ダンガンロンパXXX   作:Krk

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※※注意※※

残酷な描写が含まれます。

閲覧時はご注意ください。



第二章 おしおき編

「だいせいかーい!」

 

「明日家灯クンを殺したクロは、琉球宮玉緒クンなのでしたー!」

 

「うっ……うっ、うぅう……!」

「……そうだよお……!」

 ぼたぼたと涙を溢し、しゃくり上げながら琉球宮は話し始めた。

「ぼ、ボク、明日家クンに殺されかけたんだ……」

「そ、それで、必死に抵抗してたら……あ、明日家クンが、死んじゃったんだよおっ!」

 

「……そ、そんなのって……」

「う……嘘だ……!そんなの……!」

 震える声で、天条が声を上げた。

 

「僕は認めない!彼がそんな事するはずない!明日家クンが……そんな馬鹿な事するはずないんだ!」

「それじゃあ、正解VTRを見てみましょーか!」

 モノクマの、場違いに明るい声が割り込んだ。

 

「せ、正解VTR?」

「そうです!ご存知の通り、この建物内にはそこら中に監視カメラがあって……その映像をばっちり確認できるボクだからこそ、裁判の公正なる審査も下せる訳なんだけども……」

「今回の事件が起きた時の実際の映像を、せっかくなんで公開しちゃおうかな!」

 

「……いやあ、投票の結果が間違ってる…なんて言いがかりつけられるのも嫌だし、裁判の公平性への疑念が残ると、今後にも響くからねえ」

「…特別だよ?」

 

 こてん、と小首を傾げて……モノクマが指を振ると、裁判場の照明が落ち中央にスクリーンが映し出される。

 

 学園二階……今回の事件現場となった、プールが映っている。

 夜時間となり照明は暗くなってはいるが、そこにいる人物ははっきりと確認することが出来る。

 撫で付けられた深い茶髪、きっちりとジャケットを着こなした長身の青年……明日家。

 

 その片手に切り取った旗付きロープを握りしめ……審判台から降りる所だった。

『……っ、はあ……』

 たん、と地面に降り立ち、明日家はプールサイドにそのロープを投げ置いた。

 震える手で、ポケットから何かを取り出す。

 それは、正に……現場に残されていた、あの拳銃だった。

 

『やらないと……。今さら後戻り出来ない……。他の誰かが動く前に……何とかしなくては……』

 しばらく何事かぶつぶつ呟いた後、明日家は重いため息をつき乱雑に拳銃をポケットに突っ込んだ。

 ふらふらと数歩進み、立ち尽くす。

『……何をやっているんだ俺は…………』

 頼りない声で言葉が漏れ、ぐしゃりと髪の毛を乱し……力なくその場に座り込む。

 しばらく組んだ手を額に当てたままそうした後……再度重苦しいため息を吐いた。

『……やめよう……。駄目だ……やっぱり駄目だ、こんな事……!』

『あれー?明日家クン、どしたのー?』

『っ!?』

 唐突に能天気な声が入ってきて、明日家がびくりと身体を震わせる。

 何も知らない琉球宮が、普段通りに明るくやってくる。

 明日家の纏う空気にも気付かず、すぐ傍まで近寄っていく。

 

『こんなとこで何やってんのお?』

『い、いや……。何でもないよ……』

『えー?変なのお。ボクは忘れ物しちゃってさーっ。多分、ていうか絶対ここにあると思うんだよねえ。明日家クンも、ヒマなら探すの手伝って……』

 そこで、言葉がぴたりと止んだ。

 目線がゆっくりと下がっていき、少し震える指で明日家の懐を指し示す。

 

『あ……明日家クン、それ何持ってんの……?拳銃……?』

『!!』

 さあっと顔が青くなり、慌ててポケットを押さえるがすでに遅い。

『こ、これは違う!』

『なな、何が違うんだよっ!超拳銃じゃん!ガチじゃん!明日家クン、裏切ったんだ!ヒント探すなとか言っといて、自分だけそんなの貰って、ボク達を殺す気なんだっ!』

『…ッ違うって言ってるだろ!』

 空の拳銃の銃口が、ガチリ、と突き付けられる。

 ひゅ、と琉球宮の喉が空気を飲んだ。

『……ご、ごめんなさい』

 

 怯えた目を向けられ、明日家がはっとなる。

『……い、いや、これは……!』

『あ……!ボ、ボク、やっぱり眠くなってきちゃった!もう帰ろーっと!』

『うぎゃっ!』

 震えながら逃げ出そうとするも足を滑らせ、琉球宮がびたんと転ぶ。

 明日家は数瞬激しく目線を彷徨わせた後……。ゆらりと、立ち上がった。

『あ……あわ……うあ……』

 ゆっくりと近付いてくる明日家に対し、琉球宮は腰が抜けてしまったのかずりずりと後退る事しか出来ない。

『な……なんだよ……っ!やめてよ……!』

『ね、ねえ……!嘘、だよね……っ?あ、明日家、クン……』

 

『…………』

『だ……誰にも言わないからっ!今日あったこと忘れるから!だ、だから、たすけ……』

 

『ごめん…………』

 地を這うような、明日家の静かな声が響いた。

『でも、こうするしかない…………』

 暗く落ち窪んだ双眸に、彼の爽やかな面影はない。

 血が出るほど強く握りしめたペーパーナイフを、勢いよく振り上げた。

 

『殺すしかないんだッッ!!』

 

『うっ……うわあぁあああああっ!!』

 悲鳴をあげて、琉球宮が身をよじる。

 振り下ろされたナイフが、彼の左腕に突き刺さり、苦痛の声が響く。

 もう一撃のために腕が振り上げられるのと同時に、痛みに暴れる琉球宮の脚が、審判台を強く蹴る。

 

 勢いをつけ倒れ込んできた審判台が、明日家の後頭部を強打した。

 かっと目が見開かれ、そのままその瞳から光が消えていく。

 力を失った身体が、水しぶきを上げてプールの中へ倒れ込んだ。

 

『はっ、はあっ、はあっ……!』

 琉球宮は呆然とした瞳でそれを見ている。

 震える両足で立ち上がると、そのままばたばたと逃げていった。

 

 

「……以上となりまーす!」

 モノクマの声に呼応し、スクリーンが消え照明が再び明るくなる。

「いやあ、まさに決定的だよね。これは誰も言いがかりつけられないんじゃないのかなー?琉球宮クンが明日家クンを殺したことも……明日家クンが、琉球宮クンを殺そうとしたことも〜っ!」

 ゲラゲラ笑って、モノクマが楽しそうに俺達を見下ろしてくる。

 

「…………」

 誰もが絶句して、その場に佇んでいた。

 天条は、真っ青な顔でぶるぶる震えながら……何も発言出来ないでいる。

 

「……ってな訳で。ちょっとばかり余計な時間使っちゃったけども、そろそろやっときますか?」

「たのしいやましいおそろしい……めくるめく『おしおき』をッ!」

 

「ヒ……ッ!」

 モノクマの言葉に、琉球宮がびくりと身体を震わせた。

「い、いやだ……っ!」

「な、なんでだよ……っ!何でボクが、殺されなくっちゃいけないんだよお!?なんでっ……なんでボクばっかり……!なんで、なんで!」

 涙声になりながら、琉球宮が地団駄を踏む。

 

「ぼ、ボクっ……何も悪いことしてないじゃんか!殺そうとしたのはボクじゃないもん!な、なのになんでボクが……っ!」

「まあでも、結果死んじゃったしねぇ。人が。その報いは受けなきゃねえ?」

 

「い、嫌だよ……!誰かたすけて……!」

「か…軽井沢ちゃん、助けてよ!ボ……ボクら友達じゃんか!」

「や……っ!」

 目を向けられた軽井沢が、身を震わせて後ずさった。

 顔をそむけ、両手で耳を塞ぐ。

「う、うぁ……!ご、ごめんなさいごめんなさい……っ!無理、無理だよお!まいこ、助けらんないもん!」

 

「だ……だれか……」

「誰か、助けて……!」

 

「では、張り切っていってみましょう!」

 

「嫌だよ、助けてよお……っ!」

 

「おしおきターイムッ!」

 

「助けて……助けて、ママァーーッ!」

 

 

【ストライク、キャッチャーアウト!】

超高校級のボウラー:琉球宮玉緒処刑執行

 

 裁判場中央、再びスクリーンが映し出される。

 今度はどこかの……ボーリング場のようだった。

 ピンが十本立てられた、ごく一般的なボーリングレーンが三つ並び……それぞれ手前の上部にあるモニターには、デフォルメされた動物のキャラクター達が楽しそうに踊っている。

 だが、これがあまりにも一般的なそれとかけ離れているのが分かる点は……。

 三つ目のレーン、その中央のピンには、琉球宮が身体をぐるぐると縛り付けられている。

 引き攣った顔で縄から逃れようと身を捩っているものの、とても解けそうにない。

 

 一つ目のレーンの前に、ボールを構えたモノクマが立つ。

 勢いよく投げられたボールは、真っ直ぐにピンを目掛けて滑っていく。

 上部モニターに画面が移り、黄色い豚の姿をしたキャラクターが、踊り続けている映像が流れる。

 ピンの弾き飛ばされる軽やかな音と共に……。その豚のキャラクターもボールに跳ね飛ばされ、バラバラになる映像が映る。

『ストライク!』

 文字がフラッシュしながら、モニターいっぱいに流れていく。

 

 続いて二つ目のレーンにモノクマが立つ。

 再び勢いよく投げられたボールは真っ直ぐに滑り……モニターへと画面が映り、緑のゾウが踊り続けている映像が流れる。

 ボールがその身体を跳ね飛ばし、ゾウもまたバラバラになった。

『ダブル!』

 

 三つ目のレーンに、モノクマが立つ。

 画面に映った琉球宮は、真っ青な顔をして冷や汗と涙をびたびたに流している。

 必死に何かを叫んでいるが、その声はスクリーンを越えたこちらには何も届かない。

 

 真剣な表情をしたモノクマが、よくよく狙いを定め……勢いよくボールを投げる。

 真っ直ぐにボールが滑り……琉球宮と同じ格好をした紫の鳥のキャラクターが、楽しそうに踊っている映像へと移り変わる。

 ボールが身体を跳ね飛ばし、鳥のキャラクターが、三度同じようにバラバラになる。

『ターキー!』

 

『クッキングターーイムッ!』

 

 けたたましい演出の後、大量のコック姿をしたモノクマ達が、画面を覆い尽くす。

 そのまま切る、焼く、揚げる……といったイメージ映像が続き……。

 …チン、という軽やかな音とともに、ナプキンを着けナイフとフォークを両手に持ったモノクマの前に、鳥の丸焼きが乗った大皿が差し出される。

 そのままモノクマが料理をがつがつと食べ尽くした所で、ムービーは終わった。

 

 しばらく経ち……ガラガラガラ……と音を立てて、琉球宮の着ていた服と……その『骨』だけが、落ちてきた。

 

「エクストリーームッ!」

 

 恐怖と苦悩の悲鳴に包まれる場を嘲るような……モノクマの笑い声が響く。

 

 …二度目の学級裁判が、終わった。

 

 

「裁判お疲れさま」

 再びエレベーターを昇り……俺達は地上に戻ってきた。

 誰もいなくなった廊下。涼やかな微笑みで、南界レイコはそう言って話しかけてきた。

「……黙れ。今お前とは話したくない」

「相変わらずね。私達の協力あって、今回も上手くいったんじゃない。それに……私を庇ってくれたこと、お礼を言ってあげようかと思ってたのに」

「……黙れって言ってるんだ。協力したつもりもないし、庇ったつもりはもっとない」

「可愛くないのねえ。ひょっとして拗ねてるの?私が連続殺人鬼と愛し合っていた仲だなんて言ったから。…馬鹿ね、あんなのジョークに決まってるじゃない?殺されかけるまで、ほとんど話したことすら無かったわ。あんな仕様もない男」

 

 この女の発言に、一々いらいらする方が思う壺だというのは分かっている。

 だが相変わらずのその他人を何とも思っていない態度に頭にきてしまい、声を荒げた。

「いい加減にしろ……!人が死んだ後なんだぞ!」

「あら。それって琉球宮君のこと、明日家君のこと?どちらにせよ……『人殺し』を庇うの?」

 そう言って、思わず気圧されるような強い瞳をして、南界は作り物のような笑顔で俺を見た。

 俺が黙ると、彼女はまた薄い微笑みに戻り髪の毛をもてあそんでいる。

「明日家君……彼、素敵な事考えてくれたわよねえ。よりにもよってこの私の前で、″首切りジャック″の見立て殺人をしようだなんて。才能柄一流のものに触れる機会も多かったでしょうに……参考にする殺人の趣味は良くなかったのね」

 

「あんなに皆と協力しようとしていたのに、真っ先に裏切った訳だし。人って、見かけじゃあ分からないものね」

「…………」

 

 

「……明日家は、隠しちゃいるが元々気の弱い男だった」

「…?」

「不安になりやすくて、泣くほど追い詰められていって……それでも最後は他人に相談出来ずに、一人で思い詰める。……声野と同じだ」

「だから人を殺すんだ」

 

「琉球宮は、正に人を殺そうとしている奴にほいほい近付いていくほど、人の悪意が分からない。甘井と同じだ。だから死ぬんだ」

 

「あいつらは弱かった。……だから死んだんだ」

「…………」

 南界は少しの間ぽかんと俺の顔を見ていたが……少し目線を下げると、くすりと笑った。

「やだ、血が出てるわよ。見通君」

 

「まるでさっきの明日家君と同じね」

「…………」

 握りしめていた手を開くと、爪が食い込んで血が滲んでいた。

 小刻みに震えている。連日プールに入って、身体が冷えたのかもしれない。

 南界はそんな俺を見て薄い微笑みを浮かべると、去っていった。

 

「…………」

 乱雑にスラックスに手を擦り付ける。

 じくじくと傷が擦れる痛みが伝わるが、手ではなく何故か別の箇所が痛むようだった。

 もっと上の、胸のあたりか。

 風邪の予兆かもしれない。

 早く部屋で休まねば。

「…………………」

 

「……クソ…………」

 

 またしても俺は生き延びた。

 明日に備えるべく、自室へ戻る。

 いつも通りの夜。

 

 いつも通りの夜だった。

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