…朝だ。
気分はさほど晴れやかではない。
とはいえいつまでも部屋にこもっている訳にもいかない。
朝になったら、朝食のため食堂に集まることになっているはずだ。
「おはようございますっ、見通くん!」
食堂に着くと声野がいつも通り、明るく声をかけてきた。
昨日何事もなかったかのように、普段通りの態度だ。
いつもと同じ、そのはずだが……。
「……声野、何かいつもと違うか?」
「……えっ!?」
「わ、私、どっか変ですかっ!?」
声野は俺の発言に、わたわたしながら頭やスカートを触る。
赤みがかった長い茶髪は、両側が左右対称に結われている。シワひとつない赤系のブレザーに、真っ直ぐな飾りのないリボンタイ。校章もきちんと付いている。
いつも通り、優等生然とした見た目だ。
「……気の所為、か」
「ほ、ほんとですか……!?寝癖とかついてないですよねっ!?」
そう言ってしきりに髪に手をやっている。
……さて。
朝のアナウンスからしばらく経ち、ほとんどの生徒は席についているが……。
「……全員は、集まってないみたいだね」
尾後と、南界。それに甘井がまだ来ていないようだ。
「さっそくサボりとか、ほんっと協調性ないトリオだよねー」
青空が呆れた口調で言った。
「……一度呼んできた方がいいかな。昨日あんな事があったばかりだし……」
「あ、私が行きますよっ!明日家くんはここで待っててあげてくださいっ!」
そう言って、声野がぱたぱたと出ていった。
「ほっときゃいいのに、真面目だねぇ」
高梨が茶を飲みながら笑い混じりにそんな事を言う。
しばらくして、声野が戻ってきた。
そばには誰もついてきていない。
「どうだった?やっぱり、来ないって?」
「い、いえ……それが、その……」
「誰も、会えなくって。なんか、変なんですよね。尾後くんと南界さんの方は、チャイムを鳴らしても反応がないだけなんですけど……」
「甘井さんの部屋……鍵が開けっ放しなんです。なのに部屋には、誰もいなくって……」
声野は眉を下げ、不安そうに周りを見上げた。
「な、何か、あったんでしょうか……?」
「あの不思議ちゃんのやること、まともに考えるだけ意味なくない?」
「で、でも、やっぱり、嫌な感じがすると言うか……」
「……そうだね。早まった事を考えている可能性もない訳じゃないし……。探しに行ってみようか」
明日家がそう言い、全員で食堂を出る。
「この辺はいなさそうだったので……学園の方ですかね?」
声野の言葉に、学校エリアへと探索の足を伸ばす。
「一人で脱出しようとして、玄関ホールに行ってるんじゃないのー?」
「そんなナイーブなタイプかなぁ」
各人が憶測を投げ合いつつ、歩く。
その時。
『やめて……!』
『来ないで……っ!』
「!?」
怯えたような、少女の声が聞こえてきた。
「い、今のって……」
「甘井の声じゃない!?」
「確か、こっちの方から……!」
『きゃああああああああッ!!』
つんざくような悲鳴が上がった。
「い、今、視聴覚室から聞こえてきました……!」
急いで駆け出す。
視聴覚室に着き、扉に手をかけるがガタガタと揺れるばかりで、どうにもならない。
「駄目だ、開かない……!」
「あ、確か、鍵は食堂に……!」
「じ、じゃあ私、取ってくる!」
青空が飛ぶように出ていった。
焦れるような時間を経てから青空が戻ってきて、手にした鍵を振っている。
「あった!あったよ!」
かちゃり。
扉が開いた。
そして俺達は……そこにあるものを、目にした。
機械的に並んだ、モニターの前。
ぐったりとブレザーに包まれた身体を投げ出し、金髪の女生徒が倒れている。
甘井めう。
その変わり果てた姿だった。