ダンガンロンパXXX   作:Krk

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第二章 学級裁判編

学級裁判 開廷

 

「犯人は分かってます!」

「!?」

 

 まだ誰も何も言わない内に、天条のそんな声が響いた。

「動機がある奴は、一人しかいない!尾後が明日家クンを殺したんだ!勝手に見つけ出した拳銃を使って……明日家クンをプールに呼び出して、撃ったんだ!」

「それは違うぞ!」

 

(……危ない。いきなり始まったから置いていかれる所だった)

 

「天条。気持ちは汲むが……それは無い。尾後はプールには行けなかったんだ。理由は知らないが……おそらく海難事故か?そんな何らかの理由により……こいつはちょっとした深さのある水場には近付けないんだ」

「…、チ……ッ!」

 尾後が、苦々しい顔をして舌打ちをする。

 しかしいつもの憎まれ口はなく黙って下を向いている。

 

「だから、少なくとも……『プールに呼び出して殺した』というのは、考えられない。もっと詳しい事は……全員で議論して考えるべきだ」

 そう声をかけると、天条は恐縮した様子でうつむいた。

「は、はい……。さ、先走ってすみませんでした……」

「…はぁい。出しゃばり幸運モドキ野郎に出鼻を挫かれちゃったけど。気を取り直して、議論を始めて頂きましょうか」

 

「まずは、死因について話し合っていきましょう!」

 

議論開始

 

「えっと……明日家クンは、2階のプールで発見されて……」

「そのプールの中に浮かんでたわけだから~」

「やっぱり、[溺れて死んじゃった]ってことだよねえ……」

 

[溺れて死んじゃった]→[モノクマファイル2]

 

「それは違うぞ!」

 

「いいや。『モノクマファイル』によれば、明日家の致命傷は頭部の傷だったはずだ」

「溺死じゃあない……っていうことね……」

 

「じ、じゃあ、その傷が出来た凶器って……?」

「あっ!分かる、分かるよ!」

 青空が勇んだ調子で声を上げた。

「プールで一緒に落ちてるの見たもん!」

「拳銃!きっとあれで[撃たれた]んだよ!」

 

[撃たれた]→[未開封の弾丸]

 

「それは違うぞ!」

 

「……いや。明日家があの拳銃で撃たれて殺されたというのは、有り得ない」

「あ、有り得ないって何!?ずいぶん言い切ってくれるじゃん!」

「何故なら……あの拳銃には弾が入っていなかったんだ」

 

「は……はあ!?」

 

「弾丸は……寄宿舎一階の、脱衣所にあるマッサージチェアに隠されていた。箱の封は切られておらず……弾はそれ一箱にあるのみ」

「つまり、あの拳銃で誰かを撃ち殺す事は不可能だったんだ」

 

「そ、そもそもさ……なんで拳銃だの弾丸だのが学校にあるわけ!?」

「ボクがご用意したからですっ!」

 モノクマが胸を張って答える。

「まったく……せっかく宝探しゲームって言ったのに……。全然見つけて貰えないもんだからがっかりしたよ」

「『ヒント』って……結局、今回もそんなモノだったっていう訳ね」

「そんなモノとは失礼な!そのおかげで今回もばっちりコロシアイが起きたじゃないの!」

 

「…んで?要するに拳銃と弾丸がお前の用意した『宝』……っていう事だな?」

「そーです!」

「それが両方とも脱衣所に隠してあったの?」

「違うよ!そんなすぐに見つけちゃったら、面白くないじゃない!」

「じ、じゃあ、拳銃はどこに隠してあったんだろ……?」

 

(調査の時、隠し場所と思わしき物があったはずだ)

 

証拠品提示:[男子更衣室にあったケース]

 

「男子更衣室のロッカー……その一番左上に、空のケースがしまわれていた」

「拳銃が、ぴったり入るサイズのものだ」

「じ、じゃあ、拳銃は男子更衣室にあったってこと!?」

「……あれ?っていうことは……」

 軽井沢が何やら考えながら言った。

「男子更衣室には、男の子しか入れないんだから〜……」

「犯人は男の子の中の……4人の内の誰かってことだ!」

「え……えぇえっ!?」

「そんなん分かんないじゃん!女子の中に、嘘ついててほんとは男子の子がいるかもしんないじゃんっ!」

 いきなり容疑者と限定された琉球宮が、憤慨した様子で言った。

「そもそも最初の男女比が男子5女子7なの、アンバランスだと思ったんだよねーっ」

「軽井沢ちゃんなんか一番あやしいよ!寸胴体系だし、色々隠せるフリフリの服着てるしっ!」

 

「はああっ!?そんなワケないじゃん!バカッ!まいこはずっとマーサお姉ちゃんと一緒にいるんだよ!?お風呂も、着替えも!そんなん絵面やばすぎるしっ!」

「あんまロリが絵面とか言うなよ……」

「……一応言っておくけど。まいこちゃんが女の子なのはお姉さんが『確実に』言えるわ。そもそも更衣室に一緒に入ってる時点で、まいこちゃんの生徒手帳で入れるのも女子用よ」

「……じ、じゃあ、他の子が……!」

「……」

「なあに?見通君。『そういえばこいつ、男子トイレに入ってたよな……』みたいな目で人を見て。失礼ね、私だって確実に女性よ?なんなら……」

 くい、と南界がセーラーカラーに指をかける。

 

「……見る?」

「見ないッ!」

 

「ああ~、カオスってきたねぇ。とはいえ意味もなく女子全員のストリップってのも、今日びコンプラ的にちとまずいし。…モノクマさぁ、こんなかにそーいう倒錯っ子がいないかどうかってバラせないの?事件の根幹に関わるから話せない……ってんならイコール『イエス』って訳で、そーなったら改めて女子全員を脱がせばいい訳だし」

「なに言ってんの!?どっちにしても駄目すぎるんだけどっ!?」

「えーっと……つまり、きみたちの中に『男の娘』がいないかどうかってこと?」

 モノクマがこてん、と首をかしげ聞き返す。

 

「いないよっ!そんなゲームの中でしか見ないような存在は!」

 …そして吼えた。

「現実みろよっ!女子にしか見えないウサギ系小動物天使な高校生男子なんて、リアルに早々いるわけないでしょっ!この身のほど知らずっ!」

「……何でちょっとキレてんの……?」

「『男の娘』が性癖で、軽く扱われたのにムカついたんかねぇ?」

 

「……とにかく。性別を偽って男子更衣室に入れた生徒はいないという事だな」

 話がどんどん脱線していきそうなため、強引に軌道修正する。

 

「でもさあ、ほんとに違う性別の更衣室には入れないのかなー?」

 不満そうな様子で琉球宮が発言した。

「だってさっ、もしかしたら急いで入れば大丈夫だったりするかもしれないじゃんか!」

「……無理よ。異性の生徒手帳をかざせば、その瞬間に入口のガトリングガンに銃撃されるんだから……」

「でもほんとに撃たれた子はいないんだから分からないよねー?」

「そんなシュレディンガーな……」

 

「一応言っとくけど。ボクはそんなフカシみたいな、甘っちょろい脅しはしないよっ!」

「当然、誰かがそんな事をすればガトリングガンは確実に作動していました。きみたちの中に蜂の巣になった奴はいない、それすなわち、生徒手帳と異なる性別の更衣室に入ろうとした生徒はいない。という事なのです!」

 

「『生徒手帳と異なる性別の更衣室には入れない』は……『自分と異なる性別の更衣室には入れない』とイコールではない」

 俺は頭の中で、文言をたぐりながら言った。

 

「自分のものでは無理でも、人の物を借りれば可能のはずだ」

「あ?借りる?無理だろ?校則には『電子生徒手帳の他人への貸与を禁ずる』って書いてあんじゃねえか」

 尾後が腕を組んだまま言った。

 

「……『貸与』の禁止だけだ。借りる事は禁止されていない」

「ギクゥ!」

「……お前は、あの時わざとこんな抜け道を用意したな?」

 

「え?つ、つまりどういう事?他の子の手帳使えたって事?」

「……でも、借りる人がいるって事は、貸す人がいるって事よ。……生徒手帳を貸した場合、どうなるの?」

「それが故意にせよ勝手にパクられたにせよ、当然『校則違反』として、しかるべき罰を受けて頂きますっ!」

「じゃあ、やっぱり不可能じゃあ……」

「……校則違反となっても、罰を受ける必要がない人物のものを使えばいい」

「誰よそれ?」

 

「……すでに死亡した生徒のものだ。玄関ホールにあるレターケースには、亡くなった生徒の電子手帳が保管されていた。それを持ち出す事は誰にでも出来たはずだ」

(……だが……)

「まあ、それも無理ね」

 南界が、微笑みながらそう言った。

 

「そこにあるのは……甘井さんと、声野さんのもの。どちらも女性だもの。どっちにしても男子更衣室に入るためには使えないわ」

「じゃあ結局、犯人は4人の内の誰かってことになるんじゃない?」

「……そうとは、まだ言い切れない」

「死亡した生徒……その中には、男子もいたはずだ」

 

「……誰の話?」

「明日家だよ。そもそも、拳銃は今回の殺人には使われていなかったんだ。必ずしもあらかじめ手に入れておく必要はない」

「プールで殺害し……明日家の生徒手帳をつかって男子更衣室に入り、拳銃はプールの中へ。空のケースはロッカーの中へ入れておく。そして男子更衣室を出て……自分の生徒手帳で、女子更衣室から出て行く。それは可能だったはずだ。『男子がクロだと見せかけるため』……と考えれば、わざわざそんな手間をかける理由にもなる」

 

「じゃあ見通くんは、クロは女子だって言いたいの?」

 三雲が、やや厳しい目でこちらを見る。

「……あくまで、可能性だ」

「どちらかと言うと、クロは男子とも女子とも……現時点では断定出来ない。そう言いたいんだ」

 

「じゃあ、犯人の性別の話はいったん振り出しに戻したとして。新しいことを話し合わない?」

 南界が涼しげな声で言った。

「新しいこと……って?」

「明日家君を殺した……『本当の凶器』の話よ」

「あ…!そ、そっか……結局、銃で殺された訳じゃないんだもんね……」

 

「えーっと、頭の傷が致命傷で、撃たれた訳でもないとすると……」

「どっかにぶっつけちゃったとかかな?」

「それか、何かでぶん殴られたかだな……」

「何かってなに?[ハンマー]とかっ?」

 

[ハンマー]→[審判台]

 

「それは違うぞ!」

 

「現場にあった審判台は、半ば辺りが不自然な血の付き方をしていた。おそらく……あれで頭部を打ち付け、死んでしまったんじゃないだろうか」

「その可能性が高いでしょうね。彼の頭部の傷口は、審判台の血の付いていた部分と一致していたから」

「き、傷口……って……」

「し、調べたのぉ……?」

 何人かが青い顔をして南界を見る。

 

「あれ。じゃあ……」

「明日家がプールにいる時に偶然審判台が倒れてきたかなんかして……今回の事件って、そういう[事故だった]ってことなんじゃないのー?」

 

[事故だった]→[旗付きロープ]

 

「それは違うぞ!」

 

「明日家の身体には、プール上方にある旗付きロープが一本分巻き付いていた」

「普通にしていれば……あの高さにあるものが身体に絡む事はない。これは明らかに作為的なものだ」

「現場には、図書室にあったペーパーナイフが落ちていた……審判台に上れば、あれを使ってロープを切る事が出来ると思うわ」

「で、でも……。そもそも旗付きロープを切って、身体に巻き付ける……っていうことに、何の意味があるんでしょうか……?」

「……」

 

「見立て……かもしれない」

「みたて……って何?」

「見立て殺人。童話や小説など……何かになぞらえて、人を殺すことよ」

 南界がクールに言った。

 

「でもさ、全然ピンとくるものないけど……。何の真似っ子な訳っ?」

 

証拠品提示:『首切りジャック』について書かれた雑誌

 

「『首切りジャック』……という殺人鬼について、知っているか?」

「くびきり……何?」

「聞いた事あるよ。ちょっと有名だもんねぇ」

 高梨が頬を撫でつつ言った。

「自らも首に醜い傷を持つ連続殺人鬼。それを憂いてか、被害者も使用する凶器にばらつきはあれど必ず首を一周するような痛々しい傷跡を残し殺している。また何らかの紐状の物で、首を強くぐるぐる巻きにされているのが特徴的。現場には必ずトレードマークといえる、トランプのJのカードが残されている……そんなトコかな」

「そ、それが……今回の事件の特徴と一致しているって事?」

「そうだ。そして……その見立てを行った人物の心当たりもある」

「え!まじ!?そ、それって……ほぼほぼ犯人って事じゃん!……い、一体誰なのさっ!?」

 

人物指名:南界レイコ

 

「……お前だ。南界レイコ」

「私?」

 南界は白々しい態度で胸元に手を当てると、薄く微笑んだ。

「嫌だわ。何を言い出すの?そもそも私が、あなたにジャックの事を教えてあげたんじゃない」

「それが不自然なんだ。お前はあの時、明日家の身体に直接触れる事もなく軽く目にしただけで、事件を首切りジャックと結び付けていた。その事自体が」

 

「横暴ね。だって、見れば分かるじゃない?死体の特徴はジャックの犯行と完全に一致しているわ」

「違う。ロープは『首に強くぐるぐる巻きにされていた』のではなく、上半身に絡むように巻かれていただけだ。傷も、頭部にあるだけで首元は綺麗なままだった」

「そうだとしても、現場に″J″のトランプカードがあったのは事実でしょう?明らかに不自然なそれを見つけたから、ジャックの見立て殺人だと気が付いたのよ」

「……それも、おかしい」

 

「Jのカードがあったのは……明日家のジャケットの、胸ポケットの中だ。どうやって近くで見ただけで、それが入っている事が分かったって言うんだ?」

 

「たった一つだけ納得のいく理由があるとすれば……カードを入れたのがお前自身である場合、つまり……見立て工作を行ったのは、南界レイコ。お前自身だ」

「……ふふ。ふふふ……」

 指された南界は、楽しそうにくすくすと含み笑いをしている。

「ひどい人ね。乙女の秘密を暴こうだなんて……」

 するり、と彼女の首元に巻かれているスカーフが外される。

「あっ!あわっ!あわわぁ!」

 細い首をぐるりと一周するように、痛々しい傷跡がついているのが露わになる。

「おぉ〜…!その首元の傷……!まさに″首切りジャック″の……!」

「ご明察。ジャックの見立てをしたのは、私よ」

 

「じ、自白だあ……!じ、自分がクロだって、認めるんだね……!?」

「いいえ?私はただ、″見立て″をしただけよ。今朝ご飯の前にプールに寄ったら、明日家君が殺されていて……ロープやカードがそのまま放り出されてたから、せっかくなので完成させて差し上げたの」

 南界は余裕を崩さない態度でしれっと言った。

「い、言い訳苦し過ぎるって!あんたがその、イカれた殺人鬼で、また人を殺したんでしょ!?」

「……いや、少なくとも、″首切りジャック″本人が南界というのはあり得ない」

「『殺人鬼 禊も無しに これいかに〜』」

 

【反論】

「……何か、久しぶりに聞いたかも。高梨の五七五」

「んなこたーどーでもいいのさ。大事なのは、人殺しが今正に野放しにされようとしている事なんだからねぇ」

 そう言って、高梨は……珍しく興奮した様子で、拳を握り語っている。

 

「『連続殺人鬼の正体は、ミステリアスな女子高生!』これはアツいよぉ!民衆が好みそうなワードだもん!」

 

「なのにな〜んで、水さすような真似すんのさ?」

「南界が殺人鬼で、殺しの快感に抗えず明日家を殺した。それが一番綺麗じゃん?」

「あの″首元の傷″!それに、工作の自白までしてるんだよ〜?」

 

「[首切りジャックの正体は南界レイコ]で間違いなーい!」

 

「それは違うぞ!」

 

(……反論、というか半分はただの私情だった気もするが……)

 

証拠品提示:『首切りジャック』について書かれたファイル

 

「南界が、″首切りジャック″ではないという、確かな根拠はある」

「はあ?ある訳ないじゃん。ジャックの正体に関しちゃ、警察もほとんど迷宮入りで……」

「″真相″は、隠されていた」

 

「首切りジャックは、すでに死亡しているんだ」

 

「図書室にあったファイルには……世間では未解決とされている事件について、その真相が記された調書がまとめられている」

「その中には、首切りジャックについての記録もあった。それによれば……過去現場に残されたDNAと一致した事から、犯人はとある非常勤講師の男と断定された」

「犯人は、最後の犯行の最中原因不明の心不全によって死亡している。つまり……南界レイコはジャック本人ではあり得ないんだ」

 俺の発言に対し……高梨は露骨にがっかりしたような顔をした。

 

「え〜……。成人男性じゃあ駄目なんだよなあ……やっぱトレンドになんのは、女子高生シリアルキラーで……」

「そ、そーゆう問題じゃないし……。ってか、私達も今命かかってるんだよっ!?トレンドとか言ってる場合じゃないでしょ!」

「いやいや、命よかバズでしょ、フツー」

「だ、ダメだ……。価値観違う人だよ……」

 

「じ、じゃあレイコちゃんは殺人鬼とかじゃあないんだよね……?」

「……でも、だったら何で彼女はその殺人鬼にこだわる訳?工作をしたこと自体は、間違いないんでしょ?」

 

「……首切りジャックと、南界に繋がりがある事は確かだ」

「犯人は、死亡時自身の勤める学校の女生徒を手にかけようとしていた。その学校の名は、星ノ影学院。……南界レイコの出身校だ」

 

「この″女生徒″というのは、お前の事で……首の傷は、その時襲われて負ったもの。……そうだな?」

「そうよ。私達は愛し合っていたの」

「……はいっ?」

 唐突に突拍子もない事を言い出した南界に……周りが目を丸くして彼女を見た。

 

「確かに私の首には消えない傷が刻まれているし、彼は私を殺すつもりだった。でもこれは、彼の愛故なのよ。結果的に息絶えたのは彼の方だったけれど……どちらかが死んで、もう一人の中で二人の愛は永遠になる。それには変わりないわ……。私にとって、″ジャック″は特別なの」

 周りの目も気にせず芝居がかった調子で、冗談みたいな言葉を並べる南界は……微笑みながら巻き直した首元のスカーフをいじっている。

「せっかく誰かが″彼″の模倣をしようとしていたのに、それを誰にも気付かれないなんて寂しいじゃない。だからちょっとお手伝いをした。それだけよ」

「そ、それだけって……」

 

「それってさ、あんたが犯人じゃないって理由になるわけっ?結局めちゃくちゃ怪しい事には変わりないんだけど!」

「そうねえ……」

「じゃあ、こういうのはどう?」

 

「拳銃は、本当に男子更衣室に隠されていたのかしら?」

「……え?」

 

「何か……不自然な点はなかったかしら?」

「……」

 

証拠品提示:ロッカーのベタベタした跡

 

「男子更衣室の、拳銃が隠されていたロッカー…その扉の内側と、女子更衣室の同じ左上のロッカーの鍵が、やたらベタベタしていたんだ」

「そして、どちらも僅かに……テープ跡が残されていた」

「ここから考えるに……『宝探しゲーム』が始まった当初、女子更衣室のロッカーの鍵が、男子更衣室のロッカーの扉の内側に貼り付けられていたんじゃないだろうか」

「あ……!た、確かにそーだと思う!一昨日の夜さ、誰もいないのにロッカーがそこだけ使用中になってたんだよ!」

 青空が、頷きながらそう言った。

「でも、なんでわざわざそんな事したんだろ?」

「ゲームの趣旨と合わせて考えるとなると……より探索を複雑にするため」

 

「つまり……『宝』、すなわち拳銃が最初に隠されていた場所は、男子ではなく女子更衣室だったんだ。男子の方のロッカーには……宝が入った女子ロッカーの鍵が隠されていた。更衣室間の性別を越えて捜索しないと見つけられないようになっていたのは……生徒手帳のルールの抜け道に気付くか試していたんだろう」

 

「そう考えると、今回のゲームって、ずいぶん女子には不利よね。だって事件が起こる前に、ヒントは発見されてたんでしょう?」

「まあ、そうだね。……はれ?」

 自然に頷いたモノクマは、……少ししてから口を滑らされた事に気付き首を傾げた。

 

「え!?じゃあ、明日家が殺されるより前に、ヒントは見つかってた……ってこと!?」

「…はっ!ゆ、誘導尋問っ!?」

「……引っ掛かるなよ、そもそも」

 

「はい。じゃあそれをふまえて、どうぞ?」

 混乱する場をさて置き、南界はニコリと笑ってそう促した。

 

「え、えーと……。じ、じゃあ、拳銃は……本当は女子更衣室に隠されてた……ってことで……」

「じゃあ、犯人は女子だ!」

「違うでしょ!女子更衣室には皆入れたんだから……。逆に拳銃が見つかったのは事件より前で、明日家の手帳も使えないし女子は男子更衣室には入れない。つまり……犯人はやっぱり男子って事だよ!」

「い、一周して戻ってきちゃったよお……」

 

「……いや、それもどうかねぇ」

 高梨が扇子をくるくるともてあそびながら言った。

「…や、このまま黙ってた方が僕的には有利なんだろーけど、なーんか気持ち悪いから言うんだけどさー?」

 

「拳銃を見つけたのが女子っていうのは、明日家が死ぬ前には女子は男子更衣室には入れなかったんだからない。……でも、男子だっていうのも不自然だと思うんだよねぇ」

「何で?事件の前に異性の更衣室に入れたのは、男子だけでしょ?」

 

「犯人が男子だとしたら……何で拳銃のケースだけを『男子更衣室』に置いといたりすんのさ?」

「凶器を拳銃だと見せかけようとしたってんならさー、ケースは普通、『女子更衣室』に置いとかない?元々そこにあったんだし、犯人は女子って思わせられる……少なくとも、男女どちらがクロかは分からないって出来たはずなのに。何でわざわざ自分が容疑者として絞られるような真似すんのかなあってこと」

「……そもそも、根本"首切りジャック"に見立てたかった割には、凶器に使うでもない拳銃を現場に置いてるのも不自然だし。見立て自体も、ロープを身体に巻き付けたのが南界なら、わざわざロープ切っといてそのままおきっぱだった訳でしょ?首元の傷だって付けてないし……なーんか今回の犯人のやってる事って、中途半端っていうか……やりかけ感あるって感じ」

 

「……な、なんか……。急に冷静になられるとそれはそれでなんだけど……」

「何言ってんのぉ?僕はいつでも冷静じゃん」

「いや、うん……まあそれでもいいんだけど……」

 

「…………」

(ケースが、男子更衣室のロッカーに入っていた理由……)

 

「犯人が、男子更衣室のロッカーに拳銃のケースがある事なんて、知らなかったとしたら?」

 南界が、涼やかな声でそう言った。

 

「そして……犯人は、首切りジャックになぞらえて殺すつもりすらも、なかったとしたら」

「は……はあ!?何いきなり根底覆してんの!?そんなの、ますます意味分かんないじゃんっ!」

「そうかしら?そう考えたとしたら……見立てがあんなに中途半端になってしまった理由も、推測できると思うけど」

「それ以上動かせなかったのよ。拳銃を見つけた人物も、見立てを用意した人物も……ね」

 

「…………」

(『犯人』と、今回の事件を『引き起こそうとした者』が、別人だとしたら)

(この証拠が示す人物は……)

 

人物指名:明日家灯

 

「凶器に使ってもいない拳銃を現場に残し、わざわざケースを男子更衣室のロッカーに置いたままにしたのは……故意にそうしたのでなく、事件発生後は動かす事が出来なかった。何故ならその人物は……『死んでしまったから』」

「見立てが中途半端だったのは……用意している途中で、『殺されてしまったから』」

 

「つまり……」

「一人でモノクマのヒントを探し……拳銃を見つけ出したのも」

「『首切りジャック』になぞらえ、南界に罪を被せる殺人計画を企てたのも……被害者の明日家の方だったんだ」

 

「……う、嘘だッ!」

 天条の声が割り込んだ。

「明日家クンがそんな事するわけない!」

 

「あんな……あんなすごい人が……人殺しなんて計画する訳ない!」

「そうかしら?少なくとも彼が首切りジャックについて調べていたのは確かよ。だってその雑誌を見つけたのって……明日家君の部屋の中だもの」

「そんなの嘘だ!そんな殺人鬼の記事だって、明日家クンが読んでいたなんて証拠は、ないじゃないか!」

「……いや。明日家が『首切りジャック』の記事を読んでいた事を示すものならある」

 

証拠品提示:ステンレス製の栞

 

「雑誌に挟まっていたこの栞だが……。倉庫にある紙製のものとは材質が違う。そして、『A.R』と刻印されているこのマーク」

「″明日家 灯″のイニシャル……つまりこれは、明日家の私物だ。彼がこの雑誌に目を通していた証拠になる」

「…!」

 

「……それに。お前には昨日、明日家は『体調が悪いから』と言って部屋に籠もっていたんだよな?…青空、昨日プールに誘った時、明日家は同じように言っていたか?」

 聞かれた青空は、やや戸惑いつつも答える。

「え、う、ううん……。『忙しい』…って言ってたけど……」

「つまり……どちらにせよ明日家が嘘をついていた事は確かなんだ」

「そ、そんなの……!」

「……そして、明日家の身体に残されたもう一つの証拠」

「……それが、犯人の手がかりを示している」

 

証拠品提示:右手の傷

 

「明日家の右手、その親指と人差し指の付け根あたりに……何かで切ったような小さな傷があった」

「プールサイドに落ちていたペーパーナイフ……その刃と持ち手の境目にも、両端に僅かに血が付いていた。ナイフは柄が短くて……力を込めて握ると、丁度同じ箇所を傷付けそうになる」

「旗のロープを切る時に、指も切っちゃった……ってこと?」

「……そうかもしれない。だが、柄が短いとはいえ、かなりしっかり握り込まないと、ああいう傷は付かないと思われる」

 

「もっと重要な事として、水でかなり流れてしまってはいるが……刃先にも、同様に血が付着していたんだ」

「そして……死体があった場所よりもかなり更衣室よりの床に……やや不自然な形で血痕が残っていた」

 

「ここから推測される事として……明日家と犯人の間には、何らかの争いがあったんじゃないだろうか」

「見立ての準備をしていた所を見られて、明日家君が口封じのためその人物を襲った……と考えるのが、自然だと思うわ」

「えっ!?て、ていう事は……。犯人って、ケガしてるのっ!?」

「……そういう事になる。そして……最もそれが疑われるのは、お前だ」

 

人物指名:琉球宮玉緒

 

「……ぅえっ?」

「……び、びっくりしたあ……。急に振られるからビビっちゃったよ」

 指された琉球宮は、ぎょっとして大きな目をぱちぱちと瞬きさせた。

「な……なんだよお、急に……!」

「なんでボクが、疑われなくっちゃいけないんだよお!」

「…………」

 

「お前が、昨日と比べて不自然な行動を取っているからだ」

「ふ、不自然な行動って…何さ?」

「お前、腕にリストバンドを着けているよな?」

「つ……着けてるけど!それが何だよ!?」

「軽井沢が話していたんだが……お前、昨日プールで遊んでる時に、何かを失くしたらしいな」

「…!」

「そして、それを『夜時間』になる直前に気付いた。……そこからプールに探しに行ったとしたら、ちょうど明日家の死亡時刻である夜11時の近くになる」

「は…はあ〜!?そんなん言われてもさ……近くは近くじゃん!夜時間になってからすぐ探しに行って、すぐ帰ったし!明日家クンになんか会ってないよ!」

「……落とした物をすぐに見つけて、帰ってきたと?」

「そーだよ!そー言ってんじゃんか!」

「……それは、おかしいな」

 

証拠品提示:落ちていたリストバンド

 

「プールサイドの奥まった所に……これが落ちていた」

「!」

「『R.T』と書かれている。……理屈はさっきの明日家の栞と同じだ。…琉球宮玉緒、これが昨日お前が…落とした物じゃないのか?」

「う……っ!」

 

「…あー、もう、るっさいなあ!そーだよ、結局昨日は失くしたまんま見つけらんなくて、新しいの持ってきたんだよ。でも、だから何が変わるわけぇ!?」

「結局、すぐ帰ったことには変わんないし!そんな倉庫にいくらでもあるリストバンドが一個落ちてたからって、ボクが怪しいなんて言えないじゃん!」

「……そうだな。プールサイドにリストバンドが落ちていた事自体は……正味それほど重要ではない」

「重要な点は……」

 

選択肢選択:リストバンドを着けている腕

 

「時に、お前……。利き手はどっちだ?」

「…っ!?」

「今朝の朝食会……お前は右手で食事していたが、ずいぶん食べ辛そうだったよな?」

「あ……!」

 あの時隣にいた軽井沢が、小さく声を上げた。

「そこから見るに……お前の利き手は、左手なんじゃないか?」

「だ……だったらなんだよ!?ボクが左利きだから、何かメイワクかけたわけ!?別にどっちの手で、ご飯食べようが勝手じゃんか!」

「そして……。お前は今、右手にリストバンドを着けているよな。だが昨日は……『左手』に着けていたはずだ」

「だ、だから……だから、それがなんだって言うんだよ!たまたまじゃん、そんなの!そんな気まぐれで、犯人にされちゃたまったもんじゃ……!」

 

「いたぁあ!」

「あっ……!」

 がしり、と琉球宮の左腕を掴む。悲鳴を上げて飛び上がった。

 手を掴んだまま袖を捲ると……その腕には包帯が巻かれ、僅かに血が滲んでいるように見える。

「……お前は、利き腕を怪我してしまったから……。今日は左手に、リストバンドを着けることが出来なかった」

「その怪我は……昨日、明日家と争いになって、負ったものなんじゃないのか?」

「ち……違う……違う……っ!」

 

「……そうか」

「だったら……今から、この事件をもう一度振り返る」

「反論があるなら……聞かせてくれ」

 

【クライマックス推理】

 

「今回の事件の発端は、モノクマの始めた『宝探しゲーム』だ」

「被害者の明日家は、始めは偶然か否か……それは分からないが、結果的には故意にその『宝』のうちの一つである拳銃を手に入れた。男子更衣室のロッカーには女子更衣室のロッカーの鍵が入っており……それで開く女子更衣室内のロッカーに、拳銃は隠されていたんだ」

「女子更衣室へ入る時には、玄関ホールのレターケースにある死亡した生徒の手帳を使えば、問題なく入る事が出来たはずだ」

「結局弾丸は見つけられなかったため、拳銃が凶器として使われる事はなかったが……明日家の頭の中には、『クロ』として、この学園生活を卒業するという選択肢があった」

「その方法として……図書室の資料を調べている時に"首切りジャック"についての記事を目にし、それになぞらえた殺人計画を考えついていたんだ」

「一方、今回の事件の犯人は、そんな事は知る由もない」

「事件当日の昼、一日プールで遊び……その時プールサイドに、リストバンドを落としてしまったんだ」

「犯人はしばらく経ってからそれに気付き……夜時間になってから、プールに探しに戻ってきた」

「……そして、不幸なことに……。まさに殺人トリックの準備をしていた明日家と、鉢合わせてしまった」

「焦った明日家は、旗付きロープを切るために持っていたペーパーナイフで、犯人へ襲いかかった」

「犯人は左腕を負傷したが間一髪逃れ、抵抗のさなか審判台を倒した」

「倒れてきた審判台は明日家の頭部を打ち、それが致命傷となった」

「犯人は慌てて逃げ出し……落としたリストバンドと、怪我をした腕からの出血に気が回らず、それが証拠となった」

 

 

「……」

「……不幸な、事故だった」

 

「……琉球宮。……そうなんだな?」

 声をかけると、琉球宮はぷるぷると震え、反論しようとするも何も言葉にならず……。

 大粒の涙を溢して、泣き出した。

「う……うっ……!」

 

 

「うわぁあああああああんっ!!」

 

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