ダンガンロンパXXX   作:Krk

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プロローグ -2

「起立、礼!」

 動くそのクマ的物体……自称希望ヶ峰学園学園長は、あぜんとしている俺達を放置して、指揮を続けた。

「オマエラ、おはようございます」

「おはようございますっ!」

「いーって、言わなくて!」

 マジメな顔をして律儀に挨拶を返す声野に、青空がツッコミを入れる。

「ぷっ、ふふっ、ふふふっ……」

 甘井も相変わらず、一人で勝手にウケている。

 

「……あの」

 難しい顔をした、明日家の手が挙がった。

「発言しても良いでしょうか?……明日家灯です。まずは……このような貴重な機会を頂き、感謝します。えっと、希望ヶ峰学園学園長……と仰いましたが」

「何故、学園長先生は……そのような機械を通して、お話されるのでしょうか?勿論、ご多忙だとは思いますが……正直僕達もまだこの状況に困惑が大きいので、出来ればもう少し……正式な形で、説明を伺いたいのですが」

「正式、って〜?」

「つまり、その……。過剰に戯けるような演出は控えて頂けないでしょうか?そもそも僕達は希望ヶ峰の新入生として、選抜された……という認識で、間違いないのでしょうか?」

「うるさいなー、もうっ!詳しくお話してやっから、もうちょい黙って聞いてろっつーの、この早漏!」

「なっ、なっ……!?」

 いきなり暴言をぶつけられ、明日家がかあっと赤くなった。

 

「キレたよ。最悪だなこの校長」

「こーなったら動物愛護団体と教育委員会、どっちが強いか判らせるしかないかねぇ〜」

 そして不思議とこの状況に馴染んでいる変人も数名。

 

「機械でもタヌキでもないもんね!しっつれいな!」

「……えっ?タ、タヌキモチーフなんですか……?クマじゃなくて……?」

「クマでもなくって、モノクマだクマー!」

「……よしなよ、天条。こいつ多分構うと無限にボケてくるよ」

 

 ふざけた態度のモノクマは、こほんとひとつ咳払いをした。

「改めまして〜……。これより、記念すべき入学式を執り行いたいと思います!」

「この度は、ご入学まことにおめでとうございます!このめでたさは、歴代でも1、2を争うめでたさだと言えます!」

「何故ならきみたちは、この栄誉ある希望ヶ峰学園の、最後の新入生なのです!」

「……最後、の?」

 

「そうです、希望ヶ峰学園は、きみたちを最後に新入生の受け入れを停止することを決定いたしました!」

「…………は?」

 

「そんな馬鹿な、希望ヶ峰が廃校になるなんて聞いた事もないし、考えられない!悪い冗談だ……!」

「廃校?廃校なんてならないよ。むしろ希望ヶ峰学園は、永久に不滅だよ!」

「その証拠に、オマエラにはここでずうっと、希望ヶ峰学園の生徒として生活して貰うんだから」

「もう面倒な進学就職に頭を悩ませる事もないし。やりたくもないお稽古事とか、考えなくていいんだよ」

「一生卒業せず、外にも出ず。この学園内だけで永遠の高校生として過ごすんだからね!」

 ……一体、何を言っているんだ、こいつは?

 

「……そんなの無理よ。お姉さん、明日の生放送にも出なきゃいけないし。今日だって話が終わったらすぐに帰らせて欲しいくらいだもの」

「そうだよ、冗談じゃない……!一日だって会社に穴を開ける訳には……!」

「わ、私もその色々、お仕事が……」

 

「……あーあ、やだやだ。仕事だ、会社だ、高校生がさあ?」

 

「ずーっと子供でいればいいのになあ。ずーっと子供でいたいんだもんね?だからオマエラ、こーなってんだもんね?」

 

「言っとくけど、オマエラが今更どーこー言った所で外の世界とはもう、完全にシャットアウトされてますからっ!物理的にも、精神的にもさあ?」

「なのでオマエラがどこで何してるとか、だーれも、なーんにも、気にしないっすから!」

 

「だからねえ?ほら、安心して一生高校生活を満喫出来るんだよっ!」

「え……え?ええっ?い、言ってること、全然分かんないよお……。だ、誰も気にしないなんて、そんな訳ないもん……!まいこが門限までに帰らなかったら、ママが心配して……」

「……てか現実問題、超高校級大量誘拐とか、警察だのマスコミだのが黙ってないっしょ?」

「うぷ……うぷぷ……」

 不愉快な含み笑いをして、モノクマが首をかしげた。

「警察?マスコミ?そんな噛ませモブ枠気にしちゃってんの?」

「オマエラの秩序もエンタメも、もうこの学園内で全完結するんだから、外の世界の有象無象なんて気にしなくていーのっ!」

 

「……そうそう、秩序は大事だよ」

「反抗期は結構だけど、オマエラ、ルールは守んなさいよねっ」

「いわゆる、校則!これ厳守!さもないと、バラバラにしたり、蜂の巣にしたりしちゃうからねっ!」

「……はあっ?な、何言ってんのっ?そんなわけ……」

 がしょん。

 

 青空の足元に、何かが突き刺さった。

 ギラギラと銀色に輝く……猛獣の爪のような刃物だった。

 目の前のモノクマの右手からも、同じものが生えている。

 一瞬で射出されたそれは床を深々とえぐる形で刺さっており、あと数センチズレていたら少女の足をズタズタに貫いていただろう。 

「う……あ……ッ」

 

 しぃん、となった。

 理不尽な状況は、具体的な身の危険……というリアルな予感をもって、より最悪に補強された。

「はいはい、オマエラ暗いよっ、笑顔笑顔、ピース!せっかく憧れの希望ヶ峰学園の生徒になれたんだよ?」

「……ふざけるな……誰が信じると思うんだ!希望ヶ峰学園の名を騙ってこんな事をして、ただじゃ済まないぞ……!」

 

「騙る?カタルシスの子供?ただじゃ済まなくなる可能性は、どう考えてもそっちの方が大きいと思うけどねえ?」

「……ただ、一つ気を付けて欲しいのは、これをしたらここから出て行かされちゃうよっていう、特別ルールがあるってこと!」

「えっ……!?こ、ここから出る方法があるんですか……っ!?」

「その名も、『卒業』!オマエラには、学園内での秩序を守った共同生活が義務付けられている訳ですが……」

「もし、その秩序を破った場合。その人物だけは学園から出ていってもらいます」

「それが学園のルールなのですっ!」

「じゃあ、その、『秩序』っていうのは……?」

「それはねえ……」

 

 

「人が人を殺すこと、だよ」

 

 

「ナンチャラカンチャラ……方法は何でもかまいませんっ」

「誰かを殺した生徒だけがここから出られる、それだけの簡単なルールだよ」

 

「やっぱり大人になるって、誰かを犠牲にして成長するって事なのかもねっ」

 

 とてもついて行けない。

 生徒達が顔を青くするなか、能天気な態度で甘井が声を上げた。

「ねーねー、学校ぐらしはまあいいんだけどさあ。せめてスマホは返してよお。めう、一日一回はイースタ開かないと死んじゃうし……今日ツムムンのログボまだ取ってないんだよね〜」

「駄目駄目!スマホとSNSがあるから、現代の若者の心は病んでるんだよ!」

「思想つよ」

「ゲームで遊ぶならPSVitaにしときなさい!……それともすれ違い通信派?」

「……確実に世代がひとつふたつ前の人だよ……」

 

「そんな電子機器中毒のオマエラに、こんなものをご用意しました!」

 差し出されたのは、青い小型の……タブレット端末? 

「この学園の、電子生徒手帳です!」

 

「学園生活に欠かせない必需品なので、絶対なくさないようにね!」

「学園内のマップとか、大事な校則もここに載ってるんで、各自じっくりと読んでおくよーに!」

「さっきも言ったけど、校則違反は厳禁だからね?秩序の乱れは許しまへんで!」

 

「……ではでは、入学式はこれにて終了となります」

「終の棲家である学園生活を、どうぞ楽しんでください!」

「それじゃあ、まったね〜!」

 そうして、モノクマは去っていった。

 残された俺達は、呆然として顔を見合わせる。

 

「……な、何だったんだろ、今の……?」

「ぼ、僕達……結局、あの頭のおかしい人に、誘拐されちゃったんでしょうか……?こ、ここで一生、暮らす……なんて……!」

「落ち着いて、冷静になるんだ……!」

 

「大丈夫、誘拐された……と言っても、ある程度は自由に動けるんだ。協力してここを調べれば、脱出方法は必ずあるはず……!」

「脱出方法なら、もう提示されてただろ?」

 薄笑い混じりの低い声が、間に入った。

「誰かを殺した生徒だけがここから出られる、それだけの簡単なルール……な?」

「はあ……っ!?あんな頭のおかしい冗談、本気にするわけっ!?」

「冗談、ねえ?クク……そいつはどうかな?」

 にやにや笑いながら、尾後は俺達をぐるりと見渡した。

「……重要なのは。それを冗談と取らない奴もいるかもしれない。……ってことだろ?」

「他の誰かを殺してでも、外に出たい……って奴がな」

 

 再び、俺達は静まり返った。

 そんなのあり得ない、と否定する声はどこからも上がらなかった。

 それを心の底から否定出来るほど……俺達は、お互いの事を信用する事など出来なかった。

 

 あるいは、自分自身の事さえも…………。

 

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