次の日。
特に何事もない立ち上がりだ。
行ける範囲が広がったからといって、より活動的になるかと言えばそうでもない。
読書にも水泳にも、特に興味が引かれない。
俺はせっかくの新エリアもあまり訪れる気にならず、しばらく寄宿舎の一室でぼうっとしていた。
しばらく後、俺は部屋を出て……。
視聴覚室に入った。
懐から、一枚のDVDを取り出す。
『声野』と名前が書かれたそれは、彼女の部屋……その引き出しの奥に、しまい込まれていたものだ。
あまり褒められた行為ではないだろう。
だが、誰に見咎められる訳でもない。
俺はケースからDVDを取り出し、デッキに差し込んだ。
『……』
しばらく暗い場面が流れ、徐々に画面が明るくなる。
アップテンポの音楽が流れてくる。
大きな画面と、スタンドマイクが並ぶここは……スタジオ、だろうか?
奥に見えるモニター室もいかにも設備投資がされていそうで、ここの経営が栄えているのが見て取れる。
『待望の、20周年最新作! CV:声野美遊』
派手な色使いのキャラクターと、声野の名前が大きく書かれたポスターが所狭しと貼られている。
映像がブレ、暗転する。
再び映し出されたのは……さっきまでのきらびやかな様子が信じられないほど……廃墟と言えるほどにまで寂れたスタジオ。
ズタズタにされたポスター達。
明るい、機械的な声が響いてくる。
『希望ヶ峰学園に入学した声野美遊さん。そんな彼女を応援していた、たくさんのファンの皆さん』
『ところが、彼女のキャリアは、脆くも崩れ去ってしまったようですね?』
『……では、いったい何があったのでしょうか?学園の謎と合わせて考えてみましょう!』
『ではでは、シンキングターイムッ!』
正解発表は、『卒業』の後で!
「……」
そこで映像は終わった。
ボタンを操作し、DVDを取り出す。
彼女の、仕事場と思わしき場所が壊される映像。
彼女の、多くの犠牲を払ってきたであろう努力が、奪われた事が示唆される台詞。
……声野はあの夜、何を思ってこの映像をずっと見ていたのだろうか……。
「なにセンチメンタル・バカリズムしてんのさっ!」
「…………」
モノクマが割り込んできた。
「……何の用だ」
「いやぁん、浸ってるとこお邪魔しちゃったからって、そんな怖い顔で見なくってもいいじゃない」
くねくねと身体をよじらせ、小馬鹿にした声で言う。
「一応言っとくけどさあ。視聴覚室はあれから、生徒に消灯前の施錠の義務はなくなりました!…声野さんが居なくなって以来、だーれもここ来ないし、勿論鍵のことなんか誰も気にしないんだもん。恐ろしいものがあるよね、現代高校生の消費し終わったコンテンツへの無関心具合はさ……」
「……それだけか?じゃあ消えろ」
「それだけな訳ないじゃん!こんな1シーンだけで場面展開出来るわけないでしょっ、小説も読まないのかよ、きみは!」
意味の分からない事ばかり言っている。
「新展開だよっ、全員体育館に集合!」
俺達は再び、体育館に集められた。
「……今度は、何させようっていうのよ……」
怯えが滲んだ目で、生徒達がモノクマを見ている。
「何って、決まってるじゃないの」
「新しい『ヒント』の時間だよー!」
明るい声で、モノクマが発表する。
「い、いや……だ……」
泣きそうな声で、軽井沢がそう言った。
「ま、まいこ……ヒントなんていらない……!そんなの見ないっ!」
「だ……だって、そのせいで、めうちゃんと美遊ちゃんが死んじゃったんだよおっ……!?」
「見たくないやつは、見なくて結構っ!…ていうか、そんなビビリには絶対見つけられないようになってるしね」
「どういう意味?」
「題して『宝探しゲーム』ッ!」
「この建物内のどこかに、とってもスペッシャルな『宝』を、隠させて頂きました!」
「それさえあれば、この学園生活をと〜っても有利に過ごせちゃうかもっ!?」
「早いもの勝ちなんで、調査はお早めに!」
「ほんじゃ、頑張ってねー!」
言うだけ言って、モノクマは消えた。
「……」
残された俺達は、再び沈黙に包まれた。
「ど……どうしよう?今の……」
「ま、また前回みたいなのがあるんじゃ……!」
「……俺は、忘れるべきだと思う」
明日家が思案しつつ、きっぱりと言った。
「提案としては、危険過ぎるよ」
「ま、怖いから見たくないっていう人がいるのは分かるけど。共有する必要なんてないでしょう。個人で勝手に探す分には構わないんじゃない?」
「……それは、もってのほかだと思う。軽井沢君の言った通り……前回の『ヒント』のせいで、すでに二人が犠牲になったんだ。ヒントが何であるにせよ……それを見つけた人物が不透明になるのは一番駄目だ」
「むしろ絶対に誰も探さないように、と言わざるを得ないよ」
「あらやだ。意外とワンマンなのね……」
「で、でもぉ、まいこ、そうして欲しいな……。皆で一緒に忘れる、って約束した方が、安心できるし……」
「そ、そーだよね……。誰かが抜けがけしてるんじゃ?とか疑心暗鬼になるの、まじやばいもんね……」
「んじゃあ、何か?結局、新展開に繋がりそうなもんみすみす見逃せってのか?」
尾後が顔をしかめて言った。
「どーせ脱出の目処なんか付いてねえだろうが。日和って安全パイ切ってどーすんだよ?諦めてここで死ねってか?」
「……そうは、言ってない。いよいよとなったら、『全員で』探すのは有りだと思う。……でもそれは今じゃないと言っているんだ」
「俺達は……まだまだこの学園について、知れていないと思うんだ。何が起こるか分からないよ……例えば、学園内に連続殺人鬼が潜んでいたりとか……」
「れ、連続殺人鬼ぃっ!?」
「急にB級ホラー?明日家らしからぬ発言じゃん」
「……ものの例えだよ。……とはいえ、あまり適切な発言じゃなかったね。ごめん」
「とにかく、俺が言いたいのは……。何があるか分からないからこそ、リスクを取らない方がいいって事なんだ」
「……勿論、真に皆の行動を強制する事なんて出来ないから……これはあくまで、お願いになるけれど」
「……どうか、モノクマの言う事を真に受けて、個人で勝手にヒントを探したりしないでほしい。頼むよ…………」
頭を下げる明日家を、皆が黙って見つめている。
彼の言葉に、それ以上反論する者はいない。
だが……。
全員が真に何を考えているか。
俺には誰ひとりとして、それは分からなかった。