ピンポンパンポーン…
『死体が発見されました!一定の捜査時間の後、学級裁判を開きまーす!』
機械的なアナウンスが鳴った。
再び……『事件』が起こった証だった。
「ほ、ほんとに明日家くん、死んじゃったのお……!?」
「……また、あんな事しなくちゃいけないなんて……」
「日和ってるバヤイじゃないよっ!」
ぴょこん、とモノクマが飛び出した。
「今回も今回とて、オマエラ生き残りたいなら、やるしかないんだからっ!」
「そんな訳ではい、テッテレー!モノクマファイル2!」
前回と同様、赤系統の小型電子端末が配られる。
「う、うう……。結局、やるしか……」
「と…とにかく、引き上げてあげないと……!」
震えながら青空がそう言って、明日家の元へ駆け寄った。
だが小柄な彼女では、長身の明日家を引き上げるのは難しそうだ。
手伝おうと近付いていく。
「……?」
傍まで行くと、プールの中に何かが沈んでいるのが見えた。
……どうせ濡れるなら一緒か、と考え、ざぶりと潜る。
「あ!ちょっと……!」
「……ぷは」
プールの中に落ちていた物を掴み、水上へ上がる。これは……ロッカーの鍵、だろうか?
「……見通、泳げるんじゃん」
「……だから、『多分』って言ったろ」
ざばり、と明日家の身体を二人でプールサイドに引き上げる。
頭部から血を流した痕があり、これが致命傷となったようだ。
やたらと上半身に絡まっているこれは……頭上にある、旗付きロープ……だろうか。
(何でこんなものが身体に……?)
ガラン、と何か重い金属が転がる音がした。
明日家の身体の近くから聞こえてきたその方を見ると……。
「!?」
「え……け、拳銃っ!?」
刑事ドラマでしか見たことのない、本物の拳銃が転がっていた。
「……何、勝手な事してるのよ」
ふと、頭上から南界の声が降ってきた。
……珍しく、怒っているのだろうか。
「信じられない。現場を勝手に動かすなんて」
「う……ご、ごめん。可哀想だったからさ……」
青空がしゅん、となり小声でそう言う。
「……いいわ。それより、あなた達びしょ濡れで裁判に臨むつもりじゃないでしょうね。捜査の前に着替えてきて頂けないかしら。湯船を使うなら女性優先で、青空さんから」
「……わ、分かったよ……」
ぱたぱたと青空がプールを出て行った。
……とにかく、また出来る事から調べよう。
モノクマファイルを開く。
『被害者は明日家灯。死亡時刻は午後11時。死体発見現場は学校エリア2階のプール』
『致命傷は頭部の傷。即死だった模様』
「さて。どう思う?見通君」
南界が俺の隣に立ち、涼やかな視線で見下ろしながら言った。
「明日家君は、何故夜時間にプールなんかに来たのかしら」
「……泳ぎに来たんじゃないか」
「夜中に?服を着たまま?靴まで履いて?」
「……何が言いたいんだよ、お前」
「つれない態度は寂しいじゃない、って言いたいの」
南界レイコは貼り付けたような表情でにこり、と笑った。
「協力しましょうよ。私達死なば諸共でしょう、情報の出し惜しみをする理由があって?」
「素直になってくれれば、私だってまたヒントをあげるし……ふふ」
天から人を見下ろすような、余裕ぶった目をしている。
「……お前には、また犯人がすでに分かってるって言うのか?」
問うと、南界はふと無表情になって、思案するように髪をいじった。
「……分からないわよ」
「あまりにも分かっている事があるからこそ。なによりも分からないわ」
「……」
……何なんだよ、それ。
「見通君って案外無知ねえ。お勉強でもしといた方がいいんじゃない?」
やれやれ…とでも言いたげに笑ってくる南界の相手をそれ以上するのは止めにして、反対側に座り込んでいる彼の方に話しかけた。
「……なあ、天条」
「……」
「多分、お前が明日家と一番一緒にいたよな?昨日何か変わったこととかなかったか?」
「……そ、それが……。昨日は明日家クン、体調悪かったみたいで……朝以降はずっと部屋にいたから会えてないんです……」
「え……そうなのか?」
(初めて聞いたな……そんなこと)
「……」
「……何で、彼が殺されなくっちゃいけないんでしょうか……」
天条は青白い顔をして、明日家を呆然とした眼で見つめながらぽつりと言った。
「こんなに良い人はいなかったのに……。このコロシアイ生活の事だって、誰よりも解決のために動いてて……。弱音なんて決して吐かない、強い人だったのに……そんな彼を、どうして……」
「……」
黙って、明日家の横に転がったままのそれを拾い上げる。
「……」
拳銃、だ。
掛け値なしに。
(明日家は、これで撃たれて殺された……という事だろうか)
「そもそも、何でこんなものがここにあるんだよ……」
「『ヒント』でしょうね。十中八九」
南界が涼しい声で答える。
「モノクマの言う『宝探し』……か?この拳銃が、隠されていた宝だって言うのか?」
「そう考えるのが自然だと思うけれど」
そう言って、南界はふと口元に指を当てる。
「大したものだわね。私だって見つけられなかったのに……」
「……おい。ヒントは個人では探さない……ってなってたよな?」
「約束した覚えはないわ。……結局見つけられなかったんだからいいじゃない。私だけじゃなくて、尾後君辺りも探してたんじゃないかと思うけどね……」
「……!あ、あいつだ……!」
天条が、南界の発言にがばりと顔を上げて言った。
「尾後が明日家クンを殺したんだ……!そうに決まってる!」
「……ええ?」
「それ以外考えられないじゃないか!?あいつは明日家クンを逆恨みして……勝手にヒントを探して、見つけ出した拳銃で明日家クンを撃ったんだ!」
「……ちょっと落ち着けよ……」
「そうね。落ち着いた方が良さそう」
南界が冷めた目で天条を見ながらそう言った。
「貴方も、見通君。いつまで濡れ鼠でいるつもり?お風呂でも入って身嗜みを整えてきてくれないかしら。風邪でも引かれたら迷惑だわ」
「それで、そのあとは本当に一度『お勉強』してみる事をおすすめするわ……ふふ」
半ば追い出されるようにして、一度プールを後にする。
「お風呂……か」
シャワーでなく、湯に浸かってみろという事か?
……あの女の言いなりになるのは癪だが、前回の事件であいつが見つけた証拠が決定打となったのも確かだ。
俺は濡れた服をランドリーに回した後、大浴場へ行き湯船に浸かってみた。
適度に熱い。
中心まで行くと結構水深がある。軽井沢や琉球宮がうかつに入るのは少々危なそうだ。
数分黙って浸かっていたが、リラックス効果以外特に得られるものはなさそうなので上がる事にした。
少しぽかぽかした身体で、脱衣所を見渡す。
……出てすぐの所にあるのは、マッサージチェアだ。
いや、こんな事をしている場合では……。
「ふう……」
揉みほぐされた身体を横たえる。
ふと、右の肘掛けと座枠のクッション部分の間に違和感を感じた。
隙間に何か挟まっているような、やたらと奥に入り込んでしまっているそれを数分の格闘の末取り出してみる。
弾丸の入った箱だった。
「!?」
「ぱんぱかぱーん!」
勢いよく、モノクマが飛び出してきた。
「おめでとう!ヒント発見なりー!」
「……」
「……ヒント?」
「そうだよ!これこそが隠されていた宝のひとつなのでーす!」
「……ていうかこのくだり、出来れば事件が起こる前にやりたかった感じはあるけど……」
「『宝』だと?宝は、プールにあった拳銃のことじゃないのか?」
「宝の隠し場所が一つだけとは言ってないでしょ?全てのヒントを見つけ出して初めて、真価を発揮するようになっているのです!」
「あの銃は、この弾丸を見つけられないと使えない……という事か?……それで、ヒントはこれで全部か?」
「そうだよ!早いもの勝ちって言って、そう何人も手に入れられちゃったらおかしいじゃない。拳銃も弾丸も、ご用意した各一だけですっ!」
そして、この弾丸が入った箱は、封が切られていない。
(……という事はあの銃は、『撃てなかった』?)
「あーあ、がっかりだよね……。せっかく拳銃の方は見つけて貰っても、弾がないんじゃ意味ないよ……。いちごのないショートケーキみたいなもんだよね」
「彼も、せっかく拳銃見つけるとこまでは行ったんだから、もうちょっと頑張ってくれてたらねえ……」
「……彼?拳銃を見つけたのは、男か?」
「はっ!」
「……尾後が見つけたのか?」
「言わない言わない!そんなネタバレ行為、ボクは大嫌いなんだからっ!」
わざとらしくドタバタしながら、モノクマは消えていった。
いかにもすぎる程に怪しいが、今すぐ確かめる事も出来そうもない。
(『お勉強』……か)
南界レイコの言葉を思い返し、図書室に足を踏み入れる。
壁一面に大量の書物が並べられており、これを一つ一つ調べていこうと思うと気が遠くなりそうだが、机の上にこれ見よがしにいくつかの冊子が置いてある。
『見通君江、ここに注目』
細字の達筆で、むかつくハートマークとメモが残されている。
(あの女……人を手の平で転がしているつもりか?)
苦虫を噛みつつ、その内の一つを手に取る。
『××客船沈没』
海難事故についての、新聞の切り抜きのようだ。
今回の事件とはあまり関係があるようには思えないが……。
次にあるのは、ゴシップ風味の強い雑誌だ。
『″首切りジャック″のすべて』
「″首切りジャック″……?」
耳慣れない単語に眉を寄せる。
『何かとホットなシリアルキラー。その中でも今特に話題なのが首切りジャックである』
『その名の通り死体には首元を一周するような大きな傷がある事、また何らかの紐状の物で強く首をぐるぐる巻きにされている事が特徴的である。現場には決まってトランプの″J″のカードが残されている』
『ジャック自身も首元に醜い傷があり、その怨みとそれを目にしてしまった者の見せしめと口封じの為に殺人を犯すと言われている。その傷を目にして、生き残ったものは誰もいない……』
『現在の警察の調べによると、一度だけ現場に残されていたDNAより警察内にデータのない……つまり前科のない者、また犯行時刻の偏りから、犯人は学生もしくは学校関係者ではないかと推察されている』
(……よくある都市伝説仕立てにされた未解決事件か……)
挟まれていた栞を手に取る。
ステンレス製の高級感を感じる作りで、『A.R』とマークが入っている。
最後に置かれているのは、やたらに分厚いファイルだった。
ぱらぱらとめくってみると文字もむやみに小さく、普通に読んでいると目が滑りそうだ。
そんな中紙製の栞が挟まれているページまで行き着き、見てみると見知った単語が目に入った。
『首切り連続殺人事件、通称″首切りジャック″事件の犯人は、星ノ影学院の非常勤講師だった男と判明』
『×月×日、同学院の女生徒を生活指導中に襲い殺害しようとした際、原因不明の心不全により死亡が確認された』
『警察は過去現場に残されていた物とDNAが一致したため、男をジャック本人であると断定』
『女生徒は事件後××病院に運ばれ、数カ所の打撲傷、頸部への鋭利な紐状の凶器による絞痕を確認。頸部には切創が残る形になったものの命に別状はなし。首切りジャック事件の最後の被害者であり、唯一の生存者となる』
『女生徒は数日間の精神面含むリハビリのち、日常生活へ復帰。超高校級である彼女の部活動参加を学校側が強く要請、本人希望もあり早期の復帰となった。精神テストの結果も大きな問題はなし』
『また、事件前後の男との関係、及び男の死亡に対する女生徒の関与については女生徒は完全黙秘。証拠不十分であり捜査もそれ以上は継続せず』
『なお首切りジャック死亡については世間への混乱、模倣犯の出没等の影響を鑑み、秘匿とす』
(これは……さっきの『事件』の…真相……か?)
改めて始めの方から見返してみると、ニュースで未解決事件として発表されていたはずの、いくつかの事件について一般では知り得ないはずの情報が記されている。
何故こんなものがここにあるのかは分からないが、この記事も信憑性はありそうだ。
(南界は、これが今回の事件と関係していると言いたいのか……?)
ともかく、もう一度現場を調べてみるべくプールへと戻る事にした。
「…!」
男子更衣室に入ると、尾後が中に立っていた。
「……よお。死んだんだってなあ。あの綺麗事男」
相変わらず人の神経を逆撫でする、嫌なにやにや笑いを浮かべている。
「……何をしに来た。朝から姿を見せなかったくせに……」
「何をしに来ただあ?調査に決まってんだろ?プールで殺されたらしいんで、一番近いここを調べてんじゃねえか」
無視して更衣室に目を向けると、さっきはそれどころでは無く分からなかったがある事に気付いた。
(……そう言えば)
昨日から、一番左上のロッカーがずっと使用中になっている。
(もしかして、プールに落ちていたのはあの鍵か?)
ポケットから鍵を取り出し、ロッカーの鍵穴に差し込む。
果たしてその鍵はぴったり合い、かしょんと鍵を回してロッカーの扉を開く。
中には、ケースが一つ入っていた。
やたらと奥にあるそれを少し背伸びしつつ取り出し、中身を確認する。
後ろから覗き込んできた尾後もそれを見て、怪訝な顔をした。
「…!んだ、これ……?」
「あ…!」
中身は空だ。
だが、この空間に何が入っていたのかは察しがついた。
この形は……正に、現場にあった拳銃と同じだ。
(という事は……ここが、拳銃という宝の隠し場所……だったという事か?)
「…へえ。お前の表情から察するに、拳銃があんのはマジっぽいな。あの男は撃たれて殺されてた……って所か?」
「……とぼけるな。モノクマは口を滑らせかけたぞ、お前が銃を見つけたんじゃないのか?」
「バーカ、俺が殺ったんならわざわざ証拠品見つけられるような真似するかよ。そもそも何で手間かけてまで殺さなきゃいけねえんだっつうの、あんな生き急ぎ偽善者野郎をよ?」
「ふざけるな……!大体らしいだのぽいだの、わざとらしく他人事ぶった言い方しやがって。近くで見ろよ、明日家の目の前で、同じ事が言えるかやってみろ」
頭に来て、尾後に食ってかかる。
「……行かねえよ」
「いいから……、…?」
手を掴むとぐ、と抵抗があった。
反対側の腕を見るとロッカーの角を指の色が変わるほど、しっかり掴んでいる。
単に面倒臭がっているだけにしては妙な態度だ。
こころなしか、プールの方を決して見ないようにして、顔色も良くないようにも見える。
(……もしかして)
「……分かった。じゃあ大浴場に行こう。もう一つモノクマのヒントっぽいものを見つけたんだ」
「行かねえって言ってんだろ……!」
腕を引いてみるも、語気を荒げて抵抗される。
顔色はいよいよはっきり青くなっている。
ここから察するに……。
「……そうか」
「お前、浸かれるくらい深さのある水場が怖いのか」
「……ぐッ!」
図星を突かれた尾後が、顔をぐにゃりと歪めた。
ばしん、と腕を振りほどかれる。
「ちッ、うぜえな……!面倒なとこにばっか隠しやがって……。どうりで見つからねえ訳だ、こんなカスに弱味は握られるしよ……」
(……やっぱりこいつも、勝手にヒントを探してたのか)
だが、この言動から見るならば拳銃を見つけたのはこいつではない、という事になる。
(どういう事だ……?演技には見えない、尾後が深い水のある所には行けなかったとするならば……)
逃げるように出ていった尾後を放って、ロッカーを確かめるように撫でつつ考える。
(……ん?)
感触に違和感を覚え確認してみると、ケースの入っていたロッカーの扉……その内側だけが、やたらベタベタしている。
よく観察してみると……わずかに、テープのようなものが付着している。
(何かが貼り付けられていた……のか?)
ともかく、再度現場であるプールへとやって来た。
改めてみると……どちらかというとプールサイドの更衣室よりの床、死体からかなり離れた所に、少量の血が付着している事に気付いた。
(何でこんな所に……?)
…それも含め、凶器は拳銃ではない、という事を念頭に置き、改めて辺りをよく観察すると……。
審判台。倒れていなければ、高所恐怖症が登るには無理がある程度に高さのあるそれ。その半ばほどに、やや不自然な形で血が付いている。
あるいは、これで頭を打ち付けたとすれば……。
今度は明日家の身体を、詳しく調べてみる。
胸ポケットから……一枚のカードが出てきた。
トランプの、″ジャック″のカードだ。
(偶然入っていた……は、無理があるだろうな)
頭部以外に大きな外傷はないようだが、右手の親指と人差し指の付け根に、何かで切ったような痕がある。
周囲の床をよく調べていると、奥まった所にナイフが転がっているのを見つけた。
やや特徴的な形をしており、単にナイフというよりも、これは……。
(ペーパーナイフか?)
柄の所に、希望ヶ峰の校章と『図書室』の文字が彫ってある。
それにしても男子が扱うにはどうも柄が短く、うかつに握ると危ない。
ちょうど柄と刃の境目の両側に血が付着しており、指を切ったかと自分の手を確認してしまった。
握り方を間違えると、丁度この辺を怪我してしまうだろう。
そして……水に流れてしまったようだが、まじまじ見ると刃先にも僅かに血が付着しているのが見て取れる。
(明日家の手の傷は……これで切られたものだろうか?)
しかしよく周りを見てみると、トランプやペーパーナイフはともかく……他にもいろいろ落ちている。
プールサイドの隅っこの方には、『R.T』と走り書きでサインされたリストバンドが放置されているし、椅子の向こうには駄菓子のおまけ……?のような小さなアクセサリーが転がっている。
「あ~!あったあった、良かったあ〜」
軽井沢がひょこっとやってきて、横からアクセサリーを手に取った。
「昨日落としちゃったやつ、やっぱりここにあったんだあ」
「……菓子溢すなって言ったろ?」
「汚したんじゃないもん、落としちゃっただけだもん!」
ぷくっと頬を膨らませてそんな事を言う。
「昨日色々さわがしかったからあ……。琉球宮くんのせいだよお!あの子もなんか、なくしちゃったって言ってたもん」
……小学生の告げ口を見ているようだ。
「夜時間のちょっと前に、二人してそんな事言って騒ぎだして……結局昨日は遅かったから、部屋に戻ったのよ」
三雲が、こちらは相変わらず落ち着いた様子で彼女を見ながら言った。
「……明日家くんには悪いけど……。昨日ここに探しに戻って来てたら、お姉さん達まで犯人と鉢合わせしちゃってたかもしれないと思うと……少しほっとしちゃう部分があるのが本音ね」
こちらは彼女に聞こえない程度の声量で、ぼそりと言う。
俺の視線に気付くと、すっと顔をそらした。
「……三雲達って、その駄菓子にせよ昨日も色々持ち込んでたよな。それ全部、寄宿舎の倉庫にあったのか?」
「ええ……無駄に色んな物があるしね、あそこ。見かけない雑貨があったら、たいてい倉庫にある物って言えるんじゃない?」
(……じゃあ、一度倉庫を確認しに行ってみるか)
そう決め、…何とはなしに女子更衣室の扉に手をかけると、音もなく開いた。
入、れるのかよ。
「うわっ!何!?見通、何してんのっ!?」
中にいた青空に、ぎょっとした調子で声をかけられる。
「ち、調査だよ、調査」
「調査ねーっ……わざわざ男子が女子更衣室調べなくちゃいけない理由って、すぐには思いつかないけど……」
じとっとした目で見てくる彼女に、ごまかし半分で話しかける。
「と、もかく……。何か、おかしな事とか気付かないか?」
「おかしな事、ねえ……。うーん……何かあるかなあ……別に昨日までと、変わんない気がするけど……」
ぐるっと見渡しうんうん唸っている。
おおむね、男子更衣室と外観は変わらない。
「……あ、そうだ!一昨日変だなって思った事ならあるよ!」
青空がぽん、と手を叩いて言った。
「一昨日?」
「うん、モノクマが変な事言い出した後さ……。気分転換に、一人で泳ぎに来たんだよね」
「そしたら、ここのロッカーだけ閉まってて。プールには他に誰も来てないし、ちょっと変だなって思って……ま、昨日来た時は普通に開いてたから、そのままスルーしちゃったけど」
指し示されたのは、先程男子更衣室で拳銃のケースを見つけたのと同じく、一番左上のロッカーだった。
念の為中を確認してみる。…何も入っていない。
「ね、別に変なものないでしょ?」
「そうだな……」
(……?)
再び触って確かめていると、今度は何故か鍵がやたらにベタベタしている。
まじまじと見ると、こちらも僅かにテープ跡のようなものがついている。
(これは……何か関係があるのだろうか……)
次に、気を取り直し倉庫にやって来た。
やはりあらゆる物が頭悪いほど大量に並べられている。
昨日軽井沢が持ってきていた、ピンクの浮き輪や菓子類も所狭しと詰め込まれている。
琉球宮が持ってきたであろうビーチボールや、無地のラバー製リストバンド、それに男女別の水着も大量にある。
現場に残されていたトランプも、ここから持ってきたのだろう。そして紙製の栞、あとはジャージやスポーツバッグなど……。
「どう?捜査の方は」
不意に、涼やかな声に話しかけられた。
「……」
南界レイコが、知った風な顔で扉の前に立っている。
「お前、図書室にあった本のことは……」
「よしてよ。裁判前にそんな話、無粋だわ。それより見通君。あなた玄関ホールには行ったことある?」
「……急に何の話だよ」
「その顔だと気付いてないみたいね。行ってみましょう」
異議を唱える間もなく、南界に連れられて移動する。
玄関ホールは、以前来た時と同じく入り口に大きな鉄製の錠が取り付けられており、依然として開けそうな気配はない。
「……別に、これといったものは……」
「そんな上ばかりきょろきょろしても何もないわよ。そこ見てごらんなさい」
指し示されたのは、右手側に置かれた……レターケースだろうか。
一番上の棚を開けると、何かが入っている。
これは……俺達に渡された、電子生徒手帳だ。
電源を入れてみると、『甘井めう』の文字が浮かび上がる。
「甘井の生徒手帳……か?」
「死んだ生徒の電子手帳は、このレターケースの中に順次しまわれる事になってるみたいよ」
「あなたは知らなかったでしょうけど……。もっと脱出の事を真剣に考えていて、しょっちゅうここに来ているような人がいれば気付いていたかもね。ふふ……」
そう言って、上から目線で微笑んでいる。
(わざわざこれを見せてきた事に、何か意味があるのか……?)
キンコンカンコーン…
『えー、ボクも待ち疲れたんで……そろそろ始めちゃいますか?』
『お待ちかねの、学級裁判をっ!』
「!」
『ではでは、いつもの場所に集合してください』
『学校エリア一階にある、赤い扉にお入りください』
『……うぷぷ、じゃあ後でね〜!』
「…………」
「いよいよ本番ね。ご健闘を祈るわ」
南界は気取った態度でそう言って、一人ですたすたと去っていった。
時間……か。
再び、学級裁判が始まる。