。俺の才能はあくまで俗名、大事なのはその情報収集力よ。同世代の超高校級くらい把握してて当然っつー訳だ」

  

「例えば、そっちのオマエ。青空登和」

 指を差され、びくりと背を仰け反らせる。

「小学生にしていきなり単身富士山の登頂に成功し、地上にいる時間よりも登山をしている時間の方が多いと言われる筋金入りの山好き女。携帯食はチョコレートバー派。靴紐は左足から右足の順で締める。身長160cm、体重……」

「うわああ〜〜っ!そこまで言わなくていーって!」

 大きな声と動作で、青空が解説を遮った。

 

「分かった分かった、あんたのソレ、才能だよ!……だいぶヤバイけど」

 じとっとした目で尾後を見る。

 尾後の方はまるで意に介さず、へらへらした態度のまま今度はこちらへ向いた。

「ああ、もちろんそっちのてめーの事も知ってるぜ?」

「見通透。職業、成金。超高校級って付くのが不思議な位の、『くだんね~才能』、な?」

「……初対面でここまで露骨に喧嘩売られるのも珍しいな」

 薄笑いを浮かべつつ、見下した目で俺を見ている。

 偏見の目で見られる事など珍しくもないが、気分の良い訳でもない。

 

「わ、あの、いきなり喧嘩はやめましょうっ、ねっ?これから一緒に学園生活を送るかもしれない訳ですし……」

 慌てて声野が仲裁に入った。

「……ま、天才集めようってなると、こーいう変なのも混ざってくるもんだよねー」

 青空が呆れたようにため息をついた。

 

「あ、そうだ。そろそろ他の場所に行きませんかっ?ほら、私達以外にも、高校生がいるかもしれないですし……」

 声野が明るい調子で、話題を変えた。

 拒否する理由もなく、連れ立って部屋を出る。

 尾後もそれ以上事を荒立てる気も無いようで、黙って後ろについてくる。

 

 廊下に出ると、二人の人間に出くわした。

 小柄な方はびくりと身体を震わせ、もう一人の背にさっと隠れてしまった。

 背の高い方はちらっと後ろを気にかけるように目をやってから、こちらに歩み寄ってきた。

「……ねえ、君たちも、いつの間にかここに連れてこられた高校生……かな?」

 頷くと、青年はほっとしたように軽く笑みを浮かべた。

「良かった。境遇は同じみたいだね」

 そう言って爽やかな態度で、片手を差し出してくる。

 

「俺は明日家灯。こんな状況だけど、お互い協力していこう」

 

 超高校級の社長:明日家灯(あすからいと)

 

 流石にこの男は俺も知っている。

 高校生社長として、一代で興した企業が世界的に影響を与えている時代の寵児。俺もトレーダーとして、結構な恩恵を受けた身だ。

「いや、参るよね。いくら希望ヶ峰学園に入れる……って言ってもさ。こんな独特の入学方法取られちゃね……」

「いやあ、ほんとですよねえ。びっくりしますよねー」

「……待て。いやにはっきり、ここが『希望ヶ峰学園』……って確信してるんだな?……声野はともかく。それに、入学方法……って言ったか?」

「……え?うん。君たち、これは見てないの?」

 そう言って差し出されたのは、一枚の紙だった。

 下手な文字と絵で、こんな事が書いてある。

 

『新入生のミナサマは、体育館へお越しください。全員集合した後、入学式を行います。希望ヶ峰学園学園長より』

 

「希望ヶ峰学園、学園長……」

「俺達、向こうの教室で一緒だったんだけどさ。そこの机に置いてあったんだ。だから、これが希望ヶ峰の独特なスカウト方法なのかな……って思ったんだけど」

「……あったっけ、そんな紙」

「さあ〜……?」

 何となく、観察力の違いを見せつけられたようだ。

 

「とにかく、やっぱりここは希望ヶ峰学園で間違いない、って事ですよね!どーですか見通くん、私の予想が正解ですよっ!」

「……当てずっぽうだろ、お前の場合」

 声野が嬉しそうな顔でこっちを見てくる。

 

「……まあともかく、同級生になる訳だし、皆よろしくね」

「ほら、君も怖がってないで、自己紹介してごらんよ?」

「あ、うわ、は、はい……!」

 明日家に促され、後ろに隠れていた男子生徒がおどおどしながら進み出た。

「あの、えと、ぼ、僕……。天条運命……です……」

 

 超高校級の幸運:天条運命(てんじょうさだめ)

 

 ごく普通の白いパーカーと、スラックス。

 長い前髪のせいか顔の印象もぼんやりとしていて、目立つ明日家の隣にいる事もあり余計に地味に見える男子生徒だ。

「あ、あの……ぼ、僕の才能なんてその、大したものじゃないっていうか、人に言う程のものじゃないっていうか……その」

「『幸運』、だろ?」

「!」

 尾後の声に、びくっと顔を上げる。

 

「才能を持たないごく普通の高校生から抽選で選ばれる……何百万分の一を掴んだ生徒。今期がお前、そーだろ?」

「えー、凄い!超絶ラッキーボーイって訳だね!」

「ち、違う、僕…!元々ラッキーとかじゃ、全然なくって……。おみくじとかも、中吉とかの方が多いし……」

 

「だ、だから、僕なんて、ほんとはこんな所に来ていい人間じゃ……」

「はは、誰も『一般人』のお前に期待してねえーって。心配しなくても、一瞬で落ちこぼれて元の生活に戻れるっつーの」

「……うるさい、ストーカー野郎……。歩く迷惑系のお前に言われたくない……。捕まってないだけの犯罪者のくせに……!」

 ぎろりと尾後を睨みつけて、ぶつぶつ呟いている。

 ……大人しそうに見えて、意外と危ないやつかもしれない。

 

 ともあれ、明日家と天条と共に俺達は体育館を目指す事になった。

 しばらく歩くと食堂らしき部屋から、明りと人の話し声が漏れてくる。

 中を覗くと、うず高く積まれた大量の焼き菓子……それがみるみる内に小さくなっていく。

 中心に座る一人の女子……全身ピンクと白のフリフリで、小学生のような体格も相まって動く人形のような……バラエティでよく見かけるその女子が、マンガのような流れで大量の菓子を食べている。

 もぐもぐと咀嚼した後、フルーツ牛乳をパックごと流し込み、一息つく。

「んぐ、んぐ…………あれ?いつの間にか、ひとが増えてる。お菓子食べに来たの?あげないよお〜?」

 俺達を視界に入れ、ぱちぱちと瞬きする。

 

「まいこね、軽井沢米子っていうの。はふぅ」

 

 超高校級の大食い娘:軽井沢米子(かるいざわまいこ)

 

「ここ、なんでこんな味気ないお菓子しか置いてないだろ~、もう。余計にお腹が空いちゃうよお」

 そう言いつつ、次から次にクッキーを口に放り込んでいく。

「ほら、まいこちゃん。口元汚れてるわよ」

 隣りに座っている女子が、母のようにハンカチで軽井沢の口元を拭ってやっている。群を抜いて小柄な軽井沢に対し上背があるため、本当に親娘のように見える。

 彼女は間を置いてから、ようやくこちらに気付いたかのように目を向けた。

「ああ、挨拶が遅れたわね。お姉さんは、三雲磨朝よ。マーサって呼んで」

 

 超高校級のお天気お姉さん:三雲磨朝(みくもまあさ)

 

 そう言って正面に向き直ったその顔には、確かに見覚えがある。

 お茶の間に大人気…との触れ込みの気象予報士だ。

 知的でどこか冷めた印象を与える風貌と、成熟した体躯をスーツに包んでいる。

 よく通るがやや気だるげな喋り方をするのが、余計に大人びた印象を与える。

 

「軽井沢ちゃんってさー、テレビ用にキャラ作ってるのかと思ってたけど、素でそんなにお子ちゃまなんだねー。大丈夫?いつも一緒のママとはぐれちゃって、泣いちゃわないのお〜?」

 反対側に座っている少年が、からかい口調でそんな事を言った。

 茶化された軽井沢はぷくーっと頬を膨らませる。

「泣かないもんっ!ママがいないのは寂しいけど……思い出させないでよーっ!そっちだって、まいこと同じくらいちっちゃいくせにー!」

「へへ、ボクは軽井沢ちゃんより大人だもんねーっ」

 少年は余裕たっぷりにそう言って、こちらを振り返りにやっと笑う。

 

「琉球宮玉緒だよん。よろしくー、お兄ちゃんお姉ちゃん」

 

 超高校級のボウラー:琉球宮玉緒(りゅうきゅうぐうたまお)

 

 小生意気な目付きでにまにま笑う、軽井沢に負けず劣らず小柄な男子だ。

 キャラ物のフードを落ち着きなくぱたぱたさせている。

 

「まーたロリショタかよ。ここは希望ヶ峰小学校か?」

「見た目はちっちゃいけどさー、功績はでっかいもんね!ボクは史上最年少でプロ入りしたボウリング選手で、アマチュア時代からあらゆる大会を総なめにしてきた、超天才少年なんだよ!」

「……全部自分で言ってりゃ世話ねーな」

 

 一席離れた所に、会話に加わらず澄ましているもう一人がいる。

 書生のような服装をした、現代離れした女子が茶を啜っている。

 こちらを見ると、にっと笑ってピースをしてきた。

 

「『一文で 創っております 広告塔』高梨水仙だよー」

 

 超高校級のコピーライター:高梨水仙(たかなしすいせん)

 

「整いましたっ!」

「うおっ!?」

 どこからともなく取り出した、扇子をびしっと突き付ける。

「『超高校級』とかけまして~。『国家機密』ととく!その心は~…どちらも『チョウホウ(重宝、諜報)』されるでしょう!」

「…ってね!」

 果てしないまでのドヤ顔でこちらを見ている。

「……それ、いつもやってるのか?」

「いぇす、いぇす。僕は、コピィライタァだからねぇ。言葉遊びが癖になっている……とでも言ったもんかな」

 誇らしげにふふん、と鼻を鳴らし、勿体付けて指をとんとんと肩に当てている。

 型にはめたような変人だ。

 

「あのさ、君たちも一緒に来てくれないかな?こんな置き手紙があって……」

 流石というべきか、明日家は新たな変人達にも気圧されず声をかけている。

 食堂にいた生徒達も、大量のクッキーを包むのに手間取る軽井沢を三雲が助けてやりつつ……共に体育館へと向かう。

 

「……やっぱり、少し妙だよな」

「妙って何が?」

 明日家の発言に対し、青空が答える。

「窓だよ。気付かないか?廊下を通る間にあったどれも……わざわざ外が見えないように、鉄板が打ち付けられている。それに、一般的に比較して……監視カメラの数が多すぎる」

 そう言われて、歩きながら周りを見渡した。

 確かに、ごく普通の学校から考えれば、少々異様な光景だ。

「そーかな〜?僕はてっきり現代風アートなのかと思ってたよ〜」

「私は、まあ希望ヶ峰学園ならこれくらい監視カメラもあるのかなーって……」

 女子の返答は呑気なものだ。

「……そうかも、ね。俺の考え過ぎかな……」

 明日家はどこか自分に言い聞かせるように、小声で呟き前へ向き直った。

 

 しばらく歩いて、目的地の体育館へと到着する。

 扉を開けると、二人の女生徒がこちらを振り向いた。

「やっと来た。場面が動かないんでいい加減飽き飽きする所だったわ」

 二人のうち、長身の女子がクールな声でそう言った。長い髪とセーラー服が、夜のように真っ黒だ。

 彼女は切れ長の瞳でこちらを見ると、気取った態度で髪を払った。

「南界レイコよ。超高校級の、演劇部」

 

 超高校級の演劇部:南界レイコ(なんかいれいこ)

 

 それだけ言って、首に巻かれたスカーフをいじっている。

 足元も黒タイツで、肌面積がやたらと少ない。

 

「女優さんなの?カワイーもんねっ?」

「あら、ありがとう。けれど違うわ」

 口角だけを僅かに上げる形で、南界レイコはにこりと笑う。

「脚本を書いてるの、私」

 

「星ノ影学院演劇部。高校演劇の最高峰。そこで一年時より演目全ての脚本を担当し、いずれも高い評価を得ている。噂では今期の大河ドラマの制作にも関わっていると言われている」

「……よくお勉強されてること」

 つらつらと並べ立てる尾後に動揺するでもなく、南界は興味なさげに爪を気にしている。

 

「……ふふ、ふふっ」

 二人を見比べて、隣の女子がくすくす笑っている。

 南界レイコとは対照的に、明るい金髪にゆるく着崩したブレザー姿の、人好きのする雰囲気を纏った女子高生だ。

「良かったあ、みんな楽しそうなひとばっかり。占いでも言われてたんだよねえ、待ち人、穏やかに待てば来たる……って」

 砂糖菓子のような、あまったるい喋り方をする。

 

「わたし、甘井めうって言うの。仲良くして欲しいな」

 

 超高校級のレンタル彼女:甘井めう(あまいめう)

 

「……ふふ。くすくす……」

 何が面白いのか、話し終わった後もくすくす笑いを続けている。

「甘井めう。その名の通り甘いルックスと″癒し系″キャラが売りの、某サイトで不動の一番人気を誇る……レンタル彼女」

「れ、レンタル彼女?」

 尾後の解説に、青空がぎょっと目を瞬かせた。

「や、ごめん。全然詳しくないんだけどさ……。ソレ、大丈夫なやつ?」

「あははっ。え〜、ぜんぜん大丈夫だよ〜?めうは寂しい男の子の、癒しになってるだけだもん。言ってみればただのボランティアかな。わたし、好きなの。人助け」

 甘井はふわふわと身体を揺らしながら、人懐っこくにこにこ笑っている。

 

「12人……か。一学年としてはかなり少ないけど……どうだろう?他にもここに高校生がいると思うかい?」

 一区切りついた所で生徒達を見渡し、明日家が皆に問いかける。

「どうかしらね。『入学式』とやらは全員集合してからとの触れ込みだったけど……もうこれ以上待たされるのもうんざりだわ。他の人間がいたとして、タイムオーバーとして処理して欲しいところね」

 南界がそんな事を言う。

 見計らったかのように、唐突にチャイムが鳴り響いた。

 

ピンポンパンポーン…

 

『あー、あー……マイクテス、マイクテスッ』

『…大丈夫?聞こえてるよね?』

 

『はじめましてこんにちは、名もなき超高校級のみなさん!』

『これより、入学式を執り行いますので……』

『前方にご注目くださいっ!』

 

 耳にきんきん来るような、機械っぽい声が流れた。

 俺達は声に言われたままに、前方の舞台へ目を向ける。

 程なくして……。

 

 ぴょこん、と何かが飛び出してきた。

 それは白と黒を基調とした、クマ型の……。

(……ヌイグルミ?)

「ヌイグルミじゃないよ!」

 

 それ、は確かにそう応えた。

 先程スピーカーから流れてきた、機械っぽい声と同じものだ。

 子供のような明るい朗らかな声で、それは話し続ける。

 

「ボクはモノクマ。この、希望ヶ峰学園の……」

「学園長なのだッ!」

 

「……よろしくね?」

 

 どこまでも明るい雰囲気で、それは始まった。

 俺達の絶望に塗れた学園生活が、始まろうとしていた……。

 

 

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